慶應義塾

【特集:日本の“働き方”再考】座談会:多様な働き方と雇用形態の変化が向かう未来とは

登場者プロフィール

  • 坂爪 洋美(さかづめ ひろみ)

    その他 : 法政大学キャリアデザイン学部教授文学部 卒業社会学研究科 卒業

    塾員(1989文、96社修、2001経管博)。博士(経営学)。和光大学現代人間学部教授を経て2015年より現職。専門は産業・組織心理学、人材マネジメント論。日本キャリアデザイン学会副会長。

    坂爪 洋美(さかづめ ひろみ)

    その他 : 法政大学キャリアデザイン学部教授文学部 卒業社会学研究科 卒業

    塾員(1989文、96社修、2001経管博)。博士(経営学)。和光大学現代人間学部教授を経て2015年より現職。専門は産業・組織心理学、人材マネジメント論。日本キャリアデザイン学会副会長。

  • 野間 幹子(のま みきこ)

    その他 : 国分グループ本社執行役員社長室長兼経営統括本部部長仕事における幸福度担当文学部 卒業

    塾員(1995文)。大学卒業後、国分グループ本社株式会社入社。人事総務部人事企画課長等を経て、2022年より現職

    野間 幹子(のま みきこ)

    その他 : 国分グループ本社執行役員社長室長兼経営統括本部部長仕事における幸福度担当文学部 卒業

    塾員(1995文)。大学卒業後、国分グループ本社株式会社入社。人事総務部人事企画課長等を経て、2022年より現職

  • 高橋 菜穂子(たかはし なおこ)

    その他 : ノバルティスファーマ・ポルトガル人事統括ディレクター経営管理研究科 卒業

    塾員(2003経管修)。政府系機関、コンサルティング業界を経て、2009年ノバリティスファーマ入社。人材組織部長、企業内大学“Novartis Learning Institute” 責任者等を経て2020年より現職。

    高橋 菜穂子(たかはし なおこ)

    その他 : ノバルティスファーマ・ポルトガル人事統括ディレクター経営管理研究科 卒業

    塾員(2003経管修)。政府系機関、コンサルティング業界を経て、2009年ノバリティスファーマ入社。人材組織部長、企業内大学“Novartis Learning Institute” 責任者等を経て2020年より現職。

  • 森安 亮介(もりやす りょうすけ)

    その他 : みずほリサーチ&テクノロジーズ主任コンサルタント商学部 卒業商学研究科 卒業

    塾員(2008商、15商修、22商博)。博士(商学)。総合人材会社を経て、2015年みずほ情報総研(当時)入社。慶應義塾大学パネルデータ設計・解析センター/産業研究所共同研究員。専門は労働経済学。

    森安 亮介(もりやす りょうすけ)

    その他 : みずほリサーチ&テクノロジーズ主任コンサルタント商学部 卒業商学研究科 卒業

    塾員(2008商、15商修、22商博)。博士(商学)。総合人材会社を経て、2015年みずほ情報総研(当時)入社。慶應義塾大学パネルデータ設計・解析センター/産業研究所共同研究員。専門は労働経済学。

  • 八代 充史(司会)(やしろ あつし)

    商学部 教授

    塾員(1982経、84商修、87商博)。博士(商学)。日本労働研究機構勤務を経て、1996年慶應義塾大学商学部助教授、2003年より現職。専門は人的資源管理論、労働経済学。異文化経営学会理事。

    八代 充史(司会)(やしろ あつし)

    商学部 教授

    塾員(1982経、84商修、87商博)。博士(商学)。日本労働研究機構勤務を経て、1996年慶應義塾大学商学部助教授、2003年より現職。専門は人的資源管理論、労働経済学。異文化経営学会理事。

2023/02/07

伝統企業の「働き方改革」

八代

今日は「日本の“働き方”再考」ということで皆様と議論していきたいと思います。

2010年代の半ば頃から、「働き方改革」が言われるようになり、同時に安倍政権の目玉政策として、いわゆる一億総活躍社会という中で、女性の活躍推進などが議論されてきました。少子高齢化による生産年齢人口の減少に伴って、多様な働き方を選択できる社会の実現を目指すことを目的に様々な政策が打ち出され、それを受けて実務に携わる方も、研究者もそれをどのように受け止めるかが重要な課題だったと思います。

残業規制や高度プロフェッショナル、勤務間インターバル制、正規非正規の待遇差別の禁止と、様々な政策が打ち出され、さらにその後コロナ禍になって在宅でのリモートワークという働き方が出てきました。

実務家の方は、そういった一連の働き方改革というものを、ただ国に言われたからやります、と受動的に考えるのではなく、会社の経営に結びつけ、プラスにしていこうと常にお考えになってきたと思います。

まず、野間さん、働き方改革というものを人事の実務家としてどのように受け止めてこられましたでしょうか。

野間

私は現在、経営統括本部という部署で、ウェルビーイングの推進をしていますが、2021年の12月まで人事部門に在籍しておりました。働き方改革が言われた当時は、まさに制度を作り、社員に浸透させる業務に携わっていました。

当社は食品や酒類の卸売業を行う、いわば食のインフラ産業です。創業が1712年で、2022年で310年になります。三重松阪の伊勢商人が江戸に出て、醬油の醸造業を始め、幕藩体制の崩壊とともに卸売業に転換した歴史を持ちます。決して日本の代表的な会社というわけではありませんが、「ザ・日本の雇用」を象徴するような会社だったと言えるのではないでしょうか。

私が入社した頃は多くの日本企業がそうだったように、男性社会で家族的な関係性が強く、長時間労働が当たり前の会社でした。そのような状況から、働き方改革と向き合い、この長時間労働を前提とした働き方を変えていくことは本当に苦労しました。しかし、何とかそこから脱却できたことはとても大きかったと思っています。

