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2023年度大学学部入学式 式辞

2023年4月1日

慶應義塾長 伊藤 公平

新入生の皆さん、慶應義塾大学へようこそ。今日から皆さんそれぞれにとって最高の学生生活が始まります。ご家族、保証人の皆様にも心からお慶びを申し上げます。

まず初めに、慶應義塾の創立者・福澤諭吉が語った慶應義塾の目的を読み上げます。

「慶應義塾は単に一所の学塾として自から甘んずるを得ず。其目的は我日本国中に於ける気品の泉源、智徳の模範たらんことを期し、之を実際にしては居家、処世、立国の本旨を明にして、之を口に言ふのみにあらず、躬行実践、以て全社会の先導者たらんことを欲するものなり」

皆さんが、数多くある大学の中から慶應義塾大学を選んだ理由は様々であろうことを想像しますが、ただ今紹介した慶應義塾の目的はすべての新入生が共有すべき目標です。気品の泉源、智徳の模範としての高みを目指し、全社会、すなわち全世界を正しい方向に先導する、リードするために、皆さんはこれからの大学生活において学問に励み、課外活動に精を出し、生涯の友と出会っていきます。慶應義塾の「義塾」とは英国のpublic schoolの訳で、まさに公共の発展に尽くすという高い志をもった学生が集まる塾ということです。高い志を持ち続けること、理想を追求し続けることは大変!と思うかもしれませんが、心配ありません。皆さんは素晴らしい仲間に恵まれ、互いに助け合い、高め合いながらこれからの大学生活を過ごします。でもそのために大切なのが自らを確立することです。一人ひとりが自らの志や尊厳を保つ。これが独立自尊の精神です。自らの尊厳を保ち、自らの天性を「より高い志」、「より高い誓い」、「より高い約束」のために役立てる。だからこそ仲間の尊厳も尊重し、仲間と一緒に、社会の発展に尽くせるのです。一人一人が、つまりここにいる全員が先導者クラブのメンバーとして理想を追求することが理想の世界につながるという慶應義塾の考え方は、まさに民主主義の理想を追求するものであります。

皆さんの入学にあたり、慶應義塾からは『福翁自伝』をお贈りします。福澤諭吉先生が生涯を閉じられる4年ほど前に、ご自分の人生を速記者の前で闊達に語られ、その文字起こしを福澤先生が筆を入れて完成された自伝で、実に痛快で、私たちが目指すべき人生の指針となる本です。

これと並んでどうしても読んでいただきたいのが福澤先生の名著『学問のすゝめ』です。まずは、慶應義塾のホームページに行き、ガクモンノススメとカタカナで書かれたバナーをクリックしてみてください。そこには2種類の動画が掲載されています。一つの動画の出演者は嵐の櫻井翔さん、もう一つの動画の出演者はアスリート5名でラグビーの原わか花さん、パラ陸上の高桑早生さん、サッカーの武藤嘉紀さん、短距離走の山縣亮太さん、そして、テニスの松岡修造さんです。この方々全員が『学問のすゝめ』を読み込み、『学問のすゝめ』の素晴らしさについて大いに語ってくださっています。私がおすすめする『学問のすゝめ』の読み方は、原著を読みながら、横においた現代語訳版を参照するというものですが、現代語版のみを読むのでも構いません。

さて、私がなぜここまで力を込めて『学問のすゝめ』を読むことを奨励するのでしょうか?それは、これからの時代、科学技術や生命科学の発展がさらに加速し、ビジネスのあり方も目まぐるしく進化する世の中において、人間らしさを保つ、そしてそのために一番必要とされる能力こそが、学び続ける能力、常に自分と周りを高めていく能力だからです。

慶應義塾大学が皆さんのために用意している学びの環境は実に多彩です。自分の所属する学部の専門や総合教育科目に加えて、皆さんがアンテナを立てて見回す能力を研ぎ澄ますだけで、さまざまな授業が履修でき、世界中からのオピニオンリーダーによるセミナーにも参加できます。ここ2ヶ月間だけでも、NATOのストルテンべルグ事務総長、国連総会のコロシ議長、韓国の尹大統領といった錚々たるメンバーが慶應義塾において学生向けの講演を行い、塾生からの様々な質問に真摯に回答してくださいました。全学部生、全学年を対象としたAIとプログラミングの学びの場である、AI・高度プログラミングコンソーシアムも慶應義塾独自の学びの仕組みです。

