名古屋大学大学院医学系研究科(研究科長・門松健治)精神医学・親と子どもの心療学分野の尾崎 紀夫(おざき のりお)教授、同大医学部附属病院(病院長・石黒直樹)先端医療・臨床研究支援センターの有岡 祐子(ありおか ゆうこ)特任助教、脳とこころの研究センターの森 大輔(もり だいすけ)特任准教授らの研究グループは、ヒトのiPS細胞を用いて統合失調症患者で確認されたリーリン遺伝子変異(バリアント)が、脳の形態形成で重要とされる神経細胞の移動において、その動き方の安定性を崩すことを明らかにしました。本研究は慶應義塾大学医学部の岡野 栄之(おかの ひでゆき)教授の研究グループと共同で実施されました。
脳が正しく機能するためには、神経細胞が生まれた場所から目的の場所まで正しく移動し、脳が正常に形作られる必要があります。この神経細胞の移動をコントロールする分子のひとつであるリーリンというタンパク質は、リーリン遺伝子によってコードされています。これまでのゲノム研究から、リーリン遺伝子のバリアントが統合失調症などの精神疾患の発症に関与していることが示されてきました。しかし、このリーリン遺伝子のバリアントが、ヒトの脳内の神経細胞にどのような影響を及ぼし、精神疾患発症につながるのかは明らかにされていませんでした。今回、研究グループは、リーリン遺伝子のバリアントを持つ統合失調症患者からiPS細胞を作製するとともに、ゲノム編集技術によって人工的にリーリン遺伝子バリアントを持ったiPS細胞を作製しました。これら2種類のiPS細胞から均一なドーパミン神経細胞を作り、個々の神経細胞の移動の軌跡を調べたところ、正常なドーパミン神経細胞では移動の方向性に一貫性があるのに対し、リーリン遺伝子にバリアントをもつドーパミン神経細胞では、動きの方向性が定まらないことが明らかになりました。以上の成果は、リーリン遺伝子のバリアントによるヒトの神経細胞への影響を明らかにすると同時に、この影響(神経細胞の移動の方向性の不安定さ)を正常化することによる精神疾患治療法開発への応用が期待されます。
本研究成果は、2018年7月19日付(日本時間午前9時)の国際科学誌「Translational Psychiatry」オンライン版に掲載されました。
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