慶應義塾

『石ころを石礫に──安倍氏暗殺・山上徹也さん裁判記録』

公開日:2026.09.09

執筆者プロフィール

  • 浅野 健一(あさの けんいち)

    人権と報道・連絡会代表世話人経済学部 卒業

    1972経

    浅野 健一(あさの けんいち)

    人権と報道・連絡会代表世話人経済学部 卒業

    1972経

1966~67年に留学した米国の高校で新聞部記者を始め、義塾で英字新聞記者をし共同通信記者、同志社大学大学院教授(メディア学)を経て、フリー記者をしてきた私は60年間ジャーナリストをしている。


安倍晋三元首相暗殺事件の裁判員裁判の16回公判をすべて「記者席」で取材できた。「記者席」は普通、「記者クラブ」加盟の記者にしか与えられないが、奈良地裁はフリーの私に記者席を提供してくれた。記者クラブの記者は速報のため頻繁に交代するので、60数時間に及んだ審理のすべてを取材したのは私だけだ。


裁判では、捜査関係者、山上さんの母親・妹、統一協会被害者弁護士、精神鑑定医、宗教学者が証言し、本人質問が5回もあったが、マスコミは重要な「事実」を報道しなかった。


例えば、朝日新聞は事件(2022年7月8日正午前)の夕方、山上さんの叔父に取材し、母親の教団への巨額献金が犯行動機と把握したのに、参院選への影響を恐れ、7月11日に統一協会が会見するまで教団の実名を伏せた。また、高市早苗氏が、即死状態の安倍氏を、近くの病院ではなく、ドクターヘリで奈良県立医大病院に搬送するよう電話で指示したことも伝えなかった。


捜査当局は事件直後、教団幹部から安倍氏に狙いを変えた経緯について「論理の飛躍」「思い込みがある」という筋書きを立て、報道各社もこの「お上」の視線で報じた。地裁は「不遇な生い立ちと事件は無関係」「安倍氏に何の落ち度もない」と決めつけ、「無期懲役」を言い渡した。


裁判を毎回、SNSで発信したところ、「ぜひ出版を」という声が多数届いた。大手出版社での刊行がほぼ決まっていたが、営業サイドが妨害。その後、自著『自民党は解体・解散せよ』の版元のあけび書房で刊行予定だったが、重要な原稿を削除されるなどの問題があり出版を取り止めた。そんな中、私がかつて単行本を多数出した三一書房が引き受けてくれた。


本書を最初に読んでほしかった山上さんにも本を贈ったところ、弁護団の1人、小城達弁護士から「山上さんが浅野さんに面会したいと言っている」という電話をもらった。初めて面会できる。大阪高裁でも「記者席」で取材し、続編を出版したい。

石ころを石礫に──安倍氏暗殺・山上徹也さん裁判記録
浅野 健一(あさの けんいち)
三一書房 304頁 2,420円〈税込〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。