先日、表紙に大きな文字で「もの忘れ検診のお知らせ」と書かれた郵便物が届いた。差出人は、居住地自治体*の「高齢福祉課 認知症施策担当」である。
普段はそれほど疑い深い性格ではないと思うのだが、まず、配達先の間違いではないかと疑った。確かに、原稿の締め切り日や会議の開始時刻をうっかり失念しそうになることはある。しかし、自分ではまだ高齢者になったという認識はなく、認知症についても、自分自身の問題として考えたことはなかった。
ひとまず机の上に置いたものの、改めて宛名を見ると、そこには確かに自分の名前が記されている。内心、「宛先に間違いがなければどうしよう」と思いながら恐る恐る中身を確認すると、残念ながら(?)間違いではなかった。
大学に勤務していると、日常的に若い世代の学生と接する。そのせいか、自分自身も、どこか学生時代から時間が止まったような錯覚に陥ることがある。しかし、現実はそうではない。気がつけば、大学院を修了してからすでに四半世紀が過ぎている。
「そうか。自分自身の健康管理の一環として、認知症についても意識しなければならない年齢になったのか」と、少し不思議な感慨に包まれた。
届いた資料を読み進めると、体の健康と同じように、脳の健康についても考えてほしいとのことだった。そしてそれは、高齢になってからではなく、働き盛りの世代から意識することが大切だという。
また、同封のパンフレットには、認知症のリスク要因に関して、難聴、高血圧、肥満、運動不足、糖尿病、過剰なアルコール摂取、喫煙など、14項目が挙げられていた。幸い、現在のところいずれも該当していない。もっとも、最初の「難聴」について言えば、自分にとって都合の良いことは聞こえ、都合の悪いことは聞こえない、と指摘されそうではあるのだが!
ところで、二週間ほど前のことである。アメリカの知人から、肝臓がんの手術を受けることになったと知らされた。放射線療法によって腫瘍が縮小し、手術可能な大きさになったという。
その知人によれば、「アメリカでは、日本ほど定期的な健康診断が浸透しているわけではなく、病気が見つかった時にはすでに進行していることも少なくない」とのことだった。
疾患や機能低下は、臓器に関するものであれ、脳に関するものであれ、早期発見・早期対応が重要であることは言うまでもない。知人からの知らせによって、健診・検診という、自分の健康状態を確認する機会が、いかに貴重であるかを改めて認識した。私がそうであったように、とりわけ脳の健康については、50代になっても、自分自身の問題として捉えていない人は少なくないだろう。
同封のパンフレットによれば、「認知症のリスク因子となる習慣や行動を変えることで、認知症の発症の約45%を予防・遅延できる可能性があると言われている」とのことである。これほど大きな予防・遅延効果が期待できるのであれば、取り組まない手はない。
職業柄、対象年齢の設定根拠や検診の有効性、費用対効果など、知りたいことは尽きない。しかし、細かいことは気にせずに、せっかくの機会なので、私自身も、この「もの忘れ検診」を受けてみようと思う。
予約を忘れないようにしなければと思い、この原稿を書いているモニターに、「もの忘れ検診の予約」と記したメモ用紙を貼り付けた。──もっとも、そのメモの存在自体を忘れてしまう可能性があるのだが(実はこれまでもあった!)。どうやら、私の脳のチェックは、検診の日を待たず、もう始まっているようだ。
(*東京都文京区)