慶應義塾

【特集:スマホが変えた社会】座談会:ユーザーが先導する未来のモバイル

登場者プロフィール

  • 武藤 佳恭(たけふじ よしやす)

    その他 : 名誉教授その他 : 武蔵野大学データサイエンス学部教授

    塾員(1978工、83工博)。ケースウエスタンリザーブ大学准教授等を経て1992年慶應義塾大学環境情報学部助教授。1997~2021年同教授。21年より武蔵野大学教授。工学博士。専門はニューラルコンピューティング、ものづくり技術(セキュリティ・電気電子・人工知能)。

    武藤 佳恭(たけふじ よしやす)

    その他 : 名誉教授その他 : 武蔵野大学データサイエンス学部教授

    塾員(1978工、83工博)。ケースウエスタンリザーブ大学准教授等を経て1992年慶應義塾大学環境情報学部助教授。1997~2021年同教授。21年より武蔵野大学教授。工学博士。専門はニューラルコンピューティング、ものづくり技術(セキュリティ・電気電子・人工知能)。

  • 児玉 哲彦(こだま あきひこ)

    その他 : IT企業プロダクトマネジャー環境情報学部 卒業政策・メディア研究科 卒業

    塾員(2003環、08政・メ博)。博士(政策・メディア)。10代からデジタルメディアの開発に取り組む。頓智ドット株式会社、フリービット株式会社を経て2014年株式会社アトモスデザインを立ち上げる。著書に『人工知能は私たちを滅ぼすのか』等。

    児玉 哲彦(こだま あきひこ)

    その他 : IT企業プロダクトマネジャー環境情報学部 卒業政策・メディア研究科 卒業

    塾員(2003環、08政・メ博)。博士(政策・メディア)。10代からデジタルメディアの開発に取り組む。頓智ドット株式会社、フリービット株式会社を経て2014年株式会社アトモスデザインを立ち上げる。著書に『人工知能は私たちを滅ぼすのか』等。

  • 白土 由佳(しらつち ゆか)

    その他 : 文教大学情報学部メディア表現学科専任講師環境情報学部 卒業政策・メディア研究科 卒業

    塾員(2007環、12政・メ博)。博士(政策・メディア)。産業能率大学専任講師等を経て、2020年より現職。専門は情報社会学、ソーシャルメディア論。著書に『基礎ゼミ 社会学』(共著)等。

    白土 由佳(しらつち ゆか)

    その他 : 文教大学情報学部メディア表現学科専任講師環境情報学部 卒業政策・メディア研究科 卒業

    塾員(2007環、12政・メ博)。博士(政策・メディア)。産業能率大学専任講師等を経て、2020年より現職。専門は情報社会学、ソーシャルメディア論。著書に『基礎ゼミ 社会学』(共著)等。

  • 加藤 文俊(司会)(かとう ふみとし)

    環境情報学部 教授政策・メディア研究科 委員長

    塾員(1985経、88経修)。ラトガース大学大学院コミュニケーション研究科Ph.D。2001年慶應義塾大学環境情報学部助教授を経て、10年より教授。専門はコミュニケーション論、メディア論等。著書に『キャンプ論』『ワークショップをとらえなおす』『会議のマネジメント』等。

    加藤 文俊(司会)(かとう ふみとし)

    環境情報学部 教授政策・メディア研究科 委員長

    塾員(1985経、88経修)。ラトガース大学大学院コミュニケーション研究科Ph.D。2001年慶應義塾大学環境情報学部助教授を経て、10年より教授。専門はコミュニケーション論、メディア論等。著書に『キャンプ論』『ワークショップをとらえなおす』『会議のマネジメント』等。

2022/04/05

世界初のカメラ付き携帯

加藤

今日は今や誰もが手放せなくなったスマホ(スマートフォン)について、皆さんと考えてみたいと思います。スマホを語る時、様々な観点から語れるはずです。1つはジェネレーション、つまり、どのタイミングでスマホを手にしたか。それぞれの専門分野もあるし、場合によってはジェンダーという観点もあるかもしれません。ユーザーは多様なので、いろいろな形で話が広がっていくといいなと思っています。

まずは最初に、スマホとどのようにかかわってきたか、といったことをお話しいただけないでしょうか。

武藤

私はスマホの前の携帯電話(ケータイ)から開発にかかわっています。ずいぶん昔、1995、6年頃、三菱電機のカメラ事業部長さんが小さなカメラを売りたいという。このカメラは普通のカメラではなく、実はニューラルネットワークの演算ができる人工網膜カメラで、これを売るにはどうすればいいかと相談を受けました。

95、6年というのは、ちょうどデジカメが流行り出した頃で、まだ携帯電話はそれほどポピュラーではない。でも、これからどんどん売れていくだろうと思われていました。そこで「ケータイと一緒に売れば?」とサジェストしたんです。それが功を奏してこれが世界で最初のカメラ付きの携帯電話へと発展したんです。このような経緯でたまたまケータイにカメラが付いた。

その時、ドコモとかいろいろな通信業者に同じことを言われたそうです。皆、「デジカメがあるのにわざわざケータイにカメラを付ける意味があるんですか」と言う。でも、ツーカーという会社がとにかく付けてみましょうと、カメラ付きの携帯電話ができたんです。「ポシェット」と言って、これが世界で最初のもの。1999年のことです。

