Profile
電気情報工学科(総合デザイン工学専攻 修士課程1年【※】)
広島県生まれ、東京都・中央大学附属高等学校出身
高校時代はチアダンスに打ち込み、全国3位という輝かしい実績を残しました。一方で「自分が何をしたいのか」は、大学入学時点ではまだはっきりしていなかったそう。そんな彼女が慶應義塾大学理工学部への入学後に出会ったのが"光"の世界。光×医学の可能性に魅せられ、現在は悪性脳腫瘍の治療をシミュレーションで支える数理モデルの構築に取り組む傍ら、ダイバーシティ改善を目指す学生団体「Ulink」を立ち上げるなど多方面に情熱を注いでいます。研究も、課題活動も。すべてを自身の成長に変える、彼女の原動力とは?
【※】インタビュー時点(2026年6月)の在籍学年です。
他大学附属校から外部進学へ。「やりたいことがまだわからない」を受け止めてくれた学門制。
高校時代はどのように過ごしていましたか?
部活でチアダンスに情熱を注いでいました。体育会系の環境でしたが、仲間と一つの目標に向かって努力する時間はとても充実していました。チームとして全国大会3位という成績も残せました。
学業面でもさまざまなことに挑戦。ターニングポイントとなったのは、3年生の時に化学を選択したことです。在籍していた高校では卒業研究に取り組むカリキュラムがあり、私は研究の題材にダニエル電池を選びました。その研究の中で、初めて「電気って楽しい!」と感じたんです。慶應義塾大学理工学部の入試面接時には、ダニエル電池とチアダンスの取り組みを力説しました。
慶應義塾大学理工学部に進学を決めた理由を教えてください。
附属高校だったので、そのまま内部進学する選択肢もありました。しかし、もともと興味があった電気系が強い大学への受験を決意。慶應義塾大学の理工学部を選んだ決め手は学門制【※】でした。学門制は、他の大学にはない制度です。入学時点で学科を確定するのではなく、1年かけて幅広い分野を学びながら専攻を決めることができます。「電気」というキーワードは頭にあったものの、当時は自分の興味がまだはっきりしていなかったからこそ、学門制があることの安心感はとても魅力的でした。
【※】学門制…入試の時点で5つの「学門」のいずれかを選択し、入学後に自分の興味や関心に応じて徐々に学びたい分野を絞っていき、2年進級時に所属する学科を決定する、慶應義塾大学理工学部独自の制度。詳細は公式サイトをご参照ください。
入学前後でイメージのギャップはありましたか?
理工学部は、研究や課題に本気で取り組む人が多いです。「キラキラした自由な大学」というイメージを入学前は持っていたので、正直、最初は理工学部の雰囲気に驚きました。授業の合間には、みんな自然とメディアセンター(図書館)に集まり、一緒に勉強するんです。高校時代に、もっと学習に集中できる環境で学びたいと感じていたので、まさに私が求めていた環境でした。
電気、そして光へ。工学と医学が交差する場所で、社会貢献できる数理モデルを構築中。
電気情報工学科の特徴を教えてください。
ハードウェアからソフトウェアまで、とにかく学べる範囲が広いことが最大の特徴です。回路・電子デバイスといった電気系から、プログラミング・情報処理・画像処理といった情報系まで、一つの学科の中に多彩な科目が揃っています。自分にどんな分野が合っているかまだわからない学生には、ぴったりな学科なのではないでしょうか。
いま私が研究している「光×医学」は、幅広く学べる電気情報工学科だったからこそ見つけられたテーマだと思います。大学3年生のとき、授業で光というキーワードに出会い、その応用範囲の広さに驚きました。医療からファッションの世界まで、分野を超えてこんなにいろいろなことができるのかと。
現在取り組んでいる研究について教えてください。
組織内光線力学療法(iPDT)の研究をしています。悪性脳腫瘍の中でも特に悪性度の高い膠芽腫(こうがしゅ)の新しい治療法の確立を目指しています。従来の脳腫瘍治療は、頭部を開頭して腫瘍を摘出する外科手術が主流でした。しかし、取りきれなかった腫瘍が残ると、再発や生存期間の短縮を招くことがあります。そこで注目されているのがiPDTです。iPDTは、光ファイバーを頭部に挿入し、薬剤・光・酸素の化学反応によって腫瘍細胞を壊死させる治療法です。開頭手術を伴わないため、患者さんへの負担が格段に少ないのが特徴です。
ただ開頭しない分、脳内で光がどのように伝わっているかを目視できません。だからこそ、治療領域を予測するシミュレーションが重要。私は、物理・化学・生物の要素を包括的に取り入れた数理モデルの構築に取り組んでいます。これが完成すれば、脊髄腫瘍などの脳以外の部位にも応用できる可能性があります。将来的にはいろいろな病院で私の構築した数理モデルを使ってもらえたら嬉しいです。
この研究テーマを選んだ理由は?
