慶應義塾

児玉 綾子:国際社会はいかに脱炭素を実現できるのか

公開日:2026.06.24

執筆者プロフィール

  • 児玉 綾子(こだま あやこ)

    WWFジャパン自然保護室(気候・エネルギーグループ)グループ長環境情報学部 卒業

    2005環

    児玉 綾子(こだま あやこ)

    WWFジャパン自然保護室(気候・エネルギーグループ)グループ長環境情報学部 卒業

    2005環

気候変動と脱炭素

2026年4月、気象庁が40℃を超える日を「酷暑日」と定めたのは記憶に新しいところです。40℃を超える日に名前を付けなければいけなくなるほど、その頻度が高まってきている証でもあります。また、冬の豪雪、夏の豪雨といった気候変動を起因とした異常気象による自然災害が、あちこちで起こるようになりました。気候変動は人間だけでなく、自然界にも大きな影響を与えています。海水温上昇によるサンゴの白化現象、高温・乾燥・強風の組み合わせによる大規模森林火災など、様々な影響があげられます。日本でも、桜の開花時期の早まりや、以前は冬越えできなかった観葉植物が屋外でも越冬したりしています。動物も植物も魚も虫も連鎖していますから、地球上にあるすべてが気候変動の影響を大きく受けていると言えましょう。

気候変動に対し、世界は1980年代後半から動き出しました。1988年に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が設立され、1992年には気候変動枠組条約がブラジルで採択されました。1997年に京都で行われた気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)で「京都議定書」が採択され、この時、初めて「温室効果ガスを6%減らす」という具体的数値を盛り込んだ目標が設定されました。

脱炭素は「緩和」の一部

気候変動対策には「緩和」と「適応」、「損失と損害」という3本の大きな柱があります。脱炭素は「緩和」の数多くある対策のうちの1つにすぎません。また、私の周辺では、よく「脱炭素というけれど、CO2以外にも、もっと減らすべき温室効果ガスがある」という意見を耳にします。一口に温室効果ガスと言っても、メタンやフロンなど何種類ものガスがあり、CO2だけがクローズアップされることを不思議に思うのも当然です。ではなぜ、CO2に焦点が当てられているのでしょうか。

IPCCでは、人間活動の結果によって排出された温室効果ガス排出(2019年)のうち、CO2が約4分の3(約76%)を占めると整理されています。76%の内訳は、化石燃料・産業由来が64%、森を破壊したり、土地の使い方を変えたりしたことで排出される土地利用由来が残りの12%と示されています。つまり、CO2を減らすことが最も効率的な温室効果ガスの削減となるのです。

そのためには、主な排出源である化石燃料からの転換を進める必要があります。すべての分野で省エネに一層取り組みつつ、今ある再生可能エネルギー技術を最大限活用して発電時の排出削減を進めていくこと、そして将来的には電化やグリーン水素、DAC(空気中のCO2を直接捕まえる技術)なども駆使しながら、熱分野も含むかたちで脱炭素化を目指すことが重要です。また、再生可能エネルギーを国内で生産できれば、日本のエネルギー安全保障にもつながります。

世界の脱炭素をめぐる状況

2015年にフランスのパリで開かれたCOP21では、195か国+欧州連合が賛同して「パリ協定」が採択され、翌2016年に発効しました。このパリ協定では、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をすること」、そのために、「できる限り早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と、森林などによる吸収量のバランスを取る」という、2つの世界共通の長期目標を掲げています。

平均気温上昇を2℃以内に抑えるためには、このままのペースで温室効果ガスを排出し続けることはできません。排出できるCO2総量に限界があり(カーボンバジェット)、さらに2050年ごろまでに、排出と吸収を均衡させる(実質ゼロにする)必要があります。

この脱炭素社会に向かって、世界はエネルギー転換や、社会の仕組みの変革などスピード感をもって突き進んでいます。企業などにおいても脱炭素が進むと同時に、実際の排出量は減っていないのに、クレジットなどで相殺(オフセット)するだけのような「見せかけの脱炭素(グリーンウォッシュ)」にも厳しい目が向けられるようになってきています。そういったニュースが世間を騒がせ、国際政治が揺れても、この世界の脱炭素の動きが後戻りするということは考えにくく、またその歩をこれ以上緩めると、平均気温上昇を2℃以下に抑えることが難しくなり、今以上に温暖化による異常気象に悩まされることになるでしょう。

脱炭素社会の実現には、化石燃料から転換し、人間にも自然にもやさしい再生可能エネルギーを拡大していく必要があります。そのためにも、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを、いかに自然にやさしい形で、そして地域に貢献する形で拡大していくかが、これからの焦点になるのだと思います。

*1 6%は日本の場合の数字

*2 IPCC, 2022, Figure SPM.1

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。