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# 10

学問とススメ!

~医師・弁護士・政治家の教授が語る、慶應義塾で「医療」を「一生ガクモン」する意味~

#Learning
公開日:2026.07.28
「とりあえず医学部」。進学校の優秀な生徒ほど、そう進路を決めてしまいがちだ。しかし複雑化する現代社会において、医療が抱える課題はメスや薬だけでは解決できない。医師、弁護士、そして国会議員。慶應義塾大学医学部を卒業後、法学部、文学部でも学び、三つの領域を究めた古川俊治教授は、自らのキャリアを通してその事実を体現してきた。なぜ彼は、ひとつの道を究めるだけでなく、次なる学問へと向かったのか。その原動力と、教育者として実践する「慶應義塾ならではの学び」の神髄に迫る。

プロフィール

古川俊治(ふるかわ としはる)

教員・研究者/法科大学院 法務研究科

職業:大学教授、参議院議員、医師、弁護士。医学的な観点から、参議院議員や弁護士の第一線で活動する一方、慶應義塾でも教鞭を取っている。法学部、文学部、医学部の計3学部全てにおいて慶應義塾で学位を取得。医学的学際性において、法的観点や人間関係学的観点から医療のあり方について研究している。今後の日本の医学界の育成についても、「医学部生の多彩な未来を考える会」を設立するなど、後輩育成にも力を入れている。

※肩書は原稿作成時(2025年11月当時)のものです。

医師として感じた「法律と倫理の壁」。学際的キャリアの原点

古川教授
編集部N :

ひとつの道を究めるのが一般的であるなかで、古川先生は医学部卒業後、法学部と文学部でも学ばれています。その原動力は何だったのでしょうか?

古川 :

もともと高校時代から哲学書をよく読んでいて、文学は一生学びたい学問でした。そして医師になって直面したのが『臓器移植』の問題です。当時、日本では法律が未整備で、患者さんは国内にも技術があるのに海外で移植を受けるしかなかった。議論を進めようとすると『脳死は本当に死なのか』という宗教や哲学の話になり『法律的にどう解釈するのか』という壁にぶつかる。これを解決するには、医学の知識だけではだめだ。倫理と法律、両方の視点から語れなければ、彼らと対話すらできないと痛感したんです。

編集部N :

医師として現場に立ちながら、慶應義塾の通信教育課程で学び始めた古川さんは、なぜ、他の大学ではなく慶應義塾を選んだのでしょうか?

古川 :

やはり、医学部生時代に感じた『自由な学風』が大きかったですね。勉強だけでなく、多様な価値観を持つ仲間たちと出会える。通信教育でもその精神は同じで、社会人としての問題意識を持って臨むと、先生方と深い議論ができ、非常に充実していました。この大学なら、自分の探求心に応えてくれると確信していました。

医師、そして弁護士資格を取得後、政治の世界へ。そこにも慶應義塾との「縁」がありました。

古川 :

当時、慶應義塾大学病院(以下慶應病院)に入院されていた政治家の手術を手伝う機会があり、面識がありました。埼玉県から出馬の話をいただいた時に相談すると『君なら大丈夫だ』と力強く背中を押してくださった。これも慶應病院にいたからこそのご縁です。政治家になってからは、医療や研究開発の現場を知る人間として、制度の『目詰まり』を解消する役割を担ってきました。現場を知っているからこそ、政治で解決できることがある。これもまた、ひとつの専門分野だけでは越えられない壁でした。

「慶應のすごさを一番感じた」。社中協力が道を拓く

古川教授
編集部N :

そのような、先生ご自身の経験は、現在の教育活動にどう影響していますか?

古川 :

私が法学部で教えている『医事法』は、まさに医療と法律の交差点です。他の大学では法律の専門家が文献だけで教えることが多いかもしれませんが、慶應では「医療現場でいま何が起きているか」、具体的な事例を交えて生きた知識を伝えることができます。また、文学部で学んだ哲学や倫理は、患者さんの心の背景を理解する『インフォームド・コンセント』の本質を教える上で不可欠です。結論がひとつではない倫理の世界を知ることで、医師が自分の考えだけに陥らない、多角的な視点を養うことができるのです。

慶應義塾の精神である『社中協力』。学年や学部、世代を超えた卒業生との繋がりが、個人の学びを力強く後押しすることがあります。古川教授は、弁護士資格の取得時にその真価を実感したと語ります。

古川 :

司法試験は(医学部とは)全くレベルの違う勉強が必要です。私は働きながらでしたから、予備校に通う時間もない。その時、慶應出身者なら誰でも入れる『司法研究室』に所属したんです。そこでは、私が3学部卒の先輩だと知った後輩たちが、予備校の情報をすべて集めてくれ、週末に訪れる私に1週間分の資料をまとめて渡してくれました。あれがなかったらとてもじゃないけど受からなかった。慶應のすごさを一番感じた経験です。