社員に「生産性を意識する」ことを実行してもらうことが大変でした。「そうは言っても、どうすればできるんだ」と現場から突き上げられる。システム部門や若い人の知恵を借りながら、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション:ロボットを使って行う作業)やAIを導入して、試行錯誤を繰り返し、場合によっては、一部の業務を整理しながら効率化をはかっていきました。

また、これまでの人事制度を見直す契機にもなりました。結局、長時間労働を前提とした働き方は、男性優位の働き方で、年功制が残っていた。それにきちんと向き合い、女性の転勤問題についても着手するなど、多様性を少しずつ受け入れ、生産性が向上する仕組みとなるような、抜本的な人事制度の改革も行いました。

これらにより、健康や余暇にも、ポジティブに向き合えるようになったと思います。それまでは、長時間労働が健康障害につながるという意識が乏しく、メンタル不調は心が弱いのだ、という誤った認識が暗黙のうちにあったような気がします。

この働き方改革では、長時間労働の是正という観点から、健康面についての改善を国が発信してくれましたので、法規制の中で健康改善の取り組みを行い、社員の意識改革を大きく進めることができました。

これまでの個人の生活を犠牲にして、のし上がっていくような働き方から、多様性を受け入れ、男女の差やライフイベントなどで、時間に制約があり、猛烈には働けない人にも配慮する風土が醸成されてきました。決して完全にできているわけではありませんが、それが、私たちが向き合ってきた働き方改革の良かった点だと考えています。

ジョブ型の働き方とは

八代

よくわかりました。さて、高橋さんは外資系のノバルティスファーマにお勤めで、現在はポルトガルにいらっしゃいます。欧州での働き方はどのような感じでしょうか。

高橋

今、私はスイスの製薬会社、ノバルティスファーマで、ポルトガルの拠点で人事の責任者をしています。ノバルティスが世界展開する中で、どのように各国の文化や実情に働き方を合わせていくかは、人事としてとても大事なテーマです。

製薬企業は新薬のパイプラインがどれだけ出るかが事業の根幹です。つまり、どれだけイノベーションを起こせるかということになり、どういう働き方をすれば、いつもイノベーションを起こし続けられるかが最重要課題となります。

私どもの会社は完全にジョブ型の人事制度を取っています。つまり、そのジョブがなくなれば職務がなくなるわけで、職務を失えばすぐに雇用の喪失になります。

欧米では、製薬業界に限らず多くの業界で今、人員削減が進んでいるので、少ない人数でより生産性の高い仕事をしなくてはいけません。また、コロナ禍でほとんどがリモートワークになりましたので、そういう環境下で、生産性を高くして働くことが働き方改革のポイントになっています。

ノバルティスでは24時間フル・フレキシビリティを認める政策を3年前に出しました。どこからでも、どういう時間でも、自分が望む働き方で働いていい、としたのです。しかし、あまりに急に方向転換をしたため、今、揺り戻しが起きています。

そこで、2023年から新しい社内ポリシーが全世界に発信されました。それは営業社員であれば、ほとんどの時間を営業現場で過ごし、顧客ともできるだけ対面で会いましょう。本社スタッフは、週3回以上、月に12日以上はオフィスで対面で仕事をしましょう、というものです。

これを社員がどう捉えるかがこれから大きなポイントになります。フル・フレキシビリティを認めていたのに、何でまたそんな規制をされなくてはいけないんだ、という反発がありますし、特に優秀人材をリテンション(確保)していく上で、フル・フレキシビリティを認めている他社に流れていってしまわないかが心配です。

海外では中途採用マーケットでの人員獲得が非常に激しいのです。それもエージェントを介してではなくLinked In 等のSNSに登録すると、ダイレクトに他社が声をかけてきて、そこで転職することが非常に多い。その環境下で、自らが転職力をつけるために、働きながら大学院で修士号やPh.D.を取る動きが非常に盛んです。企業側も働きながら学位を取ることは非常にプラスに捉えています。

そういう環境ですと、働く時間のフレキシビリティは認め、プロセスは問わずに、インパクト(最終成果)をどれだけ生み出せたかということで仕事を評価する方向にもっていかないと、優秀人材の獲得もできないのです。

また女性社員の割合が5割を超える国・部署も多々あり、家族で出産・育児・介護や家事労働を助け合いながら、フレキシブルにライフワーク・インテグレーションの実現を目指す社員に対し、フレキシビリティを与えていくことは不可欠な環境にあります。

一方、自分のキャリアをどう考えるかという意識が、日本の社員は欧米に比べるとそれほど高くないと感じています。日本でも規制が緩み、副業がOKとなってきましたので、自分のキャリアを自律的に考え、新たな学びや副業に前向きになってほしいと考えていますが、まだ効果が出るまでには時間がかかるようです。

多様性の要請と人事の課題

八代

大変興味深いお話でした。それでは、森安さん。多様性が生産性に結びつくという話が野間さんからありました。経済学の知見や、社会政策や産業労働政策に携わるお仕事柄、こうした点について、今どのように捉えていらっしゃいますか。

森安

野間さんの会社のルーツが伊勢商人とのことですが、私は近江商人で知られる滋賀県出身です(笑)。近江商人の「三方よし」にあやかると、働き方改革も、企業よし・社員よし・社会よしの3つの視点で見ることができるのではないかと思います。

一昔前と比べて、経営者が経営戦略の一環として人事課題を語ったり、最近の人権・人的資本開示に顕著なように、社会や金融市場から人事課題対応を要請される例が多くなってきたと感じます。経営者が、今まで以上に人事課題を経営上の重要テーマとして据え、取り組む時代になってきているのではないでしょうか。いわば「社員よし」の観点のみならず、「企業よし」「社会よし(市場・マーケットよし)」の観点からも行う、働き方改革になりつつあるのだと思います。

今までは作れば売れるという時代だったのが、今は需要を喚起していかないといけない。そしてデジタル化やグローバル化と相俟って、一夜にしてゲームチェンジが起こる経営環境になった。さらに業界も超えて競合が参入してくる。金融業界もご多分に漏れず、ITや別の業界から参入してくるような環境に置かれています。

