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平成28年度大学入学式式辞

2016月4月1日

慶應義塾長 清家 篤

新入生の皆さんご入学まことにおめでとうございます。慶應義塾を代表して皆さんを歓迎し、その入学をお祝い致します。また新入生のご家族・関係者の皆様にも心よりお慶びを申し上げます。

慶應義塾では学生を「塾生」、卒業生を「塾員」と呼び慣わしています。きょうこの会場後方席には、ちょうど今から50年前の1966年に慶應義塾大学を卒業された塾員の方々が、新入生の皆さんの入学をお祝いするために、全国各地から駆けつけてくださっています。まことに有り難いことであり、新入生と共に、御礼申し上げたいと思います。

さて私たちは今、大きな変化の時代を生きています。それは地球温暖化や人口高齢化といった、私たちの住む地球や社会の持続可能性そのものを問うような変化です。そうした大きな変化の時代には、過去の延長線上で物事を考えたり、問題を解決したりすることはますます難しくなってきます。新しい状況を自ら理解し、その理解に基づいて問題を解決していかなければなりません。つまり自分の頭で考えるということがますます重要になります。

この自分の頭で考えるということは、なにも闇雲に思いを巡らすということではありません。系統的に物事を考える、すなわち考えるべき問題を特定し、その問題を説明しうる論理を組み立て、その論理が正しいかどうかを確認し、正しいならばその論理に従って問題を解決していくということです。これは、これから皆さんが学んでいかれる学問の方法論、つまりまだ誰も答えを見つけていない問題を研究課題とし、その問題を説明しうる「仮説」、つまり仮の説を立て、その仮説を何らかの方法で検証し、結論を導く、というプロセスに他なりません。

ご存知のとおり慶應義塾は福澤諭吉、福澤先生の作られた学塾ですが、幕末から明治にかけてのやはり大きな変化の時代に、福澤先生が何よりも学問の重要性を唱えたのもこのためでした。学問によって、自分の頭で考えることのできる若者を育てようとしたのです。私たち慶應義塾大学は、この福澤先生の建学理念を、今日に受け継いでいます。新入生の皆さんはどうかこれから、この慶應義塾大学において、幅広く学問を学び、奥深く学問研究に取り組み、そして存分に課外活動を行う、といった様々な経験を通じて、ぜひ自分の頭で考える力を養っていただきたいと思います。

実はこのことに関連して、今からちょうど80年前の1936年、ハーバード大学の創立300周年を祝う式典に当時の小泉信三塾長が出席し、これも当時のジェイムズ・コナント・ハーバード大学総長の語った式辞に、大変感銘を受けた、という出来事がありました。そこでコナント総長は、大学にとって大切なのは、学問研究、教養教育、高度専門職教育、健全な学生生活、の4つの要素であると述べています。そのポイントは、この4つの要素のうちどれも無視されてはならず、また一方で過度に支配的になってもいけない、と言っているところです。

すなわち、大学は世の中に新たな叡智を与えるような高度な研究をしなければならない。しかし研究をするだけなら単なる研究所になってしまう。社会を高尚なものとするためには幅広い教養教育が不可欠だ。しかし教養を授けるだけでは、ただ過去の学問を若者に伝える中等教育機関になってしまう。高度専門職の養成は大学の大切な機能だ。しかしすぐに役立つ専門技能を授けるだけでは、大学は教育ではなく訓練を提供する場となり、学問の進歩は物質的豊かさを追求するための手段に成り下がってしまう。そして若者の人間的成長を促すのに健全な学生生活はきわめて大切だが、関心が学生生活だけに向けられるようでは、大学はカントリークラブになってしまうだろう、とこのようにコナントは述べています。

社会の知的基盤としてのバランスのとれた総合大学の在り方を明快に示した内容で、小泉塾長は、「正に慶應義塾でもそうあろうとしていることだ」と言っています。これは現代の大学についても同じだと、昨年ハーバード大学を訪ねた際に歴史家でもある旧知のドリュー・ファウスト現総長とも頷き合ってきたところです。そして実はこれは、学問にかんする福澤先生のバランス感覚に合い通じるものでした。

福澤先生が、学問の重要性を繰り返し強調されているのは、皆さんもよくご承知のとおりです。しかし同時に学問に凝りすぎてはならないとも言っておられます。学問だけを唯一無二の重要事と考えて、他を顧みないのは困るということです。学問は大切だが、全てではないということです。

先生はまた『学問のすゝめ』などで、様々な学問分野について幅広く学ぶ、教養教育の大切さも強調しています。しかし同時に昔、偉い人の言ったことをただ覚えるような、江戸時代の儒教教養主義には批判的でした。『慶應義塾紀事』という書物の中で、慶應義塾の主義は「和漢の古学流」とは違い、「実学(サイヤンス)」つまりサイエンスを根拠とすると述べています。誰かの言ったことを鵜呑みにするのではなく、事物をよく見て自ら考えることを善しとするということです。

