新入生が、新しい季節を連れてきてくれます。総合政策学部は、この四月に三百九十四名(第二学年編入による入学者二名を含む)の新入生を迎えました。四月の新入生はみずみずしい緑を、九月の新入生はあざやかな黄色をキャンパスに運んできてくれます。そうしてSFCは、ぱっと華やぎます。SFCは、そうした新しい出会いのなかで、自らの未来を構想し、それをつかみ取るための学びを育んできた場所でもあります。いまキャンパスは、こんな緑です。
総合政策学部は、この三十六年の間、SFCで未来を切り拓くための政策とは何かを考え、それを社会のなかで生かしていくための学問を追究してきました。私たちは、政策を「人間が何らかの行動をするために選択し、決断すること」(加藤寛初代学部長)と捉え、そして「人間の行動が社会であり、その社会を分析する科学は、総合的判断に立脚しなければ成り立たない」(同)と考えています。総合政策学は、そのような理解を出発点としてきました。
本学部が開設されたのは、一九九〇年です。ベルリンの壁が崩壊し、東西冷戦が終わろうとしていたころ、世界は大きく動いていました。人びとは、時代が変わっていくことを肌で感じていたと思います。それは希望に満ちた時代であると同時に、先の見えない不安を抱えた時代でもありました。これまでと同じ未来を、そのまま思い描くことが難しくなっていたのです
いま私たちもまた、大きな変化の時代を生きています。これまで当然だと思ってきた価値や利益は揺らぎ、社会を支えてきた規範や制度、いわば「ゲームのルール」そのものが問い直されています。たとえば、情報通信技術が発達すれば自由民主主義はさらに深まる、と期待された時代がありました。しかし現実には、そうした技術が権威主義を強める方向にも働いています。グローバリゼーションや経済的な相互依存が、平和と繁栄を支えるはずだという考え方も、いま厳しい現実に直面しています。現在の国際社会において、国際協調をとなえれば平和を達成できる、というシナリオは、もはや自明のものではなくなりました。
こうした変化は、抽象的な理念の問題にとどまりません。私たちが生きるこの東アジアの現実にも、はっきりと現れています。
そしていま、日本を取り巻く戦略的環境は、きわめて大きな変化のただなかにあります。二百年ほどの長い時間幅で眺めれば、かつて極東において支配的地位を失った中国が、急速な経済発展を背景に再び国力を回復し、地域秩序の変化を牽引する存在となっています。今日の中国は、もはや恣意的なイメージをもてあそんで安閑としていることの許されない巨大な対象です。私の研究室で中国政治外交を学ぶ学生たちもまた、そうした中国を理解しようと日々学んでいます。
新入生の必修科目である「総合政策学」では、「三十年後を見据えて、あなたたちはSFCで何を学ぶのか」を考えてもらっています。新入生にとって、三十年後の世界を想像するのは簡単なことではないでしょう。もちろん、正解がある問いではありません。けれども、未来はただあたえられるものではありません。自ら思い描き、選び取り、つくっていくものです。自分なりに未来を思い描き、その未来をともにつくっていく仲間と出会うことは、SFCで学ぶ大きな意味の一つだと思います。
思い返せば、私も三十数年前に総合政策学部に入学し、ともに未来を切り拓こうとする仲間と出会いました。私にとってSFCの学びの魅力は、既存の学部や専門の枠にとらわれず、自分の関心にしたがって自由に学びを組み立てていけるところにありました。もっとも、その学びは一人だけで完結するものではありません。ともに考え、刺激し合う仲間の存在が欠かせません。新入生のみなさんにも、このSFCでそうした仲間と出会い、自分自身の未来を切り拓いていってほしいと思います。