慶應義塾基礎科学・基盤工学インスティテュートの渋田 昌弘 研究員(慶應義塾大学 大学院理工学研究科専任講師)、および中嶋 敦 主任研究員(慶應義塾大学 理工学部教授)らは、有機薄膜デバイスの構成要素であるアントラセン分子の単層結晶薄膜を室温で形成させ、光電変換過程における電荷分離の様子を明らかにすることに成功しました。
機能性有機分子薄膜による光電変換デバイス(太陽電池・発光デバイス)は、近年深刻化している環境・エネルギー問題を解決する基盤技術として期待されています。光電変換効率向上のためには、有機分子が規則正しく整列した高い結晶性をもつ薄膜を作製する必要があります。しかし、従来の薄膜作成手法では室温で高い結晶性を確保することが難しく、光電変換効率に限界がありました。また、光電変換の機構を明らかにするためには、優れた結晶性を有する薄膜について超高速の光励起過程を精密観測することが求められていました。
今回本研究グループでは、アントラセン骨格を化学修飾した分子の溶液に金基板を浸すだけという極めて簡便な手法で、究極的に薄く、分子が規則的に配列した有機単層結晶薄膜を作製することに成功しました。さらに、この単層結晶薄膜における光励起過程をフェムト秒時間分解光電子分光により調べたところ、結晶薄膜中の励起子と表面上に広がった励起電子とがエネルギーを授受する現象を、世界で初めて観測することに成功しました。これらの結果は、有機光電変換デバイスを高効率化するための基盤技術として利用価値が高いと考えられます。本研究成果は、2017年4月11日(米国時間)に米国化学会の学術誌「ACS NANO」のArticlesオンライン速報版で公開されました。
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