慶應義塾

【特集:投資は社会を変えるか】座談会:自分のため、社会のために考える新しいお金の循環

登場者プロフィール

  • 上口 洋司(かみぐち ひろし)

    その他 : 金融広報中央委員会事務局長(日本銀行情報サービス局長)経済学部 卒業

    塾員(1993経)。大学卒業後、日本銀行入行。2004年コロンビア大学大学院公共経営修士。13年企画局企画調整課長、15年金融機構局金融第一課長、18年鹿児島支店長、20年金融機構局審議役を経て22年より現職。

    上口 洋司(かみぐち ひろし)

    その他 : 金融広報中央委員会事務局長(日本銀行情報サービス局長)経済学部 卒業

    塾員(1993経)。大学卒業後、日本銀行入行。2004年コロンビア大学大学院公共経営修士。13年企画局企画調整課長、15年金融機構局金融第一課長、18年鹿児島支店長、20年金融機構局審議役を経て22年より現職。

  • 浦田 千賀子(うらた ちかこ)

    その他 : EY新日本有限責任監査法人公認会計士経済学部 卒業

    塾員(2006経)。2007年新日本監査法人(現EY新日本有限責任監査法人)入所。不動産業などの会計監査に携わる傍ら、書籍の執筆、雑誌への寄稿やセミナー講師も行う。同法人ウェブサイト(企業会計ナビ)編集委員。

    浦田 千賀子(うらた ちかこ)

    その他 : EY新日本有限責任監査法人公認会計士経済学部 卒業

    塾員(2006経)。2007年新日本監査法人(現EY新日本有限責任監査法人)入所。不動産業などの会計監査に携わる傍ら、書籍の執筆、雑誌への寄稿やセミナー講師も行う。同法人ウェブサイト(企業会計ナビ)編集委員。

  • 米良 はるか(めら はるか)

    その他 : READYFOR株式会社代表取締役CEO経済学部 卒業メディアデザイン研究科 卒業

    塾員(2010経、12KMD修)。2011年日本初のクラウドファンディングサービス「READYFOR」をスタート。14年に株式会社化し、代表取締役CEOに就任。内閣官房「新しい資本主義実現会議」民間議員。

    米良 はるか(めら はるか)

    その他 : READYFOR株式会社代表取締役CEO経済学部 卒業メディアデザイン研究科 卒業

    塾員(2010経、12KMD修)。2011年日本初のクラウドファンディングサービス「READYFOR」をスタート。14年に株式会社化し、代表取締役CEOに就任。内閣官房「新しい資本主義実現会議」民間議員。

  • 岩田 匡矢(いわた まさや)

    その他 : 株式会社電通研究所・センター 経済研究所インバウンド観光研究センター顧問

    塾員(2017文)。Global Gift Gala in Tokyo 2022 日本開催総責任者。2019年よりカンヌ国際映画祭でのPRイベント・ローマ法王来日時の社会貢献活動・英国王室主催ポロイベントに従事。電通ビジネスプロデューサー。

    岩田 匡矢(いわた まさや)

    その他 : 株式会社電通研究所・センター 経済研究所インバウンド観光研究センター顧問

    塾員(2017文)。Global Gift Gala in Tokyo 2022 日本開催総責任者。2019年よりカンヌ国際映画祭でのPRイベント・ローマ法王来日時の社会貢献活動・英国王室主催ポロイベントに従事。電通ビジネスプロデューサー。

  • 藤田 康範(司会)(ふじた やすのり)

    経済学部 教授

    塾員(1992経、97経博)。2006年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。工学博士。専門は応用経済理論・経済政策。慶應義塾大学経済研究所国際ビジネス創造研究センター長。

    藤田 康範(司会)(ふじた やすのり)

    経済学部 教授

    塾員(1992経、97経博)。2006年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。工学博士。専門は応用経済理論・経済政策。慶應義塾大学経済研究所国際ビジネス創造研究センター長。

2023/04/05

企業の投資行動の変化

藤田

現政権において「貯蓄から投資へ」というキャッチフレーズが採用され、またESG投資といった動きも広まり、投資が注目されていると思います。従来、投資マインドがあまりないと言われていた日本人も、クラウドファンディングやチャリティーの拡がりなども含め、自分のため、また社会のためのお金の使い方に新しい動きが出てきているのかと思います。

そこで本日は、様々な立場の皆様にお集まりいただき、あらためて日本人の広い意味での投資、お金の使い方・活用の仕方について、考えていく機会にしたいと思います。

まず投資と言うと個人に目が行きがちですが、大きな割合を占めるのが企業の投資です。企業の戦略行動としての投資も最近変化していると思うのですが、公認会計士の浦田さん、どのようにお考えでしょうか。

浦田

私はEY新日本有限責任監査法人というところで公認会計士として働いています。2007年に入所以来、一貫して携わっているのが、一般事業会社の監査業務です。上場会社はルールに基づき会社の業績を開示する財務諸表という書類を作成するのですが、それが正しく作られているかをチェックするのが監査業務のイメージと思っていただければと思います。

