登場者プロフィール
長野 潤一(ながの じゅんいち)
その他 : トラックドライバーその他 : トラックジャーナリスト経済学部 卒業塾員(1989経)。大学卒業後、会社員を経てトラックドライバーとなる。千葉県成田市の運送会社にドライバーとして勤務する傍ら、現役トラックドライバーの立場で、物流業界の現状を伝える執筆活動を行う。
長野 潤一(ながの じゅんいち)
その他 : トラックドライバーその他 : トラックジャーナリスト経済学部 卒業塾員(1989経)。大学卒業後、会社員を経てトラックドライバーとなる。千葉県成田市の運送会社にドライバーとして勤務する傍ら、現役トラックドライバーの立場で、物流業界の現状を伝える執筆活動を行う。
帖佐 義之(ちょうさ よしゆき)
その他 : 日本GLP株式会社代表取締役社長法学部 卒業塾員(1992法)。大学卒業後、三井不動産を経て2003年プロロジス入社。09年GLプロパティーズ(現日本GLP)設立以来、日本国内におけるオペレーション全般を指揮。12年より代表取締役社長。18年日本GLPに社名変更。
帖佐 義之(ちょうさ よしゆき)
その他 : 日本GLP株式会社代表取締役社長法学部 卒業塾員(1992法)。大学卒業後、三井不動産を経て2003年プロロジス入社。09年GLプロパティーズ(現日本GLP)設立以来、日本国内におけるオペレーション全般を指揮。12年より代表取締役社長。18年日本GLPに社名変更。
小野塚 征志(おのづか まさし)
その他 : 株式会社ローランド・ベルガー パートナー総合政策学部 卒業政策・メディア研究科 卒業塾員(1999総、01政メ修)。富士総合研究所、みずほ情報総研を経て現職。経済産業省「持続可能な物流の実現に向けた検討会」委員、国土交通省「2020年代の総合物流施策大綱に関する検討会」構成員。
小野塚 征志(おのづか まさし)
その他 : 株式会社ローランド・ベルガー パートナー総合政策学部 卒業政策・メディア研究科 卒業塾員(1999総、01政メ修)。富士総合研究所、みずほ情報総研を経て現職。経済産業省「持続可能な物流の実現に向けた検討会」委員、国土交通省「2020年代の総合物流施策大綱に関する検討会」構成員。
佐々木 太郎(ささき たろう)
その他 : 株式会社Hacobu代表取締役社長 CEO法学部 卒業塾員(2000法)。アクセンチュア、博報堂コンサルティングを経て米国留学。帰国後、様々な起業を経て2015年物流の変革を志して株式会社Hacobuを創業。
佐々木 太郎(ささき たろう)
その他 : 株式会社Hacobu代表取締役社長 CEO法学部 卒業塾員(2000法)。アクセンチュア、博報堂コンサルティングを経て米国留学。帰国後、様々な起業を経て2015年物流の変革を志して株式会社Hacobuを創業。
國領 二郎(司会)(こくりょう じろう)
総合政策学部 教授1982年東京大学経済学部卒業。92年ハーバード大学経学博士。慶應義塾大学環境情報学部教授を経て2006年より現職。13~21年慶應義塾常任理事。専門は経営情報システム。
國領 二郎(司会)(こくりょう じろう)
総合政策学部 教授1982年東京大学経済学部卒業。92年ハーバード大学経学博士。慶應義塾大学環境情報学部教授を経て2006年より現職。13~21年慶應義塾常任理事。専門は経営情報システム。
2023/12/05
物流危機をどう捉えるか
今日は日本国内の物流をテーマに座談会を行いたいと思います。
「働き方改革関連法」によるドライバーの労働時間に上限が課されるいわゆる物流の「2024年問題」と言われる危機がいよいよ迫ってきていますが、この話は見る視点によって、見えている景色が相当違うのではないかと思います。まず、どういった問題意識を持っているかを、自己紹介を兼ねてお願いできますでしょうか。
私は経済学部を卒業し、3年ぐらいサラリーマンをやっていたのですが、自動車が好きで、大きなトラックにも一度乗ってみたいと思ってドライバーになりました。以来、現場一筋で30年以上トラックドライバーをやっています。慶應大卒ではかなり異色なのではないかと思います。合わせて、ドライバー目線のコラムなどを業界紙などに連載させてもらっています。
これまでいろいろなトラックに乗りましたが、現在は大型トレーラーに乗って成田空港を拠点に国際線のコンテナ等の航空貨物を運んでいます。
「2024年問題」は、建設業や自動車運転職種でも来年4月から年間960時間の上限規制が適用され、モノの3割が運べなくなると言われています。総労働時間の減少は数%に過ぎないのですが、仕事の本数が減って賃金が下がり、離職者が増えると言われています。
ドライバーが長時間労働になる理由は、主に荷待ちと長距離での長い運転です。工場などではトラックがスタンバイして、製品が出来上がり次第すぐに積んで運びます。昔の飛脚や風待ち港もそうですが、運送業にはそうした相手の都合や自然条件に合わせて「待つ」という性格があると思います。
私は大学卒業後、三井不動産に入りました。あるとき物流不動産という、当時、日本にまだ存在しなかった不動産のセクターが米国にあることを知り、このビジネスを日本でも是非やりたいと思い提案を続けたのですが、同社ではそれは叶いませんでした。そのため意を決して退職し、アメリカのプロロジスという会社に入り、その後、それをMBO(マネジメント・バイアウト)する形で今のGLPという会社を作りました。
