慶應義塾

『データと経済学で解き明かす北海道』

公開日:2026.10.07

執筆者プロフィール

  • 遠藤 正寛(えんどう まさひろ)

    商学部 教授

    遠藤 正寛(えんどう まさひろ)

    商学部 教授

この原稿を執筆している現在、私は小樽商科大学の夏季集中講義で「北海道経済論」を担当しています。教科書はもちろん本書です。30年前に本書を執筆する契機をいただいた大学で、その成果を今このように講義できること、研究者としてのサイクルが一回りしたと感じます。


大学院を終えて小樽商科大学に採用していただき、1996年春に北海道に来ました。関東出身の私は、風景や気候や言葉や食事などの様々な違いを新鮮に感じ、楽しんでいました。研究会の学生から紹介された「水曜どうでしょう」というテレビ番組に触発されて、北海道212市町村(当時)を全て回ることも行いました。道内の自然地理や人文地理の多様さを学んだこの旅では、同時に、農村地域からの人口の流出、企業活動の停滞、地方自治体の厳しい財政状況なども多く目にしました。


ただ、当時は自分の専門分野である国際経済学の研究や講義で精一杯で、北海道経済については関心を持つだけでした。小樽商科大学に奉職していた3年間、私は北海道のイメージの美しさと、社会・経済の厳しさを、頭と心の中でつなぎ合わせることができないままでした。


北海道を離れても、北海道への関心は衰えず、経済学の分析道具を用いて北海道を理解する試みを少しずつ進めました。その成果の1つは『北海道経済の多面的分析』(慶應義塾大学出版会、2014年)です。執筆動機の1つは、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)反対論の強かった北海道に向けて、国際経済学の研究者として、TPPの北海道への意義を提示することでした。


この本の出版を契機に、北海道大学や小樽商科大学で「北海道経済論」の夏季集中講義を担当する機会をいただきました。講義をし、内容を拡充し、記述を工夫した成果が、今回の出版です。書名に「北海道」とありますが、分析手法は他地域の経済にも有用です。例えば、地域の貿易赤字は域外からの財政移転の結果であり、貿易赤字そのものは問題ではないことは、地域の首長や政策担当者に理解していただきたい点です。


このようなことを振り返りながら、本書を講義している自分は幸せだと、学生と話をしながら思っています。


『データと経済学で解き明かす北海道』
遠藤 正寛(えんどう まさひろ)
慶應義塾大学出版会 304頁 3,630円〈税込〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。