登場者プロフィール
後藤 順子(ごとう よりこ)
その他 : デロイト トーマツ グループ ボード議長経済学部 卒業塾員(1981経)。慶應義塾理事・評議員。有限責任監査法人トーマツ金融本部長、デロイトトーマツグループ金融インダストリーリーダー等を歴任。元公認会計士三田会会長。 30 % Club Japan Vice Chair。
後藤 順子(ごとう よりこ)
その他 : デロイト トーマツ グループ ボード議長経済学部 卒業塾員(1981経)。慶應義塾理事・評議員。有限責任監査法人トーマツ金融本部長、デロイトトーマツグループ金融インダストリーリーダー等を歴任。元公認会計士三田会会長。 30 % Club Japan Vice Chair。
町田 智子(まちだ ともこ)
その他 : 朝日新聞社上席執行役員(CSR/教育事業/女性プロジェクト担当)経済学部 卒業塾員(1982経)。1982年朝日新聞社入社。文化事業部長、役員待遇企画事業担当兼同本部長等を経て2013年取締役西部本社代表。17年取締役東京本社代表。18年より現職。
町田 智子(まちだ ともこ)
その他 : 朝日新聞社上席執行役員(CSR/教育事業/女性プロジェクト担当)経済学部 卒業塾員(1982経)。1982年朝日新聞社入社。文化事業部長、役員待遇企画事業担当兼同本部長等を経て2013年取締役西部本社代表。17年取締役東京本社代表。18年より現職。
工藤 禎子(くどう ていこ)
その他 : 三井住友銀行常務執行役員経済学部 卒業塾員(1987経)。1987年住友銀行入行。2014年執行役員成長産業クラスターユニット長、2017年より常務執行役員。ファイナンシャル・ソリューション部門統括責任役員、国際部門副責任役員。
工藤 禎子(くどう ていこ)
その他 : 三井住友銀行常務執行役員経済学部 卒業塾員(1987経)。1987年住友銀行入行。2014年執行役員成長産業クラスターユニット長、2017年より常務執行役員。ファイナンシャル・ソリューション部門統括責任役員、国際部門副責任役員。
大谷 弘子(おおたに ひろこ)
その他 : ローソン執行役員マーケティング戦略本部副本部長兼商品本部副本部長法学部 卒業塾員(1987政)。1987年日本電信電話株式会社入社。日本コカ・コーラマーケティング本部マネジャー、日本ケロッグ合同会社執行役員等を経て2019年ローソン理事執行役員マーケティング戦略本部副本部長。
大谷 弘子(おおたに ひろこ)
その他 : ローソン執行役員マーケティング戦略本部副本部長兼商品本部副本部長法学部 卒業塾員(1987政)。1987年日本電信電話株式会社入社。日本コカ・コーラマーケティング本部マネジャー、日本ケロッグ合同会社執行役員等を経て2019年ローソン理事執行役員マーケティング戦略本部副本部長。
岩波 敦子(司会)(いわなみ あつこ)
その他 : 常任理事理工学部 教授塾員(1985文、90文博)。ベルリン自由大学にて博士号(Dr.phil.)取得。2008年理工学部教授。13年より常任理事(人事・労務、協生環境推進、学生(共管)担当)。 慶應義塾協生環境推進室室長
岩波 敦子(司会)(いわなみ あつこ)
その他 : 常任理事理工学部 教授塾員(1985文、90文博)。ベルリン自由大学にて博士号(Dr.phil.)取得。2008年理工学部教授。13年より常任理事(人事・労務、協生環境推進、学生(共管)担当)。 慶應義塾協生環境推進室室長
2020/04/06
「30%Club Japan」の設立
本日はお忙しい中、お越しいただいて本当に嬉しく存じます。今日は、『三田評論』では初めての女性だけの巻頭座談会になるそうです。
さて昨年、企業の役員に占める女性割合の向上を目的に、「30%Club Japan」が設立され、後藤さんがVice Chairに就任されました。そして、大学もこのプロジェクトに参画するにあたり、慶應義塾にもお声がけいただき、長谷山塾長がメンバーになっておられます。
このように女性活躍の動きが日本でも活発化する一方で、昨年発表された世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数」では、前年の110位から121位へと大幅に後退してしまいました。これを見ると、まだまだ日本の女性活躍は道半ばかなと感じます。
こういった状況を踏まえ、今日は企業経営の最前線で活躍されている女性役員の皆さま方にお集まりいただき、女性活躍社会の実現に向けて議論してまいりたいと思います。
まず、30%Club Japanについて、後藤さんからその趣旨をお話しいただけますか。
30%Club自体はイギリスで2010年に発足した非営利の世界的キャンペーンです。現在14カ国で展開されており、展開国の数は増え続けています。始まりは、イギリスで取締役などの企業経営のトップ層において女性比率が低いままでなかなか伸びない状況があり、クォーター制の導入が喧伝される中で、「上から押し付けられるのではなく、企業サイドが自らの力で女性経営陣の比率を上げていこう」ということでした。
イギリスでは、デロイトからも発起人の1人として参加しており、そのご縁もあって、日本での立ち上げをサポートすることになりました。
その目的は取締役会を含む経営の重要意思決定機関における多様性のうち、特に一番数の多いマイノリティーである女性の比率を健全な割合まで引き上げていくことです。健全なバランスは、企業のガバナンス強化、持続的成長の促進、そして国際的競争力の向上、ひいては持続可能な日本社会の構築に寄与すると考えています。重要意思決定機関の女性比率向上は、女性の活躍、登用全体の推進なしには語れませんので、そのための活動もしていきます。
