登場者プロフィール
高田 秀重(たかだ ひでしげ)
東京農工大学農学部環境資源科学科教授1984年東京都立大学大学院理学研究科化学専攻修士課程修了。博士(理学)。2007年より現職。専門は環境汚染解析。国連の海洋汚染専門家会議のメンバーとして、世界のマイクロプラスチックの評価を担当。
高田 秀重(たかだ ひでしげ)
東京農工大学農学部環境資源科学科教授1984年東京都立大学大学院理学研究科化学専攻修士課程修了。博士(理学)。2007年より現職。専門は環境汚染解析。国連の海洋汚染専門家会議のメンバーとして、世界のマイクロプラスチックの評価を担当。
島村 琢哉(しまむら たくや)
その他 : AGC株式会社取締役会長経済学部 卒業塾員(1980経)。大学卒業後、旭硝子(現AGC)株式会社に入社。執行役員化学品カンパニー企画・管理室長等を経て、2015年代表取締役兼社長執行役員CEO。21年より現職。公益財団法人旭硝子財団理事長。
島村 琢哉(しまむら たくや)
その他 : AGC株式会社取締役会長経済学部 卒業塾員(1980経)。大学卒業後、旭硝子(現AGC)株式会社に入社。執行役員化学品カンパニー企画・管理室長等を経て、2015年代表取締役兼社長執行役員CEO。21年より現職。公益財団法人旭硝子財団理事長。
山本 雅資(やまもと まさし)
その他 : 東海大学政治経済学部教授経済学研究科 卒業塾員(2008経博)。博士(経済学)。富山大学極東地域研究センター教授等を経て2021年より現職。専門は環境経済学。環境省 「循環基本計画に関する指標検討ワーキンググループ」委員。
山本 雅資(やまもと まさし)
その他 : 東海大学政治経済学部教授経済学研究科 卒業塾員(2008経博)。博士(経済学)。富山大学極東地域研究センター教授等を経て2021年より現職。専門は環境経済学。環境省 「循環基本計画に関する指標検討ワーキンググループ」委員。
塚原 沙智子(つかはら さちこ)
環境情報学部 准教授東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻修士課程修了。2005年環境省に入省。気候変動、化学物質管理、国際資源循環等の政策立案に取り組む。21年より現職。専門は環境政策。
塚原 沙智子(つかはら さちこ)
環境情報学部 准教授東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻修士課程修了。2005年環境省に入省。気候変動、化学物質管理、国際資源循環等の政策立案に取り組む。21年より現職。専門は環境政策。
大沼 あゆみ(司会)(おおぬま あゆみ)
経済学部 教授1983年東北大学経済学部卒業。88年同大学院経済学研究科博士課程後期単位取得退学。博士(経済学)。東京外国語大学助教授等を経て2003年より現職。専門は環境経済学。
大沼 あゆみ(司会)(おおぬま あゆみ)
経済学部 教授1983年東北大学経済学部卒業。88年同大学院経済学研究科博士課程後期単位取得退学。博士(経済学)。東京外国語大学助教授等を経て2003年より現職。専門は環境経済学。
2022/12/05
ダイオキシン問題から3Rへ
「循環型社会」は以前より日本の環境政策の柱の1つですが、近年、プラスチックの問題が非常に注目を集めるようになり、市民の関心も高まっています。また、今年4月からは「プラスチック資源循環促進法」が施行されています。
そして今日、多くのステークホルダーがSDGsを目標に掲げていますが「循環」についても目標12の「つくる責任、つかう責任」と合致しているだけではなく、プラスチックの問題が顕著になって以来、目標14の「海の豊かさを守ろう」とも関連しており、ますます重要なテーマになっていると思います。
今日は皆さまに、循環型社会をますます進展させていくために、現状をどのように捉えているのか、どういう課題があり、今後、どんな展望があるのかをお話しいただきたいと思います。
最初に、環境省で環境政策に関わってこられた塚原さん、日本の資源循環政策がどういった理念のもとで動いてきたのか、お話しいただけますか。
1950年代半ばからの高度経済成長期、消費の増加とともにゴミも急増し、処理困難物を含む産業廃棄物も増えました。その頃、環境省の政策は不適正処理への対策というところが大きかったと思います。
つまり不法投棄によって安く悪い処理をしてしまおうというものをどう規制するかということです。今はリサイクルに関する政策の話題も多いですが、不適正な行為の取り締まりから出発したので、廃棄物処理法(1970年制定)にもそういう考え方に基づく理念が表れていると思います。
転機は1990年代後半に浮上した焼却処分場からのダイオキシン(ヒトへの発がん性が疑われる物質)の発生が社会問題化したことでした。当時の環境庁にとってダイオキシン問題は衝撃が大きく、短期間に影響評価を取りまとめ、規制の整備(水大気の基準や焼却施設の構造、維持管理の基準など)をしなければなりませんでした。そこで苦しい思いをした中で、そもそもゴミを燃やすのではなく、減らさなくては駄目ではないか、という話になり、処理よりも3R(Reduce、Reuse、Recycle)が優先される、と循環型社会形成推進基本法(2000年制定)において明記されることになります。
まずリデュース(ゴミを減らす)、リユース(再利用する)が重要で、それからリサイクルがある。そうした意識も浸透していきました。「もったいない」という言葉が注目されたり、小学校などでの教育、家庭でのゴミの分別も諸外国に比べ非常に細かく実施され、自動車や家電など物品ごとのリサイクル法もたくさん出てきたわけです。
今、話題になっているプラスチック資源循環法は、個別リサイクル法のアプローチとはかなり異なっています。まず、素材に注目している点が一番大きい。また、製品の設計段階から廃棄段階までのライフサイクルを見るというところが、もう1つ大きな違いです。そして、プラスチックを使っているものすべてをコントロールの範囲に入れ、いろいろなプレーヤーを対象にしているのが大きな特徴かと思います。
このように、これから素材に注目した資源政策的な考え方が主流になっていくのではないかと見ています。しかし、使用済み製品は、資源的な価値のある部分とゴミとして処理される部分が混ざった状態で排出されます。その中から資源を取り出すためには技術が必要で費用もかかり、リサイクルに経済合理性がない場合もあります。
