慶應義塾

【特集:日本の“食”の未来】座談会:豊かでサステイナブルな食を届けるために

登場者プロフィール

  • 林 善博(はやし よしひろ)

    その他 : ひかり味噌󠄀株式会社代表取締役社長法学部 卒業

    塾員(1982政)。大学卒業後、信州精機(現セイコーエプソン)入社。1994年家業である「ひかり味噌󠄀」に転職し、2000年より現職。ひかり味噌󠄀は、無添加、有機の商品を中心に販売を伸ばす。

    林 善博(はやし よしひろ)

    その他 : ひかり味噌󠄀株式会社代表取締役社長法学部 卒業

    塾員(1982政)。大学卒業後、信州精機(現セイコーエプソン)入社。1994年家業である「ひかり味噌󠄀」に転職し、2000年より現職。ひかり味噌󠄀は、無添加、有機の商品を中心に販売を伸ばす。

  • 金丸 美樹(かねまる みき)

    その他 : 株式会社SEE THE SUN代表取締役CEO環境情報学部 卒業

    塾員(1998環)。大学卒業後、森永製菓入社。2017年森永製菓のコーポレートベンチャーとして株式会社SEE THE SUNを設立。食にまつわる社会課題を解決する場をデザインする。

    金丸 美樹(かねまる みき)

    その他 : 株式会社SEE THE SUN代表取締役CEO環境情報学部 卒業

    塾員(1998環)。大学卒業後、森永製菓入社。2017年森永製菓のコーポレートベンチャーとして株式会社SEE THE SUNを設立。食にまつわる社会課題を解決する場をデザインする。

  • 小川 美香子(おがわ みかこ)

    その他 : 東京海洋大学学術研究院食品生産科学部門准教授経営管理研究科 卒業政策・メディア研究科 卒業

    塾員(2003経管研修、07政・メ博)。博士(政策・メディア)。1993年早稲田大学卒業。東洋情報システム等を経て、07年東京海洋大学着任、17年より現職。専門は食品トレーサビリティー、食品流通安全管理等。

    小川 美香子(おがわ みかこ)

    その他 : 東京海洋大学学術研究院食品生産科学部門准教授経営管理研究科 卒業政策・メディア研究科 卒業

    塾員(2003経管研修、07政・メ博)。博士(政策・メディア)。1993年早稲田大学卒業。東洋情報システム等を経て、07年東京海洋大学着任、17年より現職。専門は食品トレーサビリティー、食品流通安全管理等。

  • 川越 一磨(かわごえ かずま)

    その他 : 株式会社コークッキング代表取締役CEO総合政策学部 卒業

    塾員(2014総)。2015年、富士吉田市で株式会社コークッキングを創業。2017年、日本初のフードロスに特化したシェアリングサービス「TABETE」を事業化。一般社団法人日本スローフード協会理事。

    川越 一磨(かわごえ かずま)

    その他 : 株式会社コークッキング代表取締役CEO総合政策学部 卒業

    塾員(2014総)。2015年、富士吉田市で株式会社コークッキングを創業。2017年、日本初のフードロスに特化したシェアリングサービス「TABETE」を事業化。一般社団法人日本スローフード協会理事。

  • 秋山 美紀(司会)(あきやま みき)

    環境情報学部 教授

    塾員(1991政、2005政・メ博)。仙台放送報道局勤務等を経て、2012年環境情報学部准教授。17年より現職。博士(医学)、博士(政策・メディア)。専門はヘルスコミュニケーション。

    秋山 美紀(司会)(あきやま みき)

    環境情報学部 教授

    塾員(1991政、2005政・メ博)。仙台放送報道局勤務等を経て、2012年環境情報学部准教授。17年より現職。博士(医学)、博士(政策・メディア)。専門はヘルスコミュニケーション。

2022/02/04

「食」の未来を阻むもの

秋山

本日のテーマは「日本の食の未来」です。今日お集まりの皆さんは、それぞれが豊かな食、おいしい食、安全な食を届けること、さらに食を通して社会課題を解決しようと取り組まれています。「食」というのは、生命をつなぐという栄養面だけではなく、その国や地域、あるいは各家庭で育まれてきたもので、その人らしい幸せや生き方を支えるものと捉えています。

SDGsの多くの項目にも、食は直接的、間接的に深く関わっています。環境や資源の問題、それから社会格差や排除の問題、多様性と包摂の実現に向けた課題なども、食から見えてくるかと思います。

まず、ひかり味噌󠄀の林さんから、関心領域や問題意識をお話しいただけますか。

昨今、食を通してサステイナブルとかエシカルとよく言われますが、日本の場合、一番の逆風になっているの は私は経済力だと思っているのです。先進国の中でほぼ唯一、過去30年間可処分所得が増えていない。今、ポストコロナ、ウィズコロナと言われるようになり、日本だけが立ち遅れているという報道が増えています。

サステイナブルだ、エシカルだという消費は、やはりお金がかかると思うのです。さらにヘルスやウェルネスといった健康面のことも加え、民間企業の経営者という立場から見ると、経済成長の鈍化が一番のハンディキャップに見えるのです。