企業の経営トップ自らがコミットしてそれを推進しようという方が集まり、いろいろな意見交換をしたり、ノウハウを共有して進めていこうとしています。
今、どのぐらいの数の会社が入っているのですか。
全体で51名、うち日本のTOPIX100、400の企業から20名です。
先日、経団連と女性活躍推進に関する協力の覚書を締結し、情報交換と意見交換、イベント開催や対外情報発信を協力して展開しようとしています。大切なのは、主要企業のトップの方々に「自らのこと」として参加していただくことです。日本の社会を変えるのは、それが早道なのです。
いろいろとワーキンググループもつくっています。今、一番活動が活発なのはインベスターズグループです。そのほかにメディアグループも立ち上がっています。
ぜひ大きく発展させていきたいですね。
そうですね。日本をより活性化し、成長のスピードを高めていくために女性が活躍できるような社会を実現していきたいと考えています。
会の目標は2030年までに監査役や執行役を含むトップ層の女性割合を30%にすることですが、各企業に絶対にそこまで行ってください、とお願いしているわけではなく、各社が自らに合った目標値を定め、それに向かってトップがコミットしてリードしていただければ結構です、とお話ししています。
女性活躍の場は広がっているのか
有り難うございます。今日は様々な業界の方に来ていただいていますので、それぞれご自身の関係する分野でのお話を伺えればと思います。町田さんからいかがでしょうか。
私は2016年から女性プロジェクトの担当役員をしています。これは社内やグループ企業内の多くの関連媒体やプロジェクトをネットワーク化したものです。年齢やライフスタイルなどを異にする、様々なステージの女性たちを応援し、社会で元気に活躍していただこうと発足し、今に至っています。
先日の「ジェンダー・ギャップ指数121位」は衝撃でした。しかし、ピンチこそチャンス。危機感を共有し、問題意識を持った人たちが結集することで、社会を変えていく力になるのではとも考え、そこにメディアの果たす役割があると思っています。
3月3日には弊社のGLOBE編集部とお茶の水女子大学が共催し、ニューヨーク・タイムズの特別協力で、米国から同社のジェンダー系のエディター、ディレクターを招いて、国際女性デー記念シンポジウム「121位の私たち~ジェンダー格差をどう変える」を開く予定です(注:新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期)。
また、毎年3月8日の国際女性デーに展開する「Dear Girls」という紙面企画では、女性をめぐるテーマを扱い、例えば昨年は「アンコンシャス・バイアス」(無意識の偏見)を取り上げました。一連の記事をまとめた小冊子は、高校生や大学生の授業でも活用されています。授業で使うことで、考えるきっかけになった、というお声もいただいています。
工藤さんは銀行ということで、女性も多い職場だと思いますが、女性が確実に社会で活躍するために、何かなさっていることはありますか。
ジェンダー・ギャップ指数121位というのは、確かにショッキングな数字ではありますが、自分のまわりを見ると、女性の待遇、また活躍できる場は改善しているように思っています。この数字が悪かったのは、経営トップ層の女性の少なさや、政治の世界への女性進出の少なさが理由なのだろうと思うのです。
例えば、私どもの銀行の若手社員を見ると、男女の差なく仕事をするというマインドセッティングがかなりできていると思います。
そうですよね。ミーティングをすると、以前よりも女性にお目にかかるようになりました。
本当に普通のことになっています。一方で、経営者層や政治家というのは、それまでの積み重ねもあるので、すぐに女性の比率を上げることができないという難しさがあると思います。
日本の社会は、年功序列がまだあるので、抜擢人事のようなものは難しい。従来からの企業カルチャーもあり、時間も必要かと思います。
三井住友銀行での取り組みはいかがでしょうか。
銀行の一番大事な経営資源は人材ですので、人材の多様性、人を生かすことが最大の成長戦略と位置付けています。そうした考えから2005年頃より、女性活躍推進に取り組んでいます。最初は一定数の女性を採用する、「辞めないで働いてもらう」両立支援、でした。その次はキャリア支援に力を入れてきました。
育休の支援制度などは、充実していると思います。キャリア支援を考えた時に、女性がキャリアアップできているかが重要で、それには女性が意思決定の場に出ていくことが必要です。それは経営ということだけではなく、日々の業務の中でもっと増やさなくてはいけません。
育児休業や時短勤務制度は、社会、企業として用意すべきことです。できるだけフルタイムで働いてもらい、育児休業後も早く社会復帰してもらえるようにテレワークを推進したり、働く時間を柔軟にする。こういった施策がないと、いくら政府が数字を掲げ、お尻を叩いても、女性の経験値が上がらないので、なかなか活躍できないと思います。
マネジメント職への就任に対しては、女性は自らハードルを上げてしまうので、女性向けのリーダーシップ研修を2つの階層で行っています。
また、家族のあり方の違いにも対応が必要です。現在、共働き世帯は、40代は2割ですが、20代では8割です。銀行としても男性の育児参加を支援していますし、介護との両立支援ということで言えば、グループのSMBC日興証券は、週休3日や週休4日という勤務制度もつくっています。
リスク・テイクに慎重な女性