この「助け合いの精神」は、未来の医療人を育てる活動にも繋がっています。例えば、古川先生が立ち上げた「医学部生の多彩な未来を考える会」には、現代の医学教育への課題意識が込められていました。

古川 :

偏差値が高いから、親に勧められたからと「とりあえず医学部」に来てしまう学生がいます。しかし、医療への適性は人それぞれ。むしろ工学やコンピュータの才能がある学生もいる。だからこそ、臨床医だけではない多様な道があることを示し「勇気を持って“普通”の医者になるな」と伝えています。これからの医療は、新しい技術を開発する起業家、データを解析する専門家、国際機関で働く人材など、多様な出口が必要です。その可能性に早くから気づかせたいのです。

なぜ慶應で「学際的研究」を行う価値があるのか

古川教授
編集部N :

現代社会において、学問を横断して学ぶことの価値とは何でしょうか?

古川 :

現実に起きている問題は、ひとつの学問領域だけでは絶対に解決できません。特に大学院での学びや、社会に出てからは、問題解決のために多様な知恵を複合的に使うことが求められます。その点、慶應義塾は非常にユニークな場です。研究レベルでは、工学部と手術ロボットの共同研究をしたり、SFCの看護医療学部や環境情報学部と医療ITの企画を組んだり、学部間の連携が活発です。これは研究に限った話ではありません。

古川教授は、卒業後も学び続けられる慶應の文化こそが重要だと強調します。

古川 :

私は40代でビジネススクールに留学しましたが、帰国後、その研究を続けたくて慶應のビジネススクール(KBS)の門を叩きました。本来は部外者ですが、教授に「どうしても勉強したい」と直談判すると、「ぜひ来てくれ」とゼミに受け入れてくれた。卒業してからも熱意さえあれば、再び学べるチャンスがある。社会人になってからの方が、問題意識が明確だから気づきも多い。一生、慶應の仲間たちと学び合える。塾の集いは非常に貴重な財産です。

変化の時代を生き抜け。未来の後輩たちへのメッセージ

古川教授
編集部N :

最後に、これから慶應を目指す中高生や、いま慶應で学ぶ塾生(学生)たちへメッセージをお願いします。

古川 :

まず塾生たちへ。面白いと思った学問を、学部に関係なくどんどん掘り下げていってください。例えば他学部のゼミでも、熱意のある学生を「何学部だからダメ」なんて言う先生は慶應にはいません。その一歩が、新しい道を開きます。

そして、慶應を目指す皆さんへ。これからの未来は、AIの進化や国際情勢の変化など、今とは全く違う環境になるでしょう。ダーウィンの言う通り「変化できるものだけが生き残る」のです。そんな予測不能な人生で最後に必要になるのは、自分がどう生きるかという哲学と「人の繋がり」です。その点で、慶應義塾は君たちの期待に一番応えてくれる場所だと、私は確信しています。

社会的に称賛されるような良い大学に行けば安泰、という時代は終わりました。官僚的で縦割りな組織とは違い、どこまでも自由な学びを許容してくれるのが慶應義塾です。自分がどう生きたいのかを真剣に考え、その上で大学を選んでほしい。皆さんの挑戦を待っています。

塾生編集部作成:「慶應×医療タイプ診断」

塾生編集部メンバーが「慶應×医療タイプ診断」を作成しました。質問に回答していくと、あなたにおすすめの学部が表示されます。医療に関心がある方でも、医学部以外の学部で学びたい内容も見つかるかもしれません。

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取材・撮影

N

文学部美学美術史学専攻。西洋建築史における建築のデザインについて研究しています。趣味は漫画とエスプレッソを淹れることです。

S.S

商学部。マーケティングに興味があります。長年続けている書道は、他のことを忘れて自分自身と向き合える、大切な時間です。

R.N

文学部社会学専攻。メディアの情報が人々の認知や判断、行動に与える影響に関心があります。世界遺産検定2級を持っていて、夢は生涯をかけて全ての世界遺産を巡ることです。

R.M.

総合政策学部。主に広告に興味を持って学んでいます。特にお笑い賞レースの広告が好きで、ユーモアの中に強いメッセージ性を持たせるクリエイティブに惹かれています。記事制作では、読者の心に残る表現を大切にしながら、企画や取材に取り組んでいます。

S.M

冬物が大好き。マフラーやコートを気分に合わせて変えるのが最近の楽しみです。来年度はドイツ留学に行く予定で、まだ見ぬクリスマスマーケットにときめきが止まりません。

K.K

商学部。ヴィジュアル系バンドやミュージカル、アイドル、漫画が好きです。ライブや舞台という現実から離れた夢のような世界観に惹かれます。そこで味わう高揚感が日々の活力です。


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