企業の戦略行動としての投資の変化ですが、会社ごとに資本戦略の考え方は様々ですので、ここでは私が個人的に感じたことを申し上げます。

私が入った2007年は、ちょうどライブドアの堀江貴文氏がメディアで持て囃された時期で、それを機にベンチャー投資がメジャー化し、増えてきた時期でした。私の担当は若い会社が多かったのですが、そういうところはエンジェル投資のように、設立したてのベンチャー企業に、上場するまでずっと投資をし続けているようなイメージでした。

ところが最近、昔ながらの伝統的な会社でも、こういったベンチャー投資のようなことを行う傾向が見られるようになりました。特徴としては、会社のビジネスとシナジーがありそうな若い会社に対して、何社か小口の投資をするというパターンです。

コロナ禍の少し前くらいから、そのような投資行動をする会社がちらほら出てきた印象があります。市場全体の傾向としてどうなのかは正確には申し上げられないのですが、私の個人的な観測値の範囲だと、少しずつ会社の投資マインドに変化が出てきている印象はあります。

寄付文化を根付かせる

藤田

一方で最近、特に若い人たちを中心としてお金の使い方についての考え方が変化してきているような気がします。米良さんは金融の最先端で長年ご活躍されてきて、この10年ぐらいで変化を感じていますか?

米良

私は2011年に日本で初めてのクラウドファンディングのサービスとしてREADYFORをスタートし、会社は2014年に創業したので今、9期目になります。

私は、当初あまり起業家に対してよいイメージがなく、どちらかというと従来の日本人に近い感覚だったので、あまり近寄りたくない金の亡者のようなイメージを起業家に対して持っていました(笑)。

10年前にクラウドファンディングのサービスを始めたときは、日本ではそういったサービスがありませんでした。当初は、日本は寄付文化がないし、何かの事業を応援するような感覚は日本では生まれないんじゃないか、と言われました。ただ、アメリカには35兆円の寄付の市場がありますが、10年前にスタンフォードに留学した際、私は日本には文化がないというより仕組みがないことが大きいと痛感したんですね。自分の出したお金が具体的にどういう形で使われ、どうやって社会にインパクトを与えたりするかという手触り感が全然ないなと。

一方、アメリカはそういう工夫がとてもされている。だから、少なくとも日本の中で、手触り感があるお金の流れを実感したいと思う人は多いのではないか、と思い、クラウドファンディング事業を立ち上げたのです。まだ道半ばですが、金銭的なリターンがない中、年間、100億円ぐらいはお金を流しているので、当初より、市民権を得られてきたのかなと思っています。

それを支えてきたのは、やはりリテラシーがある若い人たちだと思っています。彼らはテクノロジーに当たり前に触れていて、スマホで何でも買うし、インターネットがメインのツールになっているところが、この10年間の大きな波だったなと思っています。

さらに、彼らはお金の使い方について、SNSや自分の周りの人たちが勧めてくれているものに対して、共感したり応援したいという気持ちが強い。そこが一定の若い層の人たちに受け入れられたのだろうと思っています。

ただ、最近、私よりももっと若い、Z世代と言われる世代は社会貢献意識が高いという調査結果が出ていますが、本当にそうなのかなと思うところはあります。日本が厳しい状況の中、今までのやり方ではないお金の使い方を若い人たちが考えているという感じに近いのかなと思うのです。

ですので、私たちは、むしろ比較的、高齢者層の方々がもっと若い世代に対してお金を循環させていく仕組みを作りたいと、考えているところです。

Galaイベントの開催

藤田

金融の最先端と言えば、岩田さんは昨年12月に日本で初めてのGalaイベントを開催されました。Galaイベントとは何かも含めて説明していただけますか?

岩田

私は、大学卒業後、マーケティングやブランディングなどを学びたいと思い電通に入社しましたが、2019年、藤田先生が経済研究所内にインバウンド観光研究センターを発足するタイミングで、立ち上げのサポートと顧問ということで参画させていただきました。

この研究センターは、コロナ前、インバウンド事業をメインに、富裕層が日本で寄付をする仕組みやビジネス実装ということをメインにプロジェクトを立てていたんですが、海外を廻る中で、Gala(ガラ)という文化が欧州には根付いていると知りました。

このGalaイベントというのは15世紀、貴族の方々が夜、ドレスアップをして社会貢献や自分のビジネスネットワーキングのために、ある場所に集まって寄付をする催しで、欧州には今でもそれが根付いています。

例えばカンヌ国際映画祭とか、ファッションショー、ユニセフのGalaとか様々なGalaがあるんですが、日本にはそもそもそういう富裕層の方が集まる場所が全然ない。そのような場所で、一気にお金が落ちて、それが社会に還元されるインパクトがあるイベントを作れないかと思いました。そして、3年かけて「Global Gift Gala Foundation」という財団と連携し、昨年12月にアジアで初めてのGalaを開催しました。

