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2023/03/20
創部135年を迎える慶應義塾体育会野球部。伝統ある慶應義塾高等学校野球部は、1888年慶應義塾野球部の起源となる三田ベースボール倶楽部結成以来、他校と一線を画した自由を重んじる伸び伸び野球で広く親しまれています。
2022年10月の関東大会でベスト4の成績を残した慶應義塾高等学校は、2023年3月18日から行われる第95回記念選抜高等学校野球大会(春の甲子園)への出場が決定しました。春の選抜出場は、1929年に前身の慶應義塾商工学校(東京都)として初出場、2018年の第90回大会に出場以来5年ぶり10回目となります。強豪校としのぎを削りながらも、慶應義塾高等学校らしい野球の新しい魅力や楽しさを伝える「エンジョイ・ベースボール」の理念のもと、日本一を目指しています。
そんな伝統ある慶應義塾高等学校野球部の躍進の裏には、脈々と受け継がれている学生コーチの存在があります。自身も元部員、先輩としてチームや選手を日々サポートする学生コーチの松平康稔君に、その活動や取り組みについて話を聞きました。
現在法学部法律学科に所属する松平君は、大学1年生の春から慶應義塾高等学校野球部の投手コーチとして活動しています。
「私自身も高校3年間塾高野球部に所属していたのですが、当時から学生コーチという存在はとても身近なものでした。技術指導だけでなく日常の相談事など色々と本当にお世話になったと思います。大学進学後、高校野球部に恩返しをしたいという気持ちが強くなり、コーチになる道を選びました」
いざコーチになってみると、選手時代には気づかなかったような発見もあったといいます。
「グラウンド内での練習や指導だけではなく、外に出たところでも色んな活動をしていて、想像もつかないようなサポートをしていることがわかりました。現在、慶應義塾高等学校野球部には10名の学生コーチがいますが、基本はポジション毎に分かれていて、投手コーチ、捕手コーチ、外野コーチ、内野手コーチ、打撃コーチ、またマネージャーを補佐するコーチがいます。これだけ専門的に分かれているのは、高校野球部では珍しいのではないでしょうか。コーチの人数が多いことで教えられる幅も広くなると感じています」
技術面やメンタル面など様々な角度から選手のサポートを行う学生コーチ。慶應義塾として大切に受け継がれているモットーなどはあるのでしょうか。
「慶應義塾の野球部では自主性を重要視しているので、コーチも選手も各々が「考える」という部分を大事にしています。大学生コーチと高校野球部員との関わりでいうと、技術指導はもちろんのこと、プライベートな相談にのることもありますが、コーチが選手に答えを提示するのではなく、選手が自ら考えて気づくことが一番理想的だと考えています」
また、松平君が高校生の時にはなかったテクノロジーを駆使してスポーツパフォーマンスを向上させるような新しいコーチングにも取り組んでいます。
「この春から慶應義塾大学体育研究所 稲見崇孝研究室の「スポーツサイエンスラボ」に参加し、動作解析ツールや高精度の測定機器、技術を用いて、選手のパフォーマンス測定を行っています。以前から球速や球質の測定は行われていましたが、今年度からはさらに様々な数値を測定できるようになりました。例えば、練習のメニューに対して根拠づけや、場合によっては選手の評価みたいなところにも使えると思っているので、うまく活用できればもっとより良い組織づくりに応用できるのではないかと思っています」
稲見崇孝研究室は、体育・スポーツ科学に関する研究と教育を実践する慶應義塾大学体育研究所の研究室の1つとして、運動やスポーツによるパフォーマンスを科学的かつ非侵襲的な手法(身体に負担をかけない方法)で「見える化」し、優れたパフォーマンスとより良いコンディショニングを引き出すための方法について研究を行なっています。
「動けないと思っていた選手が意外にも良い数値を出すというようなケースがあります。自分たち学生コーチの目線だけでは気づかないような選手のパフォーマンスを数値がきちんと「見える化」してくれるというのは、データの強みだと思います。この取り組みはまだ始まったばかりですが、しっかりプロセスを踏んで続けていけば、間違いなく成果が出てくるのではと感じています」
松平君はこのラボでの活動を通じて学んだことを野球部に持ち帰り、新たな取り組みとして具体化、実践しています。
「まずはコーチ内で取得した数値をしっかりと吟味し、その上で自分たちが考えるメニューを野球部の森林監督をはじめ首脳陣の方々に相談しながらプランをたてています。私が現役時代の頃はウエイト一つとっても具体的な数値を細かくとっていなかったので、とにかく漠然とやれば結果が伸びるみたいな考えが多少なりともあったと思います。今の選手には数値を基にしたメニューも納得した上で取り組んでほしいですし、しっかりと根拠を持って確認しながら日々取り組んでほしいと思っています。根拠さえあれば自分たちの努力は間違ってなかったと感じられるのではないでしょうか」