例えば、当社は現在、輸出に力を入れていますが、コロナ前、海外出張で現地のレストラン、スーパー等の現場に行くと、お金がかかってもいいから、即席味噌汁のプラスチックの袋はやめてすべて紙にしてくれ、われわれが単価を上げてその分を儲けるからという声を聞きます。日本のスーパーではこれはあり得ません。われわれが環境対策として紙にしたいと言っても、1円の値上げであっても受け入れていただくことは容易でない。この原因は何だろうと考えると、結局、経済力なのです。

ヨーロッパやアメリカの流通であれば、大抵の場合、値上げ分を価格転嫁し、それを末端の消費者が受けている。それが日本ではできていない。これが日本のマーケットの一番苦しいところです。それは企業努力だけでも解決できないもので、行政も含めてどうするのかという対応が必要ですが、何も実施されていない。

辛口の表現をすると、日本は税金を使って米の輸出と牛肉の輸出は一生懸命やる。だけど、エシカルや環境対応に対しては、「いい方向ですね」とは言っても、それを全国レベルで実際に施策として行うことはないですね。もっと足下にある国内の地元の消費に対して考えていかなければいけないのではないか。行政に全部任せるべきとは言いませんし、企業努力ももちろん大事ですが、ちょっとバランスを欠いているなと思います。

もう1つ例をあげると、今は日本のスーパーでも買い物袋が有料になりましたが、どこも2円、3円です。ヨーロッパのスーパーでは大体日本円で10円、20円します。そのかわり何回も使える品質のものです。日本は1回しか使えないような買い物袋を渡してどうするのかと思うのです。

そういうところが中途半端というか、私の解釈ではすべて業界ごとの横並び意識なのです。だから買い物袋1つでも行政から言われたから有料にした。だけど、5円、10円チャージする自信がないからどこに行っても2円、3円でとなる。それは本当の問題解決になっていないわけですよね。

秋山

確かにサステイナブルとかエシカルという言葉は、流行っていますが、現実にそのためにどのぐらい皆がお金を払う価値があると思っているか、疑問なところはありますね。

サステイナブルやエシカルという方向性は見えてきても、まだまだ地に足が着いていない気がします。ただ、日本はもともと食に関していい環境だったことは事実です。日本の食生活は、欧米の動物性の油脂や肉偏重に比べたら、極めて健康的ですから。

秋山

核心をつく問題提起をいただきました。金丸さんはいかがですか。

金丸

今の話はとてもよくわかります。たぶん戦後の高度成長期、まだ日本に豊富に物がなかった頃、皆がおいしいものを食べられるように各企業・流通が努力をした。その時はマスプロダクト、マスプロモーションが上手く回っていたので、それが価値観として色濃く残っているのだと思います。

現在、価値観も多様化し、皆、自分らしく生きたいと思い、同時に地球環境のことも考えなければいけなくなっている時代に昔のモデルが成功体験として残ってしまっている。お客さんのほうも安くていいものが当たり前のように手に入り続けるという意識になってしまっているのだと思います。

流通さんはお客さんのことを思い、安くすると売れると考える。でもそれは短期的なことだと思うのです。安くするために、原料メーカーも農家さんも利益を削らなければいけない。どこかにしわ寄せが来るはずです。

飲食業の方も、原料メーカーも農家さんも、おいしい笑顔のために皆さん一生懸命ですが、その努力がコストに反映されずに、末端になるとコスパ重視だけになってしまうのが、すごくもったいないと思っています。

エシカルと言っても、洋服と食べ物で違うのは、食べ物は本能的なもので、しかも毎日のことなので、やはりおいしく安いものが食べたいとなるのはしょうがないとは思うのです。ですので、お客さんにもメリットがある形で、その食物にストーリーがあって、10円、20円高くても豊かな気持ちになれると納得できるような相互理解が進めばいいなと感じています。

今はお互いを理解せずに価格のみで会話しているようなところもあるのではないでしょうか。もっとお互いを知ることにメリットがあるという形になれば、お客さんも自分ごと化してくださるのではと思います。

秋山

金丸さんは大手食品メーカーから企業内のベンチャーとして今の会社を立ち上げられたわけですが、そのような問題意識が、起業されたきっかけにあったのですか。

金丸

サステイナブルとダイバーシティをかけ合わせて食で解決しようと思い、プラントベース(植物由来)のフードなどに注目し、それを加工して売ってわかったことは、食で社会課題の解決をすることの難しさです。お説教では絶対に駄目で、お客様にわくわく感がないと手に取ってくださらないことは痛感しました。いくらきれいごとを言っても、それを日常的な行動につなげるには設計が必要です。

フードロスへの関心

秋山

川越さんはどのような問題意識から起業されたのでしょうか。

川越

もともと飲食畑にいた期間が長くて、SFC在学中も和食の料理店でアルバイトとして裏方に入り、大量に食べ残しをごみ箱に突っ込み続ける毎日を送り、飲食店の裏側の事情に気づきました。卒業後は銀座ライオンに就職し、店舗運営やホール業務をやる中でもフードロスの観点は持ち続けていました。

また、スローフードの運動にもかかわっていました。近年、日本のスローフード運動は美食家の集まりのような感じになってしまっていたのを若返りをして、草の根的な運動に回帰していこうと、協会の理事もやりながら、フードロスなどの啓蒙啓発活動などをやってきました。

青山のファーマーズマーケットで、毎月1回フードロスの削減ということで農家さんから売れない野菜を全部買い取り、600人分の災害用煮炊き鍋のようなものでスープにしていました。そうすれば捨てられてしまうものも普通に食べられます、それを寄付ベースで啓蒙啓発活動としてやってきました。

