慶應義塾

故郷の遊水地で、環境保護と防災の課題に取り組む

公開日:2026.06.04

登場者プロフィール

  • 中嶋 陽大 Hinata Nakajima

    環境情報学部 2年

    出身校:開智未来高校(埼玉県)

    中嶋 陽大 Hinata Nakajima

    環境情報学部 2年

    出身校:開智未来高校(埼玉県)

子供時代から慣れ親しんだ日本最大の遊水地

実家から徒歩5分の渡良瀬遊水地は、日本最大の遊水地です。防災を目的とした人工的な貯水池で、生物多様性が豊かな湿地帯に囲まれた環境です。小学4年生の頃にこの遊水地の水質調査に参加して、数値が思ったよりもよくないことにショックを受けました。それ以来、行政が主催するゴミ拾いや外来植物の除去に参加しながら環境問題への関心を育ててきました。

高校時代に環境保全活動で知り合った研究者の方が、「グリーンインフラ」や「Eco-DRR(生態系減災)」という考え方を教えてくれました。自分で学んでみようと、手に取った本が『生態系減災Eco-DRR』です。難しい本でしたが、読み進めるうちに渡良瀬遊水地がモデルケースになれると気づきました。環境、生態系、防災インフラ、地方創生、人間生活など、自分の学びたいさまざまな要素がグリーンインフラというキーワードに交差しています。この本の編集・執筆を担当された一ノ瀬友博先生がSFCの環境情報学部長だということを知り、SFCを目指しました。

入学式が終わった直後に、一ノ瀬研究会に入会を申し込みました。1年生の春学期から所属できたおかげで、入学後すぐに研究会の活動に参加できました。授業でも環境や生態系などに関連する授業を多めに選択し、具体的な課題を設定して主体的に研究を進める土台を築くことができました。

研究会では、先輩や同期の仲間にも恵まれています。関心分野が異なる同期たちは、互いの苦手な分野を補いながら高めあう存在。鳥や哺乳類に詳しい仲間とフィールドワークに行って、渡良瀬遊水地に生息する生き物についても詳しくなりました。意欲にあふれる人々に囲まれ、自分の好きな研究に没頭できる環境はSFCならではの魅力だと感じています。

中嶋さん

グリーンインフラの価値を発信

渡良瀬遊水地は首都圏の防災に大きく貢献していますが、近年の気候変動による災害の激甚化にあわせて遊水地の拡張工事が進められてきました。その掘削工事によって、希少な動植物の生息地が失われる懸念も指摘されています。私の研究のテーマは、渡良瀬遊水地における治水機能と生物多様性保全が両立できるような掘削計画を提案すること。具体的な研究活動としては、植生調査やドローンによる環境リモートセンシングなどを活用しながら周辺環境のデータを取り、掘削の方法や掘削地の管理方法を評価しています。

たとえば人工的な緑地は、管理が放棄されると特定の種だけが増えて生物の競争が起こらなくなってしまいます。人間が手を入れた自然環境は、人間が責任を持って健全な生態系を作っていくことが、インフラを生態系としてとらえるグリーンインフラの考え方につながっています。

高度経済成長期に造成されたダムや堤防などのグレーインフラは、想定内の規模の災害なら防ぐことができます。一方のグリーンインフラは、あえて一定範囲内に水害を発生させることで植物などの生態系に水を吸収させるアプローチです。気候変動による想定以上の災害に対応するため、グリーンインフラとグレーインフラの利点を合わせた「ハイブリッドインフラ」という考え方にも注目しています。

渡良瀬遊水地は、グリーンな湿地帯部分がグレーなダム部分を囲んだ構造です。ハイブリッドインフラとしての防災機能を極大化できれば、他の遊水地にも応用して日本全体の防災力を上げられるかもしれません。水源涵養機能や復元力を活かした新たな防災の形を模索するには、グリーンインフラの有効性を定量化し、地域住民との合意形成を図っていく必要があります。

中嶋さん

分野を超えた研究の輪が拡大

SFCには150以上の研究会があって、そこを起点にして自分だけの専門領域を極められます。学部生時代から起業したり、論文を発表したりする人もたくさんいますが、そんな優秀な人たちと自分を比べてしまう「SFC病」を防ぐには、自分の好きな分野に自信を持って取り組むことが大切。それをできる人こそが、SFCの素晴らしい環境を誰よりも有効に活用できると思います。

行動を起こせば誰かが賛同してくれて、自分に足りない知識やスキルを補ってくれます。研究室では優秀な同期たちと出会い、先輩方から研究の基本を学び、先生方からたくさんのチャンスをいただけます。総合政策学部と環境情報学部で学部が分かれていても、関心分野が重なれば誰とでも交流できるのがSFCの良いところです。

動物の生態調査でカメラトラップを実施する時、情報系に強い中澤仁研究会の友人が、深層学習のアルゴリズムを利用した新しく興味深いシステムを開発してくれました。今では通りかかった動物を自動撮影し、機械学習を活用することで哺乳類の種類を推測できるようにもなりました。これも分野を超えたSFCらしい課題解決の一例です。

卒業後は研究を通して得た知識や技術を活用し、災害に強く自然豊かな地域社会の構築に貢献したいと考えています。高度な専門性が必要な分野なので、修士課程への進学も視野に入れています。