今、カメラがスマホに付いているのは当たり前のことになり、コロナ下ではスマホが命の絆になっている人もいる。今や生活に密着して必要不可欠なものになっています。

でも、僕自身は実はケータイ、スマホは個人的には嫌いです(笑)。小さくてクリエーションができないから。僕はパソコンでいろいろなプログラミングをするのでスマホは小さ過ぎるんです。遊ぶ分にはいいのだろうけれど。

加藤

最初にカメラとケータイを結び付けようとした時は、今のようにネットワークで写真が飛び交うようなことを想像していたのですか。

武藤

そんなこと何も考えていない。とにかくカメラを付けたらなんかいいんじゃないか、という感じでした。

その後、すぐアプリが出て、ニューラルネットワークなので輪郭などがすぐ計算できるようになった。だから写真を撮ってマンガみたいに似顔絵を描くようなことも世界で最初にやっています。実はあれはニューラルネットワークから生み出された副産物です。

加藤

そうでしたか。面白いですね。では児玉さんお願いします。

児玉

もう携帯、スマホとの付き合いはほとんど人生みたいになっていますが、私もモバイルということではスマホ以前からかかわりがありました。90年代の半ば、高校生の時に、アップルからニュートンのメッセージパッドという世界最初のPDA(個人用携帯情報端末)というものが出たんです。僕はMacマニアだったので、日本語化キットを買い、これが絶対に未来になる、と確信しました。

Windows95が出た頃でしたが、グレーのISDN公衆電話につないでモバイルインターネットをやることができたのです。恐らく日本でニュートンを持っていた高校生は僕ぐらいだと思うので、モバイルインターネット第1号みたいな感じではないでしょうか(笑)。

そしてSFCに入り、大学院に進学した2003年、何を研究テーマにしようかと考えた時に目に留まったのが日本のインターネットの普及率です。当時、パソコンのインターネットの普及率は5~6割ぐらいでしたが、インターネット自体の普及率は9割近かった。なぜかというと携帯電話です。当時iモードが出ていて、日本人のかなりの人がケータイのおかげでインターネットに接続しているという状態でした。それを知ってモバイルは大事だと思い、結局修士から博士までモバイルの研究を中心にやりました。

加藤

そういう経緯だったんですね。

児玉

博士の単位取得退学をした2008年に日本でiPhoneが出ました。もう研究をやっている場合ではないというくらい、やはりiPhoneのインパクトは大きくて、これでアプリを作ろうと「頓智ドット」という会社に入りました。ここがセカイカメラというスマホで初めてのAR(拡張現実)アプリを作っている会社でした。

ここでそれをより使われるものにしようと、地域の情報を集めて共有し合うようなソーシャルアプリを作りました。これが上手くいって80万人ぐらいの方にダウンロードしていただきました。その後、アプリの次はスマホ自体を作ろうと思い、SFC1期生の石田宏樹さんが作ったフリービットという会社に行きました。

ここで、2012~13年に、MVNO(モバイル・バーチャル・ネットワーク・オペレーター)というものを作りました。MVNOというのは、ドコモなどの通信会社の持っている通信インフラを貸与してカスタマイズしたサービスを作るというビジネスモデルですが、僕らがユニークだったのは、端末とサービスも作ったことです。これは当初はフリービットモバイルと言っていましたが、今はトーンモバイルという名前でドコモショップで、エコノミーMVNOという形で販売されています。

その後、自分でコンサルの会社を立ち上げ、モバイルやAR、ロボットの会社のコンサルをやっていたのですが、2016年からあるIT企業のプロダクトマネジャーをやっています。

また、コロナのパンデミックが始まり、シンガポールでブルートゥースを使った接触確認のアプリが出て使われているので、日本でもこれを作ろうと、オープンソースで作っているグループ、「Covid 19Radar」に協力してUIやデザインを手がけたら、厚労省に採用され、それが今のCOCOAになりました。

これはいろいろな不具合などもあって大変でしたが、セカイカメラとかCOCOAでやっていることは実は結構つながっています。モバイルがインターネットの窓口ということですが、それ以上に環境情報を捕捉するセンシングデバイスとして機能しているということが大きいと思います。

SNSを使った社会調査

加藤

では白土さんはいかがでしょうか。

白土

世代で言えば、2001年から3年が私が高校生だった時期にあたります。もう絵に描いたような女子高生で、茶髪にルーズソックスで、携帯電話にぬいぐるみを付けていました(笑)。今日、武藤先生が世界で初めてケータイにカメラを付けたというお話を伺えてすごく嬉しく感じます。

運よくSFCに入学できたのですが、入学時はインターネットやコンピュータは全然わからなくて、いきなりUNIXでメールを読むとかEmacsって何だろうというところから始まりました。小檜山賢二先生の研究会がケータイをテーマにしているというので、そちらに少しお世話になったのが携帯電話の研究のかかわりの最初です。ドコモやKDDIなどのパンフレットを集めて、キャッチコピーの推移がどうなっているかを研究したり、社会学側からのアプローチで世の中を見ることに関心がありました。