また、大学のある意味では一番重要な目的は、生涯の友に出会い、共通の目標に向けて進むチームワークを習得して、何かを成し遂げることを学ぶことです。そのために、さまざまな体育会(運動部)やサークルが用意されています。大いに活用してください。

そして、全社会の先導者を目指すためには、どうしても世界に飛び出さなければいけません。そのために、慶應義塾大学は世界140以上の大学との交換留学やダブルディグリー制度等を用意しています。留学生に選ばれるためには、英語の共通試験TOEFL, IELTSや、行き先の国ごとに異なる言語の共通試験で必要とされる点数を、早めに獲得して、世界で学びたいという自らのプランを作り、その心意気を面接試験にて大いに語ってもらう必要があります。そして一歩、世界に足を踏み出してみると、これからのグローバル社会を健全に平和に発展させるためには、いかに一人一人の貢献が大切であるかを実感すると思います。学び続ける力は慶應義塾で養えたとしても、世界を正しく導くためのビジョンや人間性は、多彩な文化、人種、ジェンダーに混じって初めて得られます。とにかく世界に飛び出てください。

要は、慶應義塾大学が用意してきた、そして用意していくすべてのリソースを使い倒してもらいたいのです。例えば皆さんチケットを買って、ディズニーランドに入ったら、皆さんは、あらゆるアトラクションを楽しもうとされますよね。それと同じです。学費を払って慶應義塾大学に通うのであれば、まずは『学問のすゝめ』を読むことで塾生としての心得を整え、履修案内やホームページに掲載される様々な授業やイベントにアンテナを張り、私たち教職員が用意してきたすべてのアトラクションを満喫する勢いで、大学生活を徹底的に豊かで楽しいものにしてもらいたいと思います。

そして、大学がすでに用意しているものを活用することに加えて大切なのが、自分達でより良い社会を作っていく能力を高めることです。ここ日吉キャンパスでは、すべての学部を対象として選抜された塾生が、SDGsを達成するための慶應義塾のヴィジョン・目標・ターゲットを提言する、通称「塾生会議」が実施されています。2023塾生会議のメンバー募集も直に始まりますので、受け身ではなく能動的に自らの社会を作っていく活動に参加してください。

より良い塾生生活ひいては私たちの社会を発展させる建設的な塾生からの提言を、慶應義塾の発展に反映させていくことも大切です。そのためには学生自治組織である全塾協議会を活用してください。全塾協議会の理念は「塾生の総意に基づき、義塾の創造及び塾風の宣揚を実現する」であり、毎年の学費とともに全塾協議会のメンバーフィー750円(慶應義塾が代理徴収)を皆さんは卒業まで支払っていきます。毎年年末に塾生代表を皆さんが選挙で選び、議会定例会には塾生誰もが参加できるようになっています。是非、自分達で良い提案をまとめて社会をよくすることを、塾生時代から学んでください。

これまでは前向きな話でしたが、最後に一点だけ注意です。福澤先生は『学問のすゝめ』のなかで、政府の役割の一つとして、「悪人を取り押えて善人を保護」することを挙げています。この精神にのっとり、慶應義塾において絶対に許されないのは、他人の尊厳を傷つけることです。慶應義塾が求める気品のレベルは非常に高いもので、他人の尊厳を傷つけるようなことがあれば、法律で罰せられないレベルだとしても、慶應義塾では厳正に対処します。自由の中において風紀を乱さず、社会の手本となることを心がけてください。

今日の式典には、卒業50年を迎える大先輩方が出席され、皆さんの入学を一緒に祝ってくださっています。この大先輩方こそが慶應義塾の一番の誇りです。この先輩方と皆さんが一緒になって、本日の入学式の最後に慶應義塾の校歌である塾歌を斉唱します。1番から3番、どれも素晴らしいのですが、その2番、「往け 涯なきこの道を」で始まる歌詞が、社会の発展のために学び続けること、理想を追求し続けることを宣言する力強いものです。そのなかの一節「わが手に執れる炬火は 叡智の光あきらかに ゆくて正しく照らすなり」という部分に、私はいつも武者震いを覚えます。理想を追求するために、先導者たちは常に心に炬火をたき続けなければいけません。皆さんは在学中はもちろんのこと卒業後も何度も塾歌を斉唱することになります。この2番を歌うたびに、本日の入学式のこと、この日の決意を思い出してください。

今日、新入生の皆さんが、ここ日吉の丘に集まり、皆が揃って先導の旅路のスタートラインに立たれたことを心から喜び、私からの式辞とします。大学生活をとことん楽しんで満喫してください。本日は誠におめでとうございます。

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