大谷さんは、いろいろな企業をご経験し、業界の違いも肌で感じているのではないかと思いますが。
私は最初に日本の会社で9年ほど働き、その後、外資系で20年ぐらいマーケティングをやり、また、一昨年日本の会社に戻ってきました。
以前、日本の会社にいた時と、今、日本の会社に戻って感じることは、「進んではいるものの結構ゆっくりだな」ということです。20年経って、まだこれだけしか進んでいないのかと思うところもあります。勤めていた外資系では男女のジェンダー差もなく、チャンスがあれば手を挙げて、ポジションを取りに行くのが一般的でした。海外赴任なども、男女問わず力があって行きたい人が行きます。もちろん責任も取らなければいけませんが、そこでは、女性として差別されていると感じることはほとんどありませんでした。
最初に勤めていた日本の会社では、結婚や出産があっても2年おきに転勤があるため、人生の組み立てが思い通りにできないと感じました。自分で専門領域を磨いて東京にいられる働き方はないかと思い、外資系企業に転職し、マーケティング領域で経験を積むことにしました。
今の勤務先であるローソンでは、政府が勧めるいろいろな仕組みなどを取り入れていますが、管理職をやりたがる女性があまりいません。「抜擢してくれるな」という声も聞こえます。「あなた、できるんだから」と言っても、積極的に手を挙げる人は限られています。
女性の取締役も半数近くいますが、全員社外取締役の方々で、中から叩き上げで上がってきた女性はまだいませんし、私も外から来て役員になっています。中から上がれるようトレーニングをしたり、私の頃にはなかった、うらやましいような産休、育休制度も取り入れてサポートしていますが、ペースはかなりゆっくりです。
おっしゃるように、チャンスはあるけれども手を挙げるのを躊躇する、自ら手を挙げることに慎重になる傾向が女性にはあるように思います。
慶應義塾の女性職員も大変優秀で、本来ならばマネジメント職としてもっと大勢活躍して欲しいのですが、思っているようにはなかなか手を挙げていただけていません。優秀だからこそ自分に課すハードルが高くて、失敗するリスクと責任を担うマネジメント職には二の足を踏みがちなのかもしれません。その背景にはチャレンジに消極的な日本人的なメンタリティがあるようにも感じています。
女性を登用する仕組みづくり
おっしゃる通りです。私どものグループでも管理職になることが非常に高いハードルになっているようです。「リーダーシップを発揮するような教育を受けていません」とか、「私は男性をリードなんかできません」、と言って手を下ろす人たちがいます。「頑張れ、頑張れ」と言うだけではなく、彼女たちが安心して上がれるような仕組みをつくっていくことが大事です。
そこでスポンサーシップ制度を入れようと思っています。今はまだ経営層だけですが、キャリアを上げる時だけではなく、その先の仕事にもずっと寄り添い、多角的に助言を行う制度です。
男性の場合は上司の「引き」が普通にあると思いますが、それを意識して行うようなものです。管理職に上げただけで、後は自分で頑張れと放り出したら、特に女性は厳しいと思います。男性だと自然にネットワークができていて、普通に皆がサポートしているようですが。
スポンサーシップというのは、メンターという言葉に置き換えられると思いますが、工藤さん、銀行ではいかがですか。
当行では、女性向けに課長になる前後にメンタリング制度があります。経営のメンバーや部長候補レベルではありません。
私たちは逆に上から強化していて、今は次のボードメンバーにするかしないかぐらいのところに制度を導入していて私も数名面倒を見ています。メンタリングをするだけではなく、上下の関係も使って挑戦の機会を提供したり、積極的に応援するものです。
役員クラスの女性は数名しかいないので、男性が女性を引っ張れるような仕組みもつくろうとしています。
いいお取り組みですね。自分はメンターがいなかったのですが、役員というのは重要な職務なので、就任前後にアドバイスいただける方がいてもいいのではないかと思いました。
男性同士はメンター制度などではなくアドバイスを受けているのか、というとわかりませんが、長い歴史の中で、いろいろなところで、なぜか男性は嗅ぎ取っているところがあるように感じる時があります。
私もそう思います。自然発生的にネットワークができている。DNAに組み込まれているのかどうかはわかりませんが(笑)、男性だけの中に女性がポンと入って活躍しろと言われた時は非常に大変ですよね。
そうなんです。「教えてもらう立場じゃないだろう」と言われればそうでしょうが、ご自身の経験ややり方を教えていただいたり、私へのフィードバックをいただけるだけで違うと思うのですね。
また、もしかしたら、日本の会社は経営層への教育全般が、男性、女性関係なく、弱いところがあるのではないかとは思います。
メディア、特に新聞というと一匹狼的なイメージが男女問わずありますが、マスコミ業界はいかがですか。
当社では男性、女性に限らずメンター制度はありません。それぞれの役職を経て、経験を積みながらやっていくので、あまり必要とされなかったのかもしれません。
ただ私の場合、女性プロジェクト担当ということで外部の企業とも交流する機会があり、「生真面目な女性ほど管理職に手を挙げない」という話はよく聞きます。でも、そういう人を少しだけ後押ししてポストに就かせると「なんだ、できるじゃない」という例が増えてくる。そうやって、いろいろな背景を持つロールモデルが増えると、若い人たちも安心して、一歩前に踏み出せます。