それはいろいろなハリウッドスターや財団のファウンダーの方々を日本に呼ぶ、華やかな催し物ではありますが、ワイワイ騒ぐだけではなく、ライブオークションがあったり、社会貢献に対するスピーチをして、一晩で7000万円くらいのチャリティーが集まったのです。

そういう文化事業の責任者をやらせていただきましたので、今後も社会貢献の文化を日本にどうやって根付かせていくかを考えていければと思っています。

私はゆとり世代とZ世代の間ぐらいで、生まれてから日本が景気がいいという時代がないまま27年間過ごしてきましたが、Z世代の人たちは、情報が社会に溢れている中で、手っ取り早くお金持ちになりたい、そしてその後でどうやってそれを社会に還元しようか、といったマインドがかなり強いのではないかと思っています。

お金の流れの選択肢を提供する

藤田

このようにいろいろな新しいことが金融の世界で起きていますが、投資にはリスクが伴います。金融広報中央委員会は、金融教育に力を入れておられて、慶應義塾においても「金融リテラシー」という講座をつくってくださっています。

上口

私は大学卒業後、日本銀行に入りましたが、金融政策や金融システム周りの経験が長くて、金融教育に携わるようになったのは去年からの約1年間に過ぎません。

このため、私が金融教育について語るのはおこがましいのですが、私自身は「貯蓄から投資へ」というキャッチフレーズはあまり好きではないところがあります。もちろん、政府として今、目指しておられることを否定するものでは全くないのですが、例えば家計の貯蓄手段となっている預金がそのまま投資に振り替われば社会的に望ましいのか、と言えばそれは本当にそうなのかと思います。いわゆる「貯蓄から投資へ」というキャッチフレーズは、そうなったほうが望ましいという理屈が必ずしもはっきりしないところがあるように感じます。

「わが国の経済成長力が低下しているから資産所得を増やすんだ、積極的に投資して世界の成長の果実を得るべきだ」という観点は重要だと思います。ただ、同時に世の中の人々がそれを「本当に望むのか?」という点も大切なポイントではないかと思います。

そういう意味では、先ほどからお話が出ているように、いろいろな価値観がある中で、それを実現する術がない時に、お金の流れに関してより幅広い選択肢を提供するという発想で変化していくことが望ましいのだろうと思います。

その中で、私がまずお伝えしたいのは、「金融リテラシーとは何か」ということです。少し硬い表現で言えば、金融リテラシーというのは、「人生とは切り離せないお金というものについて健全な意思決定を行い、1人ひとりが自立的かつ安心、豊かな生活を実現するための力」というのが一般的な定義だと思います。

そういう意味では、金融商品に関する知識や、投資、資産形成に関する知識ももちろんその中に入りますが、それだけではなく、家計管理とか生活設計とか、いわゆる消費生活の基礎や金融トラブルへの対応も幅広く含んだ概念です。

ですので、「貯蓄から投資へ」ということを考えていくのであれば、まさにそういう正しい知識に基づいて正しい判断をする、本人の価値観に基づいて、本人が望む判断をする前提として、きちんとした知識なり制度が整っているという状態をしっかりつくっていくことが大切だと思います。そのためには金融リテラシーの向上を図る必要があるということだと思っています。

藤田

「お金の使い方」や金融リテラシーの高さについて世代間の違いを感じていらっしゃいますか。

上口

金融リテラシー調査というものを、金融広報中央委員会でやっているのですが、その結果を見ると、全般に高齢者の方のほうが金融リテラシーは高い傾向にはあると思います。

これにはおそらく理由があります。金融リテラシーというのは、まさに人生でのお金の使い方の決断とリンクしている。例えば結婚とか子どもが生まれたとか、子どもが学校に行くといった様々なライフイベントを経験すると、否応なく金融の判断をする事態に直面し、その時点で自分のこととして金融の問題を考える機会が生じる。そこで能動的に学ぶので金融リテラシーが高まるのではないかと思います。

ただ、一方で、最近、特にコロナ禍以降、金融詐欺の類いもデジタル化が進んできているので、若い世代と比べてデジタルリテラシーが低い高齢者はターゲットとして狙われやすい。高齢者は金融リテラシーがあっても、デジタルリテラシーが低いというところでだまされるような問題も出ています。

また、デジタルリテラシーが低いために金融サービスの恩恵を十分に受けられない高齢者のサポートも重要です。

グローバルにも、コロナ禍以降、金融教育の強化の重点として、デジタルリテラシーと金融リテラシーの2方面作戦で高齢者にも若年層にも対応していかなければいけないといった議論がなされています。

スタートアップへの投資

米良

先ほど企業の投資の話の中で、ベンチャー投資の話がありました。私がこの世界に入った時は「ベンチャー企業」と言われていましたが、今、「スタートアップ」と呼び名を変えて再ブランディングしている状況ですが、日本はスタートアップを応援していく波は周回遅れの状況です。もちろんこの6年ぐらいで投資額も年間で8000億円ぐらいと大きくなってはいるものの、グローバルに見ると投資額はまだまだ小さい。