だからといって丸ごと外国に処理を依存してしまうと、資源もろとも適正処理やリサイクルの技術などエコシステム的なものが全部流出してしまうので、処理技術を国内でしっかりと維持するという基盤が崩れてしまう可能性があります。
私は、環境省で有害廃棄物の輸出入を規制するバーゼル条約を担当していました。日本から海外へ雑多な状態の金属スクラップやプラスチックの混合物(雑品スクラップ)が輸出され、有価で取引されていたのですが、資源も流出しますし、発展途上国での不適正なリサイクルや処理による汚染や健康被害が生じるという問題がありました。
その時、資源の流れに大きな影響を及ぼすものとして実感したのは、資源価格です。資源の価格が上がったり下がったり、逆有償(廃棄物処理の取引において、手元のコストがマイナスとなる状態)になったり有価になったりする中で、環境汚染を防止し、資源循環を促すという方向性と既存の法律がうまく嚙み合っていなかった点があり、非常に大きな課題でした。
最終的には、雑品スクラップは、有価であっても取り扱いを規制できるよう法改正によって対応することになりましたが、廃棄物処理やリサイクルに関わる事業を支配する経済には、根本的にそういう問題があるということを強く意識しています。
大量生産という構造からの転換
転機になったダイオキシンの問題が大体2000年頃ということです。京都議定書採択も1997年ですから、日本では環境の時代というのはそのあたりから始まったのだろうと思います。
島村さんは素材メーカーで長らく様々なビジネスを展開されてきましたが、経済界の資源循環への認識についていかがでしょうか。
歴史的には石油化学がブームになり、プラスチックが世に出てきた時、それが汎用化していくことによって使い捨ての経済というものが、消費の利便性などからどんどん普及していったのだと思います。つまり、大量に作ることによってコストを下げるという基本的な考え方で、ワンウェイでどんどん作って儲けていく。これがまさに日本ではオイルショック前の基本的な考え方だったのでしょう。
併せて、日本の場合は資源が少ない国なので海外から資源を輸入し、加工して輸出することで外貨を稼ぐという基本的な経済構造を作った。その過程においてですが、海外は1つの会社が非常に大きく、化学プラント、コンビナートを1社で持っているところが結構多いですが、日本の場合は各社のサイズがあまり大きくないので、小さな会社が集まって大きなコンビナートを作るという発想でした。
Aという会社が物を作り、そこから出てきた副産物をBという会社の主原料にしてまた物を作っていくという仕組みが、日本の化学コンビナートではでき上がっていた。それは、廃棄物を減らすことにおいては非常に効果があったと思うのです。ある意味、非常に合理的で、物を大切に使って生産物を作るというプロセスだったと思います。
これが大きく変わったのが、1970年代の2回のオイルショックです。これでまず原料調達の苦しさが出てきた。もう1つ1985年のプラザ合意によって一気に円高に移ることで、それまでの日本の産業界を支えていた、輸出で外貨を稼ぐというシナリオが崩れていったわけです。
円高に振れると、輸出競争力が一気に半分以下になってしまった。ところが生産能力はそのまま。しかも各社が廃棄物を引き取り合いながら作っていたものが、それぞれの会社の立ち位置が変わってきてしまい、コンビナートの精神が機能しなくなってきたのです。
歴史的にはそのような変遷があるのですね。
そのようなことから、1980年代以降、産業界でもできる限り、廃棄物を減らしていくようになります。まず、1つの製造プロセスにおける歩留まりを上げていくことによって廃棄物そのものを減らし、かつ製品の生産性を上げる。昔のようなコンセプトだと規模の経済は取っていけないということが少しずつ分かり始め、メーカーは皆、「量から質への転換」と言い出しました。少ない量でも利益を高めていくためには、付加価値の高いものを作っていくしかない。
もう1つ、今までは工場で作る時のコストは重要視していた一方、それ以外の周辺のコストに対して目があまり向いていなかった。物流費やリサイクル、廃棄物処理費などです。それが工場で1つの物を作る時に、すべての費用を全体で見ていかなければいけないと意識が変わり始めました。法的にも、CO2の問題を含めて、いろいろな規制がそれを後押ししているのかなと思います。
その中でAGC株式会社での取り組みはどのように変化されていったのですか。
わが社のメインはガラスの製品です。建築用のガラスは寿命が非常に長いので、リサイクルには向いている。建築材料の廃材ガラスをカレットとして新しいガラスを作る時の原料の一部として使うことは長い間やっています。とはいうもののリサイクル率は7割までいっていないので、それを上げていく取り組みを続けています。
これは建築のガラスだけでなく、例えば自動車のガラス、それからビンも同様です。ヨーロッパは、容器はプラスチックよりもビンのほうが多い。なぜかというと、ある意味ではリサイクルをし続けられるからです。日本の場合、ペットボトルが主流になってしまっている。
ビンのリサイクル率は、今、74パーセントぐらいで、それをより進めています。もちろんリサイクル自体もそうですが、CO2削減の意味からもエネルギーをそれだけ使わなくて済むのでいいわけです。そこがわれわれの取り組んでいる大きなところです。
ガラスは極端な話、いったん嵌めると家やビルが壊れるまではそのまま使われ続けるので長寿命製品であることは間違いない。最近、われわれがやっているのは長寿命化だけではなく例えば特殊な金属コーティングをすることでエネルギーの消費を減らすことです。
家の中の温度と外界の熱の移動は、窓ガラスから8割が出入りする。なので断熱性の高いガラスにすることによって断熱効果が高まり、最終的にCO2削減につながります。ガラスを2枚合わせたペアガラスは今、新築の家では9割を超えるぐらいの普及率になってきました。
過去にシミュレーションした時、1枚のガラスの家の窓ガラスを全国ですべて断熱性の高いエコガラスに交換すると原発2基ぐらいの発電量の節減になる。最近は換算基準が変更になったようで、これを言うと文句を言われるんですが(笑)。
