慶應義塾

『ことばが紡ぎ出されるとき──声とテクストのあいだ』

公開日:2026.06.29

執筆者プロフィール

  • 岩波 敦子(編)(いわなみ あつこ)

    理工学部 教授

    岩波 敦子(編)(いわなみ あつこ)

    理工学部 教授

「ことば」には、なぜ私たちを結びつける力があるのだろう。古今東西「ことば」を論ずる書物は枚挙に遑がないが、「ことば」が有する根源的力とは何かという問いに対し、伝達媒体としての機能的側面だけから答えを見つけることは難しい。「ことば」の本質を探ろうとする試みは、私たちの「生」そのものに想いを巡らす営みであり、だからこそこの問いかけは私たちを惹きつけてやまないのである。

本書は、異なる専門分野の研究者が集う領域横断的な言語文化研究所公募研究の成果である。慶應義塾の中でも最も古い研究組織の1つであり、2003年までノグチルームを構えた萬來舎内にあった言語文化研究所は、東洋哲学の泰斗である井筒俊彦に縁の深い研究拠点として、様々な視座からことばに光を当てる研究を発信している。

第Ⅰ部「声の刻印とことば」では山内志朗氏と小野文氏がそれぞれ中世哲学、言語思想史から、第Ⅱ部「神の語りかけとテクスト/表象」では土橋茂樹氏と鎌田由美子氏が信仰における声とテクストを分析対象として、第Ⅲ部「教え導くことばとテクスト」では松田隆美氏、大黒俊二氏、後藤里菜氏、井口篤氏が文学、歴史学の立場から、そして第Ⅳ部「響き合うことばと儀礼」では大月康弘氏と岩波敦子が歴史学から考察を加えている。以下「はじめに」に寄せた拙文を再掲したい。

「テクスト論、認識論、表象論、言語思想史・文化史など多元的なアプローチからことばの諸相を論じるこれら多彩な論稿は、異なるベクトルから考察を深め、有機的に関連し、響き合いながら声とテクストの豊かな世界を描いている。(…)舞台の上で揺らぐ光のように様々な角度から光があてられ、濃淡のある陰影の中に映し出されることばの世界は、ことばについての問いかけは、時間軸の中に生きる人間存在への問いかけなのだということを改めて思い起こさせてくれる。

ことばが紡ぎだされるとき、私たちは何に導かれ、なぜ語られることばに意味を見出すのか。ことばの軌跡を辿る旅に読者を誘うことができたら、著者一同望外の幸せである。」

『ことばが紡ぎ出されるとき──声とテクストのあいだ』
岩波 敦子(編)(いわなみ あつこ)
慶應義塾大学言語文化研究所 288頁 3,850円〈税込〉