アメリカのスタートアップへの投資は、機関投資家が多いのですが、一方日本の場合は、大企業がシナジーを期待してスタートアップへの投資をしていくCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)と言われるお金が、非常に大きな割合を占めています。

なので、投資をして短期的な利益をスタートアップからもらうというよりは、むしろ企業が持続的に成長していくために、一緒に連携していく先としてスタートアップを見ているところが、日本の特徴かと思います。大企業がしっかりシステムの中に入って、スタートアップをしっかり育てていきながら新しいイノベーションをつくっていくのが、日本ならではのお金の流れであると思います。

当初はベンチャー企業は大企業を敵対視しているように世の中では思われていたようですが、現状は、むしろ大企業が一緒にスタートアップのエコシステムを作っていきながら、社会にイノベーションを起こしていくことが、重要なポイントとなっています。

私は最近、インパクトスタートアップ協会というものを立ち上げました。そこでは社会課題解決をしていくようなスタートアップを取りまとめて、そこに対してインパクト投資という、純粋なリターンも期待しつつ、同時にインパクトが出ているような企業に対して投資をしていくという新しい方法論の普及を行っています。

今までは、社会貢献や社会課題解決は非営利的な組織、あるいは国や自治体がやっていました。でも、テクノロジーやイノベーションを使って課題解決をしていく主体としてのスタートアップは非常に重要で、それに対して、お金の流れを上手くつくることには、企業の興味や共感もとても高いんですね。

個人も意識改革が進んでいると思いますが、企業も長い目で見て、そういったイノベーションスタートアップを応援していこうという空気ができつつあるのが、最近の傾向かと思います。

岩田

社会課題解決で言えば、いわゆる日本の職人さんが今、高齢化してしまって、例えば、有田焼の窯元とか、酒蔵の杜氏の方などが亡くなってしまうと、日本の何百年という文化が絶たれてしまう。そこで、スタートアップがいわゆる新規のデ・ブランディングやプロダクト開発をして、富裕層の人に買ってもらい、それを社会に還元するところが出てきています。

20代から30代前半の人が多いのですが、お金儲けではなく、最終的にどうやって社会に還元できるのか、それに対してどこからお金をもらえばいいのかを一貫して考えられる世代が出てきている印象を持っています。

では誰から出資を受ければいいのかということに対して、現状はかなり選択肢が少ないので、そういった機会が増える世の中に日本もなっていけばいいなと思っています。政府は現在、年間8000億円規模のスタートアップへの投資額を2027年度に10兆円規模にするという方針を掲げましたので、これをどうやって落とし込むかまできちんとやっていくことが大事かなと思っています。

金融教育の必要性

藤田

スタートアップへの投資は進んでいるということですね。一方、浦田さんのところでも金融教育は行われているのでしょうか。

浦田

金融教育は弊法人も課題を認識しており、力を入れている分野です。日本人が今まで投資に対して硬直的だった背景には、お金や投資のことについてよく知らない、ということが全般にあるのだと思います。もちろん先ほどお話しされたように、年齢が高いほど金融リテラシーが高いというのは事実だと思うのですが、その人たちが積極的に投資をするかというと、おそらくしていない。何かだまされそうとか、怖い、よくわからない、とネガティブなところが潜在的にあるのかと思います。

あとは日本人の特徴なのかもしれませんが、タブーとまではいかなくても、今まではあまりお金のことを人前でいろいろ言うのはよろしくないという意識があったと思うのです。しかし、人生の様々な局面でお金の知識は必要ですので、金融リテラシーや金融教育はますます必要になっていると実感しています。

私は、弊法人で出版委員会というものに入っていて、出版社さんと書籍の企画をすることもあるのですが、ある出版社さんから、お金の絵本みたいなものは作れませんか、と言われたことがあります。要は、小学生や中学生でもお金の仕組みがわかるような本を作りたいということでした。

その背景を聞いていると、中学・高校の学習指導要領に今、「会計情報の活用」というものが入り、学校で教えることになっていると。しかし、それを教える先生たちが会計やお金の仕組みをよくわかっていない。だからそこで、わかりやすいお金のハウツー本みたいなもののニーズがあるのではないかということでした。

私は会計や監査と言うと、何か難しそうと思われることが多く、もっと簡単にかみ砕いた本があればと常々思っていたので、このような流れはすごく嬉しい。やはり簡単に金融とか会計、お金のことを知りたいという潜在的なニーズがあるのだと確信しました。

また、金融庁でも学生や若い層をターゲットにしたお金の仕組みのようなハウツー動画を出していることを最近知り、衝撃を受けました。お金の仕組みについては、難しい知識を高い知識レベルの人に向けて説明することを優先する傾向が今まで強く、それゆえに基礎的な話を知りたいと考える、ある意味、会計や金融の難しさの壁に当たって諦めてしまっている人も相当数いるのではないかなと思っていました。

そういったことが金融リテラシーを根付かせることへの弊害になってきたのであれば、その参入障壁、つまり参入レベルを下げることも必要と思います。

実践的な金融教育を

藤田

なるほど。上口さん、高齢者の方々ほど株を買うといった傾向はあるのでしょうか?

