-遠藤さんはアスリート向け以外の義足も手がけていますね。最近ですと、乙武洋匡さんの「義足プロジェクト」にも参画されています。
遠藤:私たちが開発した足首にモーターが付いているロボット義足を乙武さんに装着してもらい、二足歩行にチャレンジするというプロジェクトです。多くの人はメディアやネットで乙武さんが義足を着けて頑張って歩く姿を見て、一種の感動を覚えていると思います。しかし、私も乙武さんもそうした「感動」を目的にプロジェクトに取り組んでいるわけではありません。実は両脚大腿部以下が欠損し、両膝がない乙武さんにとって、電動車イスのほうがよほど快適で便利。わざわざ健常者に寄せて二本足で歩く必要などまったくないのです。そんな彼があえて二本足で歩く姿を通して、多くの人に「健常者」と「障害者」の違いとは何かという問いを、パラリンピック開催を控えた日本人に突きつけたい……それがこのプロジェクトの隠された意図です。私たちの事業とテクノロジーが障害者に対する日本人の意識を変えていくきっかけになりたいですし、そのために乙武さんという社会的影響力が大きい人であれば、人々に大きなインパクトを与えることができるのではないかと考えました。
-義足を通した国際支援のお仕事もされているとか。
遠藤:MIT時代の2008年にインターンシップでインドに行き、無償で貧困層の人々に義足を提供しているNGOと関わりを持ちました。インドには義足を必要とする人が2000万~3000万人いるといわれています。その多くは地方で貧しい暮らしをしており、義足というテクノロジーの恩恵を受けることができません。そうした人々に使ってもらうためのコストが安い義足作りを手がけ、その活動を続けてきました。アスリート向け義足や乙武さんのロボット義足は市販すれば一本数百万円の値段がつくものですが、こちらは数千円。そのローコストを実現するのもやはりテクノロジーの力なのです。こうした活動が縁で、ラオスで義足ランナーを指導している日本人ナショナルコーチの羽根裕之さんとも知り合うことができました。羽根さんはご自身も障害者アスリートとして活動している方で、心から尊敬している人物です。今後、私の経験と技術で少しでも支援できればと考えています。
-遠藤さんが活動拠点としている「新豊洲Brilliaランニングスタジアム」内の「ギソクの図書館」とは何でしょうか?
遠藤:多くの義足ユーザーにアスリート用義足で走る喜びを味わってもらうため、2017年に始めたプロジェクトです。アスリート用義足(板バネ)は、航空機などに使われる最高級のカーボン繊維強化プラスチックが素材で一本あたり数十万円もします。なかなか次代を担う子どもたちに試してもらうチャンスはありません。「ギソクの図書館」には板バネ24本のほか、膝継ぎ手や接続のためのパーツも多種取り揃えて、1回500円の使用料金で子どもから大人まで気軽に試すことができます。取り付けと調整には義肢装具士の手助けが必要になりますが、自分で取り換えられるようになれば、自由に来て、走っていただいてもかまいません。楽しそうに走る子どもたちを見ていると、やって良かったと思いますし、社会保障などの制度も含めて義足の人たちが走ることを当たり前にできる時代を創りたいと決意を新たにしています。