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2023/05/31
※学年・所属と座談会の内容は取材当時(2023 年2月現在)のもの
-まず、皆さんの自己紹介からお願いします。
中村:私は宮城県出身で、学部では米国の政治と文化について2つの研究会に所属して学んでいます。課外活動では慶早戦支援委員会に所属しています。試合での観客誘導や応援席券販売を主に行うのですが、コロナ禍でそのような活動ができず、SNSなどを駆使して硬式野球をはじめとした慶早戦の広報活動に励んでいました。また、入学以来、私は綱島学生寮で生活してきました。寮では「RA(レジデント・アシスタント)」を務めており、同じ寮で暮らす留学生のサポートをしています。こちらのアンさんとは、以前、綱島学生寮でご一緒でしたね。
アン:はい、留学して1年目は綱島学生寮で暮らしたので、RAの中村さんにはとてもお世話になりました。
中村:いえいえ。私自身、新型コロナウイルスが感染拡大した年の入学でしたから、留学に行けなかったこともあり、寮という環境で友達づくりができてとても助かりました。アンさんたち留学生との交流も楽しんで取り組んでいます。
塾長:それは良い経験ですね。慶應義塾では多くの学生に海外に飛び立ってほしいと考えていますので、学生寮がその起点となってくれるとうれしいです。
肖:私は長野県の出身です。わが家は家庭の事情で、東京の私立大学への進学は難しい経済状態だったのですが、首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)以外の受験生を対象にした「学問のすゝめ奨学金」のおかげで今ここで学ぶことができています。自然現象を数式で表現する物理学に魅力を感じており、最近、素粒子論を扱う山本直希研究室での研究活動を始めたばかりです。
塾長:肖君の研究分野は私の専門分野に近いですね。課外活動は何かしていますか。
肖:バスケットボールと数学・物理の勉強サークルに入っており、そのほか音楽やアート、マンガ、映画、文学、ファッション、哲学など趣味は広すぎてなかなか絞り切れません(笑)。
塾長:アンさんはタイ出身で、留学生として大学院経営管理研究科(KBS)で学ばれていますね。
アン:はい、2022年度は特別短期留学生としてKBSの研究会に参加させていただきました。今春4月からはKBSの正規学生として、国際ビジネスの研究により力を入れていきます。課外活動として柔道サークルに参加しています。柔道は初めての経験ですがとても楽しいです。練習を重ねて、ゆくゆくは黒帯を締めることが目標です。
塾長:私の研究室にもアンさんと同じタイからの留学生がいました。私自身、バンコクやチェンマイを訪問したことがあり、大好きな国です。
アン:ありがとうございます。私も日本が大好きです!
藤原:私は体育会庭球部(テニス部)を大学日本一にするため、京都の高校からSFCの環境情報学部に進学しました。学部ではスポーツ経験を生かし、精神分析がご専門の岡田暁宜教授の研究会で「精神分析×スポーツ」という観点からの研究を進めています。私も寮生活をしており、最近は自分で料理を作るのが楽しくなってきました。
塾長:私は庭球部OBで最近まで部長を務めていましたので、藤原君の活躍は頼もしく見ていました。男子主将としてこれからの戦いに期待していますよ。鈴木さんは薬学部では珍しい体育会フェンシング部所属だとか。
鈴木:はい、薬学部での学びに加えて、高校時代に始めたフェンシングを続けたくて入部しました。種目は全身が「有効面」である「エペ」です。フェンシングの強豪大学だけあって先輩方についていくのが精いっぱいですが、試合で結果が残せるよう一生懸命練習に励んでいます。部で薬学部生は私一人ですが、普段学んでいる芝共立キャンパスではなく、日吉キャンパスで他学部の学生と交流できることも部活動の楽しみですね。日吉の蝮谷(まむしだに)フェンシング場は恵まれた練習環境だと感じており、慶應義塾でフェンシングができる幸せを実感しています。
-では皆さんがそれぞれどのような「学び・研究」に取り組んでいるかを伺います。
塾長:多様なバックグラウンドを持つ皆さんの話を聞くのが楽しみです。まずはアンさんがなぜ日本で、そして慶應義塾で学びたいと思ったのか聞かせてください。
アン:私は2017年にインターンシップのために初めて日本に来ました。そのときは大阪だったのですが、日本文化を身近に感じる生活がとても楽しかったです。帰国後は日系金融機関で働きながら、いつか日本で国際ビジネスを学びたいと考えていました。満を持して再び日本に来たのは2021年秋です。充実した教授陣にひかれてKBSの特別短期留学生となりました。国際ビジネスのゼミに参加して、国際経営管理の課題などについて学んでいます。