そのとき「コークッキング」という会社はもう立ち上げていたのですが、やはり啓蒙啓発活動だけでは難しいなと思いました。それだけでは世の中を変えていくスピードはとても遅いと思ったのです。

もっとシステムとしてインフラを整え、2次流通とまではいかなくとも、1.5次流通のような道をつくっていかなければいけない、と思って調べると、ヨーロッパでは2015年頃から、今の「TABETE」のような、フードロスで出た食材を、別の形の流通で販売するサービスがあったのですね。当時、アジアでこれをやっている人は誰もいなかったので見切り発車的に始めたのです。

僕は、今はフードロス専門の人みたいになっているのですが、どちらかというと、スローフードのほうから、現在はフードロスにフォーカスしているという感覚です。食の持続可能性やダイバーシティが本来目指すべきところと思っていて、最適化されすぎたサプライチェーン全体を今の時代に合った、よりサステイナブルな形にしていく必要があると思い、チャレンジしています。

小川

皆さんのお話はとても印象的です。私自身はトレーサビリティーなど食の情報が価値を生むと思い、研究のフィールドを食にしてきました。そのうちHACCP(ハサップ=食の衛生管理手法)など食品安全をテーマにすることが多くなってきたのですが、私もエシカルな消費や地産地消を進めるには想像力が必要だと感じています。

例えばドイツのある地方では、地元のワインを皆が飲むのですが、そのワインは専門家からするとそれほどおいしいわけではないのだそうです。しかし、これはうちの村のワインだからと箱買いをして、年間を通して皆飲むそうです。また、スイスのスーパーでは、他の地域からの安い卵があっても、私たちが買わないとスイスの乳業、畜産業がなくなってしまうからと地元の卵を買っている。

このように作り手や未来を想像できるようになれば、その地域の中での食にお金を払うことに満足できるようになるのだと思います。東京ではそれがなかなか難しいところもありますが、今、食による教育の分野にも携わっているので、想像力を持てる人をたくさん育てられたらと思っています。

すごくいい日本語だと思うのが「足るを知る」という言葉です。人間の欲望は限りないのですが、「これでいいんだ」と思えればずいぶん変わってくる。他者との比較でなく、自分らしさを基準に、想像力も持ちながら食と向き合える人たちを育てたいと思っています。

金丸

私も今、「OUR TeRaSu」というオンライン上の場所をつくっているのですけれど、そこのテーマが、やはり想像力と好奇心なのです。与えられた情報だけで満足してしまいがちなので、食に対する好奇心を持ってもらって自分を広げる体験をするうちに、想像力が豊かになるということを伝えたいと思っています。

今、SFCの学生さんと共同研究をしているのですが、そのテーマが生活者と作り手の新しい関係を模索するというものです。作る側が一方的に提供するのではなくて、食べる側もパートナーだと思って、相互理解をして未来をつくろうとしています。

しかし、人口のボリュームゾーンとしては、まだまだ40代、50代が多い。そうするとやはり安いほうがいいとなりがちで、若い人に芽生えている価値観もミックスして市場をつくるのはまだ難しいとも思います。

情報開示の重要性

秋山

購買層の世代差というのはあるのでしょうね。例えば今の大学生は当たり前のようにSDGsを学んでいたり、エシカルという言葉を皆知っている。そういう層がいずれ主要な消費者になっていくと、消費の動向は変わるかなとも思いますが、今はちょうど過渡期ですよね。

世代間の違いというのは非常に悩ましいですね。味噌はいったい誰が買ってくれるかという話になると、明けても暮れても結論は出ないのです。例えば若年層は和食を食べないけれど、年を取ってくると和食に回帰する、と業界では言われますが、私はそれはないと思います。都内のマックでは、おじいさん、おばあさんが一生懸命、ハンバーガーを食べていますから(笑)。

皆さんのお話を聞いて感じたのは、例えばトレーサビリティーの発端は受け身的にやらざるを得なかったのです。BSEの問題が出た、遺伝子組み換えの問題が出た、というのは、つまりサプライサイドの不祥事で消費者が不信感を持ったから、慌ててやりましたということで、否応なしに対応を迫られた。

GMO(遺伝子組み換え作物)の話はまさにそうだと思います。そもそも「ラウンドアップレディ」(除草剤耐性作物)とか動向を作ったのは、世界的に悪名高い巨大ケミカルカンパニーです。彼らが十分な説明責任を果たさなかったから、何をやっても駄目という印象を消費者団体は持ち、だからGMOの作物は全部駄目になってしまった。

私も大豆の買い付けでよく海外を回っていたのですが、NON-GMOの種子と農薬はセットで売られています。しかも一世代だけで毎年買わなければいけない。農薬を散布した後の大豆畑は地平線が真っ白です。いくら科学的に健康に問題はないと言われても、その現場を見てしまうと、感情も含めて食べたくないですよね。

ですから、当初受け身的なところからいろいろ出てきて、今は過渡期ですが、この先は能動的になって消費者がまず今後の方向性、エシカルとか、サステイナブル、もったいないという気持ちを受容するようになり、次に今度は能動的にアクションを起こすようになるのだと思うのです。