やはりいかにエネルギー消費を減らしていくかというリデュースですよね。プラスチックだけの問題ではなく、環境全体の問題として取り組むことを考えると、例えばガラスを5枚にすると断熱の壁と同じ効果があるようです。強度を持たせるためのフィルムを挟んだりして、三層、四層にすることは、もう実用化が始まっています。
素材型の産業はいかに無駄をなくすかということと、リサイクル、リユースというところで循環型社会に必要な素材を提供していくことが必要なのです。
マイクロプラスチックの影響
一昨年、レジ袋が有料化されるという動きが出てきたのは、プラスチックの海洋汚染の問題が大きかったと思います。高田さんは長らくこうした海洋汚染の状況をご研究されてきた中で、自然界の汚染の現状をどのように認識されていますか。
2022年3月の国連環境総会でプラスチック条約(法的拘束力のある国際約束)の交渉を開始する決議が行われました。プラスチック汚染の地球規模での広がりとその影響の深刻さを反映したものです。環境省の1つのきっかけがダイオキシンということでしたが、もう1つ、プラスチックに関しては、環境ホルモンの問題が1990年代に出てきたことも重要なことだと思います。プラスチックはそれ自体が環境ホルモンになるものもあり、添加剤が環境ホルモンそのものであるものがいくつもありますが、いまだにそれらは使われています。
環境ホルモンは最終的に生態系の中に入って人に曝露されます。特にプラスチックの廃棄物は、マイクロプラスチックになって魚介類に入って、そこで溶け出し魚介類の身に蓄積し、食物連鎖を通して人に曝露される。その視点が、環境省の政策で非常に弱い。これは何度も私どもが委員会で言っているのですが、変わらない。環境ホルモンの問題が無視されてきたというところが一番大きな問題だと思っています。
今日もここにペットボトルの水が置かれている。これは置いた方が悪いというより、そういうことを意識啓発しない環境省が問題だと思うのです。アイテムごとにみると、海のプラスチック汚染で一番多いのがペットボトルです。しかし、そこには何も切り込まない。リサイクルをすればいいのではないかという発想が問題だと考えています。
リサイクルしても、使っている以上、飲めばこの中に入っているマイクロプラスチックや添加剤等の化学物質がわれわれの体に入ってくるリスクが上がる。最近の中国の研究では、水道の水で暮らしている人とペットボトルで水を飲む人を比べると、糞便中のマイクロプラスチックの量が、ペットボトルで飲む方のほうが多いという結果も出ています。
サーキュラーエコノミーというのは、私はリサイクルとは違うと思います。素材の選択を替えることと素材自体の社会の中での回し方を変えていくのがサーキュラーエコノミーで、単にリサイクル率を上げれば、それでサーキュラーエコノミーが達成されたと考えていたら間違いだと思います。ペットボトルをいくらリサイクルしても、使い続ける限り、人間が化学物質に曝露されてしまうことは変わりない。
どれぐらい人への影響があるのかについてはまだ国際的にもわからない部分が多いけれど、欧米では予防的に、「使わないでいいところは減らしましょう」という方向で動いてきています。
ヨーロッパでガラスビンが多いというお話でしたが、それは単にリサイクル率や価格の問題だけではなく、プラスチックを飲食に使うことに対する危機感がヨーロッパの方のほうが高く、日本は低いので、使い続けているのだと思います。
温暖化の問題から考えても、ガラスのビンのほうが優れているのは、私もその通りだと思います。ペットボトル1本を作ってリサイクルすると140グラムのCO2が発生します。ガラスの製品であれば80グラムで抑えられるのです。
高田さんは海岸に漂着しているペレット等を集められて、海の汚染調査をされていますが、その研究でどういうことがわかるのですか。
海岸に漂着しているプラスチックを拾い、その中に含まれている有害化学物質を測っています。いろいろなものが含まれていますが、大きく分けると2種類で、1つは周りの海水から付いたもの。もう1つはプラスチックにもともと添加剤と言われる薬剤が練り込まれていて、それが残留しているものです。最近、その残留に注目しています。
プラスチックは浮いて遠くまで流れるという性質があります。だから離島、例えばイースター島でも小笠原でも見つかります。そういう所で見つかったプラスチックにも、何百kmも離れた工場での製造時に配合された添加剤が残留していることも最近わかってきました。プラスチックが添加剤等の化学物質を遠くの離島まで運んでいるのです。もともと汚染がないような脆弱な生態系にリスクを与えていることが見えてきました。
海洋生態系ということですね。
はい。ただ、このマイクロプラスチックは身近な所にもあります。われわれが出す下水にも含まれていますし、路上にも落ちていて雨で洗われて川や水路に入っていきます。それらが最終的には海洋生態系に入っていきます。
このような汚染がいつから始まったのか調べるために、皇居のお濠で泥(地層)を測ってみました。地層の深い所、江戸時代にはもちろんマイクロプラスチックは含まれていません。1950年代になると少し出てきます。2000年代になると、それが10倍以上に量が増える。われわれが大量にプラスチックを作り、消費することによって汚染が急速に進んでいることがわかってきました。
大気中にも漂っているんですよね。それがお濠の中に堆積してしまうということですね。
そうです。それに加えて、道路や地面の上に落ちているものも雨が降ると洗い流されて、地層の中にたまっていきます。まさに人新世ですね。人の影響が地層の中まで入ってしまう時代の象徴だと思います。
二律背反を分析する視点
山本さんはずっと廃棄物の研究をされてきました。その中で日本の資源循環政策の特徴や、資源循環の動きはいかがでしょうか。
高田さんがおっしゃったリサイクルがサーキュラーエコノミーのゴールではないということは国際会議の議論などでも痛感しています。でも、われわれは急に理想にはたどり着けない。実際にはそこに到達するまでの道筋が大事です。明日どうするかを考えるという意味でいうと、ある程度、今日ここにペットボトルがあるのはしょうがないのかなという気もする(笑)。
そういう背景の上でお話したいと思うのですが、まず、リーケージと呼んでいる政策の漏れの問題があります。
塚原さんからダイオキシンの話がありましたが、1990年代は焼却施設が非常に小型だったので、どうしても不完全燃焼してダイオキシンが出てしまう。それを大型化する補助金が2000年頃から環境省から出ます。