慶應義塾高等学校野球部の森林貴彦監督も、学生コーチの取り組みは野球部運営の大きな柱となっているといいます。
「私含め慶應義塾の教員4名のほかに学生コーチが10名在籍していますが、彼らが野球部を円滑に運営するための欠かせない戦力になっています。高校生の部員に年齢が近いので、密なコミュニケーションの中から色々な声や意見を吸いあげたり、あるいは選手のコンディションも早めに察知して、指導者側と部員たちの間に入って色々と繋いでくれることを一番期待しています。
最近では、体成分分析やパワー計測などこれまで測れなかったものが色々と測れるようになってきたので、これまではなんとなく想像で体つきから類推していたようなところが数値から明らかになることによって、選手一人一人により有効な個別指導が確立できると思います。そのために非常にありがたい手段だと思っています」
現役選手である慶應義塾高等学校野球部主将の大村昊澄君にとっても、学生コーチはとても身近で大きい存在となっているようです。
「高校野球での学生コーチという取り組みは珍しいことだと思いますが、歳も近く、つい最近まで現役でやられていた学生の方が多いので、自分たちの目線になって親身になって考えてくれるところがあり、相談もしやすく何でも話せる存在です。学生コーチの日々のサポートのおかげで、具体的な数値を通して自分を知ることでフィジカルアップにも繋げられ、具体的なトレーニングや食事などのプランニングにも役立っています」
「現時点ではデータを取得した段階なのでこのデータに基づいてどういう取り組みをしていこうかと検討している段階ですが、測定の場面において様々な機器を用いてデータを入手しています。今度はその得た数値をもとにトレーニングをしていくことで成果を出して行かなければならないので、数値を得て活かすという場面においても測定機器やデータが使えたらいいなと思っています。現在では、ウエイトトレーニングをする際に、挙上スピードを測ってそれを基にメニューを組むという考え方も出てきているので、実施できる環境が整えばもっと成果は出てくると思います。
全国的にみると今の試みはまだ新しい考え方ではあるので、まずは量をしっかりこなすという考え方ももちろんあると思っています。いくら質を高めても量が伴っていなければやる意味がないと感じているので、オーバーワークになりすぎず、必要最低限の「量」を確保するという点についてはまったく否定的ではありません。
今私たちがやっている新しい試みや考え方が高校野球全体に広まっていくことは悪いことではないと思っています。トレーニングもまずは日本一を取るというところを目標にやっていますが、将来的なところを見据えて日々取り組んでいます。いずれ結果を出せれば、野球部全体としても新しい試みや考え方が広く影響していくと思うので、ただただ日本一を目指すというのではなく、高校野球界に対して様々な発信ができればと考えています。慶應義塾高等学校野球部はそういう部だと思いますし、それこそが部の強みでもあると思っています。
また選手たちには、野球で日本一というだけではなく、人としても日本一基準であるべきという考え方が部にはあるので、選抜を目標に練習を重ねて、大会を通じて人としてもひとまわり成長してくれることを期待していますし、私自身も野球を通して選手と一緒に成長しながら人間的にも成長できればと思っています」
高校野球の将来を見据え、今後は、高校野球と大学野球の比較研究もやってみたいと目を輝かせています。
慶應義塾高等学校野球部
https://keio-high-baseball.com/
慶應義塾大学体育研究所
慶應義塾大学体育研究所 稲見崇孝研究室(スポーツ科学)
https://inami-lab.ipe.hc.keio.ac.jp/
体育・スポーツ科学に関する研究と教育を実践し、慶應義塾におけるスポーツ振興を推進する体育研究所。学生一般には体育の授業を行っているセンターとして認知されている。専任教員らは、スポーツにまつわる各々の専門分野における研究活動も実践。その中でも、稲見崇孝研究室では運動やスポーツによるパフォーマンスを科学的かつ非侵襲的な手法(身体に負担をかけない方法)で「見える化」し、優れたパフォーマンスやより良いコンディショニングを引き出すための方法について研究。目指すのは、ヒト骨格筋特性やコンディション/リカバリーの定量的評価を通じた『見える化』によるスポーツパフォーマンスならびにヘルスプロモーションの向上/改善である。
研究の傍ら、研究に用いている動作解析ツールや高精度の測定機器、技術を用いて、アスリートのパフォーマンス測定を行っている。陸上男子100mの日本記録保持者山縣亮太選手のサポートをおこなっていることでも有名だが、ゴルフの中嶋常幸プロや2020東京オリンピック競技大会アーチェリー男子団体で銅メダルを獲得した武藤弘樹選手など、様々な競技種目のアスリートらが訪れる。
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