今は受容しはじめたところだと思います。今度はサプライサイドも能動的にアクションを起こさなければいけないし、消費者も、私は選ぶ権利がありますと自分でアクションをする。そのように、だんだん目覚めていくと思うのです。

秋山

GMOの話も、その裏にある本質的なところは、知らない方が多いと思います。それを知らせていくのは非常に大事なことですね。

情報開示(ディスクロージャー)は本当に大事です。ここ30年ぐらいでどの国でも本当に変わってきたと思います。消費者の知る権利に疎い企業はこれから難しいでしょうね。

私がこの業界に入った30年ぐらい前は、ある食品業界は国産原料を70%使っていたら国産表示ができたとか、当時の日本はそのぐらいでした。今だったらそんなことはあり得ない。企業経営者も、消費者も、中間流通も着実に意識改革はできていますから、これはいい方向だと思うのです。

合理的な仕組みの功罪

もう1つ、私どももそうですが、多くの加工食品が中国からの輸入です。例えば即席味噌汁とか、いろいろなところに乾燥野菜、フリーズドライが入っていますが、この製造現場を見るとショックですよ。葉っぱが少しだけ黄色くなったほうれん草はバサバサ捨てるわけです。ほんの少しのきれいなところだけを加工して日本へ送る。こんなことをしていていいのかと思います。

家庭の消費者だけではなく、サプライチェーン、バリューチェーン全体がもったいない、あるいは足るを知る、を実践していかなければいけないですよね。

小川

スーパーに行くと、同じ大きさのトマトやキュウリばかりで、規格化がすごく進んでしまったせいもありますよね。大変合理的な仕組みだったのですが、今は非合理になっているところを上手く是正できていないのかなと思うのです。

やはり知らせることが大事で、何も伝えなければそれが普通だと思ってしまう。そうなっている理由や裏側をきちんと説明をして、納得して買ってもらえるようにすることですね。

そういう意味では、最近テレビ番組で食品工場の製造現場を映すようになりましたね。さらに、川越さんがやっているようなTABETEの取り組みなどがどんどん公認されるようになったことはすごく大事だなと思います。

川越

経済合理性や、いわゆる効率化というところは、日本が世界に誇る仕組みだったと思うのです。それこそJAの流通網などがあるから、われわれは段ボール1箱40円とかの値段で野菜が買えるのです。この仕組みはたぶん世界を見わたしてもなかなかないものです。

この仕組みはすごく便利でよかった。でもその分こういう痛みが出たよねという振り返りが大切だと思います。そこを踏まえて次にどう進んでいくかを考える過渡期なのだと思っています。フードロスの話をすると、「規格外野菜を出しているのは規格があるから悪い」という人がよくいるのですが、僕はそうではないと思うのです。過去の仕組みは評価するべきだし、ひょっとしたら2倍ぐらいの値段で食いはぐれていた人がたくさんいたかもしれない。極端に分けて考える評価が多いので、もう少し中間があるということを知ってもらうべきだと思います。

経済的な価値優先からの転換

川越

でもサプライチェーンが長く複雑になりすぎたので、生活者の人たちは知りようがないところがあるのは確かです。例えば、パン屋さんとか、中食といわれる業界は、たぶんここ30年ぐらいイノベーションの風が全く吹いていない。つまり、「棚にたくさん並べてたくさん売る」というモデルが、食品のリテール(小売り)側でまったく変わっていません。

秋山

デパートも品切れさせたら困るから、閉店まで商品を並べておく、という話を聞いたことがあります。

川越

そうなのです。在庫の可視化をテクノロジーでどのように解決していくか、本当はもっとできるはずなのに、誰もやろうとしない。またフードロスの話をすると、「閉店間際にロスは出るのに、なぜ昼間から販売するのですか」といったクレームがくるのです。

商業施設や駅の中に入っているようなパン屋さんは、店で焼いているのは大体4割ぐらいで、残りの6割は工場から入ってきます。そうなると、朝の一度だけで全てのパンを納入するわけはなく、1便、2便、3便のような形で納品されてくるわけです。

つまり商品を新しいものに切り替える、納品のタイミングでロスが出る。夜に余ってしまったものを翌朝売ることも、パンなどではできます。そういったことを知らせる手段として、われわれはTABETEを使っています。

TABETEに出品している理由は絶対に書いてもらっています。こういう理由でロスになっていますと、できる限り開示してもらって、消費者が知る接点をつくることはすごく大事だと思っています。

秋山

消費者教育や社会啓発のツールにもなっているのですね。

川越

そもそもフードロスの存在自体、知られていないほうが都合のいいものでした。でも、今は農水省や経産省がスーパーなどでも年間5千億円分捨てています、と情報を開示するようになっているのです。

秋山

フードロスのことは、SDGsの目標である「作る責任」が出てきてからいろいろな情報を一般の人が知るようになったと思うのです。それまでは不都合な真実という感じだったのでしょうか。

川越

そうですね。このTABETEのサイトは2018年に正式オープンしたのですが、始めた頃は、お店の方は、ロスは必要悪だとおっしゃっていた。ロス前提でビジネスをやっているのだからと。つまり経済が一番大事だという考え方が強かったのです。