そこから熊坂賢次先生のところで博士を取るまでお世話になりました。2009年に博士課程に進学した時がたぶんiPhoneを初めて持った年です。熊坂研究室では、SNSのmixiを対象に、社会調査としてソーシャルメディアのデータを活用していました。ソーシャルメディアを、ユーザーが項目それ自体を自動的に作って回答し続ける社会調査として捉えたのです。そのようなことに取り組んでいる最中にiPhoneが登場し、いきなり普通の人が発信するデータが多様になった印象がありました。それまでテキストだけだったのが、位置情報が付いたり、写真が付いたり、人と共有するということがすごく花開いてきたのがこの頃だったと思います。

その頃研究室で、先ほど児玉さんが仰ったセカイカメラで遊んでいたのですが、もう本当に未来が来たなと思ったのを覚えています。あの頃、セカイカメラは早過ぎて、SFCぐらいでしか面白い情報がないという状況でしたが、今やARアプリは当たり前のように世の中で受け入れられていますね。私はソーシャルメディアを社会調査として使うことの研究が専門なので、インタフェースとしてのスマートフォンというものに関心があります。

スマホが変えたこと

加藤

皆さんおっしゃり方は違いますが、やはり「共有する」ということは1つテーマになってくるのかと思います。白土さんが言われたように、テキストだけではなく、映像や位置情報などいろいろなものが、ネット空間に溢れ出し共有されています。

最初に武藤さんが言われたように、今はスマホがないと生活に支障が出るようになっている人が多い。だけど持っていない人、使わない人もいる。情報の共有が加速している一方で、どこかに集中的に情報が集まって、スマホがないと成り立たない「つながり」も生まれているとも思います。

武藤

2003年に岩波ジュニア新書で『調べてみよう携帯電話の未来』という本を書いたことがあります。携帯電話の未来はこういうデバイスになってこんなことができるよ、ということを書いたのですが、実はこれは今、全部実現されています。

社会で何か変化が起きるためには技術の革新が必要ですが、実際には想像以上に技術革新が起きて、すごいスピードで社会に浸透していったんですね。「面白い」と思われれば、社会にはあっという間に浸透していく。

技術者の想像をはるかに超えた社会の変革があると、もう誰も止められない。それをどう上手にやっていくかは、社会のルールや法律の整備が必要だと思うのだけど、あまりにも技術の発展が速すぎて社会現象としてそれが出てくるので、法律やルールの整備なども遅れているという感じがします。

特にスポーツ競技などを見ていると、人が判定するものはバイアスがかかりますよね。僕などAIの専門家からすると、意外と簡単に判定できるぞと思うんです。

これからそのAIがスマホに融合してくるわけですから、どの部分に人間がかかわり、AIがやるべきところとやるべきではないところとをきちんと識別していくルールを決めていかないといけない。社会科学の人たちは何をやっているのか、と僕からすると思っています。

加藤

なるほど。児玉さん、スマホで何か劇的に変わったことや、印象に残っていることはありますか。

児玉

私は高校の授業にもラップトップを持ち込んでいました。当時から意識的にモバイルパーソナルコンピュータで自分の生活をデジタル化するということをやっていたのだと思います。モバイルでメールするとか、デジタルミュージックなどもCDをMacで取り込んでムービーファイルにして聴くことは可能だったので、未来はこれが当たり前になると思っていましたね。

生活の中で情報へのアクセスが格段にできるようになったということは大きいと思いました。また、コミュニケーションをパーソナルなデバイスを通して行うような社会になることも明確にわかって、時間がたつにつれて、それがどんどん普及していくんだなと感じました。

どちらかというとレイトマジョリティーぐらいの弟がいるのですが、弟がiPhoneなどを使い出したりすると、「おっ、ここまで広がったか」と普及が加速した感があり、それを媒介しないと社会との接点が持てなくなるのだろうという感じがしていました。

加藤

児玉さんはアーリーアダプターということですよね。そういう立場から見ると、世の中がまだ追いついてこないという感覚をお持ちになっていたと思いますが、その不満足感はどういうところに向かっていくのですか。

児玉

最初はやはり学校でしたね。なぜいまだにチョークや黒板といった道具でやっているのだろうと10代の頃から思っていました。最近でも、もろもろの行政手続きなどには感じますね。子どもが生まれ、保育園の手続きや園とのやり取りをする時などです。いまだに紙で、今日食べたのはご飯と、イモと、キュウリでみたいに全部手で書いてコミュニケーションしている。

そういう時、カメラを付けてくれればそれで済むのではないのとか思うんですね。これだけスマホ社会になったとはいえ、まだできることがいろいろな領域にあるような気はします。

ユーザー先導型の社会へ

武藤

20世紀はどちらかというと技術者や科学者が先導していたのだけど、今の話のように明らかにユーザー先導型になったわけですよね。ユーザーが先導し、それに技術をサプライすることで社会現象が起きている。

ユーザー先導型がもう明らかになっている世の中では、どのように社会を面白い方向に、いい方向に向かうように社会が誘導していくかが一番の課題かなという感じはします。

加藤

白土さんはいかがですか。

白土

ユーザー先導型と関連すると思うのですが、常時接続がすごく増えましたよね。よく中高生が試験勉強中、緊張感を保ったり、仲間と励ましあうことを目的にずっとLINEをつなげていると言われています。あるいは、ゲーム中ずっとDiscord(ディスコード:ゲームのアプリ)をつないでいるのもよく知られていますが、これらはスマホがコンピュータ化して常時接続しているからできることですね。

