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2022年度大学学部入学式 式辞

2022年4月1日

慶應義塾長 伊藤 公平

新入生の皆さん、慶應義塾大学へようこそ。ご家族の皆様にも心からお慶びを申し上げます。

まず初めに、慶應義塾の創設者・福澤諭吉が語った「慶應義塾の目的」を読み上げます。

「慶應義塾は単に一所の学塾として自から甘んずるを得ず。其目的は我日本国中に於ける気品の泉源、智徳の模範たらんことを期し、之を実際にしては居家、処世、立国の本旨を明にして、之を口に言ふのみにあらず、躬行実践、以て全社会の先導者たらんことを欲するものなり」

皆さんが、数多くある大学の中から慶應義塾大学を選んだ理由は様々であろうことを想像しますが、ただ今紹介した慶應義塾の目的はすべての新入生が共有すべき目標です。気品の泉源、智徳の模範としての高みを目指し、全社会、すなわち全世界を正しい方向に先導する、リードするために、皆さんはこれからの大学生活において学問に励み、課外活動に精を出し、生涯の友と出会っていきます。慶應義塾の「義塾」とは英国のpublic schoolの訳で、まさに公共の発展に尽くすという高い志をもった学生が集まる塾ということです。高い志を持ち続けること、理想を追求し続けることは簡単ではありません。しかし、心配ありません。皆さんは素晴らしい仲間に恵まれ、互いに助け合い、高め合いながらこれからの大学生活を過ごしていきます。でもそのために大切なのが自らを確立することです。一人一人が自らの志や尊厳を保つ。これが独立自尊の精神です。自らの尊厳を保ち、自らの天性を「より高い志」、「より高い誓い」のために役立てる。だからこそ仲間の尊厳も尊重し、仲間と一緒に、社会の発展に尽くせるのです。一人一人が独立しながらお互いを敬うので、家族が立派に独立する、良い家族ができるということです。これが地域の独立、国家の独立、すなわち、よりよい社会、よりよい世界への発展につながります。一人一人が、つまりここにいる全員が先導者として理想を追求することが理想の世界につながるという慶應義塾の考え方は、まさに民主主義の理想を追求するものであります。

皆さんに理想を追求しようと呼びかけるからには当然のことですが、この大学で皆さんの授業や教育を担当する教員は、誰もが研究や教育を通じて理想を追求する超一流の学者たちです。1年生のたとえば初級英語の先生が、実は世界史や政治学や芸術やさまざまな学問の大家だったりします。授業では、たくさんの質問を浴びせて、その先生の良さ、面白さをどんどん引き出してください。

国際センスを身につけることも大切です。外国語教育研究センターでは超上級までの英語に加えて、アラビア語、インドネシア語などの普通の学部ではなかなか学べない様々な言語が学べます。1年生の今日から英語やその他の言語をしっかりと学べば、慶應義塾が協定を結ぶ世界140以上の大学への交換留学生として選ばれる可能性が大いに高まります。全社会の先導者を目指すためには、どうしても世界に飛び出さなければいけません。是非、慶應の留学制度を活用してください。

理想を追求するためには体を鍛えることも大切です。世界レベルの陸上競技場、プール、体育館、テニスコートなどが慶應義塾には揃っていて、そこでさまざまな体育の授業が開講されています。昨年の東京オリンピック・パラリンピックでは英国チームがここ日吉キャンパスをキャンプ地に選んだのですから、慶應義塾の体育施設のレベルの高さは明らかでしょう。もちろん、これらの施設は体育の授業のためだけに用意されたのではありません。それらは慶應義塾を代表する体育会(運動部)が練習や試合に利用するものです。皆さんが体育会に入れば、練習をがんばることによって不可能と思われたことを可能にする体験、フェアプレーの精神、生涯の友が得られます。体育会と並行して慶應義塾が誇るのが、さまざまな音楽、芸術、文化、社会活動に関わる、文化系やスポーツ系のいわゆるサークル活動です。本日の演奏も、慶應義塾が誇る文化系サークルが携わってくれています。学業は当然ですが、課外活動においても大いに理想を追求してください。

