執筆者プロフィール
小林 博人(こばやし ひろと)(共編)
政策・メディア研究科 教授小林 博人(こばやし ひろと)(共編)
政策・メディア研究科 教授
戦後日本を代表し、世界的な建築家として知られる槇文彦さん(1928-2024)は、三田、日吉両キャンパスのメディアセンター(図書館)や三田キャンパス大学院校舎、湘南藤沢キャンパス(SFC)等、義塾の建築を数多く設計された。モダニズムの思想に立脚しながらも利用者本位の空間づくりに心を砕いたこれらの建物には、幼稚舎、普通部、慶應高校で学んだ槇さんの母校への温かいまなざしが注がれている。
槇さんは国内最良の学校建築として名高い幼稚舎本館(谷口吉郎設計)で学んだ最初の世代である。1935年当時、幼稚舎2年生だった槇さんの学年は、新校舎の完成にともない三田から天現寺に移ってきた。槇さんは「東洋一の学校」と謳われた幼稚舎本館で学んだ高揚感を生前繰り返し語り、その空間体験が建築家としての生き方に強く影響を与えたと回想している。
本書は槇さんが終生探究した建築と都市に関する思索を、慶應義塾との関係からたどり直し、建築作品や言説、また、その人となりについて掘り下げて分析したものである。
出版の契機となったのは、槇アーカイブの創設に向けた活動である。建築家・槇文彦の思想を建築や都市デザインを学ぶ次世代の人たちに伝えるために、2015年頃からSFCを中心に議論が始まった。さらに2021年度から5年にわたり、竹中工務店の支援の下、寄附講座「槇文彦建築とアーバニズム思想」が開講され、建築作品や言説の本格的な研究・分析が行われた。
本書はこれらの成果として、SFC生による作品・言説研究や、槇さんと所縁の深いクライアントや協働者、元スタッフ等へのインタビューを収録している。加えて、本誌をはじめとする慶應義塾の刊行物に発表された対談、慶應義塾大学アート・センターがアーカイブ化している図面資料や建築写真、関係者のエッセイ、論考を収録し、当初の計画をはるかに超えて充実の一冊となった。
九十余年に及ぶ建築家の生涯を描ききることは到底できないが、本書が数多くの塾員・塾生に親しまれる(親しまれてきた)キャンパスの建築に改めて思いをめぐらせるきっかけになることを願っている。
『慶應義塾の槇文彦──建築とアーバニズム思想』
小林 博人(こばやし ひろと)(共編)
慶應義塾大学出版会 240頁 3,520円〈税込〉
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。