-そんな宇津井さんが出版社を就職先として選ぶことになった経緯を教えてください。
宇津井:私は芝学友会(薬学部の学生自治会)の活動や卒業アルバム委員会などの活動にも参加しており、その中で企画・編集という「モノを創り上げる仕事」の魅力を知ったことが、一つのきっかけだったかもしれません。やがて就職活動に取り組む中で、医療・医薬を専門に扱う出版社の存在を知り、情報を正しく伝えることで医療の世界に広く貢献できるのではないかと考えるようになりました。製薬企業での新薬開発の仕事にも興味はありましたが、弊社などの専門出版社の仕事を知るにつれて、より幅広く医学発展の現場に立ち会える医療メディアの世界は、自分の「やりたいこと」に近いと確信するようになったのです。
-医学書院に入社されて、どのようなお仕事をされてきたか教えてください。
宇津井:入社後、最初に担当したのは『看護管理』という看護師長など看護管理者向けの月刊誌の編集でした。看護系の雑誌は弊社から執筆をお願いする依頼原稿が多く編集者の裁量の比重が大きいので、先輩方のご指導もあって編集者としてのスキル習得のためには恵まれた職場環境だったと思います。全国各地の病院などへの出張もあり、忙しいながらも編集者として多くの経験を積むことができました。仕事を通して痛感したのは同じ医療分野でも、医師、看護師、薬剤師など職種によってそれぞれ視点が違うということです。また、同じ看護師でも病院勤務と訪問看護では視点が異なることがあります。編集者として現場に立つことでこうした医療現場の現実が初めて見えてきたと思いますし、相手の考えをうまく引き出すインタビュー取材の難しさも知りました。
この編集部には2年間在籍し、次に配属されたのは書籍の編集部で、およそ1年で『看護学のための多変量解析入門』など4冊の編集に取り組みました。多変量解析は複数データの関連性を分析する解析手法で、学生時代からの得意分野であるデータサイエンスに関する書籍ということもあり、やりがいを持って取り組むことができました。余談ですが、興味の延長で「薬剤師」とともにシステムエンジニアなどが取得する「応用情報技術者」の資格を取得しています。
-その後、現在の販売・PR部に配属されたのですね。
宇津井:はい。自社の雑誌や書籍に関する広告・宣伝ツールの制作を担当する部署で、紙媒体の広告だけではなく、動画やオンラインセミナー開催などにも携わってきました。私は学生時代から、芝学友会の活動やプライベートで動画編集を手がけていたので「ぜひ、その経験を仕事で発揮してほしい」と期待されての異動でした。おそらく毎年20〜30本ぐらいのPR動画を作成していると思います。書籍の宣伝のために著者や編集者が出演するイベントの生配信などでは、私が企画立案からディレクション、配信作業までを任せてもらいました。弊社はコロナ禍以前から、オンラインイベントを行っており、全国の医療関係者から好評を持って迎えられています。もちろん自社の広報、宣伝手段の一つではありますが、インターネット経由のこうした情報提供によって日本全国の医療水準の底上げを図っていくことも、専門メディアとしての重要な使命ではないかと考えています。最近は若い社員がそれぞれ知恵を絞りながらSNSによる情報発信を積極的に進めており、今後も新しいデジタルな広告技法を取り入れながら、弊社ならではの価値ある情報発信を追求していきたいですね。今や出版業は斜陽産業と思われていますが、「正しく、厳選された情報」をしっかり伝えることで、多忙な医療従事者の方々のお役に立つことができるはず。「さすが医学書院!」と読者に思っていただけるよう頑張りたいと思います。
-この3年間で、私たち一般人も正しい医療情報を入手する重要性を痛感しました。
宇津井:そうかもしれません。弊社のオンラインセミナーの講師として、感染症対策と公衆衛生の第一人者であり、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会会長(2022年12月2日当時)である尾身茂先生を講師としてお招きしたことがあります。余人に代えがたい尾身先生ほどの方でも、コロナ禍という非常時におけるリスクコミュニケーションの難しさを痛感されており、時に反省の言葉を口にされました。私はその言葉を聞いてかえって尾身先生の素晴らしい人間性にあらためて尊敬の念を抱きましたし、自らの経験を余すことなく言葉で伝えようとする熱意にも感動しました。セミナーを聞いた多くの医療関係者が私と同様の感想を抱いたと思います。そういえば、尾身先生は医大に進学される前に慶應義塾大学の法学部で学んでいらっしゃったのですね。