それがようやく少し変わってきたのはここ1年ぐらいです。経済のことだけを言っていてもしょうがない、という感覚がようやく出てきた。これはまさにサステナビリティー・トランスフォーメーションのような話ですが、環境価値と社会価値と経済価値の3つが融合しているという感覚だったのが、融合しているのではなく、環境価値ありきの社会価値があり、社会価値があっての経済価値と積み重なっている。この下の部分が崩れたら上も全部共倒れだということが理解されてきたのですね。

自分にとっての「おいしさ」

川越

また、「おいしさ」というのは、私は味だけではないと思うのです。誰とどのように、どんなタイミングで食べるかによって、おいしさは変わります。自分が嫌いな人と食べたご飯は、同じものを食べてもおいしくない。好きな人と食べるからおいしいのです。実はそのくらい揺らぎの大きいものがおいしさで、自分にとって満足度の高い、納得度の高いおいしさをどう見つけられるかが大事だと思っています。

それが日本ではファストフードなどが急速に入ってきたことで、安さこそがおいしさ、となってしまった。でも、おいしさは人それぞれで多様性があるはずです。ビーガンもそうですよね。牛肉などは環境負荷の問題やアニマルウェルフェアの問題とか、その背景が嫌だから食べないわけです。

僕は、自分にとっておいしい食べ方がすごく大事だと思います。納得度の高い食べ方、おいしさを探すということです。

小川

個人でも企業でも横並び意識によって、日本人は皆と一緒でなければ不安になるところが強いので、ちょっとそこから離れて、今の自分が何を食べたいか、何がおいしいのか立ち止まって考えてみることが大切ですよね。

金丸

教育の問題もあると思うのです。画一的な教育がされていることも、日本は多い。私も理想としているのは自分自身が納得する食です。それぞれが好きに選んでおいしく食べれば、隣りの人が何を食べていてもよく、その違いを楽しむのがいいと思います。

マクロビ(穀物や野菜など日本の伝統食をベースとした食事法)とかローファット(脂質の摂取を抑えた食事)とか、いろいろな考え方があるのですが、一流の人はそれぞれの考え方をリスペクトしているらしいのです。しかし、そこにノイジーマイノリティーみたいな人たちが「あれは駄目だ」とやると、よく知らない人たちがそちらに流れて叩くような感じになるので、そこは課題だなと思っています。

秋山

だからこそ、多様な選択肢を知った上で選べる、というところを、どのように担保していくかはすごく大事ですね。

金丸

そうですね。野菜などの均一化の話も、人間であれば背が高い子も低い子もいるよねという当たり前のことが、野菜は均一でないと嫌だとなってしまうのはおかしいと思うのです。音楽のジャムセッションみたいに、いつも甘いトマトではなくて、今日は酸っぱいのがきたぞ、じゃあどんな料理にしようみたいに、クリエイティブに考えることが楽しいよね、となればよいのではないかと思います。

認証が持つ意味

秋山

経済の土台には社会があり、社会の土台には環境があるという話にははっとさせられました。原材料がどこから来ているのか、それがどういう商品で、どういうルートを辿って手元に来るのかを知らせる1つの手段として認証があるのかと思います。ひかり味噌󠄀さんは、いち早くいろいろな認証を今まで取られてきましたが、やはり社会への説明責任のような意味合いもあるのでしょうか。

おそらく私の会社は、同業他社や他の一般的な加工食品メーカーに比べて、手当たり次第認証を取ってきたと思います。有機認証、ハラール、コーシャとかグルテンフリーなどです。

過去20年ほど、盛んに海外に行き来し、売り場やそこの人々を見てきて気が付いたことですが、海外では安全安心というものはお金で買わざるを得ないものなのです。特にアメリカはそうです。だから認証制度が重要になる。

逆に日本は水や安全はタダという文化です。だから認証などは余計なお世話というところが企業サイドにあったし、消費者もあまり考えていなかった。輸入の大豆より国産大豆のほうがいいのは当たり前という意識なので、認証マークが付いているから安心して買うという土壌が、今もあまりない。

私はしゃかりきになって味噌を海外に輸出しようという気持ちがあったものですから、手当たり次第に認証を取ろうと思ったのです。先輩の経営者から「環境に企業がお金を使っても文句を言う人はいないよ」と言われて、なるほどと思い、ISO14001をいち早く取ったのが最初です。

その後、有機の味噌を一生懸命やるようになり、そうすると有機の認証マークがほしい。また海外を頻繁に往来していると、例えばユダヤ教の戒律に則ったコーシャというものがある。今アメリカへの輸出にはこの認証を使っていますが、特にユダヤ人の方に買ってもらおうとは思っていません。コーシャは、きちんと作られているものに与えられる規格と見ています。

ハラールは東南アジアを意識した時、ハラールフードが標準でノンハラールが例外ということに、現地のスーパーで気が付きました。大きなスーパーの売り場に小さな別室があって、そこだけがノンハラールなのです。

お金をかけて安全安心、もしかしたらおいしさも買うというところで、認証制度が海外で発達している。これは日本でも有効活用すべきだと思っています。そもそも日本の文化と価値観が「私たちの努力しているところを見てください」なのです。会社の教育もそうで先輩が後輩に対して、俺の頑張っているところを見ろと。

