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2022/08/31
塾長室の窓から見える最高の光景、それは図書館の机で学問や読書に没頭する塾生たちの姿です。学期中は常に満席で、夏休みや春休みでも多くの塾生たちが学び続けています。塾生たちの学びの姿ほど当たり前のようで感動的なものはありません。人は学び続けなければならない、そう、「学問のすゝめ」です。
福澤諭吉と小幡篤次郎による「学問のすゝめ 初編」は、150年前の1872年(明治5年)に発刊されました。江戸時代に続いた封建制度が廃止され、生まれや身分による差はなくなり、人の価値は学ぶか学ばざるかのみによって決まることを説き、国民の尊厳と権利を尊重し、「一身独立して一国独立する」という、主権者である国民一人一人の学びに基づいて近代主権国家を作りあげ発展させようという福澤先生らの考えは、まさに民主主義の理想をうたったものであります。学問によって社会を発展させるという「学問のすゝめ」の理想が全国津々浦々の若者を鼓舞し、慶應義塾の門を叩く入塾希望者が続出しました。初編からスタートした「学問のすゝめ」は17編まで続き、それら17編を一冊にまとめた「学問のすゝめ」全編は、今でも現代語訳が刊行される時代を超えたベストセラーとなっています。
「学問のすゝめ」の素晴らしさは、自分の人生や環境の変化に応じた新しいアドバイスが、読み直すたびに魔法のように飛び出してくることです。様々な境遇におかれた人の心に響く多様な引き出しも用意されています。よって「学問のすゝめ」を定期的に再読することは、自らの目標や日々の努力具合をチェックするためのとても良い機会になります。そのような観点から、私も、現在の私という立場で「学問のすゝめ」を読み直し、それを50分にまとめた講演を第70回人間教育講座として5月に行いました(YouTube動画の03:00-53:00の部分をご覧ください)。量子コンピュータを専門とする物理学者の私が、「学問のすゝめ(原著)」を素直に読んだ要約ですので、解説や学問的な考察は一切行っていません。皆さんも、ぜひ、これを機会に「学問のすゝめ」を読み、自分なりの要約に取り組んでみてください。真っ白な気持ちで「学問のすゝめ」を読んだうえで専門家による考察や解説等を読むと、自分の受け止め方との類似点や異なる視点などがわかりとても興味深いものです。
さて、塾長室だよりNo.9「世界の研究・教育機関と対面交流を開始」で予告したとおり、7月初めにAssociation of Pacific Rim Universities(APRU: 環太平洋大学協会)の学長会議に参加するためにシンガポールを訪ねました。60の研究大学がメンバーで、カリフォルニア、バンクーバー、ハワイ、日本、香港、韓国、東南アジア、オーストラリア、ニュージーランドなどの大学からの学長、副学長、国際担当職員がナンヤン工科大学に集まりました。
今年の学長会議のテーマは“Reconnecting in a Sustainable World”であり、様々な学長が“Responses to Crisis in a Diverse Region, “ “Sustainability and Climate Change,” “Preventing the Next Pandemic,” “Reconnecting: The New Urgency for Collaboration”に関して各大学の立場から発表を行いました。
私の役目は慶應義塾長という立場で“Reconnecting in a Sustainable World”を議論することで、そのスピーチ内容を日本語に要約すると末に示すとおりです。そして「学問のすゝめ」をお読みの方は、私のスピーチが5編の次の部分に相当することにお気づきになると思います。
「国の文明は上(かみ)政府より起るべからず、下(しも)小民より生ずべからず、必ずその中間より興(おこ)りて衆庶の向かうところを示し、政府と並立(ならびたち)て始て成功を期すべきなり。西洋諸国の史類を案ずるに、商売工業の道、一として政府の創造せしものなし、その本(もと)はみな中等の地位にある学者の心匠(しんしょう)に成りしもののみ。蒸気機関は「ワット」の発明なり、鉄道は「ステフェンソン」の工夫なり、始て経済の定則を論じ、商売の法を一変したるは「アダムスミス」の功なり。この諸大家は所謂(いわゆる)「ミッヅルカラッス」(著者注:middle class)なる者にて、国の執政に非ず、亦(また)力役(りきえき)の小民に非ず、正(まさ)に国人の中等に位し、智力を以て一世を指揮したる者なり。その工夫発明、先(ま)ず一人の心に成れば、これを公(おおやけ)にして実地に施すには私立の社友を結び、益(ますます)その事を盛大にして、人民無量の幸福を万世に遺(のこ)すなり。(『福澤諭吉著作集』第3巻 「学問のすゝめ」5編より)」
そのような観点から、以下の私のスピーチをお読みいただけますと幸いです。
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