そうなると、新卒で採用し、十何年かけて育て自社流のやり方を生産性に結びつけるような仕組みは、もう合理的ではなくなります。むしろゲームチェンジに合わせて外の知をいかに取り入れるかが重要になってくる。社員が学び続けることや、多様な形で多様な知を取り入れること、兼業副業やフリーランサーなども取り入れイノベーティブなことを起こしていくことなどに舵を切る必要がある。そうしたことからも人事の課題が経営の中で議論されるようになってきたのだと思います。

加えて社会やマーケットからの要請です。人的資本開示に関する取り組みが顕著な例です。今まであまり人事には登場してこなかった財務部長が人事領域の課題について話してくるようなことが起きています。

さらに、政府の成長戦略でも新しい働き方の定着が推進されていますが、その流れは地方の中小企業にも波及している様子が窺えます。中途採用をやってみようとか、兼業副業をする人材を取り入れようと、地域の経営者が人事制度や働き方を見直す動きが出ています。今までは離職防止や人手不足にかられて働き方改革に取り組んでいたのが、経営戦略上の観点から取り組む事例が多くみられるようになってきました。

こうした働き方改革の裾野、特に経営者が人事課題を扱うということが、大企業から中小企業、または都市から地方へと波及しているものと思っています。

働き方改革の意味

八代

坂爪さんは、経済学よりもう少しミクロな、企業の中の従業員と組織との関係や、上司と部下との関係を研究する組織行動論をご専門にされています。そういう観点から働き方改革の動きをどのように見てこられましたか。

坂爪

日本の働き方改革の議論は2014年頃に始まったと記憶しています。当時問題視されたのは、長時間労働の蔓延、多様な労働力の活躍のしにくさといった状況です。

例えば、出産した女性が、就業継続したいと思っても、職場は長時間労働が蔓延していて、その働き方には合わせられない。かといって短時間勤務にすると、空気のように扱われるという話がよくありました。健康を害するような長時間労働は論外ですが、特定の働き方ができる人しか活躍できない職場を変えていこう、そのために労働時間を見直していこうという状況が、働き方改革につながっています。

働き方改革が狙ったのは、いつでもどれだけでも残業できる従業員が「理想」ではなく、たとえ労働時間は短くても、期待される成果をあげれば、その会社で重要な人材であるという、求められる人材像の変革です。

実は育児以外にも両立を模索する人が結構います。介護もそうですし、職場の平均年齢があがる中、自分の病気との両立、あるいは大学院に行って勉強する人などですが、そうした、仕事に100%を割けない人たちも、十分に活躍できる場を作ることが大事です。

コロナの感染拡大に伴うリモートワークの普及もあり、「当たり前」と捉えていた働き方に、実は他の選択肢があることがわかってきました。従業員が力を発揮するため働き方を考えるきっかけになった、働き方改革には、大きな意味があったと思っています。

ただ、働き方改革をふまえたマネジメント側は変革の真っ只中にあり、現状だけをみれば、混乱しているとも思います。管理職は一人一人状況が異なる部下を上手くマネジメントしつつ、どうしたら皆が職場の目標に向かってまとまっていけるのか、残業が制限される中で部下育成をどうするのか、と今までの経験の中に正解がない状況で、試行錯誤しているのがこの2~3年なのだと思っています。管理職の皆さんにとっては、試練の時が続いているのではないでしょうか。

また、働き方改革の中で「キャリア自律」という言葉がようやく実感を伴うようになりつつありますので、働く側の自律を考える機運ができてきたことも大きいと思います。

多様性の価値

八代

皆様有り難うございました。2つほど質問したいと思います。野間さんに確認ですが、一見、多様性と生産性はトレードオフなのかと思うのですが、そのあたり、御社ではどのようにお考えでしょうか。これはダイバーシティ&インクルージョンの議論そのままだと思うのですが、今ひとつ腹落ちしないところがあるものですから。

野間

多様性にはいろいろな捉え方があるかと思います。これまでは男性の同じ価値観でビジネスを考えることが多かったかと思うのです。それが先ほど坂爪さんがおっしゃっていたような、子どもを産んで復職されて、優秀だけど時短でしか働けないからと仕事の機会に恵まれなかった人たちに、活躍の場ができ始めてきたという点は確かにあるかと思います。

また、当社は2016年のグループ組織再編により、グループカンパニー制を導入しました。これまでグループの政策は主に日本橋の本社で考えられていたものが、再編以降はエリア各社で活躍する、転勤できない社員の英知も戦略に生かされるようになりました。

八代

なるほど。もう1つ、高橋さんから先ほど、コロナ禍のオンラインを「いつでもOK」から、少し戻したというお話がありましたが、オンラインでの働き方に関する評価はいろいろありますよね。

例えば日本ですと、通勤地獄から逃れられ、あるいは仕事に集中できるというメリットがある半面、在宅だとモニタリングができないため、経済学で言う怠業という問題もある。トータルで企業経営として生産性を考えた場合、このオンラインワークについて、どのように評価されますか。

高橋

製薬企業は新薬が出るまで、最初に研究開発を仕込んでから上市まで10年ぐらいかかると一般的に言われています。その10年間のプロセスで、どれだけ多くの部門が協力し合ってイノベーションを生み出せるか。それがパフォーマンスに直結するので、その部分が足りないのではないかと経営側は常に心配していると思うのです。

多様性ということで言えば、国籍など従来と違うバックグラウンドを持った社員を、なるべくイノベーションに関わる仕事に就けようと努力しています。そういう人たちが実際に対話をし、違う視点でディスカッションしていく中でイノベーションが生まれていくわけです。

そういう機会を10年間のプロセスの中でたくさん持たせないと、パフォーマンスに影響が出てしまう。やはりリモートだとそこが生まれにくいのでは、という心配があります。

フレキシビリティは認めつつ、やはり50%以上は出社して対面で意見をぶつけ合い、従来と違う意見も取り入れるような環境を全世界で作っていかないといけない、ということが、今回の方針転換の大きな理由だと考えています。