日本の物流が大きく変わっていく時でした。世の中が長いデフレスパイラルに入って、メーカーなどはグループ会社に物流子会社を持ち、物流施設も保有していたのが、アウトソースを進めていました。そこで、物流施設も賃貸市場が出てくるだろうと、取り組んできましたが、今、割と大きなセクターにまで成長したと感じています。
物流業務が抱える様々な課題をどう解決していくかが、われわれの営業戦略です。3K産業と言われ、人がなかなか来てくれない業界なので、例えばそのイメージを払拭するように明るい快適な、働きたくなるような物流施設を作ろうと考えています。
2024年問題は非常に重要な課題ですが、われわれの業界にとっては実は事業機会の創出にもつながると捉えていますので、課題を、どのように前向きに方向転換していけるかを考えながら日々仕事に取り組んでいます。
私は当初シンクタンクに入ったのですが、2007年に今のローランド・ベルガーという会社に転職して、いわゆるコンサル業をやっています。
入社後1年半ぐらいでリーマンショックがあり、3年ぐらいひたすら構造改革をやりました。メーカーや流通の会社の構造改革というと、物流が削り代だったことが結構多かったんです。
つまり、私の物流との最初の出会いはコスト削減でした。メーカーは、調達費は厳しくチェックしますが、物流費は売上高に占める割合が5%程度のことが多く、案外ずさんな管理で、調達費は1%も削れないのに、物流費は2割も削減できることがありました。
物流費を下げようというと、現場での改善活動を通じてトラックの積載率や稼働率を高めようという話になりがちですが、実はイノベーションによる解決があるのではないのかと思います。未来のことを考えれば、テクノロジーを持つ会社がトラックをデジタルにマッチングし、積載率を高めるといったイノベーションで物流危機を解決したほうがいいはずです。
私も帖佐さんが言うように、今の物流危機はピンチであると同時にチャンスでもあると思っています。日本は世界で一番高齢化が進んでいますが、働く人の割合が世界一低くても物を運び届けられる社会を築けたら、世界最先端の国になれます。ぜひこのピンチをチャンスに変えて、イノベーションを起こし、物流危機を解決できるといいなというのが私の問題意識です。
私は20代はいくつかのコンサルティング会社で働き、30代でずっと起業をする中で、卸子会社の経営改革プロジェクトに携わったのが初めて企業間物流の世界に触れた経験です。
そこで、企業間物流という世界が実はすごく広大で、大変重要なインフラだと気付きました。しかし、まったくアナログで、非効率なことが起こりまくっている。このままいくとこのインフラは大変なことになると思い、そのインフラをITを使ってアップデートすることができないかと8年半前に「Hacobu」を起業しました。
企業間物流の本質的な問題は、いろいろなステークホルダーが絡んでいるにもかかわらず、それぞれの物流に関する情報が内に閉じてしまい、連携できていないがゆえに、部分最適に陥り、いわゆる合成の誤謬問題にはまっているわけです。
それを解決するためには、企業の枠を超えた物流の情報が流れて、物流ビッグデータと呼ばれるもので、ステークホルダー間の最適化をかけていくというアプローチを取らないと難しいのではないかと考え、まず物流の情報がデジタル化され、それが流れるインフラを作ろうと活動をしています。
2024年問題は、この10年近く、想定されていた問題です。ただ、政府がそのように言うことで、荷主の方々や大手の物流のトップの方々の意識がかなり変わってきたのを急に感じています。これまでほとんど変わることがなかった物流の世界を変えるチャンスがきたと私も捉えています。
人手は逼迫していない?
危機をチャンスだと思っているという前向き感がいいですね。
長野さん、ドライバーの観点から、今、ドライバー不足が叫ばれる中、労働法制が変わることで、やはり現場としては、ご自身や周りの方々の仕事の仕方が大きく変わる感じですか。
今、ドライバーや運送会社の目線でいう問題は、運賃が上がらないということで、今度、政府が標準運賃を出しましたが、実勢とはかけ離れています。タリフ(運賃表)はタクシーやバスなど公共交通のように運賃に強制力がない。市場原理です。人手不足と言われていますが、低い賃金しか提示しないから、人が集まらないわけです。
これは人手が逼迫してもなかなか上がらない、構造的な問題だと。
本当は人手は逼迫していないのだと思います。
「トラック運転者の改善基準告示」によると、あと半年で残業時間を年間960時間以内にしなさいと言っています。現行、1年間の拘束時間が3516時間。それを3300時間にすると報道では言っていますが、実際は3400時間まで許容してもらって、残業は1060時間になります。
現行の3516時間も実際は守られていなくて、事実上の青天井からそこまで減らすことになるのですが、3516時間から3400時間だとすれば3.3%減でしかなくて、「34%の荷物が運べなくなる」というのは少々大袈裟だという感じはあります。
現場の感覚で言えば、半年後にどう変わるかというと、ほとんど変わらないと思います。なぜかというと、大手が仕事を受けますが、実際に走っているのは下請け企業が多いからです。
労働時間を決めているのは厚労省ですが、実際には、よほどの違反がない限り国交省が代わって取り締まるわけです。国交省の監査も何年かに1度回ってくるぐらい。運送会社の数は平成2年と15年の規制緩和以降約6万社ありますが、監査する人数と運送会社の数の桁が全く違う。ですから、結局、大手は「守っています」と言って、下請けにきついところを外注し、下請けまでは監査がなかなか回ってこない。この現状はそれほど変わらないのではないかと思っています。今年の対策でトラックGメンというものができましたが、これはトラックを取り締まるわけではなく、主に荷主さんを監視するものなのです。
