慶應義塾

どこから見るのか|総合政策学部長 加茂 具樹

公開日:2026.09.10

例年、総合政策学部と環境情報学部は慶應大阪シティキャンパスで学部説明会を行っている。今年は、大阪に加えて福岡で実施した。東京圏以外の、より多くの方に、総合政策学部と環境情報学部の魅力を直接伝えたいからだ。説明会には、当初想定した人数を上回る高校生、保護者、高等学校関係者に来場していただいた。実施にあたっては、福岡三田会の熱く、篤い支援をいただいた。改めて感謝申し上げたい。

福岡で、私はあらためて考えたことがある。

世界は、どこから見るかで違って見える。地域研究と国際政治を専門とする私にとって、それは仕事として日々確かめてきたことでもある。それを最初に強く実感したのは、香港での勤務だった。

かつて私は、二度、香港で勤務したことがある。いずれの勤務でも、毎日の仕事は、現地紙を読むことからはじまった。香港社会は中国のどのような動向に関心があるのか。そこに新しい事実が報じられているのか。なぜ、この記事がこのタイミングで報じられるのか。関連する記事の論点は、時間の経過とともに、なぜ、このように推移するのか。そんなことを毎日考えながら、新聞が語る中国動向を読み込んでいた。

この時、どうしても比較の視点が必要になる。北京や上海、広州、深圳の各地の報道との比較。台北紙との比較。華字紙と英字紙との比較。もちろん邦字紙との比較も大切だ。もうひとつ、シンガポール紙との比較は興味深かった。

シンガポール紙から見える中国は、香港紙から見える中国とは異なる。北京紙から見える東南アジアと、香港紙から見える東南アジアが異なるように、シンガポール紙が語る東南アジアは、香港紙のそれと異なる。もっとも顕著な違いは、シンガポールの西側、つまりインドや中東に関する報道量だった。シンガポールの地理的位置を考えれば、当然だろう。こうして私は、香港での勤務をつうじて、中国の、そして世界の見え方は地域ごとに違うということを身をもって知った。

国際社会を、国や地域、国際機構がそれぞれの秩序観を掲げてせめぎ合う場と捉えるなら、互いをどう見ているか、どこで見誤っているかが、国際政治を動かしている。世界地図のかたちは、立つ場所ごとに違う。

日本が世界と関わり、平和と繁栄を保っていくためには、国際的センス――相手がどんな世界地図を持っているかを想像する力――が欠かせない。世界の見え方がかくも違うのだとすれば、学生には、大学で学ぶあいだに、その力を養い、自分がどこから世界を見ているのかを実感してほしい。

この夏に訪れた福岡は、中国研究者が頭の中に描いている世界地図で見ると、とても興味深い位置にある。福岡からの直線距離を測ると、東京も上海も、ともに約880キロである。大阪まで、ソウルまでがそれぞれおよそ500キロ。台北までは1280キロ、北京までは1400キロである。東京から見れば、福岡は遠い西の街である。しかし福岡から見れば、東京も上海も同じ遠さにある。福岡や九州で育った学生は、東京で育った学生とは、また違う世界地図を頭の中に描いているのではないだろうか。

違う地図を持った学生が同じ教室に集まり、互いの地図を見せ合う。大学はそのための場所である。私たちが福岡を訪問したのも、日本各地から学生を迎えたいと願うのも、そのためである。