理化学研究所(理研)放射光科学総合研究センター生命系放射光利用システム開発ユニットの小林周研修生(慶應義塾大学理工学研究科博士課程3年)、中迫雅由客員主管研究員(慶應義塾大学理工学部物理学科教授)、山本雅貴ユニットリーダーらの研究チームは、X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」で得られる集光ミラーで強度増強されたXFELパルスの波面のそろい具合(空間コヒーレンス)を30Hz(1秒に30回)のパルスごとに正しく評価する理論および測定方法を考案し、確立しました。
SACLAでは、波面がそろった大強度X線パルスを発生させることができます。X線を散乱する能力が乏しい試料の回折実験など、特に強いXFELパルスが必要な場合は、集光ミラーを用いてビームサイズを小さく絞り、さらに強度を高めます。これまで、集光ミラーの位置を適切に調整すれば、XFELパルスの波面も試料位置でそろうと考えられてきました。ところが2014年、ドイツとSACLAの共同研究グループが、XFELパルスの空間コヒーレンスを表すパラメータを測定したところ、完全に波面がそろっているときを1.0とすると、SACLAでは0.7程度しかないと発表しました。
今回、研究チームは、先行研究で提案された解析方法に大きな問題があることを発見しました。そこで、正しく空間コヒーレンスを見積もる理論を構築するために、2007年に発表の検出器画素に記録されることで強弱差が小さくなった回折パターンから本来の回折パターンを回復させる物理数学の理論に、2014年に中迫雅由客員主管研究員らが開発した暗視野位相回復法の理論を援用することにしました。これらを用いて、データ解析理論を再構築し、実用化のためのプログラムコードを作成して解析を行ったところ、集光ミラーで加工しても、空間コヒーレンスがほぼ完全な集光XFELパルスが得られていることを確認しました。さらに、XFELパルスごとに試料の回折に寄与しうるビームの大きさや、周囲にもたらす放射線損傷領域を見積もることができました。
本成果により、集光XFELパルスの空間コヒーレンスを確認する方法が理論的にも、技術的にも確立されたため、他のXFEL施設においても、この手法が広く利用されると期待できます。
本研究は、英国のオンライン科学雑誌『Scientific Reports』(1月16日付け)に掲載されました。
※研究チーム
理化学研究所 放射光科学総合研究センター 利用システム開発研究部門
ビームライン基盤研究部 生命系放射光利用システム開発ユニット
研修生 小林 周(こばやし あまね)
(慶應義塾大学大学院 理工学研究科博士課程3年)
研修生(研究当時) 関口 優希(せきぐち ゆうき)
客員研究員 苙口 友隆(おろぐち ともたか)
(慶應義塾大学 理工学部 物理学科 専任講師)
ユニットリーダー 山本 雅貴(やまもと まさき)
客員主管研究員 中迫 雅由(なかさこ まさよし)
(慶應義塾大学 理工学部 物理学科 教授)
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