ベルが電話を最初に発明した時、遠くの人の声が耳元で聞えるようになったということがすごく重要だったと言われています。それが、遠いところにいるのに心理的に近いという「心理的近隣」という効果を生み出したのですね。今の社会に照らし合わせてみると、常時接続というのは「心理的たまり場」を生んでいると思っています。

武藤先生がおっしゃったようにユーザー先導でどんどんそういう文化が生まれ、それでまた違う技術が生まれる。それに私たちもまた適応していくというサイクルがとても早く回っていると感じます。

武藤

重要な話ですね。先日、NTTの幹部に、日本の携帯電話の料金体系はだめだと話したんです。ヨーロッパはアクセスのスピードで料金が決まる。何ギガ使ったとか、ちまちましたことは言わないんです。だから、常時接続が当たり前であれば、それにアクセススピードだけで料金体系を決めたほうが経済的にもいいんです。日本はそこがまだ遅れているんです。

オペレーターも料金の計算にすごい手間とお金をかけている。これから皆をハッピーにさせるためには、今の無駄な部分をただ外せばいいだけなのです。そうすると月にどれだけ使っても低料金でいけます。そういう社会に早くしないといけない、という話をしたら向こうは皆ノーコメント(笑)。

児玉

私はMVNOをやっていたので、まさにその世界でした。結局どれだけドコモさんの帯域を使ったか、われわれのようなMVNOの事業者は課金をしなくてはいけなかったので、そのパケットコントロールを細かくやることが仕事みたいになっていました。

武藤先生のお話を伺って思ったのが、インターネットというのはたくさんのネットワークが集中化されているのがいいところのはずなのに、モバイルネットワークになるとラストワンマイルみたいなところは非常に独占的な一部の事業者、モバイルキャリアが握ってしまう。モバイルのあり方を考える上で、必ずケータイキャリアというネットワークを通らないとインターネットにつながらないということは大きなことだと思います。

武藤

どのデータも日本中に張り巡らされたNTTの土管を使うしかないですからね。この上で皆が踊らされているので、料金をきちんと定額制にしろ、というメッセージは出したほうがいいと思います。

常時接続で出現した世界

加藤

常時接続が当たり前になったことで、面白いなと思ったのは、いろいろなことを「待たなくなる」というイメージを持つようになったという点です。常にオン(待ち受け)だからいつでもすぐ反応できるというわけです。しかし一方、実はいつも待っているのではないかという考え方もできる。

例えば、よく話に出るのは、僕たちが学生の頃はケータイがないから、待ち合わせの時はひたすら待っているしかない。だけど、今の学生は、「何時に渋谷」ぐらいしか決めていなくて、なんとなくその時間に渋谷にいて、そこでつかまえてもらう。だから「待ち合わせがなくなった」と言う。

しかし、よく考えると、常時接続は常に待っていなければならないということなので、実は待ち時間は増えているのかもしれない、と考えることもできる。常時接続によって変わってしまったことは何かありますか。

白土

画面上で「見えている人」と「見えていない人」がいるな、ということはすごく感じています。例えば街中でちょっと暇な時間ができた時、誰に声をかけようかとSNSを開いて、声をかけるのはきっと何かしら投稿している、タイムラインにいる人ですよね。その意味では、常時接続によって不特定の相手を待つことができるようになったのかもしれません。

また、もう1つ感じるのは、SNSで何もアクションをしない人の存在です。例えばフェイスブックでは、自分のタイムラインに登場する人は友達だと認識されますが、ずっと投稿しない人は、いつの間にかいないことになってしまう可能性がある。

加えて、ある人はいつも誰かから声がかかっているということも公開範囲の中では見えてしまって、あの人は人気だな、活躍しているなと可視化されてしまう。富める者はますます富むみたいな優先的選択が、人間関係ですごく見えやすくなってしまっていると思います。

「待つ」ということも、「見えている人」にとってはよいのかもしれないけど、「見えていない人」、あるいは投稿しづらい人は結構難しかったりするのかなと感じています。

加藤

乱暴に言うと、友達が増えているようでそれほど増えてないみたいなことですかね。

白土

そうかもしれません。あと、交流がスマホ画面に見えている範囲だけになってしまっているというか。そこで全ての人が見えていればいいのかもしれませんが、見えなくなっていってしまった人がどうなっていくのか。

先ほどスマホの外側とおっしゃいましたが、発信しないことで人的ネットワークからどんどん遠ざかってしまうということもあるかなと思います。

スマホが有効利用されない日本

児玉

一方でデジタル化を阻んでいるものもあると思うんですね。ちょうどニュースで、文科省のGIGAスクール構想で導入したコンピュータがあまり積極的に活用されていないという記事を読みました。その大きな理由の1つが、授業中に勝手に検索されたりすると授業の進行を乱すからと言う。

武藤

それは違うよ。真逆だよね。OECD諸国でもデジタルを活用した社会ということでは日本は今は情けないかな最下位です。昔はトップだったのに。政府自身が今頃デジタル庁を作ったり、もう遅れに遅れている。

