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2021年度大学院学位授与式 式辞

2022年3月28日

慶應義塾長 伊藤 公平

本日、博士号または修士号を取得される皆さん、おめでとうございます。皆さんは、日頃から積み重ねた学習と研究の成果を、学位取得者として実に相応しい論文にまとめ、今日という日を迎えました。この活動を支えたご家族や保証人の皆様にも心からのお祝いを申し上げます。

慶應義塾は、皆さんの人生における「好循環の起点」、良い循環のスタートになることを願っています。皆さんは、慶應義塾において世界最高の教員とともに学び、研究に励んできました。慶應義塾の研究のレベルの高さは、皆さんが社会に出てから特に実感することだと思います。皆さんは、これから世界最高の研究者や頭脳に囲まれながら研究や仕事、事業に取り組むことになります。そのとき、自分の実力が全く見劣りしないことに驚き、大いに自信を深めることでしょう。そして世界レベルでの重要な役割を、ごく自然の流れとして皆さんが担っていくことになります。「慶應義塾の目的」のとおり、皆さんの一人一人が全社会の先導者として発展されることを期待し、信じています。先導者同士は相乗効果によってお互いを高めます。慶應義塾の卒業生ネットワークが強固なのはまさにこの相乗効果によるものです。これからの世界をより豊かに、平和に、生きがいのあるものに発展させていく皆さんの活躍を大いに期待しています。

過去2年間、新型コロナウイルスパンデミックによって皆さんの学習と研究が大幅に制約されました。思い描いた研究環境にアクセスすることができず、苦労を重ねた末に学位を取得された方が多いと思います。また、今回のパンデミックほど留学生にとって厳しい状況はありませんでした。厳しい水際対策により新入生としての来日が認められず、また、パンデミック前に来日できた留学生も、一度、日本を離れると再入国が難しい状況が続いたことは残念の極みであり、本日の学位授与式にもやむなくオンラインで国外から参加されている方々がいらっしゃいます。このような状況においても皆さんが立派に研究を遂行され学位を取得されたことに心からの敬意を表します。慶應義塾としての願いは、今後も世界中で活躍する卒業生の皆さんと繋がり、建設的な関係を深めて行くことです。卒業後も慶應義塾のメールマガジンやSNSに登録し、最新のニュースを得ながら母校の発展を支えてください。

さて、博士号を取得された皆さんは、これから「ドクター」として社会において活躍されることになります。

研究者としての道を歩む方々は、自分の専門分野を徹底的に深掘りしてゆくことになると思います。学術のフロンティアを切り拓くためには、研究の最前線に身を置き、世界中のエキスパートとの協調と競争を繰り広げることになります。一つ私からアドバイスがあるとすれば、研究テーマを選ぶときに、自分の好奇心を重視することは当然ですが、それ以上に、学術の発展に向けて誰かが取り組まなければならないテーマを選ぶことを心がけてください。誰かが取り組まなければならないのに、誰も取り組んでいないテーマというのは、1)創造的で発想が及ばない、または、2)とても難しいというどちらかのケースが考えられます。それに挑戦するということです。私が博士号を取得したときの専門は半導体物理学でした。もう30年近く前のことです。そして博士号を取得した後にいろいろな分野を見回し、科学者としてどのように学術の発展に寄与するべきかを考えました。その結果として量子コンピューティングに着目することにしました。量子コンピュータを実現するための半導体を作るのがスタートだったのですが、そのためには、製造したい量子コンピュータの仕組みや構造やデザインを提案しなければならない。そのためには、量子力学という物理学に加えて、量子情報科学というコンピュータサイエンス、量子コンピュータ素子を作るための電気工学といったさまざまな分野を学ばなければなりませんでした。ただ、世界でまだ始まったばかりの分野だったので、理論も実験も比較的荒削りで学びやすいのが特徴でした。以来、現在に至るまでの量子コンピュータの大発展に少なからず貢献し、慶應義塾に世界から注目される量子コンピューティングセンターが作れたのは、ひとえに黎明期から取り組んだこと、誰かがやらなければならないことに取り組めたことによります。そして、いくつもの学問を組み合わせて新しいものを作るという挑戦がいかに楽しく新しいかということを実感しながら進めてこられたことが大きいと思っています。研究者の道を歩む皆さんは是非、大きなことに挑戦してください。

修士号を取得された皆さんの多くや、博士号を取得された皆さんの一部は、実務家としてグローバル社会の発展に尽くすことになると思います。その方々は、自分たちの50年後を想像してみてください。50年後というと遥か彼方と思われるかもしれませんが、世界の平和と地球環境が保たれていれば、皆さんのほとんどがその時も元気に生活しているはずです。ただ、どのような社会に生きているかは、皆さんがこれから作っていく社会、すなわち、皆さんのこれからの日々の努力、活動によって決まってくることになります。今回のウクライナ危機は世界史の大転換となること間違いありません。これからの50年間、皆さんの挑戦と学びと創意工夫とチームワークによって、50年後の皆さんの世界が豊かで、平和で、生きがいがあるものになることを期待しています。私は50年後の結果は見られないかもしれませんが、それに向かう皆さんの努力と活躍を肌で感じながら頼もしく、喜ばしく思っていけることを楽しみにしています。

世界と地球の将来は皆さんにかかっています。良い社会を作っていってください。これからの人生において、慶應義塾の精神、先導者としての理想の追求を徹底してください。そして慶應義塾と繋がり続けてください。本日の学位授与、誠におめでとうございます。

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