登場者プロフィール
増井 真那
政策・メディア研究科 修士課程2年所属プログラム:先端生命科学(BI)
増井 真那
政策・メディア研究科 修士課程2年所属プログラム:先端生命科学(BI)
就学前から本格的なサイエンスの道へ
東京の世田谷区と杉並区で育ちました。もともと自然が好きで、母親に抱かれながら花に反応するような子供でした。保育園の頃には食虫植物、多肉植物、冬虫夏草といった「変な生き物」に惹かれるようになりました。変形菌と出会ったのは、5歳の頃に観たNHKの「プラネットアース」という自然番組。アメーバ状の生き物が動く映像に驚愕し、自分の目で本物を見てみたいと強く思いました。
母親が公園で一緒に探してくれましたが、変形菌は見つかりません。でもそこで諦めず、日本変形菌研究会に連絡してくれたことで運命の扉が開きます。当時からアマチュア研究者が多い変形菌研究会は、就学前の私を観察会や発表会に招いてくれました。
ついに変形菌に出会った私は、「せっかくだから家に連れて帰って飼育したい」と考えるようになります。自宅で毎日2種類の変形菌を育てているうちに、種によって動き方が違うことに気づきました。年に一度の「変形菌研究会大会」では、研究や観察の成果を発表する機会も与えられました。本当にありがたかったのが、大人たちが容赦なく研究内容に突っ込んでくれたこと。「この検証だと不十分なんだけど、対照実験って知ってるかな?」みたいなフィードバックです。子供扱いせず、一人のサイエンティストとして扱ってくれたことに今でも感謝しています。
小学3年生の頃に見出した「変形菌には自己と他者を見分ける力」に魅せられたことが、現在の研究につながっています。これまで論文投稿(国際学術誌への主著査読論文3報)、学会発表(29回・国際学会2回を含む)などのアウトリーチ活動も続けてきました。変形菌に関する単著を2冊上梓し、講演43回、記事寄稿、メディア出演、ワークショップ開催や番組制作への協力も経験しています。
学部初年度から研究に打ち込める唯一の場所
大学進学にあたっては、自宅で続けていた変形菌の研究をパワーアップできる場所を探していました。すでに変形菌の研究者たちと十年以上のつながりがあるので、変形菌専門のラボである必要はありません。むしろ分子レベルでタンパク質やDNAの解析ができる研究環境は必須でした。すぐに専門的な研究を進めたいので、入学当初から学科と研究に並列で取り組めるような環境が理想です。
自分の希望を満たす大学は、国内にSFCしかないことがわかりました。SFCから行くことのできる、山形県鶴岡市にある鶴岡タウンキャンパスの先端生命科学研究所は、学部1年から変形菌の研究ができる数少ない場でした。ここで学部、修士課程、後期博士課程を過ごすのは、最高の研究環境を求めている自分にとって自然な選択でした。
湘南藤沢キャンパスで過ごした学部1年では生物学の他に以前から興味のあった哲学史や言語学の授業を履修し、学部2年から鶴岡に住んで変形菌の研究に打ち込んでいます。先端生命科学研究所は、最先端の分子研究に取り組める設備が充実しており、指導教員の河野暢明先生はじめ現役の研究者でもある教員のみなさんからバイオインフォマティクスなどの知識が吸収できます。さまざまな生物研究に取り組む教員と学生が対等に議論し、自由な空気のなかで自分の研究を広げ深めることができる環境です。
生命にとって自己と他者とは何か
このような最先端の環境でも、小学生から土台としている採取と飼育培養を継続しています。実験に用いる変形菌は、すべて野外(森など)で採取したもの。また変形菌は成長して移動する動物のような性質があるため、毎日の餌やりと掃除が欠かせません。常時5~6種を世話して、総数はシャーレ100枚分に及ぶこともあります。
研究のテーマは、変形菌の「自他認識行動」です。変形菌が他の変形菌に対して融合あるいは回避する様子を分析することで、そこに何らかの法則を見出します。さらに変形菌の遺伝子や代謝物をインフォマティクス解析することで、変形菌が持つ能力の分子的バックグラウンドに迫っていきます。
ここに来たときは研究所で唯一の変形菌研究者でしたが、今では数名の後輩が同じ分野の研究に取り組んでいます。学生ながら「変形菌研究グループ」のリーダーとして、他大学の教員や学生、中高生、さらに海外の研究者からも変形菌研究のアドバイスを求められることがあります。
先端生命科学研究所の素晴らしさは、極めて多様な知性がひとつの場所に集まっていること。研究の目的やモチベーションも研究者ごとに異なり、対象も癌細胞、植物、クマムシなどと多彩です。生物というよりもRNAに興味がある人もいて、隣接分野の研究は大きな刺激になります。単なる好奇心で来る人も大歓迎です。現所長の荒川和晴先生も、前所長の冨田勝先生も、「遊びでやっているからこそ、面白さを真剣に追求しよう」というマインドを大切にしてきました。その意味でここでは対等な研究者として扱われます。
後期博士課程を修了するまでに、変形菌の自他認識行動の意義とメカニズムを明らかにするのが目標です。その先には、人間を含む生物全体にとっての「自己」とは何かを理解したいという大きなテーマがあります。世の中には「自己」というものを理解したいと思っている人がたくさんいます。研究からこれまでにない知見を生み出すことはそのような人々との対話を深いものにします。研究者が対話を行うことは人々、ひいては人類の歴史に役立つことになると考えています。
研究室紹介
キーワード:合成生物学、バイオインフォマティクス、ゲノム科学