慶應義塾大学三田キャンパスにあるアート・センターでは、土方巽や瀧口修造をはじめとするアーカイヴを所管しており、アーカイヴ資料の研究成果を発表する展覧会や、現代美術の展覧会などを年に3-4回開催しています。
現在アート・センターでは12月16日(金)までの日程で、「アート・アーカイヴ資料展XXIII 槇文彦と慶應義塾II:建築のあいだをデザインする」展を開催中です。この展覧会では、世界的に有名な建築家である槇文彦による湘南藤沢キャンパス(SFC)の建築群をテーマにしています。慶應義塾や東京大学で学んだのちにアメリカへ渡った槇は、建築群をどのようにデザインするかについて考察を重ねてきました。複数の建築物が関係することで構成される全体を槇は「集合体」と呼んでいますが、それは都市論とも共鳴し、人間の生きる環境を考える姿勢でもありました。
SFCはそうした槇の思想を反映し、類似性を持った建築物が緩やかにつながることで全体を有機的に構成する「群造形」という構成原理のもと、整然と並んだ建築群が丘の上に現れました。ここでは情報分野で最先端の教育を施すためのキャンパスを求めた慶應義塾側の要請を踏まえながら、集合体としての性質が与えられています。
展覧会では「群造形」「視線と風景」「オープンスペース」「都市と田園」という4つのキーワードを設定してSFCに込められた槇の思想を紐解いています。今回の展覧会ではタイトルにあるように、それぞれの建築物というよりも建築と建築が関係することで生み出される空間が、実は最初から槇によって決定していたことを紹介しています。つまり槇は建築物の「あいだ」にどのような空間を設けたいか、ということを最初に考え、その空間に相応しい建築を作っていく、という手順で建築群を構成していったのです。そうしてSFCに散りばめられた大小様々な空間は機能においても多様性があり、学生の多岐にわたる活動や振る舞いを許容する、弾力性のあるキャンパスの基盤となっています。
また三田や日吉と同じくSFCも「丘の上」にあるキャンパスで、槇文彦はその意味でもSFCに慶應義塾のキャンパスとしてのアイデンティティを見出しています。実際にSFCに特徴的なループ道路の内側における建物とオープンスペースのスケール感は、三田キャンパスのそれに合わせられているのです。慶應義塾のキャンパス系譜の継承というソフト面だけでなく、学生にとって心地よく学問に集中できるキャンパスというハード面においても、槇の中では三田キャンパスが念頭にあったということは、非常に興味深い事実です。
展覧会ではキーワードを解説したパネルのほか、SFCに無数にある建築の「あいだ」を撮影した写真、またそうした空間に面した建築物や敷地、緑化計画の図面が展示されています。また実際の空間を感じてもらえるように、SFCを歩いて撮影した動画も見ることができます。ぜひ展示室でSFCの空間を感じてみてください。