上口

そうした話はあまり聞きません。それは選好の問題かもしれないですね。

藤田

金融リテラシーはあっても株を買わないのですね。リテラシーだけの問題ではないということかもしれないですね。

米良

私は金融について理解するためには、資本家側に回るのが一番早いと思うんです。

私が今、金融をある程度理解できたと思っている理由は会社経営をしているからです。会社経営と同じように自分の財務状況を見ていくと、何に投資して、何にコストがかかって、どうやってお金を増やしていくかということがすごく理解できるようになるんですね。

もちろん座学もいいと思いますが、私はより早い時期から起業のパイロット版みたいなものをたくさんやるのが一番早いのではないかと思っているんです。法人格の登記をしなくてもいいので、まず何かの事業を始めてみましょう。その事業で利益を出してみましょう。その利益をどうやって増やすか考えてみましょう、とやっていく。

結局PL(損益計算書)とかBS(貸借対照表)というのは、それをどう表現するかという話なんですが、私も学生の時は大変恐縮ながら全然わからなかった(笑)。でも今、経営をしているとそれが理解できるようになったので、体験を通して理解していくことをもっと行う必要があるのではと思っています。

浦田

同感です。公認会計士協会や弊法人でも高校や中学校で会計を教える授業を企画するのですが、座学だけではなくて自分でお店を経営するというようなロールプレイングをさせるんです。

もちろん学校の授業の中なので過度にお金の生々しい話はしませんが、運転資金をどう調達するかから始まり、何を作って売って収入を得るか、でも物を作るには人件費も電気代もかかるからコストはどう把握しますか。そして収入からコストを引いた利益はどのように使いますか、収入とコストはどのように記録して残しますか、という体験を通して体感的に会計リテラシーを根付かせるように工夫しています。

上口

金融教育を巡る最近の状況についてお話しすると、成年年齢が引き下げられ、学習指導要領が改訂されて、金融経済教育というものがより明確にカリキュラムの中に示されました。

これは、1つは公民みたいな形で、いわゆる金融政策やマクロ経済政策、財政政策といった類いのものが入っている。そして、これは結構驚かれますが、家庭科の中で、生活設計の一環として、資産形成の視点といったお金の話が入っている。でも家庭科の多くの先生は調理や被服の分野と比較して、いわゆる金融や経済に関する知識はあまり持っておられないわけですね。

先ほどから出ているような、実践的な事例の中で金融を学んでいくという試みは、まさに金融庁もやっていますし、金融広報委員会などでもやっているんですが、なかなか難しい壁もあるんです。まず、それこそ自分の問題として捉えないと、ほとんど記憶に残らないんですよね。

今、金融リテラシー調査などで、金融教育を受けた人の比率は7%程度となっています。でも、本当にそんなに低いのかというのが私の率直な印象です。金融リテラシーの定義が広く、小中高の各学年、複数の科目で少しずつ教えられており、「金融教育」とのタイトルで集中的・包括的に教えられるケースはごく稀なため、生徒に「金融教育を受けた」との印象が残りにくい面もあるのかもしれません。

投資を普及させるためには

上口

もう1つ、よく言われる議論では、わが国においては投資の文化が根付いていなくて多くの人が預貯金をしているので、それを変えるべきだということだと思います。ただ、一方では、日本人は損失回避の選好が強いので、その結果としての家計の合理的な選択である可能性もあります。それが、仮に金融知識を十分持ったうえでの人々の判断だということならば、それは必ずしも見直す必要はないという議論も成り立つと思います。

しかし、私の認識では、そうではなく、1つ目に、人々の金融リテラシーが必ずしも水準として高くなく、きちんと判断をする前提としてのリテラシーが十分根付いているとは言えない。

2つ目に、金融機関の商品販売の姿勢において、顧客本位とは言い難いような金融商品の販売姿勢があったのではないか。これはよく言われる話ですが、そうであるが故に、投資と言うと、「うさんくさい」といった感覚が多くの人に根付いてしまっている。そのあたりは制度的に直していかなければいけない部分です。

3つ目に、NISAとかiDeCo(個人型確定拠出年金)といった制度があるとはいえ、NISAが恒久化されたのは今回の法改正で初めてですので、長期に分散、安定、積立投資を実現するような制度的枠組みがわが国には必ずしも整備されていなかったということもある。

私自身は、この3点についてしっかり直すべき部分は直し、その上で家計がそれぞれの判断で選択することが望ましいと思います。それでも、家計の選好次第では、結果は大きくは変わらないということもあるかもしれませんが、それ自体は特に問題とすべき話ではないのではないかと思っています。

では、仮にそうであった場合、投資を誰がやるのかということが問われるかもしれませんが、投資の主体が家計ではなくて金融機関が間に入るとか、事業会社が入ることを考えればいいということなのではないかと思っています。

藤田

私もいろいろなご縁があって、慶應の一貫教育校で、最初に女子高、次に塾高、中等部という順で金融教育を行わせていただいています。そこで、イノベーションと金融リテラシーが大事だと主張しているんですが、中学生も高校生も、どちらかというとイノベーションよりも金融リテラシーのほうに興味があるようです。