それで、車はむしろ余っているのではないかと。
NX総研が政府の「持続可能な物流の実現に向けた検討会」で発表した試算では、2024年問題が起きると輸送能力の14%が不足し、2030年になるとさらなるドライバーの減少により輸送能力の不足は34%にまで拡大するとなっています。これは、国の閣僚会議でも使われている公式な数字ですが、長野さんの言うとおり、年間の拘束時間の上限を原則3300時間とすることを前提としていますし、試算に用いているデータは、コロナ禍でトラックの輸送量が低下する前の2019年度の実績です。
実際、本当にクライシスは起きるのかと言えば、私は宅配3社のうちの1社の方に伺ったのですが、その会社は平常時に大体3000台ぐらいトラックが余っているそうです。なぜかというと、クリスマスなどの繁忙期にはその3000台も動かす。逆に、平常時はそれだけ余裕があってバッファを見ているわけで、このバッファを利用すれば、クライシスは発生しないかもしれません。
個人的には、24年4月にちょっと何か起きてほしいです。社会インフラ上、致命的な事態の発生は困りますが、今、一番クリティカルだと言われている九州から東京に運ぶ生鮮品の輸送で、例えば2024年4月にスーパーへ行ったら熊本のトマトがありませんという状況になれば、物流に対する危機意識が高まると思うのです。
逼迫していなくてもムラがある
帖佐さんはどのように思われていますか。
実はドライバー不足問題は逼迫していないと長野さんはおっしゃっていましたが、僕もあまりしていないと思うんです。でも、すごくムラはあるのだろうと思うんです。リアルな世界なので、すべてがタイミングよく、ニーズがあるところに人とトラックが集まれるわけではない。帰りに積む荷物がないからずっと荷待ちしなければいけないということもあります。
そういう非効率なところがあるので、逼迫していなくてもムラがあって、困っているところは困っている、問題が起きるところは起きる。結局下請けに全部しわ寄せがいくのも、そういうことだと思うんですよね。
局所的にはいろいろな問題が起きていて、その対処には、われわれにもできることはあるとは思っています。例えば佐々木さんもやっているビジネスですが、トラックの待機時間を少しでも減らそうと、ジャスト・イン・タイムに取って、そのときはバース(荷物積み降ろしなどに使用するスペース)が用意されれば待ち時間が少し短縮できる。荷物もその時に準備しておいてもらえれば、より生産性は上がります。
ムラの発生原因ですが、やはりサプライチェーンは波動するわけですよね。それで情報の共有が進んでいないと波動の波が大きくなったり、納期がある特定の時間に集中すると波動が起こってしまう。だから、翌日配送のようなものにこだわっていたのを延ばすと波動が収まってくるのではないかというところがあると思うのです。
ファクトが摑めない現状
ムラという話は、まさにその通りだなと私も思っていますが、問題は、今それを定量的に捉えられていないということなんですね。どこが余剰でどこが逼迫しているのか、定量的に把握されていない。
例えば積載の問題も、定量のように見えてもそれは定性で、アンケート結果なんです。どれだけトラックに積載されているのか、誰もデータとして摑んでいない。現状がどうなっているのかを誰もファクトとして摑んでいないという問題をクリアしないと、「どうやらマクロで見ると非効率でマズそうだけれど、どこに手を入れたらいいのかがわからない」という状態がずっと続くのだと思います。
いろいろな方にヒアリングすると、いろいろなことを言うわけです。長野さんに聞いてみれば逼迫していない。また他の方に聞くと、「いや、めっちゃ逼迫しています」と。荷主の方に言うと、「値上げ要請がすごいです」と。
一方で長野さんのようなご意見はほかにもある。運送会社間のマッチングをやっているサービサーの人たちは、いまだに運送会社は荷物を欲しがっていると言う。車が空いているということですかと言うと、そうだ、と言う。
なので、いろいろな側面で見方が変わり、何がファクトなのかがわからないのが今の状況で、ファクトを固めないと手が出せないのだと思います。
積載率は今、平均すると40%弱です。問題なのは、この40%弱を果たして何%まで上げられるかということが実はわからないことです。
知らない人は、100%を目指せるんでしょうと言いますが、絶対無理です。関東から東北に行く荷物と東北から関東へ行く荷物は、東北から関東に行くほうが断然少ないので、この往復で見ても絶対100%にはならない。
また、店舗配送は普通、物流センターから出た時、仮に100%の積載だったとしても、複数の店舗を回って帰ってくるときは満パンのわけはないですよね。空になっていたら平均積載率は50%です。こういうものすべてひっくるめて40%と言っているので、最大どこまで上げられるかは、実は国も摑んでいないのです。
政府の「持続可能な物流の実現に向けた検討会」で、それを計算しませんかと提案したのですが、この期間では難しいということでした。だから対策の中に、積載率を上げることでこれぐらいカバーできますと書いてあるのですが、積載率がどこまで上げられるかという上限が誰もわからないまま施策を打っている状況です。
物流は最後の暗黒大陸?
