慶應義塾

『自由・秩序・進歩─ハイエク『自由の条件』を読む』

公開日:2026.05.26

執筆者プロフィール

  • 池田 幸弘(いけだ ゆきひろ)

    名誉教授

    池田 幸弘(いけだ ゆきひろ)

    名誉教授

このたび、慶應義塾大学出版会から上梓した拙著は、ハイエクの大著『自由の条件』を材料にして、自由、秩序、そして進歩について考えようというものである。以下、刊行の経緯、ねらいなどについて記す。

私は塾で教鞭をとっていた間、学部の研究会や大学院の演習などで、しばしば同著を輪読の対象とした。その際、学生、院生諸君が示した反応は、本書の成立に多く貢献している。まずはお礼を申し上げておきたい。その中で、原著につき従いつつ、標準的な解釈を示すべく、原著のコンメンタールらしきものを刊行してみたい、という思いが膨らんでいった。

ハイエクはしばしばフリードマンとともに、新自由主義者と呼ばれる。80年代以降に台頭したとされるこの思想は、活力ある市場経済を重視する立場として知られているが、その反面、市場原理主義という呼び名とともに紹介されることも少なくない。本書での1つのねらいが、このようなハイエクに対する特徴づけが適当なものなのかどうかを、再検討したいというものである。この点については、ハイエク研究者のなかではほぼ意見は収束した感があるものの、狭い研究者集団を超えた際にしばしば冠される呼称はやはり新自由主義の提唱者、ハイエクであり、これを正したい。

本書におけるいま1つのねらいが、『自由の条件』第2部の議論を中心的な議論の題材にしたいということであった。同書はけっして無視されている著作ではないが、第2部についての適切な解釈は十分ではないように思われる。この点を解消するのが、本書の第2の眼目である。後書きで様々な方々の名前を挙げさせていただいたが、改めて法学研究者各位の懇切なご教示に感謝する次第である。ハイエクは経済学者ではあるが、ウィーン大学法国家学部の出身である。法学の素養は彼の学問のベースであるが、これはいままで十分に評価されてきたとはいいがたい。

コンメンタールは、古典研究としても近年ではあまりないスタイルであろう。私の解釈はあくまで1つの解釈にすぎない。これを契機に、原著の精密な理解をふまえた、拙著を大きく乗り越えるようなハイエク研究が進むことをねがってやまない。

自由・秩序・進歩─ハイエク『自由の条件』を読む
池田 幸弘(いけだ ゆきひろ)
慶應義塾大学出版会 432頁 3,960円〈税込〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。