慶應義塾

看護の「原点」から未来へ──看護医療学部25年の歩み

1918(大正7)年、初代医学部長だった北里柴三郎が医学科に「附属看護婦養成所」を開設して以来、慶應義塾の看護教育はすでに100年余の歴史を刻んできた。その系譜を継ぎ、21世紀の開幕とともに誕生した「看護医療学部」が今年で開設25周年を迎える。「人間尊重」を基盤に、時代とともに歩みながら日本の看護教育を牽引してきた「慶應看護」。脈々と受け継がれてきたその伝統と学部開設からの25年の挑戦を、未来への展望とともにひもといていく。

100年を超える歴史が紡ぐ看護教育の「原点」

慶應義塾における看護教育は、1918年の「医学科附属看護婦養成所」開設がその出発点となる。この養成所は初代医学部長・北里柴三郎が「病院の良否を左右するものの一つは、看護婦である」、すなわち医療の質を支える看護の重要性を深く認識し、自ら看護教育機関の設置を主導したことに端を発する。以来、戦中戦後の社会的変革期を経て、医学部附属厚生女子学院や慶應義塾看護短期大学へと組織と名称を変えながらも、その教育の根底にある精神は一貫して受け継がれてきた。

1925(大正14)年第5期学生の肖像

この一世紀以上の歩みをたどると、知識と実践を往復しながら問題を把握し、自ら考え行動する力を育成する教育姿勢が繰り返し打ち出されてきたことがわかる。また、看護の対象たる一人一人の人間に真摯に向き合う視点が、一貫した理念として脈々と継承されてきた。こうした志向は、慶應義塾における看護の原点であると同時に、現代の看護教育の礎でもある。

1947(昭和22)年春、空襲による大学病院焼け跡

21世紀を迎えて看護医療学部の誕生

2001(平成13)年、慶應義塾大学は9番目の学部として4年制の看護医療学部を湘南藤沢キャンパス(SFC)に開設した※。

※3年次、4年次の一部は信濃町キャンパスで学ぶ

湘南藤沢キャンパス看護医療学部校舎

看護学とは人々の「Life」──生命・生活・人生そのものを扱い、その人らしい人生を支えることを目指す実践の科学である。疾病の理解や治癒だけにとどまらず、心身の苦痛の軽減や生活の質(QOL)向上を目指す実践知を重視する。また、健康と暮らしを支える社会的仕組みにも目を向け、個人の健康と社会全体の福祉とを結びつける視野の広さを有する学問である。こうした看護学の射程の広さが、看護医療学部の教育・研究の根幹となっている。

看護医療学部はこの看護学の視点を継承しつつ、開設以来四半世紀にわたって時代の要請に応える教育体系を構築してきた。人々のQOLを支える看護の在り方を、理論(学問)と実践の双方から探究する教育が展開されていることが大きな特色と言える。

学際的連携が育む独自の看護医療教育

開設以来、看護医療学部では社会の要請に応じて進化を続けている。その一つが医療全体を視野に入れた学際的連携教育の推進だ。具体的には医学部・薬学部・看護医療学部の医療系3学部の学生が共に学ぶ「医療系三学部合同教育」を実施。将来の医療現場で不可欠な職種間連携を学生時代から体感し、「患者中心の医療」を支える医療従事者としての基盤作りを図っている。

加えて、学部と大学院健康マネジメント研究科を接続する5年一貫教育プログラムにより、実践と研究の双方を見据えた深い学修が可能となっている。看護の実践力と研究力を併せ持つ専門職業人としての資質形成を目指すこうした教育プログラムは、学生各自の志向と目標に応じた幅広い進路選択を可能にし、その先に広がる多様な看護のカタチを支えていく。

2025 年度Pinning Ceremony ピンバッジ授与の様子

その先の未来へ──多様化・複雑化に対応

2026年は看護医療学部開設25周年を迎える節目の年。これまでの卒業生は、医療機関の臨床現場はもちろん、行政、教育、研究、民間企業、さらに国際機関を含むグローバルヘルスなど多岐にわたる分野で活躍している。これは看護医療学部における教育が、単なる国家資格取得にとどまらない広い視野と応用的能力の育成に重きを置いてきた成果と言えるだろう。

医療系三学部合同ラオス研修 小学校での手洗い教育

少子高齢化、気候変動、人工知能(AI)やゲノム医療の進展など、私たちが生きているのは健康と医療をめぐる課題がますます複雑化する社会だ。このような時代において、看護学は人と社会双方に寄り添い、問題の本質を捉えながら最適な解決策を探る学問として、その重要性がますます高まっている。看護医療学部は、変化する社会を見据えつつ従来の実践と理論の教育に加え、対話と協働、グローバルな視野を重んじながら、次代の看護と看護教育の在り方を模索し続けていく。

医療における看護の可能性を信じて「看護婦養成所」を開設した北里柴三郎のまなざしと思いは、世紀を超えて慶應義塾における看護教育の中心にある。そして福澤諭吉の「躬行(きゅうこう)実践、以て全社会の先導者たらん」とする理念を基盤としながら、看護医療学部は今後も社会が求める看護医療人材の育成に邁進していく。

写真提供:慶應看護100年記念事業アーカイブ、福澤研究センター


この記事は、『塾』SPRING 2026(No.330)の「ステンドグラス」に掲載したものです。