塾生の皆さんへ
慶應義塾大学は、新型コロナウイルス感染症が拡大する状況を踏まえて、春学期の授業をオンラインによって行うことを決定し、すでにオンラインによるガイダンス、履修申告を経て、本格的な授業が始まりました。
この間、政府による緊急事態宣言が出され、大学キャンパスも閉鎖されています。依然として、新型コロナウイルス感染症の収束に向けた見通しは不透明であり、義塾でも、信濃町キャンパスでは、医学部・病院の関係者が昼夜を分かたず全力をあげて新型コロナウイルス感染症との闘いを続けています。
こうした状況の中で、塾生の皆さんは不自由を強いられており、特に新入生や、地方から上京し、あるいは海外から来たり、渡航困難な状況にある諸君は、生活の不便も重なって不安な日々を過ごしていることでしょう。新学期開始に向けて、慶應義塾は学部・研究科を中心に教職員が一体となって、教育・研究・医療の水準を守り、皆さんが安心して学問に専念できる環境を整えるためにさまざまな対策を講じてきました。
例えば高等教育の将来を見据え、オンライン授業の質を高めるべくさまざまな施設・設備・情報システム環境の整備に義塾の人的・経済的資源を投入し、経済的理由でオンライン授業受講開始に必要な通信環境の整備が困難な塾生に対して、当面15,000円の補助金を支給することを決定しました。
また、新型コロナウイルス感染症拡大の影響による家計急変、あるいはアルバイト収入の減少などによって経済状況が悪化し、修学の継続が困難になった塾生に対しては、国の修学支援制度や学生支援機構などによる公的奨学金とは別に、義塾が独自に備える、慶應義塾大学修学支援奨学金、2000年記念奨学金、慶應義塾維持会奨学金など総額約240億円の奨学基金を積極的に活用し、加えて、緊急に奨学金枠を5億円程度増額し、一人あたり最大40万円の経済支援を行います。今後必要が生じれば、さらに支援策の拡大を続けます。詳細は別途お知らせいたします。
経済的な支援だけではなく、精神的な不安や、さまざまな障害を抱える塾生への支援についても、新型コロナウイルス感染防止に留意しつつ、サポートを続けていきます。
慶應義塾は、すべての塾生が一人も取り残されることなく、学問に芸術にスポーツに積極的に取り組むことができるようあらゆる支援策を講じる決意です。
塾生の皆さんにも、慶應義塾の塾生として、そして一人の市民として品格と良識ある行動を求めます。新型コロナウイルス感染症の拡大と共に明らかになってきたのは、医療関係者の努力、政府や企業、あるいは学校による組織的対策だけでは不十分であり、最良の対策は個々の市民の自覚と良識ある主体的な行動だということです。誤った情報に惑わされることなく、何が正しい情報であるかを見極め、適切に行動する。このことは課題の本質を見極め、解決法を創造する学問の作法にも通じます。
慶應義塾の創立者である福澤諭吉は、封建制の名残で人々が上に寄りすがり、上からの指示や命令に従順で、主体的に行動する習慣を持たないことを憂い、学問を修め、世の中の流行に惑わされず、主体的に行動できる独立自尊の精神を持った市民の育成をめざしました。他者の指示や命令を待つのではなく、自ら考え自らの責任で行動できる市民の存在は、一国の成熟度を測る物差しでもあります。
慶應義塾は1858(安政5)年の創立以来、理念を共有する有志の協力による民間私立の学塾として、戦乱や災害などによる幾多の混乱と経営危機を乗り越え、日本を代表する総合大学に発展してきました。危機のたびに義塾を支えてきたのは塾生(学生)、塾員(卒業生)、教職員からなる社中協力の力です。
慶應義塾の塾生は、単に学生であるにとどまらず、慶應義塾社中の一員です。皆さんと共に力を合わせてこの危機を乗り越え、慶應義塾の独立自尊の精神と自由で大らかな学問の伝統を守っていきたいと願っています。