年金をもらうようになってわかったのですが、アメリカは、年金の申請は1ページの書類で1カ所に名前とソーシャルセキュリティ番号を書くだけです。これで全部自動的に書類ができる。日本は十何ページ書いて出すと郵便でここを書き直ししなさいと戻ってくる。これに1カ月かかる。しかも政府の書類なのに戸籍謄本なども出さないといけない。どうなっているのと思います。

児玉

ちょっと信じがたいこともありますよね。コロナの陽性者の登録がシステム的に追いつかないという話もあります。HER-SYSという陽性者登録管理システムとCOCOAはつながっているのですが、HER-SYSの登録も、医療機関から保健所への連絡がファックスで行われているので、保健所の対応が全然追いつかないと言われている。パンデミックの対応に非常に大きな影響を与えていますね。

武藤

バックエンドでしっかりしたデジタルの仕組みができていれば、スマホが有効利用されて、すごく社会に有効になるのだけど、マイナンバー利用そのものが省庁ごとにばらばらで、横軸にシームレスにつながっていない。

アメリカはソーシャルセキュリティ番号ですべて横につながっている。ここがやはり大きな差で、社会にちゃんと還元されて有効利用されている。今の日本はその当たり前の話が通用しない社会になっているのが残念でしょうがないのです。社会と上手にデジタルが結びついて、スマホが上手くつながっている感じがしない。

児玉

ただ一方、最近出たワクチン接種記録のアプリのほうは非常に出来がよくて、バージョンアップもどんどんしているし、頑張ってやっているかなと思います。バックエンドの情報更新も非常に速いので、そういう明るい動きが日本にも出てきているということも一応あります。

スマホ登場以降、遅れたデジタル化

児玉

日本は、以前はモバイル分野でいろいろな技術開発がむしろ進んでいたはずです。おサイフケータイみたいなことが社会に実装され、先を行っていた。「写メ」みたいなものもそうです。

武藤

世界の中ですごく進んでいたと思いますよ。

児玉

それがちょうどスマートフォンが登場した頃からヘゲモニーを取れなくなり、そのタイミングで社会のデジタル化も進まなくなってしまった。スマホに変わった頃から日本では残念ながらネガティブな方向に行ってしまったような気がしているのです。

武藤

確かにスマホが出てきた時に、iPhoneとAndroidの二大勢力に上手に乗れなかった。技術者の変なこだわりがあって、全メーカーが乗り遅れたんですね。もともと日本は真似が得意だったのに、変なプライドを持っていた感じがします。AndroidやiPhoneはそもそも日本で作っていないじゃないですか。

児玉

いろいろな理由があると思いますが、AndroidはLinuxですし、iosもBSD Unixに由来するカーネル(OSの中核プログラム)が使われている。そういうOSが入ってきた時に、ワークステーションとかPCのソフトウェア産業の厚みに勝てなかったのかなと思うのです。

おサイフケータイなどはいい例です。FeliCaというIDの規格はグローバルスタンダードにならなかったので、iPhoneがFelicaをサポートするまでもずいぶん時間がかかっています。

やはり今まで日本で作られていたインフラとスマホの機能セットが合わなかったので、そこが有効に活用されなかったということがあったのかなと思います。

武藤

変なこだわりで新しい良い技術に乗っていこうというモーメンタムが弱くなったと感じています。そもそも以前はパソコンも日本でかなり作っていたのを、結局、全部台湾などに設計を任せてしまい、設計できる人がいなくなった。技術の日本はどこに行ったみたいな感じがある。やはり母屋は全部譲ってはだめですね。最低限自分が持つべき技術は必要です。

加藤

しかし、同時に、ユーザーはものすごい勢いで成熟しているわけですよね。

武藤

ユーザーはもう世界の最先端に行っていて、リードしています。

児玉

新しい使い方は日本から出てくることは多いですよね。

武藤

そもそもベルに最初のケータイを供給したのは日本の東洋通信機という会社です。ここが最初にベルにPHSを供給したんです。すごいコアの技術を持っているところが昔に比べてどんどん減ってきているということは感じます。

成熟したユーザーの使い方

加藤

ユーザーは成熟していて、大学でも、学生のふるまいには、ちょっと教員側がついていけていないところもあります。

この間、1人の大学院の留学生が、話を聞いている時にいつもスマホを見ているから、ちゃんと話を聞いていないのではないかと思ったんです。でも、彼女は機械翻訳を使っていたんです。僕が日本語で話している時にタイプして、実は一生懸命クラスについていこうとしていた。そのデバイスが手元にあるということなのですが、私はそこまで想像が働かなかったんです。

GIGAスクールの話と一緒で、なぜそれが手元にあるかといえば、その場で検索したり、外にアクセスしたりできるというところがスマホの魅力の1つのはずですよね。

児玉

僕の博論のテーマはデジタル機器を使っている時に今、ここから切り離されてしまうということを問題提起していました。これだけスマホがユビキタスになっても、そのあたりの理解は改善できていない感じはします。

白土

以前はケータイが家族のコミュニケーションを減らしていくみたいなことも言われていたと思います。

でも、最初に武藤先生がおっしゃったように、コロナ下という社会状況によって、スマホは、まさに命をつなぐというか、そういうコミュニケーションデバイスとして急に意味が置き換わった。コロッと社会が変わったという印象があります。そこはまさに成熟したユーザーが手の平を返したというか。

