慶應義塾

『権威主義の国際比較』

公開日:2026.05.18

執筆者プロフィール

  • 石井 貫太郎(編著)(いしい かんたろう)

    目白大学社会学部教授法学研究科 卒業

    1990法博

    石井 貫太郎(編著)(いしい かんたろう)

    目白大学社会学部教授法学研究科 卒業

    1990法博

第二次世界大戦後に生まれたわれわれ日本国民にとって、民主主義は水や空気のごとき当たり前の政治体制である。しかし、他方では非民主主義国、すなわち権威主義や独裁主義の国家がある。むしろその数は、全世界の4分の3に届く国々となり、実に全世界人口の約80%の人々がそうした国の国民として生活している。われわれ民主国家の国民は、むしろ圧倒的な少数派なのである。

そこで危惧すべきは、双方の体制の国民が、相手国の政治体制や国民の価値観をよく知らないという現況である。民主国家の国民が民主主義しか知らず、自分たちは正義の味方であって、権威主義は悪者であると考えることが常識となっているのと同様にして、権威主義国の国民は彼らの政治体制しか知らず、逆に自分たちこそは正義の味方であって、民主主義は悪者であると考えている。そこに恐るべき落とし穴がある。

権威主義国が近い将来に民主化する可能性が低いという残念な現状下で、われわれは好むと好まざるとにかかわらず、それらの国の国民とこの世界で共存しなければならない。にもかかわらず、相手のことを知らずして無理に付き合えば、そこに余計な憶測や偏見が生まれ、果ては摩擦、紛争、戦争となり、双方ともに破滅への道を転がり落ちる結果を招くことは必然である。

本書の趣旨は、われわれの民主主義とは異なる政治体制である権威主義を知り、彼らと共存するための知的準備をすることに他ならない。今や世界の趨勢は、民主主義陣営と非民主主義陣営とが、外交関係におけるそれぞれの争点と領域によって対立と協調を繰り返しながら推移していく国際関係の時代に入った。誰もが知る有名な『孫子』の格言「敵を知り己を知れば百戦して危うからず」宜しきを得て、権威主義や独裁主義という非民主主義の本質を知ることは、こうした時代に生きる民主主義国の国民としてのわれわれ自身の使命であろう。

なお、本書には姉妹書として単著『非民主主義の政治学』(既刊)と編著『独裁主義の国際比較』(既刊)、および編著『民主主義の国際比較』(刊行予定)があるので、ぜひそちらも合わせてお読み頂きたい。

『権威主義の国際比較』
石井 貫太郎(編著)(いしい かんたろう)
ミネルヴァ書房 254頁、3,520円〈税込〉

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。