「株を買うように」とまとまったお金をご両親から与えられている人もいます。だから相当変わってきているなとは思います。株の話をすると、うさんくさいと思われるかと懸念していたら、逆に評判が良いようです。もちろん危ないなとも思っていて、「儲ければいいってもんじゃない、世の中に貢献するという視点が不可欠」ということはかなり強く言っています。

米良

お金の使い方に詳しくなっていく人が増えるのはすごくいいことだと思う一方で、資本主義社会にはお金がお金を生む構造があると思うんです。なので投資を受ける、まさにイノベーションを起こす側の人が増えていってほしいなと思いますね。

藤田

そうですね。また、金融教育に関してはなるべく自分事にしたほうがいいですよね。お店をやってみるとか確定申告してみるとか。

米良

それこそ小さな額でも何か投資をしてみるのもよいと思います。NISAもそうかもしれないですが、結構、小口投資のやり方が増えてきていると思うので、リスクの少ないレベルで少し挑戦してみることは、自分のお金と向き合う上ですごくいいきっかけになる気がします。

新しいお金の流れをつくる

藤田

今後世の中はどういうお金の流れになると望ましいと考えますか。かつては、家計ができるだけ預貯金をして、それを銀行が重厚長大な産業に融資する、という資金の流れでした。当時はそれで良かったと思うんですが、今はそういう時代でもないし、1人1人もある程度のリスクを負うべきだと思います。また、これまでにお話しいただいたように、投資の主体は家計よりも企業だったりする。だから昔のような「家計の余ったお金を企業に融資する」という流れではもはや十分ではないですよね。

米良

今、READYFORでは遺贈寄付という取り組みをしています。これは何かというと、今、日本の中で相続人がいない方がお亡くなりになられた場合、その方が持っている資産は、誰も身寄りがない場合は国庫に入る仕組みになっています。

そのような資産が寄付のほうに少し回るようなお金の流れをつくれないかと思っています。実際、お客さまの中にも、自分の資産が国庫にいくのだったら、お世話になった学校や地域に寄付したいという声はとても多いのです。

ただ、日本では寄付行為というのが一般的ではなかったので、どこに寄付をしたらいいかがわからないということが多い。そういうところを私たちのサポート事業チームが、いわゆる保険の窓口的に相談に乗って、しかるべき先に寄付をさせていただく事業を1年半ぐらい前に立ち上げています。

今、日本は貯蓄で金融資産が約2000兆円と言われていますが、個人の滞留してしまっているお金を、きっかけと仕組みによって、未来に対して、あるいは社会の活動に対して回していく余地はたくさんあるのではないかと思います。この遺贈寄付の取り組みもその1つで、すごく手応えを感じています。

また、富裕層の方々のフィナンシャルアドバイザーもやっています。アメリカやヨーロッパの富裕層の方には運用や、寄付、財団管理などを行う資産管理会社兼お金の管理や相続をやる人たちがちゃんといます。日本は相続税の問題が全然違うので一概には言えないものの、いわゆるファミリーオフィスが少ないと思います。

一方、富裕層の方々には社会貢献をしたかったり、イノベーションのためにお金を使いたいと思っている方はたくさんいる。コロナ以降、世の中を変えなければいけないのでは、という意識を持つ人が増えたようなのです。お金があるところからどうやって再分配していくか。私たちは今、仕組みとして作って実現していこうと思っています。

岩田

私も12月に行ったチャリティーGalaに数千万円も集まると当初は思っていなかったんです。いっても数百万かなと。でもバンバン、ライブオークションで手が挙がったのです。自分のお金がどこに使われるのかということがわかれば、お金をしっかり出してくれるのです。ポテンシャルが結構高いなと思いました。

一方、社会貢献や寄付活動が自分のブランディングになる、自分の人生においてのステータスになる場面は、ヨーロッパに比べるととても少ない。日本の場合、華やかに寄付をするというより、黙って寄付をするのが美徳のように思われているので、社会貢献や寄付活動が自分のステータスになるような世の中になっていくようにしたいと思っています。

例えば、Z世代の人は自分の夢を叶えるためにYouTubeに出て投資をして社会貢献をすることで、トータルに自分の人生を設計することに、非常に関心を持っています。資本主義から脱却して、視座の高い所に自分を持って行きたいと考える人たちが今後多くなってくるのかなと思っています。寄付活動の裾野を広げたいと思っています。

浦田

寄付をすることが、自分のブランディングや得につながるという意味だと、「ふるさと納税」もそうなのではと思います。あれは寄付金控除の対象ですので、個人的には得をしますよね。そして、寄付した相当額分の品物がもらえます。寄付控除が受けられるのと、寄付した分の物がもらえることで得をするという仕組みを確立したという意味では、すごくいい制度だと思っていて、あれも一種の寄付行動なのかと思います。

また、米良さんが仕組みを整えたほうがいいと仰っていたのは確かにそう思います。ふるさと納税はアプリで簡単にできますが、あれでだいぶ寄付へのハードルが下がったように感じます。このように仕組みを整えてハードルを下げてあげれば、日本人にも寄付文化が少しずつ根付くのではないかと思います。

こっそり隠れて寄付をすることが美徳という心情はよく理解できますが、一方で何か自分にとって得があるから寄付をする仕組みを整え、それが広まれば寄付文化が根付くように思いました。

投資の普及で変わるもの

藤田

投資の普及は社会のどのような部分を変えていくと思われますか?