塾長:4月からは正規のKBS生となられるわけですが、KBSの研究環境には満足されていますか。
アン:はい。まずは私がKBSを選んだ大きな理由である教授陣の素晴らしさに大満足しています。また、ビジネス関係の資料が充実していますし、ディスカッションや会話を楽しむスペースにも恵まれていて、私たちの学ぶ意欲を後押ししてくれていると感じます。
塾長:一方、中村さんは法学部で米国の「政治」と「文化」、両方について学んでいるのですね。
中村:はい。高校時代、約2週間トランプ政権下の米国で短期留学を経験し、その際にカルチャーショックを受けました。政治について聞かれたときに、答えることができなかったのです。そのことがきっかけで、日本とは全く異なる文化と政治システムを有する米国のことを深く知りたくなりました。法学部教授陣には米国のさまざまな分野の専門家がいらっしゃいます。私は米国政治・政治史を扱う岡山裕研究会と米国の文学・ポピュラー音楽研究の大和田俊之研究会の2つに所属しています。個人的に米国のポピュラー音楽は大好きなのですが、ヒップホップの歌詞などを通して、政治とカルチャーが分かち難く結びついていることを実感しています。
塾長:確かに法学部教授陣には分野横断的な米国研究の環境がありますね。
中村:法学部は語学の授業も充実しており、通常の英語の授業以外にもネイティブ・スピーカーが担当するインテンシブコースの授業もあるのがありがたいです。
塾長:肖君はなぜ素粒子物理学を専門分野に選んだのですか。
肖:どの分野を専門にするのかは正直なかなか難しい選択でした。私が学ぶモチベーションは、自然界のさまざまな現象を数式化し、客観的に理解したいという思いです。そして究極の目的は「世界を一つの数式で表現する」こと。そう考えると、物質の究極的な構成要素である素粒子を対象とした研究が、自分の求める「真理」に一番近いのかもしれないと思い至りました。ただこの分野は本格的な研究に入るまでに学ばなければならない基礎が膨大にあり、現在はその段階で悪戦苦闘中です。
塾長:素粒子物理学のような先端分野は特に本格的な研究までの“トレーニング”期間が長く必要です。私も学部時代や留学したカリフォルニア大学バークレー校でも悪戦苦闘を重ねましたが、研究者としてあるレベルまで達すると、あるときに「今、この真理を知っているのは世界で自分一人だけ」という発見に至ります。もちろんそれまでに無数の失敗を重ねるわけですが、研究への情熱を忘れず取り組んでいけば、きっとすべてが報われる瞬間がありますよ。
肖:私も伊藤塾長のような研究者を目指していますので、そういう体験を伺うとなんだか勇気が湧いてきます。
塾長:藤原君は心理学分野でテニスプレーヤーとしての体験に基づく研究をしているのですね。
藤原:はい、「スポーツ選手が最も力を発揮できる瞬間とは?」が私の研究テーマで、試合に勝つためには何が必要なのかを考えています。
塾長:まさに文武両道ですね。高校時代から選手として活躍していた藤原君であれば、他のテニスの強豪大学に進む道も考えましたか。
藤原:正直、早稲田大学とどちらにするか迷いました。でも、大学テニスのトップを走り続ける早稲田大学で活躍しても、あくまで「現状維持」をすることが目標になると感じたのです。どうせなら慶應義塾で「歴史を変えてやろう!」という意気込みで入学しました。まず入学して驚いたのは、庭球部員の誰もが競技と学問をしっかり両立させていたことでした。さすが慶應義塾だと思いましたね。2年生のときには個人でインカレ優勝を果たし、現在は男子主将として団体での大学日本一を目指しています。伊藤塾長の期待に応えられるよう、一戦一戦しっかりと勝つことを大切に戦っていきます。
塾長:鈴木さんは薬学部での学びとフェンシングの文武両道はいかがですか。
鈴木:やはり大変なのは時間のやりくりです。私の場合、自宅からの通学時間も長いので余計そう感じるのかもしれません。また、授業のコマ数も多いですし、実験では結果が出るまで時間がかかります。睡眠時間より実験時間の方が長かった……なんていう日もありました。でも、自分の手を動かす実験はとても楽しいものです。
塾長:フェンシングの練習は芝共立キャンパスから日吉まで移動しているのですね。
鈴木:はい。移動時間はかかりますが、日吉で他学部の学生たちと一緒に練習し、お話しできるのがほんとうに楽しいのです。部の仲間との交流の中で、選手として自分が何を強化すべきかを見つけていきたいですし、先輩方を見習って人間的にも成長していきたいと思っています。
-最後に皆さんの将来の目標や夢を聞かせてください。
塾長:藤原君はプロテニスプレーヤーになることは考えていますか。
藤原:プロを目指すか、就職するか……少し迷っていたのですが、先日、全豪オープンを初めて生で観戦して良い刺激をもらったので、今は俄然プロを目指す気持ちが強いです。プロを引退した後は就職をする先輩方もいらっしゃいます。その選択肢も慶應義塾の魅力だと感じています。
