慶應義塾

材料の世界での二次元

公開日:2026.08.07

登場者プロフィール

  • 緒明 佑哉

    緒明 佑哉

 日常で二次元というと、アニメやゲームの世界を指すかもしれません。材料の世界では、グラファイト(黒鉛)やそれをはがして原子層一層にしたグラフェンのように、層状構造やナノシートなどを指します。この材料は、ホストとなる層の間に新しい分子やイオン(ゲスト)を入れ込む「インターカレーション」や、層をはがして原子層レベルの薄いシートを得る「はく離」が可能な構造をもつことから注目されています(図1)。私は、どんな層状物質に何をはさむかによって二次元高分子材料の色々な応用展開が期待できる点に興味をもっており、それらをいくつか紹介させて頂きます。

図1. 層状構造のインターカレーション(左)とはく離(右)のイメージ.

 一つ目は色が変わる高分子による層状物質です。ポリジアセチレンという高分子は、熱や溶剤などの刺激が加わると青から赤へ色変化を起こします。外部刺激により分子運動が起こり、ポリジアセチレンの呈色の原因となっている分子鎖(共役鎖)がねじれ、光の吸収波長が変わることで色変化が起こります。この層の間にゲスト分子やイオンをインターカレーションすると、この分子鎖や層状構造の動きやすさが変わり、色調、応答性、感度、可逆性等を変化させることができ、刺激に対する応答性を制御できます(図2a)。これらを使うと、温度や力といった物理的な刺激の見える化(イメージング)が可能となります。例えば、外科手術に使用されるデバイスが生じる温度分布や、毛筆や複雑な形状の物体によって生じる圧縮応力分布のイメージングができます(図2b–e)。

図2. 層状ポリジアセチレンを使った熱や力のイメージング. (a) 温度応答性色変化の一例. (b) 温度応答性色変化デバイスを用いた手術デモ(豚肉片の切開)における超音波凝固切開装置のシャフト部分の発熱状態イメージング(御協力-医学部、一般・消化器外科、松田諭教授)(1より英国・王立化学会の許諾を得て転載).(c) 紙基板デバイスと刺激応答性カプセル状材料(白色部分)を使った揮毫により生じる力のマッピング(御協力-理工学部、システムデザイン工学科、桂誠一郎教授)(2より英国・王立化学会の許諾を得て転載).(d) スポンジ状デバイスと刺激応答性カプセル材料を使ったパンダの置物の足元にかかる応力分布(3より許諾を得て転載).(e) 透明ゴム状デバイスと刺激応答性カプセル状材料を使った応力分布イメージングの例(4より英国・王立化学会の許諾を得て転載).

 二つ目は原子に近い厚さをもつナノシートです。層状構造は、ふせんの束を1枚ずつはがすかのように、はく離によって原子レベルの厚さのシートが作製可能です。私たちは、層状構造をもつ無機化合物の層間に有機分子をインターカレーションし、はがしやすくすることで表面が分子で修飾されたナノシートを作る技術を確立してきました。さらに、機械学習を活用することで、はがしやすさやナノシートのサイズを制御するための実験条件を明らかにしてきました(図3a)。表面が修飾されたナノシートは様々な溶剤に分散でき、汚れや水をはじく撥液性表面や光の干渉による呈色と刺激による色変化が起こるコーティング等が作製できます(図3b,c)。

図3. データ科学的手法を活用したナノシート合成プロセスの制御と生成物によるコーティング. (a) 小規模データを活かしたマテリアルズインフォマティクスのイメージ(5より英国・王立化学会の許諾を得て転載許諾を得て転載). (b) ナノシートの透過型電子顕微鏡写真. (c) 構造色を発色する平滑なコーティング (6よりWiley-VCH社の許諾を得て転載).

 三つ目は二次元構造を自前で作ることです。ベンゼン環が敷き詰められた完璧なグラフェンの化学合成は、化学者の夢の一つとも言われています。この理想には届きませんが、思わぬ発見(詳細は窮理図解参照)から、少し乱れているもののグラフェンや酸化グラフェンもどきの構造を部分的に含んだ高分子「非晶質共役高分子ネットワーク」ができました(図4)。このような高分子は様々な分子の組み合わせで合成でき、機械学習やハイスループット手法を活かし、リチウムイオン二次電池の電極活物質や水の電気分解により水素を作るための触媒、高強度材料など、希少な金属元素を用いない資源リスクフリーなエネルギー関連材料や高強度材料を創製できます。

図4. 非晶質グラフェン様構造(NQ-DVB)の合成とポリスチレン(PS)への複合による高強度化(シミュレーション御協力-理工学部、機械工学科、荒井規允教授)(7より米国化学会の許諾を得て転載).

 以上の研究は、学生の皆さんの努力と多様な共同研究者の御協力により発展したもので、御礼申し上げます。今後も、二次元に限らず特殊な構造や機能をもつ高分子材料の創製を通じ、学術や社会の発展に役立てるような研究/教育を進めていきたいと考えています。

参考文献・転載元

1) R. Shibata, S. Matsuda, H. Kawakubo, H. Imai, Y. Oaki, J. Mater. Chem. B 2024, 12,

 10886.

2) N. Shioda, R. Kobayashi, S. Katsura, H. Imai, S. Fujii, Y. Oaki, Mater. Horiz. 2023, 10,

 2237.

3) N. Ono, R. Seishima, K. Okabayashi, H. Imai, S. Fujii, Y. Oaki, Adv. Sci. 2023, 10,

 2206097.

4) H. Yamanaka, H. Imai, S. Fujii, Y. Oaki, Mater. Horiz. 2026, 13, 3326.

5) Y. Haraguchi, Y. Igarashi, H. Imai, Y. Oaki, Digital Discovery 2022, 1, 26.

6) Y. Haraguchi, H. Imai, Y. Oaki, Adv. Mater. Interfaces 2022, 9, 2201111.

7) T. Sakuma, R. Sato, A. Yamaguchi, H. Imai, N. Arai, Y. Oaki, J. Am. Chem. Soc. 2025,

 147, 11564.