浦田

私はどうしても企業寄りの話になってしまいますが、2つ変わることがあるのかなと思っています。

1つは、サービスの多様化、市場の活性化につながるのではと思っています。先日お医者さんの同級生が、子どもに食べさせる離乳食を、食材や製法にこだわって提供するサービスをクラウドファンディングで募っていたので私も参加してみました。

このような生活に根付いたアイディアからビジネスが今、次々と生まれています。こんなものがあったらいいなと思うものやサービスが様々な場所で、小規模ながらも生み出されているように感じます。

このように小さな試みを始めているいろいろな個人・企業にお金が流れると、もっといろいろなサービスが出てきて、個人の生活が豊かになるのではないでしょうか。サービスの多様化や市場の活性化にもつながり、ひいては株式市場が盛り上がると思うのです。

もう1つ、投資がカジュアルに行われるようになると、個人の仕事との関わり方が変わっていくのではと思います。運用という意味での投資は副業のようにも位置付けられ、仕事に縛られなくてもよくなると、要はお給料一本に拘らなくてもよくなるので、仕事への依存度が低くなる。

結果として、自分のライフスタイルに合わせて逆に仕事を選ぶこともできるようになるのではと思っています。個人レベルで多様な生き方ができるという、いい流れになっていくのではないかなと思っています。

上口

究極的には自分の価値観に基づいて投資の判断ができればよいと思います。それは人によっては自分の生活設計かもしれませんし、人によっては国や企業の成長、あるいは社会貢献かもしれませんが、そういうものを通じて、自己実現していくような選択肢をきちんと選べる環境をつくっていくことが望ましいと思っています。

そういう意味で、私たちは、その前提となる金融リテラシーの普及に努めていきたいと考えています。また、チャリティーにしてもスタートアップ支援にしても、わが国においては必ずしも十分に制度が整っていなかった部分をしっかり整えることで、潜在的に埋もれていた価値観を引き出していくことは素晴らしい取り組みと思います。

一方、私が投資の話で懸念するのは、「低金利環境のもとで中高年を迎えたが、老後の生活が不安なのでなんとかしなければいけないので、投資で挽回を図ろう」というような話です。そういう話だとすると、投資で対応しようというのはたぶん間違えている、ということだと思うのです。いくら金融リテラシーを身に着けても、必ず儲かる投資方法はありませんので、こうした一発逆転策は成功しないこともあるはずです。

ただ、経済成長の果実を得るための投資については、少なくとも時間を味方にすることによって負ける確率をかなり下げられるとは言えるはずです。それを若い時にきちんと伝えておくことで、皆さんの選択肢が増えるというところが大事な点だと思っています。

再分配のあり方を再考する

藤田

リスクと適切に付き合っていかないと豊かな人生を過ごしにくい。このことは、金融リテラシーがある人とない人、あるいは、資産を持っている人と持っていない人との間で格差が広がっていくことも意味しているように思います。

実際、トマ・ピケティ等、今後は格差が拡大する、と主張されている方々もいますし、資産を持つ者と持たざる者の間の格差がコロナ禍で拡大したとも言われています。

上口

トマ・ピケティが言う格差の拡大に対して、ナッジなども使いながらうまく投資を活用していくという選択肢はあるのかもしれません。ただ、私は、本質的には格差の話は、いわゆる再分配の問題であり、典型的な市場の失敗の話なので、本来的には政府が介入すべき領域だと思います。まさに社会的な選択として適切に再分配政策を取るというのが王道ではないかと思います。

米良

そこをお聞きしたいです。国が介入した政策による再分配は現代社会において、本当に実現できるのかが正直わからないんですよね。

上口

私は、政策として国がやるべきかどうかという話と、議会制民主主義の下でそれをどう実現するかという話は本来分けた方がいい議論だと思っています。ピュアにいわゆる経済学的な世界で市場の失敗があって、そこに介入していく論拠が現にあるのであれば、再分配の議論は本来的には政府が対応すべき領域だと思います。

一方で、実際に政策を選択しているのは、まさに議会制民主主義の中で選ばれた人たちが政策を打っていくわけです。そのような過程において、「貯蓄から投資へ」もそうですが、なぜそのことを政策的に目指すのかという議論を飛ばしてしまうと評価の軸がぶれてしまうのではないかと思います。

「低金利だから世の中の人々が困っている。将来の年金などの不安もあるので、投資で増やして帳尻を合わせよう」といった時間軸によっては「本当か?」というような議論が起きかねない。そういう意味で、きちんと理屈は考える必要があると思っています。

