慶應義塾

『ネトフリ好きのためのアメリカ文化講座』

公開日:2026.08.31

執筆者プロフィール

  • 波戸岡 景太(はとおか けいた)

    法政大学文学部教授文学部 卒業文学研究科 卒業

    2001文修、04文博

    波戸岡 景太(はとおか けいた)

    法政大学文学部教授文学部 卒業文学研究科 卒業

    2001文修、04文博

ネトフリ、アマプラ、ディズニープラス。サブスク、オンデマ、見逃し配信──。映像コンテンツをめぐる私たちの視聴環境は、この10年で一変した。タイパ重視での倍速視聴はもとより、ニッチな作品のレコメンドや、ながら視聴の常態化など、もはや潰そうとしても潰せるひまそのものが見つからないほどだ。


1990年代半ば、アメリカの小説家トマス・ピンチョンは、エンドレスにテレビを見続ける視聴体験は「怠惰」の象徴などではなく、ヨガや禅の瞑想に匹敵するだろう、とうそぶいてみせた。同じ頃、やはりアメリカの批評家スーザン・ソンタグは、あらゆるサイズのスクリーンが日常に溢れるこれからの世界に、もはやシネフィルの居場所などない、と喝破している。


あれから30年ほどが過ぎ、彼らの先見性は多くの人の実感するところとなったはずだ。怠け者でも映画狂でもない現代の視聴者たちは、サブスク文化の提供する切れ目のない視聴体験を通じて、物語のかたちをとった情報を吸収し続けている。


もちろん、そうした溢れんばかりの情報を、生きた教養へと昇華することは、ガイドなしでは難しい。たとえば、『ブレイキング・バッド』に登場する覚醒剤の精製者たちは、どうしてウォルト・ホイットマンの詩に心奪われたのか。あるいはまた『BEEF』のアジア系アメリカ人たちは、死闘のさなかに、どうしてジョセフ・ヘラーの問題作『キャッチ=22』の創作秘話(タイトルの数字は、18でも何でも良かった)を思い出したのか。


拙著『ネトフリ好きのためのアメリカ文化講座』は、現代米文学を専門とする私のおすすめプレイリストであり、サブスク時代のコンテンツに米文学史の深みを見つけるエッセイ集でもある。教育から戦争まで、9つのカテゴリーに分けられた各章では、文化と文学が密かに交錯する瞬間がすくいあげられ、暗号のようにそこにちりばめられたディテールが解読される。


気鋭のイラストレーターの挿絵も楽しい本書を通じて、毎日の「観る」が、より豊かな異文化体験に変わったならば、著者としてこれに勝る喜びはない。


ネトフリ好きのためのアメリカ文化講座
波戸岡 景太(はとおか けいた)
立東舎 288頁 2,750円〈税込〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。