登場者プロフィール
肥後 友也
肥後 友也
AIやIoTの発展により、現実世界とデジタル空間が高度に融合する新しい社会の実現が進んでいます。世界のデータ流通量は、30年後には現在の数千倍に達すると予想されており、その指数関数的な増大に対応するためには、超高速・超省電力な情報処理技術が不可欠です。同時に、その過程で生じる膨大な熱を効率的に制御し、再利用するエネルギーマネジメント技術も重要な課題となっています。こうした技術革新の鍵となるのは、物質の性質、すなわち物性の深い理解に基づく未知の物理現象の発見と、それを活用した革新的な電子材料・デバイスの開発です。
材料の電気や熱、光、磁気的な性質は、材料中に存在する電子の状態と運動に深く関係しています。電子が占有するエネルギー状態、外場に対する応答、スピンなどの自由度との結びつきによって、金属、半導体、絶縁体といった電気伝導特性の違いや、磁性、熱電効果、光応答などの多彩な機能が生まれます。これらを理解するうえで重要な概念の一つが、結晶中の電子のエネルギーと運動量の関係を表すバンド構造です。近年では、従来重視されてきたバンドギャップの制御に加え、バンド分散、バンド交差、スピン分裂バンド、さらに電子の波動関数が運動量空間にもつ幾何学的・位相的性質にも注目が集まっています。このような電子の状態を物質設計によって制御することで、従来材料にはない新しい機能を引き出すことが可能になります。
私たちの研究室では、電子がもつ量子力学的な自由度である電荷、スピン・軌道角運動量、位相をフルに活用し、バンド構造・磁気構造に基づく物質設計と新奇な電子機能の開拓を通じて、新しい電子材料「量子機能材料」の創出に取り組んでいます。これらの材料により、従来のエレクトロニクスの中核を担ってきた半導体や磁石の機能を補完・拡張し、次世代の情報処理、センシング、エネルギー変換を支える電子材料とデバイスの実現を目指しています。代表的な成果として、磁石として知られる強磁性体とは異なる性質を持つ磁性体「反強磁性体」において、超高速・超省電力な不揮発性メモリの実現へとつながる磁気情報の書き込み、読み出し機能を実証しました。また、特徴的なバンド構造により、熱や電気などに対して大きな応答を示す物質「トポロジカル半金属」の薄膜作製を進め、その特性を活かした高性能な横型熱電変換デバイスの開発にも成功しています。
物質を設計・作製し、物性を測定・理解し、さらにデバイス開発へと展開する。この一連の研究を通じて、物理学が積み重ねてきた知見を電気情報技術へとつなげることを目標としています。まだ名前のない物理現象との出会いは、最初は小さな発見かもしれません。しかし、その原理を深く理解し、材料・デバイスとして形にすることで、情報処理、センシング、エネルギー変換の基盤となる技術へと育っていく大きな可能性を秘めています。