特に営業職であれば、顧客との継続的な対面での対話からイノベーションの種をつかみ、それをビジネス側にフィードバックして、新薬に向けたヒントにつなげたり、新しい売り方のイノベーションにつなげることが大事です。

ジョブ型雇用は実現するのか

八代

それでは、次に働き方改革の1つの側面である雇用形態の変化について話を進めていきたいと思います。いろいろな課題はあるかと思いますが、特にジョブ型雇用と言われているものの実現可能性を伺いたいと思います。

従来は新規学卒採用をして社内育成していくというメンバーシップ型が、日本の企業の1つの最大公約数的な人事管理でした。それがゲームチェンジャーみたいなものが市場で出てくるような環境の中で新卒採用、企業内育成だけでは国際競争を生き残れないのではないかというお話もありました。

そのような環境変化もあり、このジョブ型雇用の話も出てきているわけです。新卒採用、昇給、昇進、配置転換といったこれまでの日本の企業のやり方は果たしてこのジョブ型雇用と親和的になりうるのか。

そもそもの前提として、ジョブ型雇用というものは人によって随分認識が違うと思います。例えばある総合商社はジョブ型雇用を導入していると言っていますが、実際には職種別採用というべきものです。新規学卒採用の時のいわゆる「配属ガチャ」を解消するために、最初の何年間かは本人が選択した職種を選べますという職種別採用をジョブ型と称している。あるいは、社内公募をジョブ型と称しているところもあるし、職務給をジョブ型と言うところもあるようです。

おそらく純粋なジョブ型というのは、先ほど高橋さんがおっしゃったように職務が喪失、つまりジョブがディストラクトされると同時に雇用がディストラクトされるというものです。これが日本以外の国の共通言語であるジョブ型だと思うのですが、日本は必ずしもそうではないようです。

同時に、従来のメンバーシップ型にも良さがあるのではないかと思いますが、そのあたりからいかがでしょうか。

野間

私どもの会社は、ほぼ典型的なメンバーシップ型で、採用から定年まで、今は再雇用まで含めて会社内でキャリアを描いていただいています。人事理念も、「会社は社員を大切にし、社員は会社を大きく育てる」で、双方向で成長していこうという前提で育成をしています。

当社は食を扱うこと全てに関わるぐらい、様々なビジネスモデルがあるので、転職をしなくても、いろいろなチャンスがあり、職務の境界をまたぎながらキャリアを開発できると考えています。会社が一方的に配置するのではなく、本人の希望により、社内で仕事が変わることで、キャリア形成ができるところもあります。このように、会社の中で柔軟に人を育てられるところが大きなメリットだと感じますし、社員にとっても会社に対する共感は大きいと感じています。

ただ一方で、社内であまり活躍しなくても、ある程度までは昇給できるところもあるので、社員が外部環境に疎くなる傾向もあると思います。また、急激な環境変化によって、不必要になる職種が出てきます。

なくなってしまう仕事がある一方、逆に需要が高まる仕事もあり、今、急な対応を迫られているのがDX人材です。これは市場での給与の体系が高騰し、当社の正社員で雇用しようとすると給与体系に当てはまらなくなって、いきなり管理職クラスになってしまうというアンバランスなことが起きてしまう。

また、ジョブ型的に、仕事を起点にして人を割り当てていくと、やはり現場からは、より専門的な知見を持った人を雇用してほしいと言われることは多いのです。それを一時的な労働力の投入みたいなイメージで捉えられると、果たしてそれでいいのだろうかと人事としては悩むところです。

会社として労働力の充足という観点からは良いのですが、仕事の意図を腹に落として働くことができるのか、またその人にとって当社で働くことがキャリア形成につながるものなのか。単に現場からの要求に応えるだけで良いのかと、人事内でも議論があります。当社は、人を社会からお預かりして育てることも1つのミッションだと思っ ていて、社内でキャリアを形成していくことに対して真剣に取り組まなくてはいけないと考えているからです。

また、メンバーシップ型は一緒にいる時間が長いのですが、その同質性の高さはいいところも、悪いところもあると思います。一体感の醸成は非常にメリットとなります。例えばコロナ禍や災害などで物流が破綻しそうな時、全社一丸となって問題を解決してきました。

逆に、多様性を受け入れる際に慎重になり、時間がかかるというところはあるかと思います。

八代

メンバーシップ型の1つの大きな課題として転勤の問題というのがあると思うのです。女性活躍推進でもこれが一つの制約になっていると言われますが、どのようにお考えですか。

野間

食は地域性が色濃く反映されますから、キャリアを重ねていくためには、いろいろな地域を経験することが総合的にマネジメントをする上でのアドバンテージとなります。だから転勤制度を完全にやめるという選択肢はないです。コア人材に対しては転勤も経験し、その上で自律的なキャリアを作っていただきたいと思っています。

とはいえ、ライフイベントとか家族の様々な事情等で転勤ができない方もいますので、選択ができるコース制にしています。海外でもどこでも行けるというコースと、北海道、東北などエリア単位の範囲内だったら転勤できる方、全く転勤できない方の3コースに分けました。それを本人の意思によって選択をしていただいています。

ただ、転勤できる、できないと、開発的かつ創造型の仕事ができる、できないということとは、また違うので、2023年度からその軸も入れたコース制度の改定を行います。

ジョブ型のメリット、デメリット

八代

よくわかりました。高橋さん、外資系企業の場合、すでにジョブ型が定着し、仕事がなくなることは雇用を失うことで、おそらく多くの人は社内の自分のジョブの天井を見ながら、他社からオファーがあった時、この会社に残るのがいいのか、転職するのがいいのかと常に天秤にかけて考えているのかと思うのです。