先週、元厚労省事務次官の村木厚子さんにインタビューした際(3月6日朝日新聞夕刊掲載)、手を挙げる人が必ずしも仕事ができるとは限らない、とおっしゃっていました。むしろ、おずおずと遠慮がちな人の方が、いざやってみるとすごくできることも多いと。ですから、チャンスをためらいなくつかめるよう、まわりの後押しは大変重要だと思います。
後は、やはりトップのリーダーシップ。強い意志を持続的に示せるかどうかです。ただ無理に推進すると、どうしても「無理して就けたけど駄目じゃないか」という否定的な意見が出てくる。それより、ためらっている人たちに対し、「あなた、やってみれば」と背中を押してあげる。その人たちが結果を出せば成功例となりますし、少なくとも無理な話ではなかったと証明されれば、後に続く人たちは増えます。
ジェンダー・ギャップ指数の改善には、多くの企業が当事者意識とスピード感を持って進めていく、という流れをつくることが肝要です。それは少子高齢化の中で、女性の力がさらに発揮されることにもなるでしょう。
アファーマティブ・アクションをどう考えるか
アファーマティブ・アクション(積極的是正措置)について、皆さんがどうお考えになっているか伺いたく思います。アファーマティブ・アクションは、女性の登用を積極的に行うという意味ではいいのですが、逆差別になると言われることもある。教員採用等で実施している大学もありますが、皆さんのところではいかがでしょうか。
私どもデロイトトーマツグループには公認会計士や税理士、コンサルタントや弁護士まで様々な職種の人たちがいますが、基本は銀行と同じで人が財産です。いかに優秀な人たちに気持ちよく個性を発揮してのびのびと働いてもらうか、が顧客の満足度に直結します。
そのような環境の中から、いかにイノベーティブな、柔軟な考えを生み出していくのかが非常に大事で、そのために埋もれている女性を掘り出して、力を最大限に発揮してもらうことが経営課題になっています。
少し前までは、女性の活躍推進は社会貢献のような感じでしたが、今や重要な経営戦略として絶対にやらなければいけないと思っています。そこで、私どもは、CEOの直下にD&I(Diversity&Inclusion)のコミッティをつくり、数値目標を立てて達成するという強いコミットの下で女性の活用を推進しています。
数値目標はとても背伸びしたものを立てるので、その中でアファーマティブ・アクションというわけではありませんが、時として女性を優先しているのではないかと思われるようなこともあります。
私も社内で、女性を優先して男性が差別されているのではないかと聞かれることもあります。その時には、今まで女性は差別を受け続けてきた。その人たちは、今まであなたたちが下駄を履いている間に鉄下駄を履いて、苦しい思いをしながら頑張ってきた。「その鉄下駄をちょっと下ろしたっていいじゃない」というような話をします。
「平等になるまではやるのよ」ということです。トップが抵抗に屈せず、ひるまずに頑張ることが大事だと思っています。
私が勤めていた外資系の会社では、アファーマティブはありませんでした。マネジメント職の半分ぐらいが女性だったり、役員も、もう女性のほうが多い会社もありました。
日本の会社だと男性同士がお酒を飲んだり、たばこを吸いに行ったりして、そこで重要な意思決定がされてしまうことがありますね。そういった公式ではない場で話をして、なんとなく物事がそちらに行ってしまう。そこに女性は呼ばれていないし、入り込めないので、そこはちょっと壁を感じます。
本当にそうですね。今、私どもでは、意思決定はきちんとインクルーシブにやってくださいと言って、そういったインフォーマルな場で意思決定がされることを徹底的に問題視しています。どこかよくわからないところで根回しして、こそこそと決めましたというのは駄目です。文化を変えなくてはいけません。
「働き方」と家庭での役割分担
難しいですよね。また、積極的に管理職になりたがらない女性を問い詰めていくと、結局、「家事や育児をワンオペで(1人で)やらなければいけなくなる」と言う。
男の人はとにかく早く家に帰って来ない。「なんで私がいつもお迎えに行って、ご飯作って、寝かせてということを1人でやんなきゃいけないの」と。そうすると、「管理職は無理」という話にも当然なってきますね。会社の中でメンターをつけることも大事ですが、家庭や社会での体制も整えないと正直難しいと思います。
2016年の総務省の調査では6歳未満の子をもつ夫婦の1日あたりの家事・育児時間は、女性が7時間34分に対し、男性は1時間23分です。男性は微増傾向にはあるものの、この極端な差が結局、女性にばかり負荷がかかることにつながっている。それが、管理職に就くことをためらわせている主因にもなっています。これは社会的な働き方の問題と一緒に変えていかないといけません。
そうですよね。26歳から35歳までを対象に実施した厚労省の成年者縦断調査では81.4%の女性が結婚後も仕事を継続しています。共働きに関して世代間でも大きな意識の違いがあるように思います。
ジェネレーション・ギャップも大きいですよね。今、会社の制度・施策を決める側が40代以上なので、ルールのつくり手と使い手のギャップがなかなか詰めきれてないのかもしれません。
一方で、今の話に水を差すつもりはありませんが、海外でも女性が企業のトップになっている場合は、逆に男性が仕事を辞めているケースもあります。すごく忙しくなっていくと、もしかしたら、ある時はどちらか片一方に家庭のことを頼らざるを得ない時もあると思います。今までは女性がついていく立場だった。それが役割を自由に選べて、女性でも男性でも、偏見もなくできるようになればいいのでは、と思っています。
私の夫は「専業主夫」なんです。
そういう方は、弊行にもいらっしゃいます。それでいいと思うのです。