児玉

白土さんもおっしゃっていたけど、スマホなどを介さない人間関係の割合が減ってきている気はしますね。そこを通さないとなかなか人間関係が保てないような。

武藤

うちは以前はご飯だよと子どもを声で呼んでいたんだけど、今はもうLINEで「めし」って言う(笑)。わざとベルをビビビビッと鳴らして。

児玉

夫婦間でも、家にいるけどLINEで会話をするという話もよく聞きますね。

加藤

よくけんかをしてLINEで仲直りするみたいな話も聞きます。直接、対面で謝らずにスマホで謝ると。

児玉

メッセンジャー機能で言えば、iPhoneはiMessageという独自のメッセージシステムを持っていますが、アメリカではグループチャットをする時にグリーンバブル問題というものがあるそうです。

Andoroidで入ると表示がグリーンのバブルになる。だからグループチャットの中で俺は青、おまえはグリーンみたいな差別が発生すると。デーティングアプリでグリーンバブルの人はデートにこぎつける確率が低いらしい(笑)。

武藤

それはiphoneの戦略じゃないの。

児玉

そう言われていますね。意図的に差別しているのではと。だからもうOSがアイデンティティになってしまっている。

加藤

アプリによっては、最初のリリースの時にはどちらかにしか対応していないみたいなのもあるから、そこで分かれてしまいますね。

白土

私たちより上の世代は、スマホ外のコミュニケーションが減ったよね、という文脈で話をしますが、若い世代にとっては、減ったという感覚すらないようです。一方で、スマホ上のコミュニケーションのより細かい部分での差異をすごく見ているなと思います。

先日、授業で今の時代やメディア状況を表している曲について聞いたのですが、「LINEの既読」「140字のふきだまり」のような歌詞がたくさん集まりました。昔だったら手紙や電話が来るのを待つみたいな表現だったものが置き換わっているのだと思いますが、単にメディアが変わっているだけではなく、非常に微細なところに情緒を感じているというか。

手書きの手紙や声が聞こえる電話にはぬくもりがあって、デジタルメディアにはそれがないのかというとそうでもなくて。それもコミュニケーションとして、すごく質感があるもののように受け取られているみたいです。

武藤

さらに最先端になると、見ていたけど既読がつかないようにしてますみたいなものがありますよね。

加藤

気をつかってわざと後で読むとかですね。つまり既読がついてしまうと、なんで返事が来ないんだと言われる。その意味では、みんなすごく気をつかっているのですよね。

VRという揺り戻し

加藤

スマホの先にあるものということでは、いかがでしょうか。

児玉

最近、VRのメタバースというものが流行ってきていますね。ちょっと実験してみると結構ソーシャルなサービスも多い。この前、アメリカ西海岸にいる同僚が退職するというので、VRで送別会をやってみました。

とても面白くて、アイコンタクトやジェスチャーなども結構できるようになってきています。メッセージの既読がどうのみたいな、デジタルの極北から少し揺り戻しというか、エンボディメントされたような体験が戻ってきているようなところが面白いなと。

一応握手はできました。ハグしようとしたら、これはソーシャルディスタンスだから不適切というのでブラックアウトしてしまった。VRでもソーシャルディスタンスなんだと(笑)。

こういうインタラクションが生まれてきているのが興味深い。今、メタのヘッドセットが世界で1000万台ぐらい売れたということですから、スマホの先ということで言うと、そういう新しい可能性もあるなと思います。

武藤

僕らは実際にVRを研究し、実際の産業で使えるようにしています。例えば建物を造ったりメンテナンス、また見積もりをする時など、VRで本当にそこにいるがごとくお客さんに見せられるような仕組みもあります。

現実なのかVRなのかがわからないぐらいに複雑なものを見せられるものもできている。三次元空間に見せるにはまだコンピュテーションパワーが足りないですが、おっしゃるようにそういう時代にもう明らかに近づいていて、ユーザーが先導し、技術側が最先端のユーザーを追っていくような形になってくると思います。

最近、僕が作ったもので言うと、AIの自動車のタコメーター。恐らくこれがもうスマホに組み込まれていくと思います。これはどれぐらいすごいかというと、99.99%以上の精度でいい運転と悪い運転を識別できてしまう。AIを組み込むことによって事故の起きない運転がスマホと連動してかなり現実味を帯びてくると思います。

児玉

「スマホが変えた社会」ということで言えば、恐らくいろいろなセンシングデバイスとAIをつなぐIoTのアプリケーションは日本にも増えてくるはずですが、メタのヘッドセットが今、客単価3万円ぐらいで売れるようになったことはすごい話なのです。

つまり、スマホの中に取り入れられているSoC(チップ)、半導体、その他センシングデバイスが非常に安くなった。僕が研究をやっていた頃、磁気の方位センサーはアメリカから取り寄せて、船舶の航行に使う20万円くらいのものを使っていた。

武藤

今は数百円だからね。

児玉

もうそれらがスマホの中に何でも入ってしまっている。それによってコンピュータのハードウェア、センサー類などの価格が劇的に下がり、他のいろいろな機器に応用がきくようになった。それが産業に与えた影響はとても大きいと思います。

武藤

センシングデバイスが安くなった理由の1つにはドローンの普及もありますね。あれはセンサーの固まりで、ドローンが急速に普及したことでチップの値段が劇的に下がり、それがまたスマホにのっかってさらに安くなった。AIと融合して、またさらに先を行くスマホのようなデバイスがどんどん出てくる可能性は非常にありますね。

