慶應義塾大学医学部内科学(循環器)教室の家田真樹専任講師、宮本和享共同研究員らの研究グループは、心筋梗塞モデルマウスの心臓に、細胞のゲノムを損傷することなく3つの心筋誘導遺伝子を導入して、梗塞巣の心臓線維芽細胞を効率よく短期間で、かつ直接的に心筋細胞へ転換して、心機能を改善することに成功しました。
家田専任講師らは、細胞移植を必要としない新しい心筋再生法として、心臓に存在する心筋以外の心臓線維芽細胞に心筋誘導遺伝子を導入して、心筋を直接作製する研究を行っています。これまで、マウス生体内の心臓線維芽細胞に3つの心筋誘導遺伝子を、遺伝子の運び屋であるレトロウイルスベクターを用いて導入し、マウス生体内で直接的に心筋細胞を作製できることなどを報告してきました。しかし、これまでの方法では、1) 心筋誘導の際に、ウイルスによって3つの遺伝子が組み込まれるために、細胞のゲノムを損傷する可能性がある、2) 心筋誘導効率が低く、心筋作製に長期間かかるという課題がありました。
本研究で、家田専任講師らは3つの心筋誘導遺伝子を同時に発現するセンダイウイルスベクター(以下、心筋誘導センダイウイルスベクター)を、株式会社IDファーマと共同で開発しました。この心筋誘導センダイウイルスベクターを用いて、培養皿上で、効率よく短期間でマウスおよびヒト線維芽細胞から心筋細胞をゲノムの損傷なく、直接的に作製することに成功しました。さらに心筋誘導センダイウイルスベクターをマウス心筋梗塞モデルの心臓に導入すると、1週間で心筋再生が始まり、1か月後には心機能が改善することを確認しました。
本研究成果は細胞移植を必要としない新しい心筋再生法であり、将来、心筋梗塞や拡張型心筋症をはじめとするさまざまな心臓疾患に対する再生医療への応用が期待されます。今回の研究成果は、2017年12月21日(米国東部時間)に国際科学雑誌『Cell Stem Cell』のオンライン速報版で公開されました。
プレスリリース全文は、以下をご覧下さい。