慶應義塾大学医学部先進運動器疾患治療学寄附講座の宮本健史特任教授(兼 熊本大学大学院生命科学研究部 整形外科学教授)らは、出産後に発症する椎体骨折(背骨の圧迫骨折)を 起こす原因として、代謝性や内分泌学的疾患を伴わない原発性の骨密度低下が予想されることを報告しました。
今回、出産後に椎体骨折を起こした患者を調査したところ、一般に骨粗鬆症の原因となる代謝性疾患や内分泌学的疾患への罹患を認めないにもかかわらず、高齢者の骨粗鬆症患者に見られるのと同等の骨密度減少を認めました。これらの患者は、骨折を起こすまで全て完全母乳で授乳しており、いずれも出産後3ヶ月以内に骨折を起こしていました。完全母乳との関連性を確認するために、出産を目的に慶應義塾大学病院婦人科を受診した79名を調査したところ、椎体骨折の罹患者は0人でした。このうち、完全母乳で授乳している34名は骨折を起こした患者に比して骨密度が有意に高く、ミルクを用いた授乳の場合と同等の骨密度でした。
一方、骨代謝マーカーの測定結果を完全母乳とミルクを用いた授乳の2群間で比較したところ、完全母乳群では、新しい骨を形成する機能の活性度が他群と同等であるのに、古い骨を破壊する機能の活性度は有意に高いため、授乳が骨の代謝に影響を及ぼすことが示唆されました。
上記の結果から、妊娠や出産・授乳が原因で骨密度低下や骨折を起こすことは極めて稀であること(79名のうち、0名)、椎体骨折を起こしたケースでは、骨密度が顕著に低い状態から、産後に完全母乳育児を行うことで骨代謝状態に変化を及ぼし、そこに乳児を抱きかかえることなどによる身体的な負荷が加わることで骨折に至ったものと結論されました。
近年、高齢化社会の到来により高齢者の骨粗鬆症については認知度が高くなっています。しかし、若年者については認知度が低いため、今回の研究は、妊娠を考える女性に対して、骨密度検査を受ける必要性を示唆する重要な発見と考えられます。
本研究成果は2019年5月13日(英国時間)、学際的総合ジャーナル『Scientific Reports』(オンライン版)に掲載されました。
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