また学問によって良き職業人を育成することの意義も忘れていませんでした。ただしそれは、学問がすぐに仕事に役に立つという意味ではありません。大学で学問を修めて卒業した後は、学問をひけらかすのではなく、多くの人たちと実務に励む中で、学問を修めたことが、おのずとその仕事のありようを高尚なものにしていくよう、慶應義塾の卒業生に期待しています。

さらに先生は、当時の官立大学などが詰め込みの勉強を学生に強いて学生が不健康になっていることを批判し、当時としては珍しく塾生には積極的に運動すること、スポーツを奨励し、ただ机に向かって勉強するだけでなく、心身ともバランスのとれた健全な学生生活を送ることの重要性を指摘しておられます。しかし一方で、学生がスポーツばかりにかまけて勉学を怠たり、また身体の頑健なのを良いことに不摂生をしたりすることを、「言語道断なり」と戒めてもおられます。

慶應義塾大学のような総合大学にとって、学問研究、教養教育、高度専門職教育、健全な学生生活、の4つの要素はどれも大切です。もちろん、大学の在り方として、そのどれか一つに特化して特徴を出すというのも、それはそれで一つの選択であると思いますが、私たちはそうした道をとろうとは思いません。大学にとって大切なものをどれも捨てることなく、かつその良きバランスをとることこそ、福澤先生の建学理念の実現に繋がると考えているからです。

この4つの要素は互いに相乗効果を持っており、その全てを兼ね備えることの利点は計り知れません。何よりも、学問研究、教養教育、健全な学生生活は、これからの大きな変化の時代に、良き職業人となるための必須の能力である、「自分の頭で考える能力」を培うためにきわめて有用です。

解決すべき問題を見つけ、その問題を説明する論理を組み立て、その論理が正しいかどうかを確認し、正しければそれに基づいて問題を解決するという能力を身に付けるには、誰もまだ答えを見つけていない問題を研究課題とし、それについて仮説を立て、それを検証して結論を導くという学問・研究を実践することが何よりも大切です。それには教養教育で幅広く学問を学び、専門教育で奥深く研究をし、さらに課外活動などで日々の問題解決の経験をすることがどれほど有用であるかは明らかです。体育会部員にはいつも文武両道でと言っていますが、それは学問とスポーツの両立ということと同時に、スポーツもまた「学問」だという意味で、これは芸術、文化、学術系の課外活動についても同様です。

そして「健全な学生生活」ということは、慶應義塾においてとくに大切な意味を持っています。それは慶應義塾では建学以来「半学半教」の仕組み、つまり塾生はただ一方的にものを教わるのではなく、その持っている得意なことを他の塾生に教え、また他の塾生からも教えてもらい、互いに高め合うという伝統を大切にしているからです。新入生の皆さんはこれから、少人数の授業などでは教員も含めて互いに教え合い、触発し合うことも多いと思いますし、また課外活動では共通の目的に向かって塾生同士で共に悩み考えることもあるでしょう。良い学友と切磋琢磨することで自ら考える力を磨いてください。

皆さんはこれから慶應義塾大学において、幅広く学問を学び、奥深い研究に取り組み、また存分に課外活動を行うことによって、自分の頭で考える力を必ず高めていかれるものと信じています。あらためて新入生の入学をお祝いし、皆さんのこれからの大学生活が、実り多く、また楽しいものとなるよう祈念しまして、私の式辞と致します。さて本日新入生の中にはたくさんの留学生もおられますので、最後に短く英語による式辞も申し上げます。

皆さん本日はまことにおめでとうございました。

Since there are a number of international students joining Keio today, I would like to make some remarks in English very briefly. First of all, to all the new students, on behalf of Keio University, I would like to welcome you all and to extend my heartfelt congratulations. I would also like to offer my congratulations to your family and friends.

We are now living in a time of great changes, changes so great that the sustainability of our society itself is at stake. In such a time of great changes it is extremely important for you to possess the ability to think for yourself. Thinking for yourself is not thinking aimlessly but thinking systemically. This is nothing but the scientific way of thinking, namely to identify a problem that must be addressed, to construct a hypothesis that explains the problem, and to verify the hypothesis to reach a conclusion. And this is why our founder Yukichi Fukuzawa, or Fukuzawa-sensei, emphasized the importance of science in a time that was also marked by great changes through the end of the feudal Edo period and the modern Meiji period.

I am very confident that you will be able to obtain this ability through an extensive liberal arts education, deep research experience, and a lively student life here at Keio University.

Once again I congratulate you all and wish you a meaningful and enjoyable student life here at Keio University. Thank you all very much.

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