私も家事の大半を夫に負担してもらっています。あまり胸を張って言えないですが(笑)。
問題はアンコンシャス・バイアス。例えば双方の両親から女性だけが、結婚した際に「あなたは専業主婦になるんでしょう」、子どもができると「いつ会社を辞めるの?」と言われたりする。
結局、そうした悪気のない、今までの文化背景から当たり前だと思っているようなアンコンシャス・バイアスを周囲や上司が見せてきた。それが男女とも知らず知らず刷り込まれている。
これはメディアの役割でもありますが、気づきを増やしていくことは大事です。経営者や管理職、周囲の方々が自覚を持って接することで、ずいぶん変わってくると思います。
「ガラスの天井」は感じたか
皆さん、今のポジションに就くまでにいろいろなご苦労もあったと思います。女性であるから良かったこともあると思いますが、見えないガラスの天井を破らなければいけなかった経験もたくさんあるのではないでしょうか。
私と町田さんは雇用機会均等法以前の世代ですね。私は就職の面接で「女性の幸せは結婚と子育てなのに、何で公認会計士なんかになったの」と言われ、その会計事務所はあっという間に失礼して外資系に行きました。そのあたりから始めるともうキリがないのですが(笑)、幸いなことに私は仕事の上でひどい差別を受けたことはありません。
私が入所した時、1人だけ先輩に女性がいたのですが、「大丈夫よ。差別なんかされないから。男性の2倍働けばいいだけよ」と言われたので、そうかと思い、私生活をかなり犠牲にして長時間働きました。今では問題ある働き方ですが。
そのこともあり、しかも、女性が非常に少なくて他の人よりちょっとだけ上手くできると目立ったので、いろいろチャンスをいただいたということはあったと思います。そのちょっとしたチャンスを、できないかもしれないと思わずにポジティブに挑戦してきました。
私の場合、チャレンジは上に行けば行くほどありました。スペシャリストとしてやっている時は、自己研鑽をすればいいわけですが、組織のマネジメントをするとなると、まったく必要なスキルが異なります。
リーダーシップが必要になり、人を動かしていかなければならず、皆の心を1つにするのはどうしたらいいのかと、悩んでばかりでした。そのあたりは、段階的に経験したり体系的に学ぶ機会がもう少しあると良かったと思います。
特に、役員レベルで組織を横断的に束ねる仕事は、ものすごいチャレンジでした。モチベーションがバラバラでしかも一家言ある男性リーダーばかりを、人とお金を握らずにビジョンと影響力だけで思う通りに動いてもらうということは非常に難しかったです。
翻って思うと、男性は昔から組織の中で上手く立ち回ることを学ぶ機会があったり、まわりがサポートすることがあるのかなと思います。私は相当孤軍奮闘してしまった感じがします。
私はあまりガラスの天井は感じませんでした。1つには私が新聞社の中でも非常に特殊な文化事業を中心に歩んできたということがあります。私はプロパー第1号だったので、その道を専門にされている方があまりいなかったのです。
業界的に女性はまだ珍しかったものの、文化事業ということもあり、海外交渉を含め、とくに不利になることもありませんでした。たまたま幸運だったのかもしれませんが、大きくトラウマになるような経験はなかったですね。
西部本社代表として九州に赴任した時、地元企業の社長に「え、女性が新聞社代表?」と驚かれました。女性初の本社代表という重圧より、私はとにかく毎日が営業だと思って、いろいろな会合に出て人と会い、「文化」が助けになって、本当に楽しく皆さんと交流してきました。そのつながりが今も生きている。
だから、トライして挫けてもいいけれど、トライする前から諦めてはもったいない。多くの人たちがまずトライすることが大事ではないでしょうか。
そう言えば私が総責任者というポジションになった時に、「女性は腹を割って話せないから、やっぱり女はやめてくれ」と言われたことがあります。でも、私の上司が「使えば分かるから、ちょっと付き合ってみてください」と言ってくれて、2年後には、その人は私の大ファンになってくれました。この上司の存在は有り難かったです。
自分の壁をなくす
私は均等法施行後の最初の採用となる総合職1期生で、総合職で採ったけれど、使い方・扱い方に戸惑っているところも感じました。
制服を着てお茶汲みをし、電話に出れば「男性に代わって」と言われる。アシスタント職と同じ分しか時間外勤務も認められなかったので、その分、同じ総合職で入った男性よりも業務経験の量が減ってしまっていました。当時の労働基準法に従うと、そうなる仕組みだったようです。
でも、入行して3年目に国際部門に移ると、海外での業務経験のある方が多く、海外では女性がビジネスの場にいることにも慣れておられたので、仕事をする上では、女性だからどうということはありませんでした。最初のうちは海外出張に行くのが心配と言われて気にしていただきましたが、仕事上では思い切りやらせていただきました。
でも、マネジメント職になるということが自分にとってはハードルで、できれば好きな仕事の専門職でずっといたいとすごく思っていました。
そうですよね。
女性と男性の育ち方の違いからか、マネジメントは人を動かしていくとか、人の上に立つというイメージがあって、そんなことできないと思っていました。
実際その立場になって、皆で一緒につくればいいんだと考えると、気が楽になりました。皆を動機付けして、方向を示してあげることであれば、自分でもできるかなと思えたのです。そういう意味では、トライしてやってみたことで、自分の壁がなくせたかなと思います。
