慶應義塾大学は、春学期、新型コロナウイルス感染症が拡大する状況を踏まえて、授業は原則オンラインによって実施し、政府の緊急事態宣言を受け、大学キャンパスも閉鎖して、塾生、教職員、関係者の健康と安全を第一にさまざまな対策を講じてきました。この間、塾生の皆さんが制約の多い不自由な状況の中で、大きな不安を抱えながらも学問を続ける努力をされてきたことに心から敬意を表します。
現在、秋学期開始に向けて、学部・研究科を中心に教職員が一体となって、皆さんが安心して学問に打ち込める環境を整えるために準備を進めています。春学期の経験から、オンライン型にも反復学習や同時双方向の議論など一定の効果があることが確かめられましたが、教員や仲間とのふれ合いは人格形成の上で重要な要素であり、教室、図書館、体育館、グラウンドなどキャンパスでの多様な学びは、正課と課外を両輪として人格の陶冶を重んじる慶應義塾の教育の根幹です。
しかしながら、新型コロナウイルス感染症については、依然として先行き不透明な状況が続いています。そこで秋学期は、オンライン授業を継続しながらも、一部の授業をオンキャンパス(対面)で実施する予定です。オンキャンパス(対面)授業の実施にあたっては、新型コロナウイルス感染防止のために必要な対策を講じます。また、すでに一部はじまっているキャンパスへの立ち入り、施設の利用再開についても、安全対策を徹底した上で、段階的に進めてゆくこととします。
この夏は、新型コロナウイルス感染症に加えて、猛暑や、豪雨による災害など何かと不穏な日々が続いています。塾生の皆さんが、夏休みが明けて大学生活に戻るために、気持ちを奮い起こすことは簡単ではないかもしれません。しかし、どうかこの歴史と伝統のある慶應義塾大学で学ぼうと決意した初心を思い出してください。この制約の多い困難な状況の中で、学生生活を続けてゆくためには強い意志の力が必要です。慶應義塾も、すべての塾生が一人も取り残されることなく、学問に芸術にスポーツに積極的に取り組むことができるようあらゆる支援策を講じる決意です。
最後に、新型コロナウイルス感染症に関わる社会状況は春学期の頃とは変わっていますが、依然として感染しない、させないという心構えが重要であり、感染防止には個々の市民の自覚と良識ある主体的な行動が必要です。誤った情報に惑わされることなく、事態の本質を見極め、適切に行動してください。
慶應義塾の創立者である福澤諭吉は、封建制の名残で人々が事に当たって、上からの指示を待ち、命令に従順であることを憂い、学問を修め、世の中の流行に惑わされず、主体的に行動できる独立自尊の精神を持った市民の育成をめざしました。他者の指示や命令を待つのではなく、自ら考え自らの責任で行動できる市民の存在は、一国の成熟度を測る物差しでもあります。
慶應義塾は1858(安政5)年の創立以来、理念を共有する有志の協力による民間私立の学塾として、戦乱や災害などによる幾多の混乱と経営危機を乗り越え、日本を代表する総合大学に発展してきました。危機のたびに義塾を支えてきたのは塾生(学生)、塾員(卒業生)、教職員からなる社中協力の力です。このコロナ禍の中でも、塾生の経済支援や、大学病院の医療支援のために評議員会や連合三田会を中心に多くの塾員が立ち上がり、募金活動を展開してくださいました。
慶應義塾の塾生は、単に学生であるにとどまらず、慶應義塾社中の一員です。一緒に力を合わせてこの危機を乗り越え、慶應義塾の独立自尊の精神と自由で大らかな学問の伝統を守っていきましょう。
秋学期にはキャンパスに皆さんの元気な姿を見られることを楽しみにしています。