慶應義塾

1: 亜急性期脊髄損傷に対するiPS細胞由来神経前駆細胞移植 ―世界初の臨床研究で長期安全性を支持―

今月のサイエンス - 2026年09月

1: 亜急性期脊髄損傷に対するiPS細胞由来神経前駆細胞移植 ―世界初の臨床研究で長期安全性を支持―

Keiko Sugai, Osahiko Tsuji, Kanehiro Fujiyoshi, Masahiro Ozaki, Takayuki Abe, Tsuneo Kohzuki, Hiroki Okawara, Tomonori Sawada, Miho Sumida, Ema Yoshioka, Tomoko Shofuda, Shioko Kawashima, Ryo Yamaguchi, Munehisa Shinozaki, Naoko Takasu, Narihito Nagoshi, Toshiki Okubo, Jun Kohyama, Takeshi Maeda, Yoshiyuki Yato, Yonehiro Kanemura, Shinya Yamanaka, Masaya Nakamura & Hideyuki Okano

左から、菅井桂子(筆頭著者)、辻収彦(筆頭著者)、中村雅也(責任著者)、岡野栄之(責任著者)

本成果は、医学部整形外科学教室の菅井桂子、辻収彦を筆頭著者とし、中村雅也教授(整形外科)、岡野栄之教授(再生医療リサーチセンター)を責任著者として、2026年7月にNature Medicineに掲載されました。脊髄損傷では、損傷した神経回路を再生させる治療法は未だ確立されていません。今回、亜急性期の重度脊髄損傷患者4例を対象に、ヒトiPS細胞由来神経前駆細胞(iPSC-NS/PC)を損傷脊髄へ移植する世界初の臨床研究を、慶應義塾大学病院と村山医療センターが連携して実施しました。神経前駆細胞は、神経細胞やグリア細胞へ分化する能力をもちます。安全性を主要評価項目とし、4例を2~4年間追跡した結果、移植細胞による腫瘍形成や重篤な有害事象は認められず、長期的な安全性が支持されました。探索的評価では、移植後52週までの運動機能の改善幅および脊髄損傷重症度の改善割合は、総合せき損センターのデータベース(前田、坂井、出田ら)から抽出したヒストリカルコントロールを上回りました。ただし、本研究は4例の単群試験であり、有効性については今後の追加検証が必要です。本成果は、iPS細胞を用いた脊髄再生医療の実用化に向けた一歩と考えられます。

(整形外科学教室 菅井桂子)

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2: 新たな小腸癌遺伝子COPAを発見

Masayuki Fujii, Naoko Abeto, Shotaro Kishimoto, Kouya Shiraishi, Taiki Hashimoto, Nobuyoshi Hiraoka, Satoru Nonaka, Motohiro Kojima, Mami Matano, Sirirat Takahashi, Gabriele Colozza, Bon-Kyoung Koo, Yasushi Yatabe, Motohiko Kato, Toshiro Sato & Shigeki Sekine

左から、藤井正幸(筆頭著者)、佐藤俊朗(責任著者)、関根茂樹(責任著者)、猜都尚子(筆頭著者)、加藤元彦(共著者)

大腸癌の主な発癌経路として、前駆病変である管状腺腫から癌に至るいわゆるadenoma-carcinoma sequenceがよく知られています。小腸癌も同様の経路を介して発生すると考えられていますが、大多数の小腸腺腫に認められるAPC遺伝子変異の頻度は小腸癌では30%以下にとどまり、APC変異腺腫以外の前駆病変から発癌するケースが少なからず存在することが示唆されます。本研究では、APC変異腺腫の典型的な平坦形態とは異なり、一部の小腸腺腫は明確な隆起型肉眼形態を呈すること、そしてこの隆起型小腸腺腫の約半数にCOPA遺伝子変異が認められることを発見しました。COPAタンパクはゴルジ体―小胞体間の逆行性小胞を被覆するコートマーの一部を構成しており、がんとの関係を指摘されたことはほとんどありません。患者由来オルガノイドおよび遺伝子編集オルガノイドを用いた検証により、COPA変異によってWntシグナルの活性化に必須であるR-spondinという増殖因子がなくても発育可能になることが判明しました。これまでCOPAとWnt経路の関連は報告されておらず、COPA遺伝子変異はAPC変異とは異なるメカニズムでWnt経路を活性化する新しいがんドライバーといえます。本研究成果は、肉眼系や遺伝子変異に基づいた小腸腫瘍の新たな類型化や診断、また小胞体輸送によるWntシグナル制御の理解につながることが期待されます。最後に、本研究は病理学、内視鏡診断、およびオルガノイド技術が三位一体となって初めて成し得たものであり、本学の横断的連携の強さが大いに発揮された成果であるといえるでしょう。

(医化学教室 佐藤俊朗、藤井正幸)

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その他の掲載論文

1)Timing of Recombinant Herpes Zoster Virus Vaccination Administration and JAK Inhibitor Initiation in Rheumatoid Arthritis: A Multicenter, Open-Label, Randomized Comparative Study.

Annals of Internal Medicine.    

2026 Jul 21. doi: 10.7326/ANNALS-25-05493.

Satoshi Takanashi, Koichiro Ohmura, Shuji Sumitomo, Hideki Oka, Kenta Misaki, Atsushi Ihata, Toshihiro Matsui, Shigeto Tohma, Jun Saegusa, Yuichiro Ota, Tsukasa Matsubara, Kunihiro Yamaoka, Koichi Amano, Yasuko Mori, Mitsuhiro Nishimura, Hanako Ishimaru, Hironari Hanaoka, Jun Kikuchi, Yasushi Kondo, Masaru Takeshita, Yuko Kaneko

2)Identification of a shared antigen linking CD4+ T and B cell pathology in Sjögren’s disease

Masaru Takeshita, Jun Inamo, Seiki Wakui, Ryosuke Nagashima, Takahiro Nishino, Kazuyuki Tsunoda, Satoshi Usuda, Hajime Inokuchi, Kazuyoshi Ishigaki, Takashi Sasaki, Yuki Kagoya, Katsuya Suzuki, Yuko Kaneko