塾長:プロになるためには何が必要だと思いますか。
藤原:もちろんレベルの高いプレーができることが条件ですが、もう一つ世界に向けて自分をアピールする力が求められるのではないかと思っています。海外で戦うプロの選手は長期間外国に滞在しますから、海外でも自分を表現し、またそうした環境の中で成長していくタフさも必要だと感じています。そのためには自身がもっと「自立」した人間であらねばと思っています。
塾長:海外で藤原君が活躍する姿をぜひ見たいです。鈴木さんはフェンシングをこれからも続けていくのですか。
鈴木:在学中は薬学の勉強とともにフェンシングを頑張るつもりです。目指すはもちろん慶早戦での勝利です。そこで慶應義塾の一員であることの誇りと喜びをあらためて感じたいです。
塾長:卒業後の進路については考えていますか。
鈴木:まだはっきりとは決めていません。漠然とですが、病気などで困っている患者さんの生活の質を上げるためのお手伝いをしたいと願っています。その方法としてよりよい薬や治療法の開発に携わる研究者としての道か、直接患者さんと接する調剤薬局などの薬剤師を目指すかで、まだ迷っています。ただ、さまざまな実験を通して研究の面白さに気づき始めました。あくまで将来の夢ですが、原因不明の病気や患者数が少なくてまだ薬が開発されていない病気に苦しむ人々を助けられるような研究がしたいと思っています。
塾長:素晴らしい夢ですね。肖君も素粒子物理学で世界の常識を変えるような研究を目指してほしいですね。
肖:ありがとうございます。私も伊藤塾長のように海外トップレベルの大学院に進学して、世界中の才能豊かな人々にもまれながら自分を高めていきたいと思っています。大学入学後も迷いはありましたが、結局、物理を勉強しているときが最も自分らしくいられます。家庭教師のアルバイトを通して教えることの楽しさも感じていますので、将来は大学の教壇に立ちたいとも考えています。
塾長:中村さんは大学で学んでいる米国の政治や文化の知識を将来どのように生かせると考えていますか。
中村:私の場合は特に人種やジェンダー、セクシュアリティに関する研究に力を入れていますので、それらの知見を生かし、日本の組織や社会をよりよく変えていくための「裏方」としての仕事ができればと思っています。慶早戦支援委員会でも、あくまでも頑張っている選手たちが主役で、私たちは裏方として彼らを支援してきました。自分の適性はそうした役割を果たすことにあるのだと、塾生生活を通して発見できたと思います。
塾長:4月から正式にKBSで学ぶアンさんはどのような将来設計をされていますか。
アン:1年目はこれまで通りKBSの仲間と共に学び、2年目からはMBAプログラムを利用して留学する予定です。慶應義塾で多様なバックグラウンドの人と出会う喜びを味わいましたから、欧米のビジネススクールでさらに多様な人々と出会って、一緒に学びたいのです。そして将来的には日本で就職して、ビジネスコンサルタントとして日本とタイの関係をより緊密にしていく役割を果たしたいと考えています。
塾長:今日は皆さんの塾生生活と将来の夢を聞くことができて、大変参考になりましたし、何より義塾の先輩としてうれしかったです。皆さんのお話を念頭に、これからも「塾生が学び、可能性を開花させるために最高の環境とは?」を追求していきます。また、アンさんのように海外の若者にも魅力的と思ってもらえるよう、進化を続けていきたいと思っています。
-皆さん、本日はありがとうございました。
この記事は、『塾』SPRING 2023(No.318)の「特集」に掲載したものです。
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伊藤 公平(いとう こうへい)塾長
肖 佳男(しょう よしお)君
理工学部物理学科3年。
長野県出身。素粒子物理学の研究者を目指す。バスケットボール、プログラミング、哲学など興味は幅広い。
鈴木 美也子(すずき みやこ)君
薬学部薬学科2年。
神奈川県在住。薬学部での資格取得の学びや研究に取り組みながら、体育会フェンシング部の選手として文武両道を志している。
中村 華子(なかむら かこ)君
法学部政治学科3年。
宮城県出身。入学から2023年2月まで綱島学生寮で過ごし、「RA(レジデント・アシスタント)」を務めた。慶早戦支援委員会に所属。
藤原 智也(ふじわら ともや)君
環境情報学部3年。
京都府出身。体育会庭球部男子主将。インカレとインカレ室内でそれぞれ個人優勝を決めた大学テニス界のトッププレーヤー。
トースィージャルーン, チャニガーン君
大学院経営管理研究科特別短期留学生。
通称:アン。タイ王国出身。特別短期留学生(聴講生)として学んでいた経営管理研究科の修士課程に今春入学。