慶應義塾

公衆衛生×スポーツ健康科学が織りなす「健康の未来」——現場から社会実装へ|健康マネジメント研究科 公衆衛生・スポーツ健康科学専攻長 小熊 祐子

公開日:2026.08.26

みなさん、こんにちは。健康マネジメント研究科 公衆衛生・スポーツ健康科学専攻長の小熊(おぐま)です。本務は日吉キャンパスにあるスポーツ医学研究センターにおります。

私はもともと内科(内分泌代謝内科)の医師として、生活習慣病や更にその先の患者さんの治療にあたってきました。しかし、病気になってから治す医療の限界を痛感し、「いかに人々が病気にならず、健やかに暮らせるか」という予防やヘルスプロモーションの世界へ足を踏み入れました。その後、ハーバード公衆衛生大学院(当時)でMPH(公衆衛生学修士)を取得し、現在は運動疫学やヘルスプロモーションといった分野で研究と教育、そして社会実装を行っています(医師も継続しております)。

「健マネ」という稀有な知的プラットフォーム

私が公衆衛生・スポーツ健康科学専攻の専攻長を務める健康マネジメント研究科(健マネ)は、一言で言えば「健康」を多角的な視点から科学し、社会へ実装するための非常にユニークな大学院です。

公衆衛生学とスポーツ健康科学という2つのプログラムが同じ専攻内に同居していること自体、世界的にも珍しい取り組みです。体を動かすことのメカニズムや効果を科学する「スポーツ健康科学」と、それを集団や社会全体に広げてみんなの健康につなげる「公衆衛生学」。この2つが組み合わさることで、理論と実践の強固な掛け算が生まれます。

さらに、同専攻内には病院運営や医療制度を体系的に学ぶ「医療マネジメント」のプログラムがあり、隣接する「看護学専攻」とも密接に連携しています。医学、運動科学、公衆衛生、経営・行政、そして看護——。個人の体から病院、そして地域社会全体に至るまで、健康にまつわるあらゆる課題にワンストップで挑める環境がここには揃っています。

理論をまちへ連れ出す:「ふじさわプラス・テン」の試み

こうした健マネの強みが発揮された象徴的なプロジェクトの一つが、地元・藤沢市と連携して取り組んできた「ふじさわプラス・テン」です。

厚生労働省が発出した「健康づくりのための身体活動基準2013」をもとに、「今より10分多く体を動かそう(+10: プラス・テン)」というメッセージを地域住民に届け、行動を変えていく、この取り組み。単に「運動しましょう」と呼びかけるだけでは人は動きません。どの程度の身体活動量がどのような健康効果をもたらすかという科学的根拠(エビデンス)の提示と、疫学的な効果検証。行政や地域の医療機関、運動施設、保健師、市民ボランティアと手を取り合い、持続可能な社会システムとして地域に根づかせる実装力。大学の研究室で生まれたエビデンスが、藤沢市のまちかどや市民の日常に溶け込んでいく。まさに、健マネが持つ多彩な専門性が融合したからこそ実現した、「官学地域連携」のモデルケースだと感じています。

おわりに

そして2026年。現在、健康マネジメント研究科を中心としたチームで、新しいコホート研究 川崎みらいアクティブ・プロジェクト(K-MAP)の立ち上げに奔走しています。10年後どんな姿になっているでしょうか。

健康を創るということは、単に病気を予防することにとどまりません。人々が活き活きと自分らしい人生を送り、持続可能な社会を築くための基盤そのものです。

公衆衛生、スポーツ健康科学、医療マネジメント、そして看護。異なるバックグラウンドを持つ研究者や学生たちが熱く議論を交わし、現場へと飛び出していく健マネの挑戦は、これからも続いていきます。