ジョブ型雇用というものに基づいてマネジメントをされ、あるいはご自身がそういう環境の中で現在雇用されているという観点から、そのメリット、デメリットをどう思われますか。

高橋

ジョブ型のメリットは日本でも海外でも同じだと思っています。やはり外部公平性の中で必要な人材を必要なタイミングで柔軟に獲得できるということ。そしてイグジットも促すことができるという点だと考えています。

では、どういったところがデメリット、つまり悩みのポイントなのかですが、これは日本とヨーロッパの場合で少し視点が変わります。

日本においては悩みどころは大きく2点です。まず中途採用が中心になる中で、新卒採用をどこまでやっていくのかです。現在ノバルティスの日本では新卒採用を続けています。これは世代ごとの人材のパイプラインを作っていくという上では、やはり新卒を毎年一定程度は確保していかないといけないという理由からです。

また、できるだけ早期にポテンシャル人材を伸ばしていきたいという考えがありますので、やはり20代や30代前半でポテンシャルが高く、グローバルリーダーシップをとれるような人材を育てるためには、優秀な20代前半世代の人材を確保できる新卒採用が欠かせないのです。

そうなると、ジョブ型で職種別採用はしていますが、ずっと彼らに仕事を保障できるわけではないので、新卒採用をどれくらいの人数をどの職種にしていくべきか、いつも悩んでいます。

2点目は育成のあり方です。日本の企業には、主任レベルから係長、課長、部長と階層別研修があると思います。当社はジョブ型でありながら日本ではそのような育成をしていましたが、企業内大学を立ち上げた時にそれを極力なくしていきました。それぞれのジョブに合った、またどういうキャリアゴールを求めているかで、研修はもっと自由であるべきだということからです。

ただ、それでもマネジメント側からは階層別にしっかり育成してほしいというニーズが常にあります。中途採用で入っても、きちんと研修してもらうことを期待している人もいます。

一方、私がヨーロッパでジョブ型で、悩んでいることは大きく2点です。

1つは、優秀人材の獲得とリテンションにかかるコストが、非常に高いということです。同一労働同一賃金がジョブの基本ですが、本当に優秀な人は他社からプラス30%、40%の賃金を出されて、どんどん引き抜かれていってしまう。そのように同一労働同一賃金だけでは社員をリテンションできないのが現状です。

2点目はジョブをジョブディスクリプション(職務記述書)で規定しますが、あまりに環境変化が激しくて、Jobsto be done(JTBD)と言われているものが、半年でどんどん古くなっていってしまう。すると、ジョブディスクリプションの書き換えが常に間に合わなくなり、ジョブで規定することの難しさが出てきています。

ですので、やるべきジョブというより、どういうインパクトを企業に与えるかという部分にフォーカスしていかないと、ジョブのあり方がテクノロジーと事業の環境変化についていけなくなる悩みが生じます。

八代

先日「日本の企業の問題はウィンドウズ2000だ」と言う人がいました。マイクロソフトのOSの話かと思ったらそうではなく、日本の立派な企業には年収を2000万円ももらっている窓際族の人がいる、それをウィンドウズ2000と言うと(笑)。

それが日本の企業の一番の人件費問題だと思うのですが、外資系にはそれとは全く別のリテンションに伴うコスト、それから人が辞めた時に次の人を雇うコストがかかるということですね。

「保障と拘束の関係」のゆくえ

八代

森安さん、このジョブ型、メンバーシップ型は経済学や社会政策の観点からどう捉えられるでしょうか。1つはジョブ型になると労働移動が増える、あるいは企業が外から人を採りやすくなり、従業員も転職しやすくなると言われていますね。

森安

仮にジョブ型が定着すれば、おっしゃるように労働移動は増えるものと考えられます。メンバーシップ型であれば、人に評価や等級がつくため、年功的な制度・運用と相性がよく、年齢を重ねるほど十分な賃金がペイされます。

これに対し、ジョブ型になればポストに賃金がつきます。外部労働市場のよりよい賃金・よりよい条件が見えて比較ができますので、外に移動するインセンティブも働き、自己投資をして転職するという動きになろうかと思います。またポスト数を柔軟に調整できるメンバーシップ型と比べるとジョブ型はポストが固定化されるため、転職せざるを得ない状況も生じやすいかと思います。

私の関心は労働移動もさることながら、育成コストをどこが負担するのかということにあります。ここで言う育成はもちろん研修も入りますが、それ以上に仕事経験や上長等からのフィードバック・対話なども含めたものです。

メンバーシップ型であれば企業側が育成コストを負担していました。それがジョブ型になるとそうはいかなくなる。より個人がキャリアに責任を負う側面が強くなります。先ほど高橋さんのお話にも、働きながら大学院で学位を取る事例がありました。

問題は、そうした自己投資を行わない人材・行えない人材にとって、この自己投資や育成コストをどう考えていくのかという点です。これが社会全体で見ると問題になってくるのかと思います。

樋口美雄先生がよく、これまでの雇用慣行は「保障と拘束の関係」だと言われます。すなわち生活保障を含めて、会社が社員に保障をする。その代わり社員は、時間・場所・仕事内容などを企業に従う、拘束されるといった関係です。こうした関係下で、社員は長期的なキャリアも会社に保障してもらっていた面があったかと思います。

いわゆるキャリア自律がなくても、日々の業務を責任もって遂行していれば、給料は下がることはないし、シニアになっても会社がどこかのポストに配置転換をしてくれていた。もちろん社内出世競争はあれど、ある意味で、社員は安心して会社に身を任せ、社内的な意味での自己投資を行っておけばよかったのだと思います。

これが「保障と拘束の関係」から、「選択と責任の関係」になった時、個人の自己責任のような側面が出てきます。一般的には「キャリア自律」という言葉は良いニュアンスを帯びていますが、キャリアの努力や責任を個人が負うという側面もあります。キャリアリテラシーがあり、キャリアに関する情報をきちんとキャッチアップし、キャリアに対して自分で考えて意思決定できる人材と、そうではない人材とに分かれていくのだと思います。