さて、なぜ、私が「理想を追求する」という当たり前のことをここでお願いするのでしょうか?それは、情報が溢れる今の時代、自分の感性に従って理想を追求することがとても難しくなっていると感じているからです。例えば、大学選びをするときに大学の偏差値やランキングを気にされた方がいらっしゃると思います。また、将来、就職をするときにも評判や企業ランキングなどを気にする方もいるかもしれません。しかし、慶應義塾では、ランキングなどの情報は気にはとめても、それらに惑わされたり、踊らされたりすることは決してありません。なぜならば、そのような格付けの一部は、むやみに勝者と敗者を分ける「分断」につながるもので、「理想の世界をつくる」という目的とは必ずしも合致しないことがあるからです。先ほど交換留学先は140校以上あると述べました。それらは大学ランキングをもとに選んだものではありません。皆さんが理想を追求するために相応しいパートナーとして、先方の大学との長年の信頼関係をもとに築き上げられてきたものです。理想の追求にはものごとを熟成させる長い時間も必要なのです。

また最近は、強いリーダーになることが大変にもてはやされています。しかし、リーダーと言われる人が「私がこれをやりました」と、「私」を主語として成功体験を語るのを聞くと、慶應義塾が目指す先導者とは少し違うなと感じます。先ほど述べたとおり、先導者は皆さん、そして私たち一人一人で、ここにいらっしゃる全員です。理想の追求の仕方はバラバラで構いません。それこそが多様性です。でもお互いが強固につながって活動することで皆が一緒に進めるのです。一人だけで理想を追求してもどこにも行き着きません。お互いにつながること、時間を共有すること、そして止まりそうな人を助けること。授業で、課外活動で、一人でも多くの仲間と交わり、青臭いほどの理想論を戦わせてください。「私がこれをやった」という自慢はすみに置いておいて、「私はこう思う」という理想を仲間同士でぶつけてください。

今日の式典には、卒業50年を迎える大先輩方が出席され、皆さんの入学を一緒に祝ってくださっています。この大先輩方は、学生時代に慶應義塾において理想を追求し、卒業後も50年間理想を追求され続け、これからも理想を追求されていく方々です。この先輩方の前で、慶應義塾の伝統である先導者としての理想を追求することを一緒に誓おうではありませんか。

以上のように、慶應義塾では皆さんが思う存分活動して青春を謳歌することを望みますが、ただ一つ、塾生として絶対に許されないことは、他人の尊厳を傷つけることです。慶應義塾が求める気品のレベルは非常に高いもので、他人の尊厳を傷つけるようなことがあれば、法律で罰せられないレベルだとしても、慶應義塾では厳しく処分します。自由の中において風紀を乱さず、社会の手本となることを心がけてください。

最後に、今日お話したことをあとで思い出す方法、理想を追求する決意を定期的に新たにする秘訣をお教えします。この入学式の最後には慶應義塾の校歌である塾歌が斉唱されます。1番から3番、どれも素晴らしいのですが、その2番、「往け 涯なきこの道を」で始まる歌詞が、理想の追求を宣言する力強いものです。そのなかの一節「わが手に執れる炬火は 叡智の光あきらかに ゆくて正しく照らすなり」という部分に、私はいつも武者震いを覚えます。理想を追求するために、先導者たちは常に心に炬火をたき続けなければいけません。皆さんは在学中はもちろんのこと卒業後も何度も塾歌を斉唱することになります。この2番を歌うたびに、本日の入学式のこと、この日の決意を思い出してください。

今日、新入生の皆さんが、ここ日吉の丘に集まり、皆が揃って先導の旅路のスタートラインに立たれたことを心から喜び、私からの式辞とします。先導者としての理想を追求しましょう。本日は誠におめでとうございます。

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