ところが、同時にゴミを減らさなければいけないという3Rの各種法律もできてゴミは減った。つまり燃やすものが減っていく中で、焼却施設はどんどん大きくなっていった。その結果、焼却炉のキャパシティが余って、一部の自治体のリサイクル率が低くなってしまったことがありました。
1000度ぐらいだと完全燃焼してダイオキシンが出ないのですが、燃やすものがないからと焼却を止めると、いったん200度から600度ぐらいの危険なところを通るわけです。そしてまた火を点けるともう一度通る。ダイオキシンが出たら大変だという現場の人の思いからすると、ずっと回し続けたいという思いがある。
このようにあちらを立てればこちらが立たずというようなことがあるのですが、経済学はそういうことを結構上手に分析するので、そのような視点が大事ではないかと思っています。
また、先ほど島村さんからコンビナートのお話がありましたが、非鉄の金属精錬は銅精錬、亜鉛精錬、鉛精錬あたりが日本だとまだ残っていて、リサイクルでお互いの廃棄物を融通し合っています。銅精錬から出てきた亜鉛を別会社の亜鉛精錬の人に渡している。日本全体のネットワークでやってぎりぎり国際価格に届くのです。だからそのネットワークが、ひとたびどこかで切れると一気に価格競争力がなくなってしまいます。
最大の危機は、韓国が違法な処理で低価格で日本中から廃鉛バッテリーを買い漁ったことでリサイクルする鉛バッテリーが国内になくなりそうになった時です。2016年6月に韓国国内で不適正処理が摘発されたタイミングで、早急に環境省が動かれてなんとか維持できましたが、今後、貿易が不確実になってくる中で、こういうネットワークの維持は資源循環の世界の中では大事なのではないかと思います。
日本のゴミ処理
日本のゴミ処理の特徴はいかがですか。
日本のゴミ処理は、断然、焼却処理が多い。80%ぐらいがそうで、OECDの他国はほとんどが30%、20%台です。焼却処理に非常に依存しているのが日本のゴミ処理の最大の特徴です。
そこでエネルギー回収してリサイクルをしていると日本は主張しますが、これは実はあまりよくない。というのは、国際的には一定以上のエネルギー効率がないとエネルギー回収をしたことにならないのです。ゴミ発電のエネルギー効率は決してよいとは言えず、通常焼却扱いになってしまい、制度的にはリサイクルにならないので、日本は燃やし過ぎであることは間違いないと思います。
ただ一方で、他国は埋め立てに依存していますので、それも決して環境によいことではなく、そこから温暖化されていないとも言えない。リサイクルなのか、ゴミそのものを減らしていくのか。このあたりの議論は各国の産業の特徴、気候なども含めて難しい話しになるのではないかと思います。
エネルギー効率が悪いというのはそうなのですが、プラスチックに関して言えば、エネルギー効率がよくても石油からできたものを燃やしているだけでプラスチックになるわけではないので、リサイクルではないですよね。
おっしゃる通りです。現状、効率が低い場合、エネルギーリカバリーにもカウントされないということです。
熱回収を、「サーマルリサイクル」という誤った和製英語を作って国民に誤解を与えてきた。最近は環境省は使うのをやめていますが、ある時点まではそれをやっていたので、それも日本でこれだけプラスチックが氾濫する一因になったと思います。
プラスチックを燃やすことはリサイクルではない。サーマルリサイクルというのは誤った言葉なのだということを、もう少しわれわれ専門家が社会に浸透させていかないといけないと思います。
塚原さん、今の話を聞いて行政側の立場から何かコメントなどはありますでしょうか。
まず、個人的には非常にマイクロプラスチックの問題を懸念していて、ヘチマを育ててナイロンたわしの代わりにしたり、マイクロプラスチックが流出しないフィルターの付いた洗濯ネットを使うなど、気を付けています。次世代のことを考えると、小さなことでも影響の蓄積を減らしたいという思いからです。
化学物質の製造量、使用量は右肩上がりに増えています。環境ホルモン以外にも、影響や存在実態がはっきり分かっていないものがあり、課題です。例えば、ナノ材料の評価手法や環境中の医薬品の存在実態について国際的な議論があり、我が国でも知見の集積に努めています。
プラスチックの添加剤の影響は、まだ確実なことは分かっていません。しかし、プラスチックは生活の中に深く入り込んでいるため、添加剤の曝露は確実に増えています。曝露量のモニタリングや健康影響に関する研究や議論を進めていかなければいけないと思います。
私は、環境省では化学物質にまつわる未解明の問題へのアプローチを担当していました。その1つとして、予防的な取り組みの考え方に基づく、環境中の化学物質による子どもの心身の健康への影響等の解明を目指す大規模な疫学調査(エコチル調査:子どもの健康と環境に関する全国調査)が挙げられます。
全国の約10万組の親子の協力を得て、お腹の中の赤ちゃんが13歳になるまでを追跡します。エコチル調査のデータを用いた研究成果として、最近、名古屋市立大学が、市販のお弁当や冷凍食品を食べる頻度が多い(週に3回から7回以上)妊婦は、少ない(週に1回以下)妊婦に対して、死産の確率が2.6倍になるという分析結果を発表しました。
この発表を受け、プラスチック容器を電子レンジでチンするところから添加物などが出ているのではないかという報道もありましたが、その研究では、まだ化学物質との因果関係までは検証されていません。社会経済的な要因、生活習慣などの要因も複合的に影響していると考えられるため、はっきりと原因を特定し、予防策を講じるためには、さらなる研究が待たれます。
高田さんが指摘されたように、燃やして適正処理をしたり、リサイクルしたりすれば解決というのは違います。プラスチックのリサイクルでは添加剤も再生プラスチックとして一緒にリサイクルされる可能性がありますが、添加剤の中に有害なものが含まれていれば、リサイクルによって濃縮するおそれがあります。
熱回収(プラスチック資源循環法では、リサイクルと区別しています)も温暖化を進める要因となります。根本的には、やはり使用を減らさないとならない。特に、プラスチックはワンウェイの利用が多すぎます。
予防措置という考え方