積載率とは稼働中のトラックの荷物ですよね。例えば、東北で降ろして、帰りの荷物がないから、どこかの駐車場で3日間待っているというのはその計算に入るのですか。
それは入らないです。移動している時間だけです。
そうですよね。だから実際はもっと低いですよね。
そうです。動いている時間の中での積載率という形です。ただ、問題は今、トラックの不足ではなくてドライバーの不足なので、働いていない時間はとりあえずいいという考えはあると思います。
うちも、トラック待機場というものがあるのです。一時駐車場なんですが、見ていると48時間以上、停まっているトラックがある。荷物が取れるまで帰ってくるなと言われているらしく、3~4日間そこにいて、近所のスーパー銭湯などに行っている。そういう滞留者は結構いると思います。
おっしゃる通りです。長距離のほうがよりクリティカルだと思いますが、都市内の配送の場合も、圧倒的に多いのは午前中納品なので午後は空いているケースがありますね。
なので、それが全部「見える化」されたら、実は2024年問題などないくらいスカスカなのかもしれません。ただ、それが実は誰もわかっていない。物流は最後の暗黒大陸だとどこかの雑誌に書いてありましたが、まさにその通りで、誰もわかっていない。国もわかっていないというのが実態です。
大手の物流会社もわかっていないんですね。例えば、ある大手物流のヘッドクォーターは全体が見えているかというと全く見えていなくて、各支店で閉じられています。こちらの支店で車が余っているから、別の支店で使えるのではないかという話が出ても、そのためには会計システムを通さなければいけないから難しいとなる。そもそもリソースが余っていることもヘッドクォーターから見えない。1つの物流会社でもそうなのです。
定量化はとても難しそうですね。5年ぐらい前、フィジカルインターネットのような発想で、リアルタイムでどこに荷物があってどこにトラックがいて、インターネットの情報の通信のようにそれをやれば最適化が図れるという構想が注目されましたが、おそらくまったく上手く進んでいないと思うんですよね。
最近のトライとしては、弊社が三菱食品とやっている取り組みがあります。3500台の車両に全てわれわれのGPSの端末を付けてもらっています。これはすべて下請けの会社の車なんです。これまで自社の車両は見えていたけれど、初めて、傭車といわれる協力会社の車も含めた3500台の動き方が、ヘッドクォーターに見えるようにしたんです。
すると、それまでは1つの物流センターの周りだけで最適化されていたものが、複数の物流センターでの車の回し方を考えたら、もっと効率的に運べることがわかってきました。
一社単位でも、大手は、ある程度やっていると思うんです。でも、運送会社は大半が中小ですよね。
ほとんどです。6万社強あるうちの99%ですから。
そちらがやらないと意味がないわけじゃないですか。
「持続可能な物流の実現に向けた検討会」の最終取りまとめには、「デジタコ(デジタルタコグラフ)の義務化」との記載があります。要は荷待ち時間の問題も、デジタコが義務化されていれば、荷主に問題があるとデータでトレースできるわけです。
そうなれば暗黒大陸にメスが入るはずなのですが、最終取りまとめでの記述は「義務化が必要であるとの意見が見られた」です。中小の運送会社さんのコスト負担を考慮すると、「義務化する」とまでは言えなかった。
確かに運送会社さんからすると、誰がコストを負担するかは別にしてコストは発生します。ただ、それで「見える化」されて、変な待ち時間があることがわかれば、それによって運送効率がよくなり、ドライバーがハッピーになるはずなんです。コスト負担が難しいという話で、このデジタル化の動きが止まってしまうのは、もったいないと思っています。
携帯の位置情報などでも、ここでものすごく待っているなということはわかるはずですね。
NX総研の試算では、実は荷待ちと荷役の時間を削減しただけで、再配達をなくさなくても、物流の転換をしなくても、2024年問題は起きないとなっています。荷待ち時間がそれだけ発生しているからです。
なぜドライバーは待たなければいけないか?
佐々木さんがおっしゃったように企業間でデータがやりとりできていないから、荷主さんの側も今、日本地図上に、このぐらいの車が自分のセンターに向かっているというのがわかっていないわけですよね。ふたを開けてみたら何十台も来ていて、降ろし待ちに何時間もかかるという状態になる。もう前の日からわかっているはずですが、その情報が共有されていない。
もう1つは、来る時間を変えればいいわけです。全車「午前8時必着」で待たせるのではなくて、24時間稼働して、この時間に来てくださいとすれば解決できるわけです。
バース予約というのはそういうことですよね。それはやっています。
出荷もやはりお客さんのニーズで特定の時間に集中してしまうようなことがあるのですか。
出荷で多いのは、荷造りが終わるまでドライバーが早めに行って待っていること。荷物がいつできるかがわからないのです。
倉庫内の人は、このぐらいでこの荷物を作れることはわかっているはずです。そのコミュニケーションがドライバーとされていない。早めに呼んでおけばいいやで、できたら載せていくというオペレーションになっている。
でも、そこが今変わりそうになってきています。今、配送のところのリソースの制約条件が増えてきているので、サプライチェーンマネジメントの中に制約条件を追加しなければいけないんです。具体的にはまだあまり進んでないようですが。
結局、力関係において弱いということだから、トラックドライバーは待たざるを得ない。
早く来て待っておけということです。運送会社の給与体系は慣習的にまだ、仕事一本に対して幾らという歩合制が多いですから、待っても追加料金は発生しないわけです。
物流会社さんも悩ましいのは、例えば今ならそういう交渉をしやすいわけですが、荷主にドンピシャなタイミングで指示してくださいと言うと、「君らは働く時間が短くなるんだよね、その分、値段を安くしてくれるのか」と言われかねないことです。
そんな交渉をするぐらいなら、今のままがいいと思う人が確かにいるわけです。トラックマッチングの会社では、お仕事をくれという人がいることを考えると、結局どっちなのかという問題があるんです。
不思議ですよね。本当に困っていたら、値段を上げてお願いしてでも払うわけではないですか。この時間に荷物がなかったら次に行くから、と強気で言われたら、「ごめんごめん」となるはずです。そうならないということは結局、逼迫していないということで、問題は本当にあるのかとも思います。
物流の平準化は可能か
2024年だけで見ると実は、巷間言われているほど、人手が不足しているわけではないのでは、という姿が見えてきましたが、中長期的な問題としてやはり、新たな担い手が入ってこないということがありそうですね。
「運賃も上がらないから給料も上がらない」ということであれば、運賃を上げていくしかないと思います。でも逼迫していないから上げづらいというのだとすると、これは淘汰が起きないとダメということですか。
トラックドライバーの運賃は、アメリカのほうが格段に高いのですが、大きな理由は、圧倒的に労働生産性が高いからです。
トラックの大きさが日本よりも断然大きい。また基本的にアメリカは、ヨーロッパもそうですが車上渡しが基本なので、ドライバーが積み下ろしはしない。だから待つこともないし、待ったら別料金という世界です。すると、労働生産性が高いから、1人当たりの賃金が上がるという構図です。
日本の場合、待ち時間の問題はメスを入れられるはずですが、アメリカ並みに大きなトラックにするのは、道路環境上、難しいという問題があるので、積載率を高めて賃金を上げないとドライバーが集まりません。だから積載率を高めようというメカニズムが働くんですね。
「逼迫しているか」という問題ですが、もしかすると1年間の需給の総量でいったら足りているのかもしれない。ただ問題は、需要にボラティリティー(価格変動)が大きいということです。ピークがはねたときに車が見つからないということは実際に起こっていて、目茶苦茶値段が上がっている。それが本当に実運送の人の賃金まで及んでいるかというと、そうではないかもしれませんが、荷主が払うお金は増えています。
なので、この逼迫問題は平らにした形で考えてはいけなくて、ピークとボトムの関係性の中で考えないといけないのではないでしょうか。
ムラの解消をどうするんだということですよね。
そうです。よく山崩しと言われる言葉があるのですが、ピークをできるだけ減らせば今のリソースでもいけるのでは、ということがあって、物流の平準化ができれば、需給はそこまで逼迫しない。
荷主の意識改革ということでしょうか?