大谷さんはいろいろな企業を経験されているので、それぞれ壁が違ったのではと思いますが。
日本の会社にいた9年は、2年おきにあちこち転勤があり、天井を感じるまでもなかったです。その後は外資系で、やりたければやれるような環境にいたので、あまり感じたことはありません。
今も社長のサポートを受け、部門横断でいろいろなことをやらせてもらっており、基本的には壁も天井も思い当たるところがありません。
それは素晴らしいです。先ほどの後藤さんのお話のように、女性がチームを率いていて、顧客が、「ちょっと女性は」と言った時に「いやいや、付き合ってもらえば分かりますよ」と言ってもらえるような方がそばにいることは、すごく大きいですよね。
そうですね。ポジションに就けるだけではなく、失敗しないようにサポートをしてあげる人がいないといけないですね。やりっぱなしで勝手に育ってきてしまったのが、たぶん私たちの世代だろうと思いますが、これからはポジションに就けるだけではなく、きちんと育てて成功させてあげないといけないと思います。
女性が活躍していく上でのネットワークづくりに関して、何かアイデアやご経験などありますか。
やはり、男性と比べて、女性はネットワークの力が弱いのかなと思います。そこで、社内のネットワークは、階層ごとに小さなグループをつくり、昇進直前の人たちに昇進した後の人たちからいろいろな話を聞けるような仕組みにしています。
今、立ち上げているのが、社外ネットワークです。引き上げられた若い人は、会社の中だけでなく、様々な会社の方々と情報交換をすることが必要です。そこで、ビジネスに関するネットワークをつくって、さらに成長できるような場をつくろうと、この前「SheXOクラブ」というものを立ち上げてもらいました。当クラブは、組織のエグゼクティブとして活躍する女性と、真のリーダーとして高い視座を持つことを目指す次世代リーダーを対象としています。
会社の枠にとらわれずに、同じようなポジションの方々が広くネットワーキングができるような場所をつくりたいと思っています。
今までビジネスの場に出ていた女性がそんなに多くいなかったので、おっしゃったように、何かの場をつくっていくことはすごく大事だと思います。子育てであれば、育児書はたくさんありますが、女性にもマネジメントをするに際に、言葉になっていない知や経験を共有してもらったり、刺激を与えてもらう場所として、ネットワークが必要だと思います。
いずれ、そのネットワークは女性という括りだけでなく、いろいろなタイプがあったらいいと思います。
社会を変えていくには
ジェンダー・ギャップ指数で日本が121位に落ちた1つの大きな理由は政治の部分です(125位→141位へ)。政治の場では、たばこ部屋ではありませんが、表に出ないところで決まっていくことが多いように感じますし、せめぎあいの経験も必要です。重要な決定を任せられる場に女性たちが入れないということが、順位が低い理由なのではと思うのですが、いかがでしょうか。
2018年に候補者男女均等法ができました。これは日本のパリテ法と言われていますが、あくまでも努力目標で義務ではないため、なかなか進まない。法をつくっただけでは駄目で、法をテコに、かなり意識して取り組み、女性の議員比率を上げていく必要があります。
数年前、SDGsの制定に深く関わったアミーナ・モハメッド国連副事務総長が、来日中に「まずは女性候補に投票してみて。男性とともに女性も意思決定に関われば、男性のみの場合より間違いなく良い結果を生むでしょう」と話しておられました。
当然のことながら社会の構成員の半数は女性です。受益者も担い手も半数は女性である以上、その代表として女性がもっと発言し、政策も含め、様々なことに関わっていかないと、社会はなかなか大きく変わっていかない。
経済界のほうは、今かなり動き出しているので、むしろ政治ですよね。
「ジェンダー・ギャップ指数」の経済のスコアは2ポイントぐらい上がっていますが、政治のほうは下がり続けています。
その通りです。指標のうち、調査開始以来、教育と健康は両方ともずっと100位以内で、とくに健康は1位の時(2017年他)もありました。
先ほど「主夫」という話が出ましたが、男性も好きなライフスタイルを選べるよう、一緒に声を上げていくことが大切です。各国がこれだけスピード感を持ってやっている時に、日本が自然体で進めていると、さらに落ちるかもしれません。
そうですよね。日本はインドに大きく離されてしまいました。
私は男女の能力差というより、女性の不安感が大きいと考えています。それを解決するためにも、エンパワーメントは重要ですね。実際、うちの編集や事業系の女性には裁量権を持って活躍している人も多いので、「女性だから」という引け目はあまり感じられません。
もちろん、男性でも女性でも失敗はあります。しかし、最初から「自分には無理」と可能性を縛る必要はないよ、という社会にしなければいけないし、会社はそうする責任があると思います。
女性もそれを堂々とやるような実力をつけていくということですよね。
少しだけ私の話もさせていただくと、これだけ活躍されている方がいるのに、女性で慶應義塾の常任理事になったのは私が最初でした。それは、ある意味アファーマティブ・アクションだったのかもしれません。
もちろん失敗もありましたし、今でもいろいろ課題はありますが、なる前の評価ではなく、なってからが勝負だと思っています。タイミングを見計らいながらコンセンサスを形成していくのは、もしかすると女性のほうが向いているのかもしれません。
それはありますよね。
トップダウンで何か決めることも場面によっては重要ですが、皆で考えを出し合いながら良い方向性を見つけていくというチーム・マネジメントは、女性のほうが得意かもしれない、と思いながら日々業務に取り組んでいます。