AIの導入が描く未来

児玉

アップルの開発者カンファレンスを見ると、3分の1ぐらいはAI関連のセッションです。だから皆、スマホはAIだと思っていないけど、中身はAIに近くなっていますね。

武藤

そうです。スマホ自体はもうAIにどんどん置き換わってきている。それがどう社会にかかわってくるかも予測できるようになっています。先端を行く若い世代のユーザーによって、そのAIの仕組みがさらにまた発展していくのではないかと思います。

例えば人間のあまり表に出てこないような感情を、表情の特徴だけを見ることでAIは判断できるので、そういったスーパースキルを搭載すれば、ちょっとした感情を読み取ることも可能になってきている。それが社会にとっていいか悪いかは別で、ある程度のルールが必要かなと思いますけどね。

児玉

武藤先生がやられてきたニューラルネットワークの技術などはこの10年ぐらいですごい進展があり、2012年のマイクロソフトとトロント大のチームがやった音声認識のパフォーマンスが人間を超えたというのが1つの分水嶺だったように感じます。

それまでのコンピュータはコンピュータの都合に人間が合わせないといけなかった。しかし、AIが非常によくなってきたこと、それからスマホに代表されるセンシングデバイスが生活環境の中に拡散してきたことで、人間の意図をかなり正確にコンピュータが理解できるようになってきた。これが非常に大きな変化です。

今のスマホのタッチパネルの技術もその入り口で、そういうモデルが違ったセンシングの形とかシグナルなどにどんどん適用されるようになってくる。例えば音声認識が利用されるようになってきたこともそうです。

あとARの視覚認識のように、人間の持っているモダリティ(様相)で世界を解釈することプラスアルファでの認識が可能になってきている。だから人間が気づかないような微妙な表情の変化などはもしかしたら機械のほうがよく読み取れるかもしれませんね。

私の子どもが今、3歳です。どうしてもYouTubeを見たがりますが、今、家のあらゆる機器を音声アシスタント対応にしてあるので、タッチパネルにタッチするより声で操作するのです。電気をつけたり、時間を聞いたり。タブレットやスマホよりも先に音声アシスタントでデビューして、音声アシスタントネイティブというかAIネイティブというか。

武藤

スター・トレックの時代に入っている(笑)。スマホという本体はどこにあるか知らなくても、AIがやりとりしてくれるんですね。

加藤

それはパパやママがやっているのを見ながら覚えたのですか。

児玉

それで生活しているので普通に覚えていくんです。だから音声アシスタントのないところでもアシスタントの名前を言って、「あれ、いないの」みたいな感じになって(笑)。

白土

うちも家にはグーグルホームを置いていますが、娘と一緒に友人の家に遊びに行った時にグーグルホームが置いてあると、「ここのお家にもグルグルさんがいるね」と。もうそういう未来に生きているのだなと思いました。

児玉

そういうところから新しいアプリケーションが生まれてくるんでしょうね。パパまだタッチなんかしているの。ダサいねみたいな(笑)。

SFCを「実験」の場所に

加藤

モバイルデバイスでありながら、スマホを主に家の中で使っていることは、この2年間のコロナ生活で皆、実感しているのではないかと思います。リモートワークで、それほど広くない家の中でも、あらためて家の中での移動に意識が向いて、デバイスとの付き合い方が変わった感じがします。

武藤

1つだけ自慢ですが、日本で最初にWi-Fiを入れた家はうちなんです。それが1992年。読売新聞で未来の家族みたいに特集されました。まだ日本でWi-Fiは誰も知らなかった。イスラエルのWi-FiとアメリカのWi-Fiをつないで、家の中をWi-Fiの環境にしていました。

それから30年でこの発展ぶり。Wi-Fiはいまや当たり前になっているけど、この変化はすごいですね。技術普及のスピードは目茶苦茶速いのです。

児玉

私は99年SFC入学でしたが、入学して少ししてWi-Fiが全部整備された感じでした。SFCも、われわれのいた頃は、常時接続の高速無線通信インターネットがあるというだけで他のキャンパスと差別化ができていたような気がします。今はそういう差別化はあるのかな、というところがちょっと気になっているのですが。

加藤

児玉さんの質問にはなかなか答えづらくて、確かにそれは本当に大切な点だと思います。いろいろな設備関係については大学もフットワークが重いところがあるので。

武藤

昔に比べて今は陳腐化(コモディティ化)がとても速い。10年もつものはなく、大体5年ぐらいで置き換えないといけないぐらいの速さで進んでいるからね。

児玉

技術インフラという意味だとそうなのです。違う切り口で、例えばルールの特区という考え方がある。私は卒業の頃、國領先生にSFCはセンシングで個人データ取り放題のキャンパスにしてくださいと言っていました。SFCに入ったら一筆書いてもらって、教員も学生もみんな個人データ取り放題で研究すれば、すごい差別化できる研究ができると思うんですね。

武藤

でも日本だと、すぐにこれは個人情報で法律的にできない、となりますね。「そういう意味ではない」と説明しても行政の人はわからない。

児玉

それはイノベーションの非常に大きい阻害要因です。COCOAがまさにそうで、法律のレベルで、ネットワーク側のインフラから位置情報を取ることが今の法律体系の中ではできませんとなる。それは実はアップルやグーグルの設計の影響もあって、彼らが情報を取る時、すべてのステップで了承を取らないとアプリが提供できないポリシーにしているんです。