そうです。物流の平準化をするためには商流サイドに手を入れなければいけない。つまり、商流側で物流のことを考えた発注が行われていないという問題ですね。
例えばこういう発注の仕方をすると、物流コストはこれだけかかって納価に響く、ということが少しでもインプットできれば、発注の仕方が変わり、山崩しもされるので、物流の問題をいかに商流側にフィードバックしていくかがポイントだと思います。
出荷計画や配送計画を3日前に組んでくれたらいいのに、という話ですよね。それが前日発注、翌日出荷になると、物流会社サイドは何台必要かわからないからバッファを持っておかざるを得ない。3日前や1週間前に言ってくれたら、山崩しも簡単です。
モーダルシフトは進むか
ここで少し話題を変えます。カーボンオフセットの話、環境の文脈で、モーダルシフト(物流の環境負荷の少ない鉄道、海運などへの転換)の話をしたいと思うのですが、環境というのは、物流の形を変えるのにどれくらい大きなインパクトになるのでしょうか。
カーボンニュートラル先進国というとやはりヨーロッパですが、日本でカーボンニュートラル対策で物流やサプライチェーンもひっくるめたCO2の削減に関して、感度が高いのはグローバルカンパニーです。
ヨーロッパで商品を売ったり、資金を調達したりしているような会社だと、物流も含めて環境への意識が及んでいる会社が日本でも出始めている。一部の物流会社はそれに対してCO2の見える化サービスを提供する、EcoVadis のような国際認証を取るといった取り組みを進めつつあります。
ただ、裏を返せば、国内に閉じた会社や、大手ではない中堅・中小となると、スコープ3までカーボンニュートラルをしなければという意識を持っている会社は、あまり多くないのが実態かと思います。
現実には、ヨーロッパでも環境対策で一番早く打てる手はモーダルシフトなので、トラック、飛行機から船や鉄道にシフトさせていくのが王道です。しかし、ヨーロッパでもCO2の排出量に占める物流の割合は10%とか5%なので、飛行機を使うのは全部やめましたという業界はそんなには多くありません。
日本ではトラックから船へとかトラックから鉄道へという流れはあるのですか。
日本で全部鉄道にできるかというと鉄道のキャパはもうかなりきつい状況です。この前出た物流革新緊急パッケージの中で船、鉄道の輸送量を10年間で倍にするという計画が掲げられていますが、鉄道だけで倍にするのは結構しんどいですね。
鉄道は昔からキャパシティがギリギリですね。昼は旅客ダイヤの隙間を縫い、夜中は保線作業をやっていますから、今以上は便数は増やせない。
ただ1つは規制緩和でできますよね。旅客と運送が一緒にできるようになれば、旅客のスペースに荷物を載せられる。タクシーでもトランクはほとんど空っぽなわけですから配送はできるわけです。僕はモーダルシフトまでいかなくても、規制緩和でかなりいけるのではないかと思っています。
あと、私どもの施設は、入荷する企業も環境意識が高い企業さんが多いのですが、軽トラックの電気化などは結構やっているところもあるので、充電ステーションの数はかなり増やしています。また、結局電気も元が化石燃料から作っていたら意味がないので、再生可能エネルギーで充電するような施設の開発を進めることは、力を入れてやっています。
配送には電車よりトラックが圧倒的に便利なわけですから、同じ電気で走るようになればトラックでも十分、環境保護につながるのではないかと思います。
自動運転という転換
日本では人口減がどんどん進んでいく中、地方における交通と物流をどうやって支えていくのかということもあります。また、世界レベルで見るとこの30年間ぐらいずっとグローバル化が進展し、物の流れ方がすごく大きく変化しつつあります。
昨日までと同じ物流をどれだけ効果的にやるかという話に加えて、これから経済活動が大きく変化していく中で物流に、どういうビジョンを描いていけばいいでしょうか。
特に地方は、今までのやり方だと成立しない世界がやってきつつありますね。鉄道の貨客混載もそうですし、昔ならあり得なかったと思いますが、日本郵便がヤマトのものも佐川のものも運ぶとか、さらに人も一緒に運ぶような状況になっていかないと成立しなくなります。
ただ、基本はそうなのですが、自動運転の時代が本格的に来たら劇的に変わる可能性もあります。ドライバー不足という問題に関しては、いち早く自動運転を実現したほうがいいのではないかという議論もあると思います。
うちは農業の物流改革を秋田県でお手伝いしているんですが、東京に生鮮品を運ぶのに新幹線を使えないかという話が出てくるんです。
ただ、規制がだいぶ緩和されて新幹線でも運べるようになり、今、1つの車両を全部荷物用に使うというPoC(概念実証)をやっているのですが、そこまで運び入れるための場所などが整備されていないのですね。そのインフラ整備はかなり大変で、高価なさくらんぼとかはいいですが、葉物のレタスなどを運んでもペイしないのです。
トラック以外のモードのインフラを整備していくのは結構大変そうなので、私も今は自動運転を実装するほうが早そうだと思っています。
第二東名隊列走行のような話でしょうか。
隊列走行もそうですし、中国の自動運転のレベル感を見ているとかなり高い。また、アメリカはこの2、3年で自動運転は一気にいくようです。最初は2030年でようやく高速道路での自動運転サービスレベルかなと昔は思っていたのですが、もう少し早くなる可能性もあるかなと思っています。そのぐらい世界のテクノロジーが速く発展してきていると思います。
構造転換は進むのか
物流施設の中の自動化、ロボット化は日本は大変遅れているんです。なぜ遅れているかというと結構悲しい理由なんですが、要は日本の働き手のクオリティーがあまりにも高すぎる、そして、かつ給料が安いからなんです。だから自動化する意味があまりないと聞いたことがあります。