必要となる多様性が生み出す力
世の男性たち、特に40歳より上の人たちに対して何かメッセージというか、望むところはありますか。
見ていると多様性が生み出す力、価値を信じていない人も多いように思うのです。そういう経験をしたことがないのかもしれませんが、違う意見の人、違う性別の人、違う価値観の人が合わさった時に生まれてくるアイデアは全然違うんですよね。
自分と似たような考えを持っている人ではなく、まったく違うバックグラウンドの人に入ってもらった時に「ああ、呼んで良かった」と思うようなことはいっぱいあります。
皆が性別に限らずいろいろな価値観を越えた、多様性から生まれてくる価値を肯定してくれればいいのですが、今はあまり信じられていない気がして残念に思います。
「なんでそんな回り道をしなくちゃいけないんですか? 阿吽(あうん)の呼吸で進んだら早いのに」と言う人たちはよくいますよね。
そうなんです。しかし、自分の経験だと、そうやって時間をかけて磨いたアイデアで進んだほうが、すごくいい結果が出るんです。
事前によく揉むからですよね。多方面から「それは違うじゃないか」といろいろな意見があって、その結果としてできたものは、すごく良くて、しかも強いものができる。
ジェンダーに限らず、企業が成長し、日本社会が強くなっていくためには、多様性をもっと前面に押し出していかなければいけないと思います。
マーケットはグローバル化し、人々のライフスタイルや考え方、嗜好も多様化しています。その中で企業は潜在需要を見出して商品やサービスを提供し、ビジネスをしていかなければならない。多様で急激な市場変化に迅速かつ柔軟に対応することが求められる以上、ダイバーシティの実現によるイノベーションをはからなければ、企業が本当の意味で勝ち残っていくことは、難しいと思います。
それをまさに「自分ごと」として、戦略として、加速していく企業が増えていかないといけません。
大量消費時代は例えば、家電を売るなどの競争で、競争相手も見え勝ち負けもわかりやすい世界だったと思います。でも、今は業種・業界をまたぐ競争で相手も見えず、目標も不明確、競争すべき内容が多岐にわたり、ビジネスモデルの変革が必要になっている。そんな時代には、様々な視点を持ったより多くの人と取り組むことでアイデアが生まれてくるのだと思います。
30%Clubに入ってくださっているようなトップの方々は、皆、それを肌身にしみて感じています。グローバルな会社が多いので、世界で勝負するにはダイバーシティをしていないと太刀打ちができません、という強い気持ちをお持ちです。
ミドルマネジメントの重要性
男の人たちも「男」とひとくくりにできないぐらい違いますよね。
うちの息子は今、20歳ですが、もう価値観が全然違う。でも、あと何年かしたら、彼らが会社に入ってくるのですね。
そうですね。世代別の多様性も本当に考えなければいけません。若い人は本当に価値観が違うので、様々な策も取っていかないと、ついてきてくれない。
40代は、管理職としても力を発揮する世代です。育休を支援する「育ボス」の話がよく出ますが、まさに若い世代に対して一番接することが多い中間管理職世代でもあります。
その世代が育休取得を奨励し、休暇の取りづらい職場では声をかけてあげることがとても大切です。とくに男性の育休の場合、その職場で1人取るまでが大変で、1人が取ると、後はわれもわれもと取る流れがあります。最初の突破は、上司の理解と後押しがないと難しい例が多いようです。
そうしたことも含めて、50代以上の経営層世代と若い世代をつなぐ役なので、40代の管理職の役割は重要だと思います。
40代の方は今まで自分が目指してきたスタイル・価値観では戦えなくなってきており、苦しく感じている人もいるのではないでしょうか。
でも、おっしゃったように、40代のミドルマネジメントはすごく大事な役割ですよね。トップの意志を下に伝播させる、そのミドルマネジメントの人がどのようにフレキシブルに働けるかで会社の競争力がすごく変わってしまうと思います。
そうですね。慶應でもいわゆる教授クラスの世代と、40歳ぐらいの、まさに育児真っ最中の世代の男性教員の間には、育児への参加に対する意識のギャップが大きいように感じます。世代間のギャップも意識して対応していかないと大学においてもいい人材が確保できません。
企業はもちろんだと思いますが、変革に敏感な感性を持った方がトップに立っていないと、やはり強い組織にはならないと実感しています。
新しいロールモデルへの期待
女性だけではなく、慶應義塾で今学んでいる塾生や若い塾員たちに、何かメッセージをいただけると有り難いのですが。
まずは意識の問題として、多様な働き方があるということをきちんと理解して、ライフデザインや人生の目標を柔軟に考えてほしい。大きな企業に入って、一生そこにいればいいという時代ではもうなくなっていると思います。
女性には、可能性は無限大にあるということを前提にしてほしいと思います。ガラスの天井なんか今の学生たちが上がってくる時にはなくなっているでしょうし、自分たちの働き方も含めてどんどん成長してほしい。
また、トップになることを恐れずに進んでもらいたいと思います。女性は2番目のほうが風圧が当たらずに楽だとなりがちですが、一番上にいることで見える世界は本当に違うと思います。全員にトップになれと言っているわけではありませんが、日本だけにとどまらず、世界のどこでも視野を広く持っていろいろな可能性にチャレンジしていただきたいと思います。
私も若い人たちには自分を最初から抑制しないで、まず自分がやりたいことは何かを探りながら、可能性を追求してほしいと願っています。