研究室から提示された複数のテーマのうち、社会貢献度が高く、「病気の治癒に直接的に役立てる研究を」と思い選びました。それから、実験よりもシミュレーションが肌に合っていると感じていたこともありますね。
変革は何気ない会話から。マイノリティの声を可視化し、学校をもっと居心地よくする学生団体。
課外活動について教えてください。
2025年に「Ulink(ユーリンク)」という学生団体を立ち上げました。同じ研究室の留学生の友人、先輩、そして指導教員の小川准教授、4人で矢上キャンパス内のYIL(イール) 【※】でお茶をしていた際の会話がきっかけです。
Ulinkは、さまざまなマイノリティの学生が居心地よく過ごせる環境づくりを目指しています。理工系キャンパスは女性が少数派ですが、Ulinkの対象は女性だけでなく、留学生や博士課程の学生なども含まれます。最初の活動として、矢上キャンパスの女子トイレに生理用品を設置しました。利用者アンケートを集計し、可視化したデータを慶應義塾大学のSDGs推進活動を担う学内団体「KeiDGs」【※】に提出し、大学全体の取り組みにつなげることもできました。
また、YILで講演会と交流会を同時開催し、小川研究室の卒業生や博士課程を修了して社会に出た女性研究者を招いてお話を伺いました。博士課程の学生はどうしても孤立しがちなので、つながりを作る場を提供することにも意義を感じています。
【※】YIL(イール)…Yagami Innovation Laboratoryは、慶應義塾大学が掲げる「未来のコモンセンスをつくる研究大学」を実現するための拠点の一つとして2025年に誕生した施設。慶應義塾大学から生み出される科学・技術の知を領域を横断して広く社会と共有し、産学連携による人材育成、社会課題解決や新産業創出を目指すオープンイノベーションの場です。
【※】KeiDGs…DE&I を、サイエンスを基盤とした教育と研究における多様性、平等と公平、自由と捉え、創立者福澤諭吉の言葉を今の時代に合わせて読み解いたKeio Diversity, Equity, and Inclusion Goals (KeiDGs)。2039年に迎える創立100周年に向かって、常に開かれた学びと探求の場、多彩な人材が集まる出会いと融合の場を目指しています。
活動を通して感じた成長は?
これまでは様々な催しに「参加する側」だったのですが、いざ企画する側に回ってみると、アイデアを形にする楽しさが段違いでした。Ulinkの活動に関連して、東京国際フォーラムでプレゼンテーションする機会にも挑戦させてもらいました。大勢の前で話すことが苦手でしたが、このような経験をしたことで、新しいことに挑戦する時の行動力がついたと感じています。
今後の進路について教えてください。
現在就職活動中です。DX分野に関心を持っています。電気情報工学科で広い分野を学んだことや、数理モデル構築で培った「複雑な事象を統合して一つのモデルに落とし込む」スキルを活かしたいです。例えば町の人流や交通など、複雑な現実世界をモデル化してデジタルとリアルをつなぐ仕事は、研究で培った考え方が直接活きると思っています。
一方で、Ulinkの活動を通じて、自分のアイデアをアクションにつなげることの面白さにも目覚めました。いつか起業することも可能性として考えています。
最後に、高校生の皆さんへ。「やりたいことがまだわからない」という不安は、むしろ慶應義塾大学理工学部への入り口だと思います。学門制という仕組みがあるから、入学後に本当にやりたいことをじっくり見つけることができる。理系の広い世界の中に、必ず自分が「面白い!」と感じられるものがあるはずです。