アメリカなどは人の働き手は決まったことしかやらない。でも、日本人は「これも頼むよ」と言われると、安い給料でも無理してやってしまう。そういう労働者の負担の上にビジネスが成り立っていて、それが心地よすぎるので、機械が決まったことしかできないとなると導入する動機がない。
たぶんドライバーの話もそうで、アメリカのドライバーは荷物の上げ下ろしはしないじゃないですか。でも日本の人たちは、「前の子はやってくれたよ」と言われたらやってしまう。それが自動運転ではできなくなります。自動運転が普及しないのは規制だけの話でもないような気もするんですね。
「現場力高過ぎ」という話ですね。物流の倉庫に関して言えば、日本の多能工ぶりがすごすぎて真似できないというのは1つあると思います。
いろいろなところで自動化がどんどん進んでいく中、ドライバーの賃金は昔よりもむしろ下がっています。
ここ1、2年の社会の動きを見ても、スーパーのセルフレジや外食のタッチパネル注文など、自動化が増えました。自動化すると、エッセンシャルワーカーの仕事が減り、仕事をしたい人、仕事をしなければ生活できない人は多いのに、働き口は減るから、需給バランスで相対的に労働の価値が下がってしまう。先ほど、ドライバー不足で人が集まらないと言いましたが、実はそのような背景から、いろいろな業種から私が勤める会社にもドライバーをやりたいと言う人が来ます。ドライバーの賃金のほうがまだいいわけです。今、ドライバーの給料が安いのはそういう状態なんだと思います。自動運転が実現するともっと下がってしまうのではないかと危惧しています。
歴史的に、産業革命が何度かあったのですが、その過程で既存の職業が駆逐されていく葛藤があったと思います。今、49%の仕事がAIに置き換わると言われていますが、労働者がどんどん貧しくなっていくのか、豊かになるのかのプロセスは、学術的に見ても重要なテーマだと思います。
生産性と労働条件
統計的に見るとトラックドライバーの人数は毎年2%ずつ減っていっているんです。それは世の中の統計が正しければという前提に立つのですが、長野さんの周りでは増えているかもしれませんが、一応全体として見ると減っていっているというのが、まず1つ言えるかなと思います。
また、今、ヤマトがメール便を日本郵便に委託することになって、メール便の配送をしていた方たちとの契約を打ち切るというので揉めていますが、あれは要するに共配したということです。日本郵便はお手紙の配達が本業でしょう、うちのメール便も運んでよ、そうすれば積載効率がよくなるでしょう、ということです。
でも、共同配送すると、ドライバーはその分だけ不要になるから、それで問題になった。輸送効率を高める取り組みであるにもかかわらず、報道では、「ヤマトは人を切った」という言い方をされがちなんです。
効率化するということは必要な人の数が減るということです。長い目で見たらどう考えても人手不足になっていくわけですが、足元で何か施策を打ったその瞬間だけはダブついてしまう。その人たちからすると職が奪われたという問題になる。
ただ私の立場からは、それでもやらなければ駄目だと思います。日本は世界に開かれていて、世界中でテクノロジーは進化している。他の国では、ロボットに置き換わるような作業はどんどんロボットに置き換わって、その人たちは人間でしかできない仕事にシフトしている。日本が今までどおりの仕事をしていたら、100年後、生産性が高い国はどちらですかということです。痛みを伴う改革をしない限り、日本の生産性は落ちる一方だと思います。
長野さんのお話は、確かにその通りなんですが、その先を考えていくと、必要な労働量の絶対数が圧倒的に少なくなる未来はあり得ると思います。すると、たくさん労働してお金を得るという経済モデルでは、そもそもなくなる。
だからベーシックインカムのような話が出てきているのかもしれませんが、人が労働することで、富を蓄積していくようなモデル自体が、自動化等によって変わっていく可能性は確かに長期視点だとあると思います。過渡期はジョブのシフトをしていくことで賄っていくのでしょうけれど、そういうことがトラックドライバーの世界で起こるのかもしれません。
理屈としては生産性を高めていきながら、労働条件をよくする、労働時間を減らしていきながら、分配率は高めていくということを描きたいわけですよね。今の政策の全体の考え方も、理屈の上ではそうなっている。
ただやはり、現場に目を向けていくと、いろいろなところに摩擦が起こっていて、それにきちんと手当てができていないと、やはり社会的な抵抗感でつぶれてしまうということが起こりかねないということですよね。
一方で人間でなければできない仕事は、日本にまだ足りないのではないかと思うのです。一般の庶民がお金を持っていて、生き生きしていたのは、昭和の時代ではないかと思うんです。今は、本当はもっと生活が向上していかなければいけないのですが、昭和から比べると、エッセンシャルワーカーだけでなく、普通に働いている人の余裕がむしろ少なくなってしまっているのではないかという気がします。
あと生産性の話ですが、私が乗っているトレーラーはたぶんアメリカを走っているものと同じ大きさだと思います。この5年ぐらいでこのタイプは結構増えていて生産性は上がっているはずなんです。しかし、では1.5倍積めたら給料が1.5倍に上がるのかというと、ほとんど上がらない。
結局、運送会社の輸送力も余っているし、むしろ他の職種から来たいぐらいのところがあるから、賃金が需給関係で上がらない。本当に3割運べなくなったら、もっと運賃も上がるし、給料も上がると思います。
規制緩和の可能性
小さな運送会社の社長さんは、結構いい車に乗っていますよね。だから運賃が上がっても分配しないのではとも思うのですが。
小さい会社は結構分配しているんですよ。
本当ですか。そこは給料も高いんですか。
はい。なぜ小さな業者に人が行くかというと、分配率が高いんです。一部の業者は固定先から仕事をもらっているので、あまり営業をしなくても仕事が来る。
