登場者プロフィール
長谷川 敬
文学部 西洋史学専攻 教授長谷川 敬
文学部 西洋史学専攻 教授
2026/10/31
西洋古代史研究の難しさ
私は、西洋史学専攻の教員として古代の地中海沿岸諸地域の歴史を担当しており、また、文字で記された史料を読解・解釈する歴史学者として、帝政ローマ前期の地中海西方地域の社会史を研究しています。古代ローマと聞くと、なんとなくロマンを感じるかもしれません。しかし、実際にローマ史を研究するにあたってはいくつかの大きな困難があります。まず、古典ギリシア語、ラテン語といった古代の言語を学ばなければなりません。また、そもそも文字史料自体が決して豊富ではありません。そのため、たとえどんなに面白い謎を見つけたとしても、史料不足のせいでまったく手が付けられないということもあります。
古代ローマの庶民の「声」を聴く
かく言う私も、史料の少なさには大いに苦しめられてきました。例えば、私が長年研究してきた商人・職人といったローマの庶民は、契約書や記録のためにパピルス紙や木製の板を利用していましたが、こうした有機物はごく一部の例外を除いて朽ちてしまい、史料として残りません。また、タキトゥスのようなローマ時代の著述家たちが、自著で庶民の日常生活を詳述することは稀でした。それでは、いったいどのようにして庶民の「声」を聴くのか。私の場合は、一部の商人・職人が結成していた同業者団体に着目し、そうした団体に関係するラテン語の石碑(碑文)を読み解いています。それによって、彼らの人間関係のあり方やその関係を結ぶこととなった社会的背景を明らかにするのです。
遥かなる時代・地域を学ぶ意義
就職に直結する分野が社会で重宝される昨今、現代日本からは遠く離れた古代ローマの歴史を日本人が研究することの意義は何でしょうか。一見すると無縁にも思える日本とローマですが、前述の同業者団体の活動を調べていくと、地縁や血縁のみならず、多様な人的ネットワークを構築してそれを活かしてしたたかに生きる人々の姿が見えてきます。そこには、様々な組織やSNSを介して他者と広く繋がる現代日本人と相通じるものがあるのです。直接的な関係がないからこそ、時代・地域を超えた人間の本質を見出すことも出来るのであり、まさにそこに古代ローマ史を学ぶ意義やメリットがあるように思います。
※所属・職名等は取材時のものです。