慶應義塾

高齢者ケア用のアプリ開発と計量経済学の研究をAI技術で推進

公開日:2026.06.04

登場者プロフィール

  • 王 思涵 Sihan Wang

    総合政策学部 2年

    王 思涵 Sihan Wang

    総合政策学部 2年

複数領域にまたがるテーマに関心

私がSFCを志望した理由は、ひとつの分野に絞らずに学べる場所だと知ったから。急速に変化する社会の複雑な問題を解決するには、多角的な視点と実践に根ざした「実践知」が必要であるという考え方にも強く共感しました。

高校時代にChatGPTが登場したときから、AIは若者だけでなく社会の全員に利益をもたらすべきだと感じていました。1年生で受講した國領二郎先生の「ネットワーク産業論」という授業をきっかけに、進化するAIの可能性をさまざまな研究に活かしたいと考えるようになりました。たとえばAIを活用した感情サポート、AIと人間のコミュニケーション、さらにはAIが社会や経済に与える影響といったテーマです。いずれも心理、コミュニケーション、社会制度、経済、テクノロジーといった多様な領域が交差するテーマなので、分野を越えてみずから学びを設計していく必要があります。

これまで力を入れてきた研究は、「高齢者社会におけるAI感情サポートシステムの応用」です。日本と中国で高齢者ケアの現場を調査し、AIによる感情サポートシステムがどのように活用され得るかを比較してきました。特に日本ではコミュニケーションロボットの導入が進んでいるため、職員へのヒアリングや利用状況の観察を通して効果と課題を検証しています。

介護施設を訪問した際に、「とりあえず話し手が欲しい」という高齢者が多いことを知りました。一部のリハビリテーション施設では、すでにAIロボットが導入されています。高齢者の孤独が進むと記憶力に影響し、うつ病にもなりやすくなります。ロボットは製造に多大なコストがかかるので、まずは自分でAIを利用したアプリを開発する計画です。そのためには心理、UX、倫理など多角的な学びを深めなければなりません。研究ではAIを単なる技術として捉えるのではなく、社会にどんな価値を生み出すのかという視点を重視しています。

王さん

計量経済学と因果推論でAIの効果を検証

現在2年生ですが、「学部・大学院修士4年一貫教育プログラム」での早期学位取得を目指しています。来年には学部の卒業プロジェクトを提出して、再来年は1年間で修士課程を修了します。博士課程は海外への留学を検討しています。

学部の卒業プロジェクトは、AI技術がさまざまな国や業界の生産効率に与えている影響について研究をまとめます。これは和田龍磨先生、中室牧子先生、佐藤豪竜先生の研究会でご指導をいただいてきた計量経済学の応用で、IPA(情報処理推進機構)の助成申請を検討中です。さまざまな公開情報を元に、AIを導入している企業と未導入の企業を生産効率の視点から比較します。製造業に限らず、全産業が対象となる大掛かりな調査です。

修士課程での目標は、AIを活用した感情サポート技術の社会的効果を科学的に検証するとともに、AIが経済や社会システムに与える影響を総合的に明らかにすること。利用者の心理的変化だけではなく、介護負担の軽減、生産性の向上、離職率の改善といった経済的側面からも効果を検証します。計量経済学や因果推論の手法を用いることで、その効果が定量的かつ実証的に評価できます。

王さん

自由で多様な研究環境だからできたこと

このような研究を進めてこられたのは、SFCが分野横断的に学べる環境だからです。学問領域の枠に縛られず、情報、デザイン、社会、国際、教育など複数の領域を自由に組み合わせて学び、研究に必要な知識を自分で統合できました。

また、学部生の段階から本格的な研究に挑戦できる仕組みも大きな利点です。研究助成金制度やプロジェクト型研究の機会が充実しており、外部調査や国際比較研究にも取り組むことができました。日本と中国でフィールド調査を実施したことで、研究の質と幅がぐっと豊かになりました。

先生との距離が近いのもSFCの特徴です。研究の初期段階から相談しやすく、自分のアイデアをすぐに検討して発展させていくことができます。周囲の学生も多様な背景を持っているので、日常的な議論から新しい視点が得られます。挑戦を後押ししてくれる環境があったからこそ、現在の研究にしっかりと向き合うことができています。

将来は国際的な研究環境で、AI技術、行動科学、計量経済学、公共政策などを組み合わせた研究を進め、AIの社会実装に関する新たな知見を創出したいと考えています。多様な研究者たちとの協働を通じて、AIの社会的価値を定量および定性の両面から深く理解し、世界に通用する研究者として成長するのが目標です。