でもそれは世界では通用しません。積極的にわれわれが訴えていかなければいけない時代になっています。その1つに認証制度もあると考えています。

秋山

グローバルなコミュニケーションの道具、言葉のようなものですね。認証にはお金もかかると思うのですが、その投資は、きちんと返ってくるのでしょうか。

有機認証やグルテンフリー認証は十分おつりがくると思っています。というか、それがなければ商売ができないぐらいのところまできています。

欧米のマーケットでは「国産の一番高い北海道産の大豆を使った味噌」と言っても誰も買わない。日本国内で評価される商品の切り口と海外はまったく違うのです。もしかしたら日本でも、一部にはそういう傾向はあるかもしれません。

秋山

小川さんはHACCPの導入に障害者施設等も含めて、サポートされていると伺ったのですが、食品安全、衛生という意味でも状況が様変わりしている感じでしょうか。

小川

はい、HACCPに沿った衛生管理が、日本でも法律で義務化されたのです。障害者施設のカフェや町の飲食店で、HACCP制度化への対応を支援していますが、きちんとやっていることをデータで記録して証明できるようにしなければいけない世の中になってきているということです。

HACCPは制度化されたことで、認証ではなくなりました。今や事業者がやらなければいけない義務なので、林さんがおっしゃっていたような差別化のための認証とは違ってきています。

秋山

何かあった時の説明責任を果たすための仕組みとしてやらなければいけなくなったということですね。

小川

そうです。日本としては、衛生管理の国際基準への適応と言えます。また、非関税障壁でもあるのです。例えばヨーロッパに輸出する日本企業に、HACCPに則って作られた食品でなければいけません、という障壁があるように。TPPなど、様々な自由貿易圏ができている中で、政府としては自国の水産業、農業、食品産業を守らなければいけない。その1つの手段がHACCP制度化による非関税障壁という面もある。そこにやっと日本も乗ったと言えると思います。

全く同感です。

小川

国際貿易では無差別原則なので、自国でHACCPを制度化していないと輸入品に嫌だと言えないところもあると思います。

コロナで変わる物流

秋山

制度変化とあいまって食のグローバル化が一層進展していくのと同時に、地産地消のようなローカル化の動きの両方が並行して進行しているように感じます。

コロナの問題で2年間振り回され、そろそろ経済と両立させる流れの中、われわれが今、一番苦しんでいるのは、世界中のコンテナ物流が大混乱していることです。これは今後5年、10年相当響くのではないかとみています。

私どもの有機味噌は、実は原料は全量海外産です。20年ぐらい前に有機をやろうと決めた時、私はなぜ日本は国産原料志向なんだ、海外の原料でもおいしい味噌ができるということに挑戦してみようという意識でやってきました。ところが今、コンテナの値段が2倍、3倍、4倍になり、しかも港を出たけれどもいつ着くか分からない。

世界の物流から日本は完全に外れてしまいました。今、大豆がアメリカの港を出ると、まず釜山か青島か大連に行ってから日本へ来るのです。直行便はほとんどなくなりました。日本向けの荷物だともう商売にならないのでダイレクト便が全部なくなったのです。

そうなってくると、過度の海外依存はまずいなと思っています。海外原料の場合、長期で見ると、化石燃料を使って原料を遠くから運んできていいのかということもあります。ですので、地元で取れるものを使って商品を仕上げていくという方向を2年くらい前から意識しています。国内の原料を使って商品を作っていくことに、もっと早くから力を入れておけばよかったというのが私の実感です。

秋山

コロナが1つの転機になったということでしょうか。

いろいろな日本の脆弱性や弱みが今あぶり出されているという感じです。

秋山

皆さんのビジネスや、ご覧になっている範囲で、コロナに関しては他にどのような変化がありましたか。

金丸

私はどちらかというと、場の提供やプロジェクトをやっていたので、会社自体がどうというのはあまりなかったのですが考え方は変わりました。

環境のことを考えても、アメリカの大規模農業が主導する時代がもしかしたら終焉を迎えるのかもしれない。それもまだ並列すると思うのですが、地域分散型社会で回っていくものがあって、その両軸になるのではないかという感じはしています。メーカーの方にも3、40代の人はもう少し長く会社にいるから、分散型社会の中で回すところに自分たちが何ができるのかみたいな思考を始められている方が多くいらっしゃるような気はします。

仕事は、売り上げを上げることも大事ですが、未来の社会に対して必要なことを自分たちの持っているリソースをもってやることも重要で、今のままだと子供たちに我慢をさせることになってしまうと。

もうコロナの前から日本の食産業の裏側がかなり疲れているなということに気付いている人は、このままではいけないと皆思っていますね。

生産者へのリスペクトを

川越

消費者側の消費行動は、これほどのパンデミックが起きても、あまり変わらないものだなというのが正直な感想です。確かに事業者側はいろいろな情報が開示され、例えば飲食店でお客さんがいなくなるとどうなるのだろう、みたいなことが世の中に報道され続けました。

ある意味では一次産業にスポットが当たったのはよかったかなと思っています。一次産業の人たちがすごく困っていますという報道が連日出て、おうち消費でスーパーは賑わっているのにどうしてだろう、と思ったら給食向けに作っていた野菜が何十トン廃棄されたといった、普段見られない流通のシーンが明らかになった。

しかし、日本人に根本的に足りていないのは、一次産業など物を作る人への敬意で、これはコロナを経てもあまり変わっていないと僕は思います。確かに作り手側も自分たちが努力しているとあまり言いたがらないのですが。