キャリア自律が上手くできない人、例えばそもそもキャリアの情報が上手く取れていない人、諸事情でキャリア自律に取り組めない人、目の前の仕事を一生懸命やり過ぎて長期的なキャリアを考えていない人などは、もし仮に日本がジョブ型的な社会になった場合にどうするのか。

会社が保障しないならば行政なのかというと、行政は、本当に困っている方ではない方の支援は優先度がどうしても下がってしまうでしょう。そのように、育成を誰が負担するのかということは大きなテーマとなってくると思います。

キャリア自律のサポート

八代

坂爪さん、今言われた育成や労働移動というのは労働経済学的な観点ですが、組織行動論的に言うと、会社とそこで働く人の関係性、コミットメントという問題でもあると思います。

ジョブ型の会社は、例えば人事部が何年かしたら異動させてくれるという世界ではない。だから上司と部下との関係性や、あるいはキャリアのオーナーシップは誰が持つか、ということがおそらく問われるのではないかと思いますがいかがでしょうか。

坂爪

日本企業でジョブ型がどこまでどういう形で浸透するかはわかりませんが、キャリアの話で言えば、この1~2年、2、30代の若者の離職が日本企業で問題になっています。しかも優秀な人が辞めてしまうという話をよく聞きます。

理由として多いのは、「この会社にいて自分のキャリアは大丈夫だろうか」「私の歩みたいキャリアは今の延長線上にあるのだろうか」です。この会社にいて自分は成長し、外部労働市場でも評価される人材になれるのか、ということに対する関心が非常に高くなってきています。一方で、日本企業が彼らの疑問や不安に、必ずしも十分には対応しきれていない、というのが直近の課題だと思っています。

ジョブディスクリプションが明記され、それが社内で見える化されることの1つの意義は、今述べた疑問や不安に対する処方箋となりうることです。ある仕事に必要な経験やスキルを明示することは、仕事とキャリアの関連を示すことになりますし、その仕事をしている人が持っているはずのスキルや経験の共有を可能にします。さらには、この仕事経験が、自分のこれからの社内のキャリアをどう広げうるのかといったキャリアの可能性を示すことにもつながります。

社内での5年後のキャリアの可能性を示し、どのような力を付けていけばよいかを従業員に示すことは、程度の差はあれど、本人の意向の反映を前提とするキャリア自律が進む中ではとても大事なことです。日本企業がジョブ型雇用になるかはわかりませんが、仕事とキャリアの関連性を示す意味で、ジョブ型的な考えを活用することは、キャリア形成という観点から、求められるようになってくると思います。

キャリアは職場での仕事経験を通じて形成されることから、部下のキャリア形成に与える管理職の影響はとても大きいです。今の管理職にとっての難しさは、自分が若手だった頃と今のキャリアに対する考え方の違いです。ですので、キャリア自律を前提としたキャリア形成支援を上手くできない管理職がいても不思議ではありません。ただし、これからの管理職にはそういったスキルが不可欠です。

キャリア自律に基づいたキャリア形成支援など、部下マネジメントが複雑化する中で、ジョブ型には部下マネジメントをしやすくする可能性があります。最近インタビューした管理職の方が、メンバーシップ型の時にはいろいろなものを全部引き受けていたけれど、今はジョブディスクリプションの記述に基づいて「ここはできているが、ここは足りない」と伝えることができる、判断の軸が入ったことで、部下マネジメントをやりやすくなったとお話しされていました。ジョブディスクリプションの導入は、部下マネジメントの1つの切り口となるかもしれません。

ただ、働く人全てをキャリア自律的なキャリア形成に移行するのか、という点についてはもう少し議論があってもよいと思います。

八代

とても興味深いお話です。私がジョブ型として議論されているものの洗礼を最初に受けたのは、多分パリのカフェだったと思います。ギャルソンに手を挙げて「こっちのテーブルに来て」と言っても絶対に来てくれない。「何であの人、来ないんだ」と言ったら「あの人は向こうのテーブルの担当で、あそこでチップをもらっているんだから、こっちのテーブルに来たら縄張りを侵すことになる。だから、絶対に来ない」と言われたのです。

そう考えると、ジョブ型雇用でディスクリプションが明確化するというのは、自分のやる役割が明確化されるというメリットはあるのですが、協業を阻害するのではないかという議論もありえますね。

坂爪

ジョブ型が浸透した時に問題になってくるのは、部門の人員配置だと思います。人員が確保しやすい部門とそうでない部門の格差が大きくなる、でも確保しにくい部門も会社にとって欠くことのできない部門である場合、調整が必要です。

協業は、職場のダイバーシティの高まりという点からも難しくなるでしょう。ただ、調整コストは高くなっても、結局のところ、会社にとって大事な協業はなされていくのではないかとは思います。

八代

なるほど、わかりました。メンバーシップ型の社会が一夜にしてジョブ型に置き換えられていくことは、近未来の日本では起こり得ないけれど、ではメンバーシップ型がそのまま残るかというと、そうではなく、やはり確実に社会の必要とされる部門にジョブ型は浸透していくのではないかというのが共通認識のようですね。

今まで日本の企業と外資の企業のキャリアはパラレルワールドで、いったん日本の企業を辞めて外資に行くと日本の企業に戻ったりすることはほとんどなかったのが、最近はそれが増えてきたと聞きます。日本の大企業でも人事部長に外資系企業出身者をお迎えするケースもある。ところが、日本の企業に転職すると給料がかなり下がるケースが多いんですね。

そこでどうするかというと、テレビ局がキャスターを引き抜くやり方と同じで、有期雇用にして高給を払うわけです。つまりメンバーシップ型の中で処遇するとその枠組の給料しか払えないので有期にする。要するにメンバーシップ型で処遇しにくい仕事をジョブ型にして高給を払うわけです。そのようにメンバーシップ型の外に、高給かつ更新は結果次第の有期雇用契約のポジションを置くというやり方も最近出てきているようです。

