執筆者プロフィール
錦田 愛子(にしきだ あいこ)
法学部 教授錦田 愛子(にしきだ あいこ)
法学部 教授
日本人にとって中東は、日常的にはなじみの薄い地域と言えるだろう。なかでもパレスチナ問題は、最も複雑に世界政治とも絡み合う紛争のひとつだ。世界史の教科書に出てくるイギリスの三枚舌外交や、ユダヤとアラブ、イスラエルとパレスチナという対立構図を覚えるだけでも一苦労。そうした難解さを少しでも解きほぐし、分かりやすく伝えられれば、そんな願いで書いたのが本書である。
もとになったのは、コロナ禍のときに作成した学部生向けの講義「現代中東論Ⅱ」の授業ノートだ。オンライン配信用の教材を作成せねばならなくなったとき、何度も言い間違えながら撮り直すのが嫌で、代わりに全回分の台本を作り、アナウンサーのように自分で読み上げてオンデマンド動画を作ることにした。このときに台本として既に文章化していたものに、エピソードと出典を付け加えることで本書が構成されていった。パレスチナ/イスラエルの通史として「これ一冊読めば分かる」という決定版を作ることを目標にした。
もうひとつの目的は、2023年10月7日に始まったイスラエル・ガザ戦争について、リアルタイムな動向を書き記すことだった。昨今の戦闘や激動の政治情勢を報道で見て、この地域に関心を抱かれた方も多いに違いない。そうした読者に向けて、開戦直後の状況から、三度のガザ停戦、2025年のイラン攻撃などの経緯について、全体像を示しつつ詳細で正確な情報をまとめることにした。結果的に450頁の本文のうち125頁が、この戦争および前哨となった出来事の解説に費やされることになった。
ある日、子どもの頃好きだった映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の30周年記念で、主演のマイケル・J・フォックスがアメリカのトークショー番組に出ているのを見た。デロリアンに乗ってたどり着いた「未来」の状況について「中東和平は達成されたのかい?」と彼が尋ねるのを聞いて、苦笑せざるを得なかった。いつまでも解決しない紛争、それがパレスチナ問題という認識は、世界共通のようだ。未来のマイケルに「紛争は終わったよ」と伝えられる日が、早く来てほしいものである。
『パレスチナ/イスラエルを読み解く』
錦田 愛子(にしきだ あいこ)
えにし書房 476頁 2,970円〈税込〉
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。