執筆者プロフィール
平山 周吉(編)(ひらやま しゅうきち)
雑文家文学部 卒業1975文
平山 周吉(編)(ひらやま しゅうきち)
雑文家文学部 卒業1975文
「発売即重版」というフレーズは出版関係者には何よりも嬉しい。草森紳一のエッセイ集『本に狂う』が、その「発売即重版」となった。編者である私にとっては未経験、著者である草森さんも何十冊という本を出したが、生前にはなかったろう。歿後18年たっても、忘れられていない。本に埋れて死んだ「書痴」の、強烈にして、軽やかな生き方死に方の精髄をこの1冊に籠めるつもりで編集した私としては、任務を無事了えたという安堵感が強い。
草森紳一はやたらと長い原稿を書いた。ナチスについて全4冊、文革について上下2冊を始めとして、毎日出版文化賞を受賞した『江戸のデザイン』や、卒論から発展した中国の「鬼才」詩人『李賀伝』は分厚い1冊といったように。曹操や副島種臣についても、原稿用紙何千枚と書いても完結しなかった。
典型的な長編タイプの物書きの仕事から1冊の選集を編むというのは暴挙に近い。ちくま文庫編集部から話があった時、どうしようかと一瞬悩んだが、エイヤとたった2日間で目次プランを決めてしまった。
漫画評論家として出発した時期の「手塚治虫の功罪」、サブカルチャー評論の大先輩である植草甚一についての回想、60年前のビートルズ来日時にジョン・レノンに特権的位置から接近遭遇した話など――20代、30代の「サブカル評論の旗手」の草森紳一の姿は、若い読者にも知ってもらいたかった。
私が是非物と考えたのは「世界は、雑」というエッセイである。草森さんは自身の書く原稿はすべて「雑文」という捉え方をしていた。その「雑文」について、中国文学科での師であった「随筆家」奥野信太郎教授の姿を点描しながら、「雑」の醍醐味を、自らの方法論も絡めて自由に語るというスタイルで書かれている。世界の森羅万象を、硬軟なんであれ、同じ感覚で受けとめた草森紳一の秘密がそこにはあるのではないか。
『本に狂う』を編集する過程で、大きな副産物というオマケがついた。草森さんの未発表の遺稿を中心に据えた『大正天皇』(コトニ社)という本を、草森・平山の共著として出せたことだ。これには亡き草森さんの霊にひたすら感謝である。
『本に狂う──草森紳一ベスト・エッセイ』
平山 周吉(編)(ひらやま しゅうきち)
ちくま文庫 400頁、1,210円〈税込〉
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。