新卒採用はどうなるか

八代

最後にこれからの日本の働き方についての展望をお聞きしたいと思います。今後の労働市場の変化と日本人の働き方というテーマですと、どうしても新規学卒採用が気になります。

日本の場合、おそらく新卒採用をやるかやらないかは企業だけの問題ではなく、大学や、大学に人材を供給している高校の問題でもあるので、新卒採用がなくなるとすれば、これは本当に日本がひっくり返るような大問題です。

それから、労働市場が流動化すると、先ほどの高橋さんのお話のように、リテンションコストが大きくなる。企業もそれに手をこまねいているとは思えないので、最近出てきたアルムナイ(一度辞めた人の再雇用)という制度も現実味を帯びてきます。一度自社を卒業した人で人的投資をしている人に、再度戻ってきてもらうことが日本の企業でも始まっている。これはやはりコストの問題があるのだと思います。

それからリカレント教育やリスキリング、そして在宅ワークといった課題もあります。今後の日本人の働き方という観点から見て、ご自分の関心に引き付けてお話しください。

野間

新卒採用は私たちの業界では必要です。卸売業というのは工場を持っているわけでもなく、人とのつながりからビジネスを創造していくようなところがあり、高度な専門性を履修していないと活躍できないというわけではないのです。すると、やはり充実した学生生活を過ごした経験を仕事に生かすポテンシャルを持っている方に巡り合うことは非常に大きな機会です。

また、先ほど高橋さんの話を聞き、外資系もそうかと思ったのですが、人材のパイプラインも重要です。事業のコア人材を継続的に育てていく上で、新卒採用で母集団を形成するのは非常に有用だと思います。

リスキリングの件ですが、環境変化が激しい中で仕事がなくなっていくことはメンバーシップ型でもたくさんあります。そうするとマンパワーをシフトしていかなくてはいけないので、当社の中でもリスキリング問題は今まさに起こっています。

多くの場合、中高年の方たちが「昔やったやり方じゃ通じないから、変わってくださいね」と言われるわけですが、これまでのキャリアと結びつかないリスキリングをしようと思っても、現実はなかなか難しい。ですので、その時になってリスキリングするのではなく、もっと早期の段階から常に学ばなければいけないという意識を醸成していく必要があると思います。

アルムナイという言葉は、私は今回初めて知りましたが、そのようなケースは私たちの会社でも以前からありました。外を見て戻ってこられるので、エンゲージメントやパフォーマンスはとても高くなっています。会社にとっても社員にとってもウィンウィンなので、これを有効活用しない手はないと思います。

また、コロナ禍が在宅勤務という選択肢のさらなる可能性を広げてくれたと感じています。以前より手段として、テレワークやフレックス、時差勤務という柔軟な働き方はありましたが、やはりコロナ禍でそうせざるを得なくなったことは大きかったです。世の中が変わってくれたことで、当社でもさらに浸透し、大きな効果がありました。 リアルで会うことも大切ですが、在宅勤務とを上手く組み合わせることにより、より価値創造につながっていくことが期待できると考えています。

長寿社会の柔軟な働き方とは

八代

外資の場合は拘束もない代わりに保障もないという世界で、それは自己責任に委ねられている、まさに拘束と保障の対極にある世界だと思うのです。いわゆる自己責任でキャリアを追求していく中で、今後の働き方はどうなっていくでしょうか。あるいは外資系企業との比較で、日本の企業の日本人の働き方というものが今後どうなっていくべきか、高橋さん、お考えをお聞かせください。

高橋

2つの可能性に希望を持っています。

1つは、ジョブ型でもメンバーシップ型でも、日本人の長寿化を踏まえて長くいいリズムで働けるような働き方になってほしいです。そのためには途中でサバティカルを挟みながら、働いたり学び直しをしたりということを2~3ウェーブ続けながら、働きたければ70歳を超えても働けるようになるのが理想です。一方、企業におけるキャリアを早く仕舞いたいのであれば、ウェーブを短くして、早期に退職してセカンドあるいはサード・キャリアに転換するような働き方になってほしいと思います。

サバティカルのあり方を企業がもっと柔軟に捉えることで、エンゲージメントの高い社員が新しい技術を得て戻ってきてくれる。ジョブ型であれば一度辞めても、大学が社会人学生を受け入れ、また別のジョブ型企業に新しいスキルを持って働いていける。そういうことが企業と教育を提供する側の大学や育成コミュニティーでできていくといいなと思っています。それが長寿の日本人に合うのではないでしょうか。

2つ目は、ぜひ海外にキャリアを広げてほしいと思っています。私は、日本人などアジアの人材がもっと海外で活躍してもらえるようにグローバルのリーダーシップを育成していくことも自分のミッションと考えています。日本人の仕事に対するクオリティの高さや協業の上手さ、また欧米に行けば違うカルチャーから視点を提供できるという強みを生かし、海外で活躍することで、その先の働き方のオプションがすごく広がります。

今、翻訳AIの機能が高くなり、リモートワークも活用されつつあるので、以前より異文化で働く環境が整っていると思います。

八代

是非そうなるといいなと私も思います。私も今、実はサバティカル中ですが、日本の企業ですとなかなかありませんね。海外の企業では結構サバティカルはあるのですか。

高橋

はい、あります。ただ、目的が何かによってケースバイケースで期間もまちまちです。それも優秀人材のリテンションに使っているので、全員が使えるというわけではないです。

八代

給料は払われるわけですか?