一方でいわゆる専門家や製造に直接関わっている人だけが循環型社会を作っていくわけではなくて、一般消費者、市民、社会が作っていくわけです。島村さん、素材の販売先は企業が多いかと思いますが、相手企業側の資源の循環に対する対応は変わってきているとお感じになられますか。
経済界が利便性とともに環境を意識し始めたのは最近のことであって、昔はとにかく大量に生産して消費することが第一でした。それが今、十分ではないけれど、自動車メーカーさんもバンパーのリユースをするなど、やれることを少しずつやり始めている。これ以上、廃棄物を増やさないという意識はかなり上がってきているのかなと感じます。
1つ気になっているのは、環境問題に対しての考え方はかなりEUが先行していることです。われわれからは突飛に感じても、彼らとしては予防措置的にこういうことをやっていかなければいけないということで先に出してくる。一方、日本の場合は対症療法で何か問題が起きたらそこでやっていくというスタイルです。
これは国民性の違いなのかもしれませんが、環境問題も、「何か起きたらやる」という今までのやり方を変えなければいけない時期にきているのではないか。ヨーロッパは先に予防措置を出し、そこに向かって産業界が技術開発をしていかなければいけないということになっている。最悪の状態から引き算していくという政策の考え方です。
日本も、カーボンニュートラルでは、2050年にはゼロにすると曲がりなりにも言ったわけで、これに向けていろいろ考えなければいけない。今までの日本のやり方だと、「2050年カーボンネットゼロなんか無理」とまず思う。だけどゼロにしなかったら世の中が持たないということから発想して、それまでに何を開発していかなければいけないのか、どういう作り方をしなければいけないかと考えることが、やっと始まったという気がします。
消費者の意識で言えば、ヨーロッパはカーボンニュートラルのベースとして、非常に大規模に家の窓のリフォームを始めるところが多いようです。
また、寒い国は窓経由で熱が出入りしてしまうので、窓を小さくしがちです。ところが窓を小さくするとメンタルヘルス上よくないのです。窓が大きいことによって人間の気持ちというのは和むのだそうです。北欧では、冬に自殺者が多かったのが断熱性の高いガラスで窓を大きくしたことにより、自殺率が減ったというデータもある。
そのように単にエネルギーの効率だけでなく、ヒューマンウェルビーイングの1つのアイテムとして、耐熱性が高い窓ガラスは有効です。
市民の意識は変わったか
ネオニコチノイドという農薬がミツバチを失踪させるということで世界的に大問題になったことがありましたが、それが完全には特定されていない段階で、EUはネオニコチノイド農薬使用を制限・禁止した。なぜ多くの国、利害関係者が集まっている中で迅速に意思決定できるのか、と思いましたがそのような背景があるのですね。
海洋のプラスチック汚染が社会問題化し、多くの人が知るようになったのは、ストローが鼻に刺さったウミガメの写真の影響も大きかったと思います。高田さんは、市民の方の意識、行動が変わってきていると感じていますか。
プラスチック汚染は生態系全体に広がり、クジラやウミガメ、海鳥から魚や貝など600種以上の海洋生物の体内からプラスチックの検出が報告されています。いろいろな海洋生物の被害によって、市民の関心は高くなってきていると思います。
海の生物の問題だから海岸清掃を行い海をきれいにすることに注力する人もいますし、海洋生物の被害の元がどこにあるのかを考えて、自分たちの生活の中で見直せるところは見直そうと、使い捨てのプラスチックはなるべく使わないようにする方もいます。
ただ海洋生物の問題だけにフォーカスしてしまうと、極論すれば、陸上でしっかり集めて大規模な焼却炉で高温で燃やし、海に出ないようにすればいいでしょう、と考えてしまう人もいると思います。しかし、それだけでは私たちの健康を守ることはできません。実際に人間の血液や脂肪中からもプラスチックと関連化学物質が検出されています。そこまで考えて、プラスチックの使用自体を避ける人も増えてきています。
一昨年にレジ袋の有料化が始まりましたが、意識が変わったと感じられますか。
定量的には確実に減ったと思います。市民講座等でもレジ袋有料化を話題にする人は多いですし、まず自分ができるところで、マイバッグを持ち歩くようにしています、という方は多い。
他にもたくさんプラスチックの容器や包装があるから他も減らそうという方向に向く方もいれば、他にもあるんだからこれをやってもしょうがないとレジ袋を使い続ける方もいますが、やはり有料化が引き金になって関心を持つ人は増えていると思います。
資源循環政策というのは、一般の人の生活に密着するものですよね。ある意味、努力を強いるので、市民の意識のあり方も非常に関わってくるものではないかと思います。
レジ袋の話は、それで頑張る人と自分だけやってもしょうがないと思う人がいるのは、その通りだと思います。レジ袋の有料化、あるいは禁止をした結果、ゴミ袋の購入が増えることも起こっています。また、スーパー備え付けの透明の袋の消費がすごく増えているという話もあります。
とはいいつつも、レジ袋有料化から、いよいよ環境のためには消費者の利便性を損ねてもいいことがあるんだ、という空気は醸成されてきたのではないでしょうか。環境経済学では環境にやさしい消費者みたいなことはあまり考えないというスタンスだったのが、今はそうではなくなってきたのではないかと思っています。
CO2削減ではScope3という基準があります。自社の努力によってScope1で減らすのは、日本企業はとても得意です。しかしScope2、Scope3となってくると、お得意さんや消費者の協力なしにはだんだん減らせなくなってくる。そのコーディネートは日本の企業や行政は苦手にしていたのではないかと思いますが、廃棄物版のScope 3 がサーキュラーエコノミーのような気がします。
各会社が長寿命のものを作るだけではなく、消費者側がその後、それをどう使うか。例えばマイボトルにしても、買って10回しか使わなかったらペットボトルのほうがいいわけで、逆に環境負荷が高くなってしまう。作った後、販売した後のその先に、消費者も含めて全体の中できちんと運用されるという前提でないと達成できないことをサーキュラーエコノミーは目指そうとしているのだと思います。
これをどうやるかはすごく難しいけれども非常に重要な問題で、ぜひ環境省には頑張っていただきたいです。
環境行動を変えるもの