武藤

情報1つ取るにしても、ルールも整備されていないし、日本は特に訳がわからない状態になっている。そのへんを早く整備して、使いやすく安全な国にしてほしいと思います。

児玉

それが「政策・メディア」の考え方ですよね。

今、トヨタさんが富士山の麓にウーブン・シティという街をつくっています。スマートシティ構想も特に日本の場合、行政との折衝に非常に時間も手間もかかってしまうので、トヨタさんは、私有地を実験フィールドとして、そこに街をつくって実験するという形にしている。

だから実験地みたいなものが大事な気がするのです。SFCが一番そういう場所になってほしいと思います。

加藤

今は少し動きが鈍いのですが、SFCがさまざまな実験の場であることは間違いないでしょう。ドローンを飛ばしたり、自動運転の実験を行ったり。十分とは言えないまでも、日々、実験する精神は息づいています。

白土

私も学校でどんどんデータを取れたらいいのにと思います。ユーザーの成熟は、個人がスマートフォンの中で複数存在しているという一側面にも現れているかと思います。

作家の平野啓一郎さんが「分人」と言っていましたが、例えばSFCの中では全部ログイン名で処理をして、位置情報もわかってしまうけど、それは1つの分人だ、みたいな妥協点があってもいいのかなと思います。それが一人の個人に統合されてしまうというのはむしろ違和感があります。

児玉

ただ、いっぺんすべてをオープンにしないと線が引けません。「ここまではいいかな」と言いながら少しずつやっていると、いつまでも適切なボーダーがわからない。一度全部オーケーとした上で、でもこれはさすがにまずいでしょうと、取り除いていかないと。

武藤

コロナの話で言えば、アメリカは100%オープンで全てのデータを誰でもアクセスできるような形にしているのだけど、日本はもちろん、ヨーロッパの国々も実はそうではない。オープンデータと言いながら実は特定の人しかアクセスできないのです。

唯一アメリカだけが完全にパブリックにオープンにして、誰もが好き勝手にデータを扱える。そこは大きな違いがあって、ダイナミックというか、やはりそういう力がアメリカはあるなと感じます。必ずしもいいアイデアは専門家から出るとは限らないですからね。児玉さんが、自由に使える場を提供しろと言うのは非常にわかります。

ブレークスルーを目指して

児玉

モバイルの話に戻ると、端末開発という部分ではキャリアの影響力がものすごく強かったということを指摘しておきたいと思います。この仕様に則ってiモードで作ります、iアプリで作りますみたいなことになるので、技術的に端末メーカーの持っていた裁量は小さかった。

これは日本だけではなく、グローバルにもそうでしたが、iPhoneがすごかったことの1つは、その力関係を逆転させてしまったことです。キャリアが「これ作ってください」ではなく、「私たちはすごい端末を作ったから、あなたたちのネットワークにつないでもいいよ」というわけです。

武藤

確かに特に日本には変な主従関係が根強くありますね。でもアップルみたいに良いものを作れば、オペレーターは言うことを聞け、となるはずです。そこを日本のメーカーが乗り越えられるかがこれからの技術革新につながってくる。今のご指摘は非常に根幹を突いている意見ですよ。

加藤

ある意味スマホがそれの象徴になっていると。

武藤

まさにそうです。ブレークスルーとよく言うけど、すごいものを作れば主従関係が変わるわけですよね。

児玉

インターネットのイノベーションというのは、そもそも自律分散協調ということが大事でした。ところが、モバイルやweb2.0になると、集中化された方向のアーキテクチャになりがちですよね。

武藤

加藤さん、今、SFCが旗を揚げてやるとすれば、スマホを使ってのバーチャルマネーやクリプトマネーと言われる技術ではないですか。そこの研究はあまりSFCから出ていないけれど、とても有効な研究エリアで、発信コンテンツとしては非常に良いという感じがします。

児玉

ぜひSFCマネーを作ってください。SFC内ではもうSFCマネーしか対応できないとしてしまって。

加藤

そうですね。今日のキーワードとしては、ユーザー主導という話が一貫してあったように思います。技術はもちろん進歩しているけれど、どうやらユーザーのほうがどんどん先に行ってしまっている。法律の問題や政治、文化の問題等もありますが、確実に言えることは、もうスマホは手放せないものになっているということですね。

スマホというスマートなデバイスを、常に肌身離さず持つように暮らし始めてしまっている。そこにいろいろなセンサーが搭載されていて、今まで取るのが大変だったようなデータが、どんどん生み出されている。

それを束ねて使えるようにしていくビジネス面の課題や面白さはもちろんあるし、人類の2人に1人が常時接続の状態でデータをやりとりしていると考えると、やはり世界観自体が変わってくるのだろうと思いました。

また、いち大学教員として見ると、大学は動きが遅いなという感じがします。最先端をいくユーザーである学生が大学に来ると考えた時に、やはり大学がいろいろなところを整え、大学の魅力もちゃんとアピールしないといけないなと思いました。本日はさまざまな話を有り難うございました。

(2022年2月15日、オンラインにより収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。