金丸

そうですよね。「食べてくれたらわかるから」みたいな感じで。本当は裏ですごい努力をしているのに、表に出さないのが格好いいみたいなところがちょっとあります。

川越

サプライチェーンの問題もあるのですよね。小売が一番強くなってしまったので。日本は効率化や経済発展を考える中で小売最強で、上流になればなるほど弱くなるという構造になってしまっている。

でも結局それは食の持続可能性にダイレクトに響いてくるのです。つまり作り手がいなくなる。日本は50年後に作り手がいなくなったらどうなるのかを真剣に考えなければいけないのに、なかなか目が向かない。これは必ずしもお金だけの問題ではなく、マインドの部分もあると思います。

秋山

川越さんが〈TABETE レスキューデリ〉で地方の直売所で売れ残ってしまった野菜を電車に載せて、都心で販売されているのをニュースで拝見したのですが、あれはまさにコロナの影響もあって余ってしまった野菜を上手くマッチングさせたものですよね。

川越

埼玉の東松山市周辺のJAさんの7直売所では閉店後に余ってしまったものは、農家さんが直売所まで引き取りにいかなければいけないのです。高齢者も多く、それはしんどいので、売れ残ってしまったものを全部われわれが買い取り、森林公園発の東武東上線に載せて池袋まで電車で輸送し、それを池袋で私たちが売りました。

農家さんは、どうせ売れないからと、もともと少なめにしか直売所に持っていかないんですが、われわれのように余剰の分の買い上げなどがあると、チャレンジングに多めに出してくれるのですごくいいと思います。

直売所の野菜は質がいいのです。早熟で取って流通に流すものと違って、完熟で出しているので味も全く違う。でも農家さんはびっくりするぐらい安い値段で出してくるので、そこをどうしたらいいかと悩んでいます。

生産者が自分の思いを語る時代

生産者もメーカーも一人称で自分の気持ちを語らなければ駄目ですよね。日本は沈黙は金なりとか、出る杭は打たれるとか、口は災いの元という文化が根強く、それが現在の日本の諸悪の根源だと思っているのですが、自分の名前で何をやっているか気持ちを語る、それを商品のパッケージにも書く、売り場の紙にも書く、ということが大事だと思うのです。

私も有機認証の大豆の買い付けには、基本的に必ず生産者のところに行き、信頼できるかを確かめています。JASの認証を取ったから買いますという仕入れはやっていません。認証制度は、残留農薬ゼロを保証していませんから。まさかの時にサポートしてくれるところと取り引きします。中には100軒ほどの農家の耕作記録まで全部出してくれたところがありました。

特に生産者がお客さんに対して語らなければ、消費者は買ってくれないという時代になりつつあります。第三者的に安心安全とか、ここで作っていますというだけでは説得力のない時代になりつつある。自分の思いを語る、それが一番大事だなと思っています。

小川

思いを語るということと認証を併せて考えると、できあがったモノを認証するというより、今は、約束された手順できちんと生産するとか、製造するというプロセス認証になってきていますね。

認証を取ることは、日々やるべきことをきちんとやっていることの証になるし、それをやっていることもちゃんとPRすることがよしとされる世の中に少しずつなってきているとは思います。HACCPについても、プロセスをきちんとやっていることを記録で証明しておこうという話だと思うのです。

そうですね。

小川

逆に言えば何かあった時に証拠を出せるような説明責任がある。医療にはインフォームドコンセントでリスクも話した上で納得してもらって、治療を受けるかどうかを決めてもらいますが、食もこれからは、説明をした上で食べるか食べないか選んでもらうという、選択肢を用意しておく時代になってきているのかと思います。

日本食の可能性

秋山

これからの私たちの未来の食がどうなっていくのかを最後に伺いたいと思います。日本の食自体はすごく多様化している一方、日本食の伝統や文化もあらためて見直されているという気もします。

現在、伝統的な日本の食の文化というものに、なぜか日本人が、プライドや自信を失っているように私には見えてしまうのです。例えば、北欧などの最先端の食のあり方みたいなものになびきがちなのですが、もともと日本の食はよかったのです。実際に平均寿命も長いし、もう長い年月、よい食材で体がつくられているのです。

それが終戦後、タンパク質は魚と豆類から取っていたものが乳製品と肉に代わり、炭水化物は米だったものが小麦粉に代えさせられた。もちろんそれなりに楽しみもあったと思いますし、膨大な加工食品の技術によって安くなって何でも手に入るようになった。それはそれでいいところはあるのですが、その過程で食のベースに対する自信をなくしてしまい、今ちょっと迷走気味なのだと思います。

私は日本食に関するビジネスというのは素晴らしい仕事だと思っていますし、国際競争力があるものだと思っています。もともと日本は食に関してはいいところにいたのです。今、少し自信をなくしているけどもっと世界最先端にいこうよと言いたい。

しかもこれほど繊細で感受性の強い国民はない。だからおのずとそこでビジネスとして成立するには、いろいろな意味でのクオリティの高さが必要です。そのことにもっと自信をもってやっていきたいですし、民間一企業でできることは知れていますから、それを様々なセクターにつなげ、時として行政も手伝ってほしい。