ゴミの調査をされていて、EUの市民と日本の市民との意識の違いは何か感じることはありますか。
平均値で言えば、そんなに変わらないと思います。ただ数字を出すと、消費者の分別の問題ではないのですが、焼却率がとても高く、また日本のリサイクル率は家庭ゴミはとても低い。これもいろいろな理由があると思いますが、そういう意味で環境先進国とは見られていないような圧力は感じます。
ただ、ヨーロッパの一般家庭はゴミを分別していないですよね。
そうです。日本に比べると家庭ではあまり分別しないで中間処理施設に持っていく場合が多いです。そのほうが消費者が努力しなくていいので集まる資源物が多いんですよ。消費者に分別させると面倒くさいからと全部燃えるゴミにしてしまって、集まってくる資源が少ないという。
一方で、分別意識の高さは日本の中のいろいろな環境行動に結びついていると環境省は思われていると思うのです。
おっしゃる通りで、3Rもずっと標語のような感じでやってきましたし、レジ袋の件は、2000年代から環境省のモデル事業などで、自治体やスーパーマーケットでの取り組みを応援してきました。全国的な規制に踏み込めたのは、海洋プラの問題が世界的に注目されたことが大きいと思います。一方で、レジ袋はプラゴミの総量の中で2%ぐらいしかないということ で、海洋プラスチック問題の根本的な解決にならないという批判もされました。
しかし、国連のレポートによると、日本人1人当たりのプラスチック製容器包装の廃棄量は米国に次いで世界2位(2014年のデータ)とされています。使い捨てのいわゆるワンウェイ利用が定着していることが問題なのであり、レジ袋はその象徴のような存在と言えます。
消費者の意識がじわじわ変わってきているのは私も感じています。ワンウェイプラの例を挙げたように、日本のプラスチック対策は遅れているので、プラ新法ももう一歩踏み込むべきだったと言う人もいますが、ひとまずは、いろいろやれるという土台ができ、努力義務から進めていくフレームワークができました。消費者意識の変化によって、いわゆるソフトローのように、皆、何かやらなければいけない、となれば、多くの企業や自治体が取り組むようになるのではと期待しています。
最近、私はソニーのワイヤレスイヤホンを買ったのですが、すべて再生プラスチック製で、しかも白い。これは結構すごいことだと思います。CMや広告ではそういう情報は少なく、基本的には機能性の高さがアピールされていますが、メーカーによると、アンケートや消費者レビューでは、環境配慮が評価されているそうです。
このように、いわゆる意味消費、エシカル消費みたいなものに若者が反応しているという実態があります。これから10年もすれば、消費者の非常に重要なポジションを占めてくる若者世代がそういう消費スタイルを始めているということに大きな変化を感じます。環境省も将来世代の当たり前が変わっていくことを意識しながら、そもそもこうあるべきだという将来ビジョンを持って政策を動かしていくべきだと、あらためて感じています。
もう1点、私はSFCの中で、エネルギーや資源利用の現状評価をして、脱炭素や資源循環のあるべき姿を議論し、具体的に変化を起こしていきたいと思っています。自分でやってみると分かるのですが、エネルギーや資源の話は自分たちだけで完結するものではないので、どうしても地域とのかかわりを考えていかなければならなくなります。
例えば、SFCの建物の屋根のほとんどに太陽光パネルを載せても、賄えるのは需要の2~3割です。足りない分を遠くで発電して運ぶのはロスが大きい。そこで、近くに未利用資源がないかと探してみると、SFCから出る生ゴミや近くの養豚場の家畜排せつ物などのバイオマス資源がある。これを使ってなんとか発電ができないだろうか、などと夢のある話を考えています。狭い日本の中で、資源を自給しながら本当にゼロエミッションを達成しようと思ったら、地域の人たちと情報を共有し、お互いにできることをやっていかないと絶対にできないと思うのです。
環境省職員としても、環境だけを前に出すのではなく、その地域のベネフィット、健康になったり、皆が地域とつながってハッピーだとか、素敵なものを身に着けて嬉しいというようなことも含めて、サステナビリティという言葉を広く捉えて、いろいろな価値を総合的に語っていけるようになりたいと思います。
また、環境省は循環型社会という言葉でずっと政策を打ってきたのですが、最近、名古屋大学の谷川寛樹先生たちが、「ストック型社会」という言葉を掲げて研究をされていて、はっとさせられました。社会にはたくさんのストックが生まれていますが、それをきちんと評価してメンテナンスをして長く使う。どこに何があるかを見える化する。経済成長期にいろいろなストックをため込んできた日本は、これからの資源枯渇の中でその活用を考えるべきでは、と提案されています。
循環型社会は政策を牽引してきた言葉ですが、一人一人が今あるストックに目を向けるという考え方の転換も重要だと思います。
自前主義から抜け出せるか
そういうお話を聞くと未来が明るい感じがします。そういうビジョンの中で、循環型社会を実現するための課題を議論しなければいけませんね。
島村さん、産業部門で資源循環を考えた時に、リサイクルだけではなく、どのようなネットワークのような仕組みやシステム、制度が、今後、必要になってくるでしょうか。
化学プラントは皆、小さなところが寄せ集まって最後まで使い切るというエコサイクルで回っていたのが、それぞれの企業の環境が変わったことによって、できなくなってしまった。もう一度それを違った形でやっていけるようにしたいですね。
脱炭素で言えば、Scope3は、それこそ連携だと思うのです。すべてが自前主義だとオープンイノベーションもなかなかできない。例えば素材メーカーでも地域間スワップによって輸送量を減らし、CO2削減に繋げていくような取り組みがあってもよいのではないでしょうか。
メーカーとしての原価低減も、日本人は一生懸命頑張る、と言うのですが、ヨーロッパの人は、作業を標準化するわけです。日本の場合は匠(たくみ)、向こうは仕組みです。日本は、これはブラックボックスだから見せられないとなる。
資源の循環のことも、自社の置かれている状況だけではなくて、連携をしてお互いの力を借りながら、進めていく必要があります。2050年にカーボンネットゼロにしなければ、企業はもうリングアウトで商売できないのですから、これは死活問題です。そういう意識でやっていかなければいけない。その時に「俺のところだけが」という意識では駄目です。