もちろん、社会の中で生きていくにはいろいろな挫折もあります。ただ志を持ち続ければ、必ずその先に道は開けます。自分たちの可能性を信じ、前向きに生きてほしい。
自分たちが、次の世代のロールモデルとして、様々に枝分かれする道を担っているという意識も持ってほしい。しかも、活躍の場はまさにグローバル化している。日本ではスピード感を持ってジェンダー・ギャップが解消しないなら、私は海外で頑張ります、という人も増えてほしいと思います。
これからの学生は、より目標も不明確な競争の場に出るわけです。だから、学生時代に正解をすぐに求めることをあえてする必要はないと思います。もっと人との意見交換を楽しんだり、混沌とした世界を楽しむといったことを、優等生にならずにどんどんやってもらえればと思っています。
慶應は、グローバルな開かれた大学だと思っていますが、日本で働こうと海外で働こうと、日本人としての矜持というか、日本人としての良さも持った上でグローバルであることが強みになっていくと思いますので、その両方を大事にした人間の育成をお願いしたいし、そういう人になってもらいたいと思います。
私は会社も変わっていますし、国もまたいで働いてきました。常に変化の中でアタフタしてやってきましたが、それなりに楽しかった。だから「楽しいことをやる」のが大事だと思っています。
誰かに押し付けられてやるのではなく、とにかく「楽しそう」と嗅ぎつけたらやってみる。そうでないと続かない。それで自然と力はついてくるし、続けられると思いますので、ぜひ楽しいことを見つけてほしいと思います。
好奇心を持って活躍できる社会に
慶應義塾は女性がのびのび活躍できる学塾だと思います。男女の差別をあまり意識しないで学生生活を満喫できる。
ところが、今まで大学では性別による制約なんて考えたこともなかったのに、社会には実はガラスの天井というものがあるらしいと気づいて、幻滅してしまう若い世代の女性塾員が少なくないようなのです。
今のガラスの天井は、過渡期のものであって、社会はまさに変容しています。グローバル化の中で、おそらく日本も急激に変わらざるを得ない。
ですから今、仮に天井に気づいて失望したとしても、あまり、それにとらわれすぎる必要はありません。変わりゆく社会の中で自分らしさを大切に、可能性を探りながら、好きなことを追い求めていくことが大切です。人生は長いので、自分を見失わずに一喜一憂せずにやっていくしかないでしょう。
先ほど出たネットワーク化はとても重要です。昔よりも様々な仕事を選べる時代です。合わなかったら次の会社に行けばいいという選択の自由、あるいは国をまたいで仕事ができる時代になっている。そうなると、いろいろな出会いを大切にすることで、ネットワークが仕事にも生きる。私自身もすごく助けられてきました。
社内もそうですが、社外でも出会いを大切にネットワークを構築していくと、いろいろな助けが自然と舞い降りてくるという実感があります。だからすぐに失望しないでほしいです。
私もそう思います。ガラスの天井はいつまでもあるわけではない。
多少の我慢も必要というか、「ここ、やだわ」とすぐにほかへポンと行ってしまうと自分の糧にならないので、そこは石の上にも三年ぐらい。今は、3年も待っていられないかもしれませんが(笑)、多少の忍耐はした上でフレキシブルに考えたらいいのではないでしょうか。いつまでも悪いことはない。時代は動いていると思います。
大谷さんがおっしゃっていたように「楽しい」と思えることが大事だと思います。自分も20代、30代の頃を振り返ると、「もう、やめちゃおうか」と思ったことは何度もありましたが、仕事は楽しかったので、続けてきました。楽しいことを見つけてほしい。そのために職を変わる必要があれば、いろいろな情報に触れられるように、ネットワークを広げることも大事です。
また、嫌なことは受け流すということも大事だと思います。真正面で受け止めすぎるとストレスになってしまうので、「また言ってる」と流しながら、あまり相手にしないという選択肢もありますから。
鈍感力ですね。
私も毎日一番に会社に行って机を拭いて灰皿を洗って、お茶を入れてとか本当に嫌でした。「こんなこといつまでやるんだろう」と思いながら。
私も人より1時間前に行って、先輩の机の掃除をして、ポットにお湯を汲んでとかやりました。でも、1年後輩の男性にもやらせました。それは一番下がやるものだからと。
すごい。でも、そうですよね。
いろいろ嫌なこともありましたが、好奇心が非常に旺盛だったので、これもやりたい、あれも知りたいというのがモチベーションとなってここまでやってこられました。「これもいつか笑い話になる」と思って頑張りました。そういうふうに乗り切ってもらいたいと思います。
慶應義塾の女子学生たちは学校の中では自由に、男性と伍して、というよりも男性を御して、活躍してくれていると思います(笑)。
慶應義塾出身の女性社長数は東京商工リサーチでは3位ですが、帝国データバンクでは2年続けて1位です。女性の教員数も朝日新聞出版のデータによれば慶應が10年間1位です。性差を感じさせない自由闊達な学風で育った女子学生たちが、今後も元気よく楽しく好奇心を持って社会で活躍できるようにと願ってやみません。
そのロールモデルを皆さんが示してくださいましたので、皆さんの後を追いかけて、次の世代を担うロールモデルが義塾から次々と羽ばたいて、日本に限らずグローバルに活躍することを期待しています。
今日は本当に有り難うございました。
(2020年2月17日収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。