執筆者プロフィール
北川 敬三(きたがわ けいぞう)
総合政策学部 教授北川 敬三(きたがわ けいぞう)
総合政策学部 教授
フォークランド戦争は、1982年に南大西洋のフォークランド諸島の領有をめぐり、英国とアルゼンチンの間で戦われ、英国が勝利を収めた戦争である。
なぜ、日本から遠く離れた地で戦われた40年以上前のフォークランド戦争を今、1冊の本にまとめたのか。その答えは、私の31年間の海上自衛隊勤務、とりわけ2013年から3年間の在英国防衛駐在官時代の経験にある。
当時、私は自衛隊の統合運用の在り方を模索していた。転機は着任翌年12月、英国空軍参謀長公邸でのクリスマスディナーの席で訪れた。ホストであるアンドリュー・プルフォード英国空軍参謀長から、「統合を学ぶなら、フォークランド戦争を研究しなさい」と勧められたのだ。
さらに、フォークランド戦争従軍経験者でもある同参謀長の「防空戦も、対潜戦も、水陸両用作戦も決してうまくいかなかった。勝利は幸運でもあった」という言葉は、それまで私が抱いていたフォークランド戦争像を一変させた。
以来12年間、関連文献を読み、関係者への聞き取りを重ねながら研究を続けた。その過程で、フォークランド戦争は単なる統合運用の事例ではなく、島嶼(とうしょ)防衛を巡る国家意思から戦略、作戦術、ロジスティクス、技術、人材・リーダーシップまで、戦争を理解するための学びの宝庫であることを確信した。その教訓は、現代日本の安全保障と将来に直結すると。
フォークランド戦争を正面から扱った日本語の単著は、40年以上なかった。同戦争の教訓を、広く日本の読者に伝えなければならない。この使命感こそが、本書を執筆する主な動機となった。
昨年から慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)で教鞭を執っている。講義や研究会で学生達と戦略やリーダーシップを議論する「半学半教」の日々は、本書をまとめる上で大きな刺激となった。「独立自尊」の精神は安全保障や戦略を考える私の問題意識とも深く響き合っている。
英国で得た問いは、学際的で自由なSFCでの教育・研究を通じて書籍として結実した。本書が、戦略や日本の安全保障を考える読者の新たな視点に繋がれば幸いである。
『フォークランド戦争』
北川 敬三(きたがわ けいぞう)
ちくま新書 320頁 1,155円〈税込〉
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。