藤田

これまでの経済学では、個人が自分のことだけを考えて行動することを前提としていたので、市場メカニズムに任せていては格差は是正されない、だから政府の役割が必要と考えられていたと思うんです。

ただ、個人は自分のことしか考えてないという前提は必ずしも正しくないのではないか、と最近言われてきています。その前提でもう1回、経済学を組み立て直すと、市場メカニズムによって格差も解決できるのではないか、とも考えられます。企業によってちゃんと格差の是正もできる、と思われますし、理論モデルをつくって分析してみようかな、とも思っています。

また、政府よりも企業のほうが情報に近いので、情報に近い主体、つまり企業が、それぞれの自分の思いに応じて行動するほうが失敗は少ないのではという気もします。そうやっているうちに問題の本質が見えてきたら、その段階で制度を変えると、一気にガラッと変わる気もしています。だから今は企業が頑張って活躍するフェーズなのではという気がします。

ワークライフマネーバランスを考える

藤田

浦田さんが指摘された働き方について言えば、昔は男性が職場に行って働いて、女性は家にいて、株式投資をあまりせずに預貯金をするということが多かったと思います。でもこれからは、仕事と同様、お金と共働きする時代だと思うんですね。

例えば世帯収入のうち、勤労所得がどのくらいで、資産による所得がどのくらいなのが望ましいのか。ワークライフマネーバランスのようなことを考えることについてはいかがでしょうか。

岩田

今、例えば1つの会社に何十年も勤めることは僕は現実的に考えられなくて、投資をするために稼ぎ方を考えるという人は結構、若い世代は多いと思うんです。今、本当に若い世代の給料は増えない。新卒で手取り20万円みたいな中で、いわゆる投資をするためにこの稼ぎ方を学ぼうという動きは多くなってきていると思います。

例えば、在宅で5時に終わって、3時間はエンジニアの仕事をして、そのお金を投資に回して人生設計を変えていこうみたいなことです。

浦田

今、若い人の転職率は高いのでしょうか。

岩田

転職や兼業を考える人はかなり多くなっているとは思います。同期でもすでに転職している人も多く、20代、30代でとにかく高い報酬を得るために外資で稼ぎ切るか、いわゆる昭和型の働き方か、二極化しているような気がします。

こんなに景気がよくない30年を日本で過ごしてしまうと、そもそも70歳まで生きられるかみたいな不安があります。日本が全然成長しないで、お金が40歳ぐらいでみんななくなっちゃうんじゃないかみたいな。

先導者として貢献する使命

上口

自分がやりたいことを考えていく上で、前提となる情報をしっかり提供する仕組みはやはり必要だと思います。

また、わが国が経済成長し、取り残されないためには、生産性を高めるような革新的なイノベーションを促していくことはとても重要です。ただ同時に、国全体の生産性を高める方法は、革新的な技術の開発だけではないということも大切な点だと思っています。

実際、生産性の低いセクターから生産性の高いセクターに人や資本といった資源配分がシフトすることでも国全体の生産性は高まります。そして、そのメカニズムは市場の価格競争メカニズムの中で日常的に生じているものでもあります。それだけに、無から有を生むような革新的なイノベーションを連続的に起こしていくよりは、対応を講じやすい面もあると思います。

一方、わが国では、市場メカニズムはあまり評判がよくありません。むしろ、日本はある意味とても優しい社会なので、そうした力を抑制するような施策が講じられることも少なくありません。社会として、そうした対応を選択することは当然あってよいと思います。

ただ、そういう選択が結果的に国全体の成長力に影響する面があることも理解したうえで、その判断を行うことがより望ましいと感じます。このため、そういうこともわかったうえで判断できる仕組みを目指していくことが大事ではないかと思っています。

米良

この前、伊藤塾長や他の先生と一緒に朝日教育会議でパネルディスカッションをさせていただいたんですが、それに向けて福澤先生の本を改めて読みました。エリート(先導者)という考え方を福澤先生は持っていたということで、慶應を出るような人たちというのは、世の中に対して関心を持ち、世の中のために自分の人生でしっかりと貢献していく人であり、それがエリートなのだ、という話があったんです。

厳しい環境であるが故に、今生きることも必死で苦しい思いをしている人はこの国にもたくさんいます。だからこそ、情報が集まるようなところにいる人たちは、主体的に動かなければいけないと思います。

心から「世の中にとってよいことはなにか」といったことを考えられる人たちを育てていくのが慶應義塾であると福澤先生は伝えてくださったと思うので、私自身も微力ながら社会に貢献できる人材になるために自己研鑽していきたいと思っています。

藤田

そうですね。やはり福澤先生は偉大で、先生の教えは今に生きていますね。

今回の座談会では、各分野でご活躍の方々にお話しいただいて、過去や現在を俯瞰できたので、良い未来を展望できそうです。「貯蓄から投資へ」という言葉についての理解も深まり、とても勉強になりました。

本日は有り難うございました。

(2023年2月21日、三田キャンパスにて収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。