営業マンが要らないから、その分だけトラックドライバーにお金を配れるということですね。
極端な話、半分ぐらいあげてもいいわけです。残り半分で社長が外車に乗っている。雇われている人も納得して、大手よりも条件がきついけれど無理すれば高収入も望めるから働いている。それを大手は便利だから使っている。そういう構図になっています。
そういう構造で中小の運送会社の社長さんは満足しているから、DXしようというモチベーションがないんですね。
ただ、日本は個人事業主のトラックドライバーが認められていない。バンは別ですが、5台以上必要です。中国は8割、9割が個人事業主です。
でも、そのほうがデジタル化が進むんです。なぜなら、皆仕事が欲しいからスマホにアプリ入れて、自分でお仕事をもらいます。バンの人は運んだら運んだ分だけ儲かるから、一生懸命自分でスマホを使って営業をやっています。全員個人事業主になったら、実は変わるのではないかとも思います。
今、白ナンバーのタクシーを認めるかという議論が出てきていますが、トラックも白トラックがあり、これを認めたら、実はいろいろなアセットが余っているのではないかとも言われています。そういう規制緩和も考えていかなければいけないのではと思います。
白トラックは今のところ運行管理や車両管理が緩いので、むしろ緑ナンバー並みにきちんと管理するようにしてもらい、その代わり、営業していいとしたほうが、よほどよいと思います。
現在の白ナンバーは、会社の自社の荷物を運んでいるのはありますが、自由に仕事を取っているトラックはほとんどないです。
白ナンバーは基本はやってはいけないことになっていますね。ただ、卸だと自分の荷物なので白ナンバーで運べるんです。なので、在庫を買ってしまう運送会社という形で裏技を使いながら、構造を壊していくやり方はあるかもしれないですね。
物流倉庫のイノベーション
帖佐さん、日本の配送センターは海外に比べて人のレベルが高いから機械化が進んでいないとおっしゃいましたが、世界の先進的なものを日本にもし導入するとしたら、どんなことが可能になるでしょうか。
自動運転や機械化が進まないといっても数年単位の話で、長い目で見たらそちらの方向にいくことは間違いないとは思います。なので、いずれ誰も働かない、全てがロボット化した倉庫というようなものは遠くない将来できてくるという感じはします。
今の物流施設は、かなり労働環境はよくなっているとはいえ、オフィスビルで働くのに比べれば、まだ快適度合いは低いと思います。
弊社の物流施設は、僕は半分自虐的にガラパゴスと呼んでいるんです。メディアにも結構取り上げてもらっているし、来る人に感激してもらえるし、働いている人たちも嬉しそうに働いている素晴らしい倉庫なんですが、ではこれを海外で展開するかと考えたら絶対あり得ない、超オーバースペックだと思うんですね。
ここまできめ細かく働く人たちのことを考え、行き届いた物流施設は、日本人の琴線には触れる。だけど、海外へ行けば、いくらコストがかかっているんだ。そんなの要らないとなってしまうと思うのです。しばらくはこういったものが主流だと思いますが、中長期的にはまた大きく変わるステージがくるのではないかと思います。
今、なぜこんなハイスペックな倉庫を作っているかというと、物流会社や物流業界で働くことそのものの受け取られ方や働く人たちの意識を、変えていけたらと思うからです。3K産業と言われ、給料も上がりにくい業界だけど、すごく大事な社会インフラを担っていて、もっとリスペクトされるべき仕事をしているのだから、しかるべき評価をされるべきだと思うのです。
ドライバーがハッピーになる施策を
だいぶ論点は出てきたと思いますので、最後に政策とか、こういう商慣行を変えていこうよ、ということがあれば伺いたいと思います。
荷物のバッファをもっと増やさなければいけないということが1つあると思います。例えばカップ麵の会社で積み込みをやっているといろいろな業者の車が入っているので、トラックがどんどん来る。
でも、一社で何台分も積む会社では積み込み専門のドライバーを常駐させ、積み込みができた車はこちらへ置いておきます、というものが必要だと思います。次に、走る専門の人が出勤してきて積み込み済のトラックに乗って長距離を走る。そういうバッファが必要だと思います。
海上コンテナはそれがあるんです。船舶利用のフェリーも自分のタイミングでお客さんのところへ行って荷物を積んできて、トレーラーを港に切り離して帰る。でも、切り離しができないトラックではバッファがないのです。
トラックも最近は、スワップボディコンテナという荷台部分を切り離せる車両がありますね。納品先に着いたらすぐに荷台部分を分離し、車両本体は前回到着時に置いていった荷台を持っていく。そうすれば、ドライバーは運転だけに時間を費やせる。
もともとコンテナはそういう発想ですよね。
おっしゃる通りです。
それから、モーダルシフトの話ですが、政府の物流革新緊急パッケージの項目は、物流全体から見てボリュームの小さい分野への対策が目立ち、使えるのは大手だけです。船にしても運べるトレーラーは数百台とか数千台ぐらい。毎晩何万台というトラックが動いているので一部の解消にしかならない。下請会社が実運送をしているボリュームの大きい部分をどうやって改革していくかが重要だと思います。
2024年問題で労働時間、拘束時間が減らされ、仕事ができない分、ドライバーの手取りが減ります。この2024年問題は、本当は家に帰ったら自由な時間が増えるわけですから、ドライバーがハッピーにならなければいけないのに、誰もハッピーになりそうにない。
例えば夜の高速道路のパーキングエリアなど、法定で4時間に30分運転を止めなければなりませんが、トラックを停めるところがなく道路まで溢れていて、時々そこに追突して死亡事故が起きている。そういうところを、「10年でパーキングエリアの停められる台数を倍にします」とか、実際にドライバーが喜ぶようなことをしないといけない。