特に違う業界になるとまるで話が通じない。異業種だからこそうまく利用できる部分があるのかもしれないので、そのネットワーキング化と具体的なアクションプランをお役所に考えてよというのではなく、民間企業そのものが自分たちの実状に合った形で、こういうことができると、むしろ環境省や経産省に伝えていくことが必要です。
私は旭硝子財団の理事長もやっているのですが、環境危機時計というのを毎年全世界の様々な世代の方々に聞いています。若い人は環境に対する意識、関心は低くないと思います。その人たちに環境に対しての意識を強く持ってもらう働きかけをもっとお金を使ってやるべきなのではないかと思います。
技術に頼らず仕組みを変える
高田さんがデザインする資源を使う社会、そしてその課題はどのように捉えられていますでしょうか。
プラスチックを石油から作る限りは2050年にリングアウトしてしまう。石油に依存した製品を作っている限り、もうヨーロッパでもアメリカでも買ってもらえない。
では石油に依存しないバイオマスから作るプラスチックに全部変えればいいのかと言えば、バイオマスといってもセルロースですので、今日本で使っている1000万トンのプラスチックを全部セルロース由来に置き換えようとすれば、大規模な森林伐採が起こってしまう。そういった理由から、今よりも大幅にプラスチック全体の使用量を減らさなければいけない世界が2050年までに来ると思います。
そのためにはどうするか。いろいろな策が必要だと思うのですが、一番必要なのは、生鮮食料品や生活必需品をモノカルチャーで世界の限られた場所で大量生産し、それをグローバルに輸送してきた経済の仕組みから、ある程度の地域単位で物を循環させるような社会の仕組みに変えていかなければいけない。今までのグローバルな経済の仕組みは短期的な経済効率はよかったが、感染症のアウトブレークや国際武力紛争などの危機に対して脆弱であり、持続可能ではないことが、最近の事例から明白になっています。
そして、グローバルに物を回している限りは、どうしてもプラスチックの梱包材や包装が出てしまう。地産地消とまでは言いませんが、地域単位で物が回るような形の世界に変えていく必要があります。その中にプラスチックの問題も落とし込んで解決していくべきではないかと思います。特にカーボンフットプリントを減らしながら、プラスチックの使用量を減らしていくとすると、地域単位で物が循環し、分散型で循環型の社会を目指していくことが必要だと思います。
バイオマスなどの生分解性プラスチックを夢の技術だと思っていて、あれを使えば大丈夫だと思っている人もいます。しかし、あの技術はあくまでも補完的なものですね。
その通り、補完的な技術だと思います。生分解性で、かつバイオマスベースのものはプラスチックを使うとしたら1つの必須な形だとは思うのですが、海に出れば分解しない環境もあります。私達も生分解プラスチックを東京湾の海底でマイクロプラスチックとして検出しています。陸上でしっかり集めて、そこで分解させていくような仕組みも一緒に作らないといけませ ん。素材の改良にだけ依存するのは危険だと思います。
大事なのは、素材を変えながら社会の中での物の回し方を変えていくような仕組みを考えていくことだと思います。社会全体で変えなければいけないので簡単にはできないと思いますが、2050年までまだ時間はあるので、そこに向けて、官民を含めて回し方を変えていくことをしないと本質的には解決できないと思います。
技術があるから大丈夫ということは絶対になくて、社会の仕組みや行動も併せて変えていくべきだと。地域循環共生圏のような仕組みが必要だということですが、循環型社会というのはネットワーク、コミュニケーションなどいろいろな要素が必要だと思うのです。山本さんは、どういった制度づくりが大事だと思われますか。
難しい質問ですね(笑)。地域循環共生圏はすごくいいアイデアだと思います。しかし、環境省が打ち出しているアイデアの核の1つに廃棄物処理施設が入っていたと思うのですが、それは地域が小さ過ぎると思います。規模の経済性でいうと2倍から4倍ぐらいの圏域でやるべきなのです。現行の焼却施設が多すぎで、今の規模でやってしまうと上手くいかない。
今は廃棄物処理で1トン燃やすのにかかる費用がすごく高い。焼却がいいか悪いかは別として、もっとたくさん集めて大規模に処理したほうが効率的な焼却の仕組みになるので、圏域を考える時に、もう少し経済効率も考えた形で組めるような政策が大事かと思います。
素材に頼るのは難しいというのは、まさにその通りだと私も思います。違う視点から言うと、実はセルロース系や生分解性のプラスチックが、現行のリサイクルの仕組みに入ると異物になってしまうのです。だからトランジションのところでもなかなか入れるのが難しい。
先ほど高田さんがおっしゃった、社会全体で仕組みを変えなければいけないという典型例の1つだと思います。
塚原さん、今、行政ではどのような新しい仕組みの構造に向かっておられますか。
今のお話の地域循環というところが一番大きいと思います。もともと地域脱炭素の話で始まったと思いますが、資源循環、それから生物多様性の問題が全部つながる流れになってきています。脱炭素も生物多様性も資源と深く関わっているので、地域の議論の中心に資源循環がくるのだろうと思います。脱炭素は太陽光パネルを載せるだけでは変化を実感しづらいのですが、資源循環は目に見えやすい形で変化があるので、一人一人のプレーヤーが取り組みやすいのではないでしょうか。
ただ、市民も排出事業者も、廃棄物は出してさえおけば、知らないうちに行政や業者さんが処理してくれているという感じで済ましているところに非常に問題があると思います。私が取り組んできた海外輸出の問題で言えば、金属もプラスチックも、20年というスケールで処理を中国に依存してきたわけですが、日本人のほどんどはそのことを知らなかった。
実は、その間、失ったものもすごく大きい。私は、小型家電リサイクル法を作る際、その前提として海外に家電が流出している状態はまずいから海外流出を止めなさいと言われ、一生懸命雑品スクラップの問題をやったんです。そのころ、中国側でも雑品スクラップもプラスチックも輸入を禁止するという話になった。ただ日本ではそうした物のマーケットがなく、エコシステムを作ってこなかったから、いきなり、「国内循環だ」と言っても、やれる環境が整っていないのです。