秋山

海外では日本食はすごく注目されているのに、日本人のほうが自信をなくしてしまっていると。

例えば、私どもの英語のホームページには、お宅の味噌はプロバイオティクスなのか、パスチャライズ(加熱殺菌)しているのかと、ほぼ毎日問い合わせが入ってきます。

しかし、日本国内からの問い合わせはゼロ。加えて海外からは、味噌を取り扱いたい、私をディストリビューターにしてくれないかという話もほぼ毎日入ってきます。

それほど日本食は、商売としては垂涎の的なのです。あまり言うと手前味噌になってしまうのですけれど(笑)、和食プラス発酵は評判がいいです。

10年前、20年前に比べ、味噌だけではなく和食の発酵食品は、腸内環境がよくなって免疫力が上がる、そしてすべてのヘルス&ウェルネスにつながると流れが変わってきました。食生活を変えて皆の健康に貢献するという企業になりたいと思っています。

金丸

日本の食は世界で称賛されています。その称賛にもかかわらず、謙虚という文化があって、自分たちがそうだと言えないみたいなところがあるから、いやいや、まだまだみたいな感じで結局コストダウンに走ったりしてしまうと思うのです。

いろいろな技術者さんがいて、メーカーも生産者もトップレベルの方がいて、世界で称賛されているのに日本の中で疲弊しているのはもったいないですね。

「現代版お裾分け」を目指して

川越

未来を考えるのは難しいのですが、少しずつ環境は変わっていると思います。僕は誰も損をしないビジネスをどうつくれるかを考えているのですが、それには僕たちだけがやっても意味はなくて、いろいろな企業さんや生産者さんも含めて、ステークホルダー、サプライチェーン全体を巻き込んでいく必要があります。

「お金ではなく、自分にとって満足度の高いことは何だろうと本気で考えたほうがハッピーじゃない?」ということです。そちらのほうが楽しいし、満足度も高いよね、というムーブメントをいかにつくれるかだと思います。TABETEのユーザーさんは、フードロスのことに興味がなかったけれど、何となく気にするようになりましたという人でいいのです。

世の中をよくしようというと少し高尚すぎるので、「こっちのほうがいい世界じゃない?」ということに勝手に巻き込んでいく。その震源地となるようなプレーヤーが若い世代から増えていけば未来があるなと思います。

秋山

誰も損をしないビジネスというのは、「誰一人取り残さない」というインクルージョンにも通じるのかなと思ったのですが、一方、今、日本国内でも食べることに困っている人たちがいらっしゃいます。そういうことについてはどのように考えていますか。

川越

僕はそもそも貧困の問題は、食べ物を与えることで解決する問題ではないと思っています。なので、フードロスの問題と貧困問題をあまり結びつけて考えてはいません。ただ、それは対症療法としてはもちろん必要なことだと思いますし、フードバンクなどの活動もどんどん広がることを願っています。われわれとしては今、TABETEというアプリが、スマホやクレジットカードがなくても決済できるような仕組みも含め、考えていかなければと思っています。

僕たちは当初から、「TABETEというサービスは現代版お裾分けです」と言い続けているのです。お裾分けという文化は社会、コミュニティーの安全保障に大きく寄与していたと思うのです。でも、お裾分けの文化は大都市圏ではなくなってしまった。

一方、大都市圏に貧困層が結構多い。でも、CtoCをビジネス的な仕組みやアプリでやるのは、今は法律が許さないのです。そこをどう実現できるか、それは信用取引なのか、ブロックチェーンなのかわからないですが、CtoCで現代版お裾分けの世界をどのようにつくれるかが大事かなと。これはまだ夢物語ですが。

境界を超えた新しいつながり

秋山

ITのようなテクノロジーと、信頼のメカニズムをかけ合わせることで何かできそうな気もしますね。小川さんはいかがですか。

小川

もともと小売と中食と外食という境界が曖昧になってきたところにコロナでますます境界がなくなったと思うのです。すると、競争が熾烈になっていくかというと、そうでもない部分もあって、例えば原宿にある障害者雇用をしているカフェがこども食堂へのお弁当提供を始めたり、様々な新しい地域のつながりができたといった話があります。

鹿児島の外食事業者さんも、今までは観光客向けのビジネスをやっていたのが、外国人が全く来なくなる中、地域の中でできることを少しずつ見つけ、お店で出た野菜の屑を地域の動物園に提供したりしています。

そのように、境界がなくなり、厳しくなるところもある一方、地域の中で新しい横のつながりや、新しい補完関係ができていたりする面もあるのです。市場を取り合うのではなくシェアしていくとか、ワークシェアリングとか、様々なところで補完していく考え方が、食の分野でも実現していく可能性があります。

そういった人やモノやサービスをつなげる意味で、情報はこれからますます大事になる。それを実現するためのITのプラットフォームや技術が果たす役割は大きいと思います。

私自身はそうした世の中の大きな流れを研究していく一方、一番力を入れたいのは、身近なところで、お金で解決できない人たち、例えば障害者施設でのHACCP制度化対応をどう支援するかといったことです。大学の教員でなく、学生が行くと話を聞いてくれるところがあるので、学生たちが社会に入って貢献し、逆に地域に育てていただくような取り組みをやっていければいいなと思っています。

秋山

私も自分の持ち場で何ができるかを、お話を伺いながら考えていました。今日は本当に目を開かれる話ばかりでした。知ることでマインドセットや考え方が変わって、行動が変わるということを、今日の座談会で私自身が感じました。引き続き学ばせていただきます。有り難うございました。

(2021年12月8日、三田キャンパスにて収録。)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。