高橋

ペイはなしです。ただ、雇用だけは保証されている。雇用を保証することでヘッドカウント管理に影響がでるため、一部の層にしか適用できない。今後はもう少し広い層に対しても認めていかないと、長寿社会でのキャリア形成はできないと考えています。

コミュニティーという可能性

八代

それでは森安さん、新卒採用や今後の日本人の働き方についていかがでしょうか。

森安

企業の新卒採用のあり方については様々な意見があります。でも、さしたる専門性も業務経験もない新卒を雇い、いろいろ経験させて、ある程度の一人前にまで育てるこの仕組みは、社会の安定性という観点から見ると、素晴らしい面があります。是非残してほしいと思います。もし仮に完全なジョブ型の社会になると不利になるのは若年者です。欧州の若年者失業率の高さやキャリア形成の困難さが顕著な例です。

日本の問題はむしろ新卒入社以降の、専門性の形成だと思います。コミットメントやロイヤリティはあるけれど、仕事にあまりワクワクしない。つまりエンゲージメントしていない。それによってイノベーティブなものが出ないし、専門性の深化につながりにくいことかと思います。新卒採用の仕組み自体は、日本社会の強みと私は認識しています。

先ほど、誰が育成コストを負担し、誰がキャリアを育んでいくかという問題意識をお話ししました。その答えの1つが私はコミュニティーではないかと思っています。

地方に目をやると地域でキャリアを育む動きがすでに始まっています。例えば中国四国地方のとある山間部の町。中小企業が複数社集まって、合同で研修やジョブローテーションをしています。新卒で地元企業に入社した社員が、A社で販売促進をやり、次にB社で、次にC社でと順繰りに回して業務経験を積んでいくのです。

なぜこれからの雇用を考える時に地方や中小企業に目をやるかというと、中小企業はもともと実質ジョブ型的な雇用慣行のケースがありますし、そして地方では、今もう雇用が失われているのが日常だからです。

私の住んでいる湯河原町も例外ではありません。コロナの影響もありますが、企業の先行きや雇用が危ぶまれる状況にあります。そんな中、地域ぐるみで「明るい廃業」のプロジェクトに取り組まれています。詳細は割愛しますが、そこで新たなニーズや面白い仕事が生まれてきています。地域ぐるみの動きが魅力的な雇用を創出しているわけです。さらに今、経済産業省関東経済産業局が「地域の人事部」と題し、まさに地域ぐるみで人を採用し、育成し、イノベーションに結びつける取り組みを手掛け、私もそれに携わっています。

いざ地域で、雇用創造や人材マッチングなどに携わると多くの気付きを得ます。特に気づかされるのが、生き延びるためのキャリアではなくて、幸せになるためのキャリアを考えるという点です。ジョブ型云々を議論すると、どうしても前者のキャリアを考えてしまいがちなのですが、そうではない。自分が幸せになる、ウェルビーイングを高めるための仕事にどう出会うか。そして地域がそれをどう作っていくか。実はこうした取り組みが地方では始まっていて、むしろそれを東京など大都市圏が学んでいくべきだと思います。都市圏の場合、地域というよりは職種別や大学を軸としたコミュニティーなのかもしれませんが、こうしたキャリアの共助が必要なのかなと思います。

最後に1点、先ほどアルムナイや外の組織に出る話がありました。私も今みずほで働きながら、週2日、慶應の研究センターで兼業をしています。そこで思わぬ収穫がありました。今在籍するみずほのことを「実は結構いいぞ」と思えたことなんです(笑)。以前新聞記事でキリンホールディングスの人事の方が「自分の会社の芝が青く見える」という、兼業副業の効能をおっしゃっていました。心から共感します。

兼業副業もアルムナイも、外に出ることで実は自社のいいところが初めて見えてくることがありますので、こうしたものを企業が上手く利用すれば社員のリテンションにもつながるかもしれません。

学び続けながら、働き続けるために

八代

副業を経験した本人も自分の会社の芝生が青く見えるような気付きを得られるといった点では、メリットにつながるのかもしれませんね。

それでは最後に坂爪さん、よろしくお願いいたします。

坂爪

皆さんのお話の中でも出てきたように、バリバリ働こうとそうでなかろうと、どういう形であれ、やはり学び続けることが、自分のキャリアを守っていくためには重要だと思います。難しいのは、学び方が既に身に付いている人は自分なりの学び方で、どんどん進んでいけますが、そういう人ばかりではないということです。「あなたにはリスキリングが必要です。さあ、新しく何かを学んでください」と言われて、途方に暮れる方も少なくありません。

働き方改革からキャリア自律といった議論は、個人のニーズを反映できる可能性を広げていきましたが、一方で、個人がその流れについていけていない部分があります。「自分のキャリアを考えろ」と言われて戸惑う人が、現時点ではまだ多いでしょう。

自分で自分のキャリアを積極的に開拓していこうとするキャリア自律と矛盾するところもありますが、学び続ける人材を確保することは企業にとっても大事ですから、企業がある程度主導する形で、従業員に学び方を身に付けさせ、学習を促していくことが、現時点では必要だと思います。

例えば、キャリア自律を推進する会社でも、日々の仕事では自律性を求めず、常に強固な指示命令に基づいて仕事をさせている、といったアンビバレントな状況が発生しているケースがあります。日々の仕事の仕方を自律的なものに変え、学習のきっかけや意欲を促進することが、キャリア自律の実現にもつながります。

会社が変わると、働く人々に求められることも変わります。個人のニーズをより反映できる働き方が可能になる中、継続的な学習を通じて、自らの可能性を広げていければと思います。

八代

皆さんのお話を伺い、日本人の働き方改革を期待するとともに自分自身の無計画・無定見な働き方を「改革」しなければという思いを強くしました。また最初に野間さんの方から多様性という言葉がありました。今日お話をいろいろ伺っていて、同じ事象を議論しても目線が異なることがわかり、文字通り気付きを与えていただきました。

さらに、副業をしてみると「自分の会社の芝生が青いのがわかる」というお話は、正に「目から鱗」です。多様性ということが、ここでまた新しいインタラクションを生み出したのではないかと考えています。

まだまだ議論すべきところは多々あると思いますが、このあたりで本日の座談会を終了したいと思います。

本日は本当に有り難うございました。

(2022年12月9日、オンラインにて収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。