慶應義塾
Keio LIFE

# 16

【私のおすすめ授業】社会心理学概論 ~インタビュー編~

AI時代の授業の意味とは

#Learning
公開日:2026.09.17
前編では、「社会心理学概論」の授業の様子を紹介した。後編では、この授業を担当する文学部教授・杉浦淳吉先生に、授業後におこなったインタビューの内容をお届けする。

プロフィール

杉浦 淳吉(すぎうら じゅんきち)

教員・研究者/文学部・社会学研究科 教授

大学院社会学研究科社会心理学を専門とし、環境・リスクに関わる行動や、人と人との相互作用、集団形成について研究している。社会の仕組みをゲームとして体験し、そこから人や社会について考えるSimulation & Gaming(シミュレーション&ゲーミング)の研究にも取り組み、「説得納得ゲーム」「化学反応ゲーム」などを開発。現在は、新たなメンバーが加わることで人や集団がどのように変化するのか、新規参入者の包摂と役割変容について研究を進めている。


▶【私のおすすめ授業】社会心理学概論 ~講義編~も公開中!学生たちがゲームを通して合意形成を学ぶ実際の授業風景や教室の熱気は、以下より詳しくご覧いただけます。インタビューとあわせてぜひお読みください。

世の中の見え方が変わる「メタ的視点」

kana (Editor) :

この授業は文学部社会学専攻の必修ですが、先生が学生に一番身につけてほしいことは何ですか。

杉浦 :

社会心理学の知識そのものを単に覚えることではなく、「社会心理学的に物事を見る視点」を身につけてほしいです。その考え方を使えるようになると、世の中の見え方そのものが変わってきます。

例えば、すごく良いことをする人や、望ましくない行動をとる人に出会い、「この人はなぜこんな行動を取るのだろう」「なぜこんなことを言うのだろう」と素朴に予想したり考えたりすることがあるじゃないですか。そうした場面で「メタ的視点」、つまり自分自身も含めて、一歩引いた視点から物事を捉えられるようになります。その人の特徴もあるかもしれませんが、置かれている立場や状況が行動に影響しているかもしれないとより多面的に考えられるようになります。

時に、偏った見方をどうしても取ってしまうことがあります。そして、そういう偏った見方を周りの人と共通した考えだと思ってしまうことがあるんですよ。それを「バイアス」と呼ぶのですが、それをあらかじめ分かっていたら「ああ、自分は少し偏った見方をしているかもしれない」と気づくことができるようになります。

kana (Editor) :

生きやすくなるように感じますがどうでしょうか?

杉浦 :

相手の行動の背景を理解できるのは良いことですが、「状況がそうだから仕方ない」と分かってしまうからこそ、逆に苦しくなることもあるかもしれません。

一方で、バイアスや価値観を持っていることは、その場その場で考えることを節約できるんですよ。例えば買い物で、過去の経験によって「自分はこれが好き」「今はこんな気分」と価値観が形成されているからスムーズに選べるのです。「好き・嫌い」「良い・悪い」といった判断は、過去の経験を通して学習し、記憶として整理されたものです。そしてその積み重ねをもとに、私たちは次の場面で行動を選択しています。日常の消費行動や人との関わりも同じ仕組みです。ただ、そうした判断の仕組みはときには悪質商法などの手口に利用されることもありますね。

AI時代にこそ「体感して学ぶ」価値

kana (Editor) :

2013年の開講から13年間授業を担当されていますが、学生や授業環境の変化は感じますか。

杉浦 :

コロナ禍でのオンライン授業導入により資料のデジタル化が進み、スライドで投影する資料を紙で配布することはなくなりました。以前はスライドをスマホで撮影する学生も多かったのですが、今は最初から手元の画面で資料を見ながら受講するのが当たり前になっています。極端に言えば、教室にいなくても中継を聞いてスライドを見ていれば受講できてしまう時代になりました。

さらにここ1年ほどで生成AIが一気に普及しました。慶應でも2026年度からシラバスに生成AIの利用方針を明記するようになり、課題への活用方法が議論されています。授業を録音してAIに要約させたり、リアクションペーパーを書かせたりすることも技術的には可能になりました。

講義する杉浦教授
kana (Editor) :

AIが普及した今、先生は授業にはどんな意味があると考えていますか。

杉浦 :

私自身も授業の意味を改めて問い直しました。私が授業に取り入れているゲームは「経験学習」のためのものです。ゲームを通して何かを経験し、それを振り返って意味づけし、現実で試してみる。失敗も含めた試行錯誤を繰り返すことで、「こういう場面ではこう考えよう」「どう振る舞うと相手がどう反応するか」という感覚が身につきます。

講義も同じです。話を聞くだけでなく、一度自分の中に取り込んで自分の言葉で整理するプロセスがあって初めて学びになります。「アクティブラーニング」という言葉がありますが、静かに講義を聞いていても本を読んでいても、自分の頭で考えなければ学習は成立しません。

生成AIがある今だからこそ、その場で話を聞き、自分で考え、手を動かしてノートを取る経験に大きな意味があります。画面を見て「分かった気になる」ことと、実際に体を使って学ぶことは全く違います。自ら考えた経験があるからこそAIに適切な問いを投げかけられますし、AIに使われるのではなくAIを使いこなせる人になれるのです。だからこそ、人と関わり、その場で判断し、安全に挑戦・失敗できるゲーム形式の授業を続けています。

自分で考え挑む学生が集まる、慶應ならではの学び

kana (Editor) :

では最後に、先生から見た慶應の推しポイントを教えてください。

杉浦 :

福澤諭吉先生の「独立自尊」「自我作古(我より古をなす)」「半学半教」という精神は本当に素晴らしいと感じています。特に「自分で道を切り開いていく」意識を持った人たちが集まっているからこそ、今の私の授業が成り立っています。

自分で考え、良いと思ったことを実践する。私自身も、同僚から『先生が良いと思うこと、学生と一緒に挑戦したいことをやってください』と言っていただいたことがあり、その言葉にとても励まされました。そうした自由な環境で教育に携われることを非常にありがたく思っています。これからも自分が『面白い』と思える授業を追求し、学生とともに新しい学びをつくっていきたいです。


知識を得ることが容易になった今だからこそ、経験を通して考え、自分なりに意味づける「授業」の価値が改めて問われている。人や社会を新たな視点から捉え、主体的に学ぶ面白さを、「社会心理学概論」で体感してみてはいかがだろうか。

先生の研究室に溢れかえるボードゲーム。 授業やゼミで実際にゲームをすることもあるという。

※本記事は2026年時点の情報に基づき作成されたものです。

取材・撮影

kana

生まれは北海道。寿命3年と勧められた愛鳥を飼い始めて13年になります。寿司狂いの鳥飼い。


Keio LIFE TOP