また、2023年に月60時間超の残業代は1.5倍にするとされましたが、それがほとんど実行されておらず、マスコミもほとんど言わない。
それがきちんと機能すれば、労働時間が減っても給料は変わらないはずです。
成熟社会日本と物流
帖佐さん、いかがですか。
待機時間の問題ですが、例えば大井ふ頭などはひどい渋滞するんです。要は小さな倉庫がたくさんあって、トラックバースは2、3個しかないような倉庫が延々と続いている。でも、誰も再開発しようとしないわけです。それは所有権が分かれている倉庫で、建て替える資金を工面できないとか、隣の地権者と一緒にやるという発想がないところに大きな原因があるんです。
例えばわれわれの相模原の一棟で10万坪以上あるような非常に大きい倉庫は、かなり広い屋上に駐車スペースがいっぱいできる。そうすると、ボディースワップはとてもやりやすい。
そういうゆとりのある設計にすれば、かなり待ち時間の効率化ができるのに、古くて小さい倉庫がずっと連なり、それぞれにトラックが1台、2台しか停められない。そうすると循環しなくなるわけです。ですので、倉庫1人1人の地権者が自分の土地を差し出して、4区画集まれば、あなたの土地代はこれだけ価値が上がりますよという施策ができればよいと思うんです。
土地代を上げるのは容積率を上げればいいだけの話なんです。例えば大体工業地域は200%の容積率しかないのですが、4区画以上集まれば300%にしてあげましょうというと、不動産の価格は、理屈上は1.5倍ぐらいになるはずです。大きな施設を開発するデベロッパーに対しては、駐車場の附置義務を厳しくすればいい。これは実現できる話ではないかと思います。
海外に目を向け、中国の自動運転トラックの状況を見ると、いつから日本は「憧れられる国」ではなくて、他国を「憧れる国」になったのでしょうかと思います。特に物流の領域においては憧れる一方です。たぶん新幹線を作った時は、こんなに素晴らしい鉄道は世界になかった。高度経済成長期、日本はある一時期とても憧れられる国でした。しかし、今や残念ながら中国に行っても相手にされない状況になっています。これでいいんですかと。
日本は世界でもっとも高齢化が進んでいます。だから、生産年齢人口が少なくても成り立つ社会を作り上げられれば、世界の最先端をリードできるはずで、その意味で物流はいいチャンスだと思っています。
物流は日本で一番労働集約的な産業のうちの1つですが、それが今ものすごい勢いで壊れようとしている。自動運転はこれを完全にひっくり返せる。労働生産性がガラッと変わる社会が到来する。ポイントは、テクノロジーがもたらすインパクトです。
もう1つ、物流はありとあらゆる産業につながっています。経済の血脈とも言われますが、ほとんどすべての産業が物を運びます。だから、物流が変われば日本の産業全体が変わります。
日本という国は成熟し、社会自体が高齢者です。だから、物流は動脈硬化しているわけですが、血管が生まれ変われば臓器も生まれ変わるはずです。なので、イノベーションしませんかと。進化に対しての投資をぜひ国や民間には期待したいですし、慶應義塾もそういう人を輩出してほしいと思います。
憧れられる国に再びなるために
私は運ぶことを最適化することを8年半ぐらいやってきていますが、業界の岩盤が分厚いんですね。小野塚さんの言う進化に投資をするためには、投資対効果の考え方を変えていかないといけないと、思っています。
例えばデジタル投資も、ロボティクスの投資も、それによって人がどれだけ削減できるか、人工(にんく)がどれだけ削減できるかですが、それに人件費をかけてROI(投資利益率)のRにしているんですが、そうするとなかなか効果が出せないということで、稟議が通らずに決裁されないケースが非常に多い。
それに対して、日本のデジタル系の人たちやロボティクスの人たちは価格を下げるんです。そうすると儲からなくて回らないから、いいものを作れないという悪循環に陥っていく。
進化させるためには投資が企業から出てこないといけないのですが、企業の中のロジックだと、どうしてもスタックしてしまう。ここを突破していかなければいけない。
最近、1つ光があるかなと思っているのが、物流に対する投資をサステナビリティー投資として捉え直すということです。企業は中長期的な視点に立って経営をしなければいけない。そういう視点に立った物流に対しての投資の枠組みのようなものを、政策として作れないかと思っています。物流に投資をしていくと中長期的にこれだけPLにもよくなるという考え方を編み出していくことが大事だと思います。
本当に様々な論点を出していただきました。マクロ的には2024年の需要と供給を全部積み上げると、もしかしたら足りているかもしれないという話をいただきましたが、ミクロのレベルで考えると、ムラやムダに使っている時間があって、逼迫した状況が想定される。
その中で、今までドライバーがバッファになっていたものを、駐車スペースやデータでバッファすることを考えたり、中小の倉庫の集約化や、駐車スペースのようなものを確保していくような形で、状況を変えていきましょうという話がありました。
テクノロジーが劇的に進んでいく中、実は未来志向のことがたくさんできるはずで、それを積極的にやっていきながら、アジア全体が少子化していく中、またカーボンオフセットのように環境のことも重視されていく中、物流だけでなくて、日本の経済システム全体が最適のものを作っていく。そうすれば競争力のあるステータスを得られる日本が憧れられる国に再びなる可能性はあるということでしょうか。本日は有り難うございました。
(2023年10月19日、三田キャンパスにて収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。