再生材の需要を創出し、まずは人を育てる、企業を育てることもしっかりと地に足を着けてやっていかないと、結局、国内で処理困難物が山積みになってしまうことになります。
長期的に資源というものを見て、資源の重要性や資源戦略なども併せて資源循環政策をやっていく必要があると思っています。それを解決するにも、循環のスケールを最適化し、ローカル経済に落とし込んでいくのは重要なアプローチだと思っています。
循環型社会のデザインのために
需給のバランスが変わるとあっという間に技術が衰退してしまったり、技術革新が進まなかったり、産業構造が不可逆的なところにいってしまうということはよく聞きます。特に資源循環、つまり静脈部分だと顕著なのかもしれないですね。
最後に、循環型社会のデザインの課題はこれだということを、一言ずつおっしゃっていただければと思います。
資源循環の前提となる静脈側と動脈との1つの大きな違いが、発生量をコントロールできない、あるいは遅れて出てくるということがあります。生産はやめると言ったらその段階でなくなりますが、ゴミは後からどんどん出てくる。そうすると適正処理の確保が重要です。
サーキュラーエコノミーのようなきれいな絵を描きつつも、どうしてもコントロールできずに出てくるものもあるので、適正な処理のための視点は忘れないでやらないといけない。
例えば、容器リサイクル法の中に入らずに、もっと上流でメーカーが、廃ペットボトルのきれいなものだけが欲しいから先に売ってくれ、と持っていってしまうこともあるわけです。その一方でシステムの中に汚いプラスチックが残されてしまう。そういった汚いプラスチックが上手く処理されないような状況が起こると、それはやはりまずい。その両にらみは忘れてはいけないのではないかと思います。
作って売ればいいという、いわゆる株主資本主義の最たるところに生きていた企業が姿勢を変えなければいけない時代になっている。本当に公益資本主義といいますか、ステークホルダー資本主義というところが、今、求められています。
その時、作ったものを原料の調達、開発から廃棄までを、ライフサイクルアセスメントではないですが、CO2だけではなくすべて企業は自分で認識し、必要な対策を打っていくことが求められる時代だと思います。
ただ一社だと力が弱いので、企業あるいは社会の中でのネットワークをもう一度再構築することによって、新たな循環型社会を目指していく。これがまさにシュンペーターが言っている新結合だと思います。これを無視する企業は今後、社会ではビジネスができない状況になってきたという認識を常に持つべきなのではないかと思います。
「誰も取り残さない」という原則
環境省のプラスチック問題への視点は、どうしても廃棄物管理、あるいは資源循環の視点が強過ぎて、プラスチック、特に化学物質の生物への影響という視点が非常に弱いと思います。そこを強化していかないと、循環はしているものの、系の中を流れる化学物質の量が変わらない、むしろ増えてしまい、生態系、あるいは人への有害化学物質の曝露が増えてしまうと思います。有害化学物質の曝露という視点は忘れてはいけないと思います。
そして、何か具体的な影響が出ているから規制する、というのではなく、影響が出やすい方にすでに影響が出ているから規制する、という予防的な観点が大事だと思います。
SDGsには17の個別目標の前に、「誰も取り残さない」という大きな目標があります。化学物質の影響は個体によって非常に差があるので、影響の出やすい、化学物質過敏症の方などにすでに影響が出始めているのは事実です。われわれの体の中にプラスチック由来の化学物質が蓄積しているのも事実です。両者の因果関係のとれる事例はまだ少ないですが、弱い方には影響が出始めています。子宮内膜症の患者さんの血液からプラスチック添加剤が検出された事例や、先ほどの、妊婦さんの死産の原因としてプラスチック製品が疑われるような研究成果も出てきています。
予防原則、あるいはSDGsの「誰も取り残さない」という原則を考えて、ヨーロッパのようにもう少し化学物質の問題も予防的に扱っていかなければいけないと思います。
プラスチック条約の交渉の中でプラスチックに含まれる化学物質、特に添加剤をどうするのか、が課題になっていると聞いています。プラスチックに含まれる化学物質の問題は廃棄物管理、資源論と同等に扱って、循環型社会を作るという中に入れ込んでいかなければいけないと思います。
では、最後に塚原さん。今は環境情報学部教員のお立場なのに、環境省のお立場としてお聞きしてしまって申し訳ないのですが、行政側からのコメントをお願いいたします。
生産と消費、それから廃棄のそれぞれの距離がすごく離れてしまったのが、そもそもの大きな問題なのだと思います。消費者から見て、どこで作ったか分からず、捨てた後はどこへ行くか分からないという消費の仕方が、リスクを大きくしてしまった。予防原則なども含めてリスクへの向き合い方を考えていかなければいけないと思います。
SDGsの採択が追い風となり、環境省が直に企業とお話しすることも増えてきています。これから、政策も規制型ではなくガバナンス型が主流となっていくのではないでしょうか。環境省から企業に対しても、もっと踏み込んだアイデアやコラボレーションの方法を提案できたらいいなと思います。そして、何より行政の役割として重要なのは、これから活躍できる企業が育っていくような公正な競争ができるビジネスの土台を作ることだと思っています。
加えて市民への目線で言えば、脱炭素も資源循環も、暮らしに密着した、例えば食べ物やファッションの問題と深くかかわっていることに目が向くような発信をしていきたいと思っています。
環境が危機的状況にあるのは間違いありませんが、環境ばかりで旗を振っていても響きません。皆が幸福を追求し、その結果として環境問題が解決されるような、そんな未来を描ける政策が求められていると思います。
資源循環という言葉から想起されることをはるかに超えた、いろいろな要素が絡み合っているのが資源循環をきちんと実現した社会なのだということを、今日、皆さんに教えていただいたような気がします。
非常に示唆に富んだお話をいただきました。私も大変勉強になり、お礼申し上げます。
(2022年10月24日、三田キャンパスにて収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。